9-9 唖然
「……なんデス。」「何が起きた。」
アーシャとレンジが同時に疑問の声を上げた。二人共理解していないのは自明であった。
「な、何がなんだか全くわからんが……ま、まだアイツがいる!!」
「シ、シギャ?」
レンジが床を指差した。アーシャがそちらを見ると、困惑の声を上げながら首を擡げるレヴィアタンの姿があった。
「アイツって……ああッ、レヴィアタン!!生きていたのデスか!!」
レヴィアタンはギリギリのところでワープしていた。
「ギギャ、ギャァァッ!!」
そして立ち直ると、金属の足の上空へと飛び上がり、そこからレスト達を喰らわんとしていた。
「頑張れ!!頑張るのデスレヴィアタン!!」
アーシャ達は祈った。レヴィアタンがこの巨大な何かを退け、そしてレスト達を食らう事を。
他力本願。
そんな彼らに対し与えられる現実とは、かくも非情なものであった。
バシッ。
何かが何かを叩く音が聞こえた。上空の出来事。アーシャ達の視界には入らない。
だが何が起きたかは間も無く理解出来た。
ビ ッ
チャァ
上空からVの字に叩き折られたレヴィアタンが落下してきた。
ビクンビクンとレヴィアタンが俎板の鯉よろしく痙攣のような動きを見せたが、やがて息絶えた。
アーシャとレンジの顔は虚無に染まった。
魔物達の灰の上にその巨体は倒れ、そしてコロコロと灰の上をレヴィアタンの口の中から出てきた空間の宝玉が転がった。
コトン、という音を立ててそれはレストを守るように立っていたカーネリアとシェルフの足にぶつかった。
「ふ、ふぅ。」
カーネリアが息を吐いた。
「た、助かっ、たぁ。」
シェルフがへなへなと力が抜けたように床にへたり込んだ。
「ご無事ですか。御三方。」
巨大な何かが神殿の上から声を掛けてきた。
カリーナ。巨大な機械の竜である事は、三人には理解出来た。
「や、あ。いやあ。助かりました本当に。」
レストは地面に座りながら、カリーナにゆっくりと頭を下げた。
「いえ。ご主人からも、貴方には手伝えと指示を受けておりますので。お役に立てて何よりです。」
「通信機が間に合って良かったわ。ね?最初からあたしらに話しといて良かったっしょ?」
シェルフがカーネリアの持っている箱、通信機を見ながら言った。
「ええ、はい。まあ。そうですねぇ。」
レストは虚な表情で同意した。実際その通りだと思った。
「しかし申し訳ありません。私は図体デカイものですから、天井も壊してしまいました。」
今度はカリーナが頭を下げた。
「ですがお許しください。緊急事態と判断したため、人命優先で行動させて頂きました。」
「いえいえいえ、いいんですよカリーナさん。」
「そうですとも。この神殿はもはやダンジョン。ダンジョンは公共の物。壊れたところで誰も咎めませんわ。そして元を正したとしても、この神殿はあの女の物。いっそ全て壊してしまった方が楽というものですわ。」
「そこまではダメっしょ。私有とはいえ神を祀ってるのよ。罰が当たるってもんよ。」
「まぁ、そうですね。では直しましょう。最後に一回くらいは何とかなります。」
「了解しました。では私はここで。何かあればまだ呼んでください。」
そう言って機械の竜、カリーナは空へと舞い上がった。場に残されたのは灰とレスト達だけ。
「よし。」
そういうとレストは手をかざした。
「『吹き抜けよ、旋風』。」
魔導書が輝き、回廊を風が駆け抜ける。灰が舞い上がり、天井へと持ち上がる。
「よし……。では『灰→貝→壁、物質変換』。」
言葉と共に灰が飛び散り、カンカンと音を立てながら凄まじい量の貝へと姿を変えた。
そして貝は壁に変わり、天井を塞ぎ、光が遮られる。先程までちらと見えていたカリーナの姿は消え、元の静寂が戻った。
「これでよし。変換しやすい灰になってくれて助かりました。」
「ホントなんでもアリよねソレ。」
「もっと活用するべきですわ。そう、もっと気軽に金を生み出すので「お断りします。」
レストは業突く張りの言葉を遮った。
「…………。」
「…………。」
レスト達は倒れかけのところを、宝玉を持って立ち上がり、そして出口へと向かう。そんな姿を見て無言で逃げ去ろうとしている二人がいる。
アーシャとレンジである。
「なんだアレ。」
「なんデスかアレ。」
二人の意見は一致した。分からないという点で。
「どういう、その、どういうアレなのだ。なんだアレは。アレがどうしてあゝなってアアしてコウして。」
「おおおおおお落ち着いて下さいデス。まず落ち着くのです。すーはーすーはーすーすーすーすーすーすーすーすーすーすーすーすーすーすーすーすー」
「吸いすぎだバカ者。」
レンジが膨らむアーシャの背中を叩いた。
「はぁ。」
出たのは空気と溜息であった。
「なーーーーーーーーーーーーーーーーーんでこんな事に。」
「吾輩とて知らん。なんだあの竜。喋ったぞ。金属のくせに。」
普通ドラゴンは喋らない。
「いや全く分かりませんデス。あんなものがあるとは、あんなものがいるとは、全く聞いていませんデス。」
「お主の情報網は役立たずであるな。」
「否定出来ませんデス。あとで半殺しにしておきますデス。」
アーシャはわなわなと指を動かしながら、悔しそうに言った。
「どうする?」
「どうするとは?」
「決まっておるだろう。このまま引き下がるのか?吾輩としてはそれでもお主がちゃんと武器を卸してくれればいいが。」
「そんなわけないでは無いデスか。……ケケケ、まだ、手はありますデスよ。」
アーシャがほくそ笑んだ。




