9-1 面会
「カーネリアさん、お客様です。」
レヴィの部下の騎士がカーネリアに声を掛けた。
先日のドラン山での一件から数日後。
レスト達はあの後、近所の野良オオカミ捜索から商店街で起きた殺人まで、幅広く様々発生した事件を解決していた。そんなこともあってレスト達は騎士団本部付近では有名になりつつあり、「タンテイ」という不可思議な職業が、「近所のトラブルから殺人事件まで色々な事件を解決してくれる便利屋」という認識でではあるが、徐々に浸透しつつあった。レストは若干不本意であった。
他方カーネリアもゼーニッヒ商会の会長として手腕を振るい、謂わばリモートでありながらその敏腕ぶりで商会の発展を進めていた。
だがここ最近は何やらレストの目には不機嫌に写っていた。声を掛けようとしたが、シェルフがそれを止めた。「こーゆー時に声かけるとメンドーなことになるよ」との言である。事実はどうなのだろうとは思っていたが、自分に何も言わないのは、彼女としては他人に話したくないことなのだろうと自分に言い聞かせて済ませることにしていたのである。
そして今日もまた同じように不機嫌な状態で、騎士が声を掛けたものだから、どうなることやらとハラハラしながらその姿を見ていたが、流石に外面は一定を保とうとしたのか、明らかに苛立ちながらも一応声は程々に温和な感じで返答した。
「……おーや、何方でしょうか。」
明らかに苛立ちはしていた。だが、騎士は特に気に留めない。或いは気づいていないのであろうか。騎士は続けた。
「アーシャ・D・メインという方です。」
その名前を聞いてカーネリアは顔を顰めた。汚い物を見るような目でその兵士を見つめた。苛立ちが更に強くなったようである。
「帰って頂いても?」
「すでに来ていますデスことよ。」
兵士の後ろからレストとシェルフには聞き覚えの無い声がした。
声に聞き覚えはなかったが、レストはメインというファミリーネームには聞き覚えがあった。これもまたパーティの場だったろうか。貴族の一員であろうという予想は立った。
後ろから現れたのは女性であった。歳はカーネリアと変わらないが、彼女の奇抜で露出度の高いそれとは異なり、優雅で上品なドレスに身を纏った、レストの前世の知識で言えばまさしく貴族という印象であった。
この場に相応しいかというと全く合っていない。無骨な鎧を纏った男女がガシャンガシャンと音を立てて歩いているこの騎士団本部という場所は、華美なドレスには全く似つかわしくない風景であった。
「何の御用ですの。」
カーネリアが吐き捨てるようにいうと、それを無視して女性は周りを見ながら言った。
「こんな所に住み着いているのデスか?全くアナタに相応しいデスね。」
「……嫌味を言いにわざわざこんなところまで?」
「ケケケ、そんなことはありませんデスよ。アナタと取引がしたいと思いましてデスね、最近アナタは此処に入り浸りと聞きまして。こうしてわざわざ来たのデスよ。」
「ふん。そうですか。お帰りください。貴方とする取引はございませんわ。それとも例の件をーー」
「例の件は無理です。が、アナタに金が入る話デス。それでも聞く気はーー」
「お聞き致しましょう。」
瞬時にカーネリアは椅子に座り、前で手を組んだ。
「……相変わらずデスねぇ。」
全くだ、とレスト達は思った。
「そこのお二人は初めましてデスか。私はアーシャ・D・メイン。ディメイングループの跡取デス。」
応接間の椅子に腰掛けながら、アーシャは名乗った。メイン家。ゼーニッヒ商会、マネドール商会に続く第三の規模を誇る商会、ディメイングループを率いる貴族の家系である。
「最近は儲かっているようですね。傾いたマネドール商会を取り込んだりして。」
マネドール商会はセント・マネドールがレスト達のせいで逮捕されたことで、かなり経営が傾いているとはレストも聞いていた。それがディメイングループに取り込まれたというのは初めて聞いた。他方カーネリアは知っていた。マネドール商会の買取についてはゼーニッヒ商会も動いていたからである。だが残念ながらそれは叶わなかった。
「随分と金を積んだと聞きましたが。よくそんな金がありましたわね?」
「ワタシの所も近年はそこそこ儲かってるんデスよ。」
含みを持たせた言葉が交わされるのを見ると、レストは吐き気がしてきた。昔の客先でのやり取りを思い出す。
「で?わざわざその報告のためにこんなところまでやってきたので?」
「ケケケ、そんな1シルバ(=1/100ガルド)にもならないような事を……いえ、アナタのその悔しそうな顔を見るだけで100ガルドにはなりますデスね。でもそういう用事ではないデス。……アナタにやって欲しいこと、つまり依頼がありますデスよ。」
「依頼?」
「はい。それを達成してくれれば、家宝の宝玉を上げますデス。でも出来なかったらゼーニッヒ商会の会長と副会長ーーつまりアナタのお父上とお母上が亡くなった事を世間にバラしちゃいますデス。」




