9-8 窮地
「ケケケ!!見ましたかあの力を!!」
「ガハハ見たぞ!!あれは良いな!!空間の宝珠との組み合わせで、あらゆる場所に水を生み出す事が出来るとは!!更に空間移動も自由!!いや素晴らしいな!!」
広間の入り口の壁の裏で、アーシャとレンジがほくそ笑んだ。
「ワープするレヴィアタンか、よく考えたな!!」
「躾けるの苦労したんデスよ。これでワタシの苦労も報われるというものデス。」
レヴィアタンは海の王とも呼ばれる海蛇の魔物で、鋭い牙と全身をしならせる水中の高速移動が特徴である。が、その実、特段生態が特殊というわけではなく、複数の個体が存在する。また、稀ではあるが、湖にも存在する。淡水、塩水、そのどちらも彼ら彼女らの生活圏内であった。
正確には、彼ら彼女らの魔力が事を成す。レヴィアタンは固有のスキル『生存圏形成』を持っている。これは、周囲に自身の魔力をばら撒く事によって、自分が生存可能な空間を作り出すという能力である。淡水であっても塩水であっても、自分の周囲は自分の生存に適した塩水へと変える。更に陸上に上がったとしても、一時的に生存可能な量の水を生み出す事も出来る。
こうした理由から飼うだけの空間と餌があれば、比較的育成は容易である。育成する者がいるかどうかは別として、ではあるが。
このレヴィアタンは、偶然水路を介して入ってきてしまった。アーシャはそれを知り、カーネリアを嵌めてここでレヴィアタンの餌とすべく、この宝玉の間を育成の場としていたのである。魔物の成長速度は早い。数日で十分な躾が完了した。
このラウム廟がダンジョンと化したのも、実のところ、このレヴィアタンが原因である。スキルによりばら撒かれた魔力は空間内にある程度留まる。その結果、レヴィアタンが有する魔力に神殿全体が浸され、ダンジョンと化したというわけであった。なお、レピア国において、レヴィアタンは育成禁止生物として指定されている。それはこれが理由である。
だが今のアーシャにそんな法は障害にはならない。興味もない。ただ自分の思い通りになる事が快感であった。
「では吾輩が!!更に追い込んでやるとしよう!!」
そういってレンジが合図をすると、隷属し増殖した魔物達が一斉にレスト達の元へと駆け出した。
静かだった宝玉の間は一転騒然としはじめた。
「今度は何!!」
レストを引っ張りながらレヴィアタンの空間移動攻撃を回避するのに集中していたシェルフが、ドタドタというやかましい音を聞いて叫んだ。
「あ、あ、あ、あれ!!あれをご覧になってくださいまし!!」
カーネリアが指差した先には、自分達が入ってきた入り口、そしてそこに殺到する魔物の群れが見えた。
「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!なんだあれ!!」
「れれれれ、レヴィアタンだけでも大変な危ないですわ!!」
カーネリアが会話の途中、足元に発生した空間の穴を見つけたレスト達を引っ張った。
「ぐえ。」
レストは力無く叫び、引く力の方向へと倒れ込んだ。
穴からレヴィアタンの牙が飛び出し上空へと舞い上がり、そして再び、上空に開けた穴を通って消えた。
そちらに気を取られていると、魔物達は既に近くまで到達していた。
あと数十秒もすれば、向こうの攻撃も始まるだろう。
「なっななな、なにか、何か手はないの!?」
疲れ果てたレストに詰めよるシェルフ。するとレストは口を開いた。
「……あー、ぽ、ポケット。」
「ポケット?ポケットに何が。」
「つ、つう、信機。」
その言葉でどうすれば良いか、シェルフは理解した。
「シャァァァァァッ!!」
だがレヴィアタンの襲撃も続く。
「カーネリア!!」
「は、はい!!」
シェルフがレスト達の回避を、そしてカーネリアが通信機の取り出しと使用を担当する。一瞬のやり取りで担当は決まった。
カーネリアはごそごそとレストのポケットの中を漁る。と同時にシェルフがレストの体をぶんまわし、レヴィアタンの攻撃を回避する。
魔物達はじりじりと滲み寄る。もう時間がない。
「やってしまうデス!!」
アーシャが言った。
カーネリアが通信機を取り出した。
「いけいけー!!」
レンジが嬉しそうに言った。
カーネリアが通信機のスイッチを入れた。
「カモン!!」
カーネリアが叫んだ。
「なーにがカモンですか!!アナタが行くのは地獄の門!!仲良くレヴィアタンに食われるがいいデス!!」
「或いは魔物に頭をかち割られるかだな!!どちらにせよ見物だなガハハハハハハ!!」
「ケケケケケケ!!」
「ガハハハハハ!!」
ドガン。
アーシャとレンジの高笑いは何かが壊れる大きな音に遮られた。
神殿の天井が崩れたのだ。
「は?」「あ?」
レンジとアーシャは壁から顔を出した。
巨大な機械の竜が、天井を突き破り、その鋼鉄の両足でレスト達に向かう魔物達を堰き止めていた。踏み潰されたモノも居る。ガンガンとゴブリン達は必死にその足を退かそうとするが、全く歯が立たない。叩いた拳は傷つき、斧は砕ける。
意にも介さず機械は言う。
「殲滅モード、詠唱開始。『天の光、全ての悪を罰す。裁きの熱線』」
その言葉を発すると、今度はその口から光を放ち、その光を魔物達へと浴びせた。
バシュゥッ!!という音とともに、光の当たった魔物達は蒸発した。
「ああああああ吾輩の下僕がああああああああ!!」
「なん、な、なな、なん、デス?」
何が起きたのか理解出来ず、あんぐりと口を開けてレンジとアーシャがあっけに取られていた。
何が起きたのかは理解らない。
だが結果だけは理解した。
納得は出来ないが。
通路を埋め尽くさんとしていた魔物は消滅していた。何かの焼け焦げた灰だけが円状に積もっていた。その円の中には巨大な何かと、そしてカーネリア達が無傷で立っていた。




