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9-4 苛立

 ラウル廟内部は魔力により魔物が跋扈していた。


「あーダリー。」


 シェルフがワイバーンスタッフを振るう。


「ふきゅう。」


 スライムが唸り、潰れ、場には水滴だけが残る。


「ぐぎぁ。」


 ゴブリンの脳天がかち割れ、バタリと倒れる。


「容赦ないですわね。」


「魔物は人の天敵、人を食らう連中だからね。こーゆースライム一匹が子供を殺すなんてザラよ。アタシはそーゆーの、見てきたし。だから。」


 向かってくるオークに向けてシェルフがその杖を突き出す。


「ぶげぇっ。」


 オークの胴体を杖が貫く。魔力に染まった青い血が辺りに飛び散り、そしてまたバタリ音を立てて倒れた。


「こういうのは、とっとと天に還した方が、平和になるの。」


「まぁ、否定は致しませんが。」


 そう言いながらシェルフもまた武器を振るう。彼女が使うのはナイフ、短刀である。その刃には毒が塗ってあり、魔力と反応する事で小さな爆発を起こす事が出来る。


「ガアアアアッ!!」


 と、コボルトが向かってきた。


「えい。」


 コボルトの攻撃を避けながら、その刃を刺す。


 ボコボコボコと音を立てて刃の刺さった部分が膨れ、


「ふげ。」


 コボルトの体が弾けた。また青い血が飛び散る。


「もう、汚れますわ。」


「アンタの服は布なんて無いようなもんなんだからいいっしょ。」


 シェルフの言葉通り、カーネリアの服装はいつも通り肌色の多めの服装、へそ出しミニスカートに加えて今日はほぼビキニのような露出度が異様に高い服装であった。


「なにその服。改めて思うけどひっでぇセンス。」


「ふふん、凡人にはこのセンスが分からないようですわね。終わったら少し泳ごうと思いまして。水着も兼ねているのです。」


「センス無いですね。」


 レストはその姿を目に入れないように気をつけながら言った。生前からまともな異性付き合いがなかった彼にはただでさえスタイルが良いカーネリアのそのほぼ水着の姿は、刺激が強すぎた。


「つーかなんでアタシらが前衛なのよ。」


「そうですわ。こういう時は男性の方が前衛やるものではありませんの?」


「まぁその、ジェンダーフリーという奴です、適材適所、僕は体力無いですから。」


「使えないヤツねぇ。」「使えない人ですこと。」


 レストはシュンと縮こまった。





「むぅ。」

「むぐぅ。」


 そんな三人の姿を見て苦虫を噛み潰したような表情を見せる男女がいた。


「奴ら意外とやるではないか。このままでは吾輩の手駒がどんどん減らされていくぞ。」


 橙のローブに身を包んだこの男は、レンジ・O・ティーマと言う。魔物の中でも特殊な、人間をベースにして生まれた魔物、魔人に属する彼は、魔物が住む魔界『ル・ヴェル』の住人であり、そしてアレイトス教の神官であった。


 魔界ル・ヴェルとは魔王が支配し、魔人が魔物達を管理する、この人間が住む世界ソールディとは異なる位相の世界、いわば平行世界である。


 魔王は強欲であり、自らの力を誇示し、同時に更に高めるべく、他世界の支配を図っている。その最初のターゲットとなったのがこの世界、ソールディであった。これは、ソールディとル・ヴェルの世界構成(物理法則・魔法法則など、世界を存在させる構成要素を指す)に高い類似性があったためである。


 ソールディとル・ヴェルの違いは、魔力が常時存在し続けているか否かである。ル・ヴェルは謂わば世界の全てがダンジョン、魔力に満ちている。魔力の満ちていない空間が無いと言われるほどである。その為、ル・ヴェルの住人はいずれもソールディにおいては魔物に属する。


 このレンジ・O・ティーマは、魔王の指示でソールディの調査と支配圏の拡大を目的にやってきた。その目的達成のため、世界を混沌に陥れる事が目的のアレイトス教に協力する事となり、神官という立場を得るに至ったのであった。


 同時に、彼はアレイトス神を顕現させる事で、別の個人的な目的を達成しようとしていた。それは魔界ル・ヴェルもまたアレイトス神の力で滅し、自らが管理する世界として作り替える事であった。つまるところ、魔王として降臨しようという事である。


 今の魔王は強い。


 弱肉強食のル・ヴェルにおいて、絶対的な強さを誇る。


 幾人・幾匹の挑戦者が魔王の前に立ったが、その何れもが瞬時に消滅していった。消滅である。実際には噂レベルであり、はっきりとした事は分かっていないが、何れにせよ危険である事は間違いない。


 そうした危険を踏まえてでも、彼は権威欲を満たす事を求めていた。そのためには自分の力では出来る事に限りがある。そこで彼は異世界の神に頼る事にした。異世界たるソールディの宗教に触れる事で、ソールディについて知る事も出来、場合によっては異世界の支配を目論む事も出来る、そしてゆくゆくは本来の目的である下剋上にも利用できるかもしれない。彼としては一石三鳥の良い考えであると思っていた。


 ともあれ、彼は今、アレイトス教の神官という立場で此処にいた。その目的は一つ。あの三人の始末である。


 彼のアレイトス教の神官としての役目は、戦力の増強であったが、それと同時に邪魔な連中を始末出来る、これまた一石二鳥のアイデアであると彼は思った。ーー彼はある種の利益主義者であり、自分が二つ以上の得を出来る事ならば積極的に行動する性格であった。


「増やせるからいいではありませんデスか。そういう能力デスよね?その宝玉。」


 依頼者の女性が嘯く。彼女は勿論、カーネリアに依頼した張本人、アーシャ・D・メインである。


「まぁ、そうではあるが。とはいえ本来の吾輩の目的と反する行為である。戦力の拡大のために戦力を失うなど、あまり良い事ではない。」


「その分ウチの武器売りますデスよ。」


「それをどこまで信用して良いのか、計りかねている。金の為に知人を売るような生物を信用して良いものか。」


「ケッケッケ、私は別にィ、誰も彼も裏切るつもりはありませんデス。あの高慢で金満な目障り女を潰せれば良いのデス。」


 アーシャとカーネリアの付き合いは子供の頃に遡る。同じ商人の家であり、同じ貴族の家であるという、類似の立場故に他人から比べられる事が多かった。そして、常に勝者はカーネリアであった。


 スタイル。

 学問。

 商売。


 何れもカーネリアが優れていた。


 性格においてはアーシャが勝っているが、それは彼女にとっては何の意味も成さない。性格で勝ったところで良い事は無い、それはアーシャが身に染みてよく分かっていた。


 だからこそ、このレンジ・O・ティーマの申し出ーーマネドール商会買取の途中で彼と出会い、目障りなカーネリア達を共に"処理"するという申し出は、願っても無い事であった。


 アーシャがマネドール商会を買収出来たのも、裏で二人が結託していたためであった。マネドール商会と通じていたレンジが、アーシャのディメイングループがマネドール商会の買収に入ったと聞き、戦力の増強の為にアーシャに

接触した。


「まぁ仕方あるまい。手数を増やすとするか。」


 そう言うとレンジは手を額に当てて念じ始めた。すると、近くに居た魔物がレンジに寄っていき、そしてスリスリと頬を擦り寄せた。ゴブリン、スケルトン、ゾンビ、サハギン、ズラズラと彼の近くへとやってくる。


 『隷属(テイム)』、それが彼のスキル。近くにいる魔物を自らの下僕とし使役するという能力である。無論制限はあり、自分よりも弱い魔物に限られるが、このラウム廟で彼より強い魔物は殆ど居ないため、制限はあって無いような物であった。


 更に彼は懐から宝玉を取り出し、そこから光を放ち、魔物達へと浴びせる。するとその光を浴びた魔物達は1が2、2が4、4が8へと数が増えていった。


 それは『増殖の宝玉』と呼ばれる、十の宝玉のうちの一つである。近くの魔力を使用して、対象の物質を増殖させる。


 その能力で彼は隷属させた魔物を増殖させ、無限にも等しい戦力を得る事が出来るのである。


「これだけ居れば良かろう。」


 レンジは通路に溢れんばかりの魔物の軍勢を見て満足そうに言った。


「十分デスね。」


 アーシャが同意すると、レンジは無言で合図をした。


 隷属された魔物達は、その合図の意図が、言葉が無くとも理解出来る。「奴らを殺せ。」その意図の通りに、魔物達は駆け出した。

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