8-10 奇機械壊
崖を落ちていく二体の竜。崖にぶつかる度に肌のクリームとスポンジが茶色の大地を白と黄に染めていく。他方機械竜は全くの無傷、美麗な金属の肌をそのままに、ただ土埃だけを纏っていく。
やがて比較的平らな地面に到達すると、二体は並び立った。
「グァァァァァァァァンム!!」
ロッテンスイーツドラゴンが咆哮を上げる。
「ここならば山火事だけで済むぞ!!やれぃカリーナ!!」
「アンタの山ですよね!?」
機械竜に指示するマネリカに思わずレストはツッコミを入れるが、カリーナは無視してご主人たるマネリカの言葉に従う。
「攻撃モードに移行!!火炎息吹!!」
機械の竜が大きく口を開けて、その口の中から炎を吐き出す。レストの危惧は理解しているのか、そのブレスは細く強力で、ロッテンスイーツドラゴンにだけ向けられ、周りの木々に火の粉が飛び散る事はなかった。
「バァァァァァァァァンム!!」
炎が菓子竜を構成するクリームやスポンジを燃やしていく。焼けたそれらは大地へと落ちていく。
「クゥゥゥゥゥゥフェェェェェン。」
だが、間髪入れず、額の飴玉が輝くと、元の肉体を取り戻していく。否、元より有していた、大地に落ちた焼けた腐食スポンジと腐食クリームに体が触れると、その肉体に再びそれらが取り込まれていく。
「か、拡大してません!?」
「してるねぇ……。あんなん、あんなんどーしろってのよ。」
シェルフが頭を抱えながら嘆く。レストは打つ手がないかと頭を捻る。
かねをもて
ふとそんな言葉が頭をよぎった。どこから出てきたか考えると、それはカーネリアの言っていた民謡の一節である。
何故この言葉が頭をよぎったのか。それは、この言葉だけが、未だ説明がつかない部分として少し気になっていたからだ。
歌詞にある「きかい」は奇怪、「おかしなりゅう」はカリーナではなく、このロッテンスイーツドラゴンの方を指していると思われる。
その「おかしなりゅう」が欲しがる「かね」。
それは少なくともあのロッテンスイーツドラゴンの意識をそちらに向ける事は出来るのではないだろうか。
「か、金!!金をくらえ!!」
レストは手元に残っている胡麻を鎌経由で金に物質変換すると、それを菓子竜に向けて投げた。
チャリン、チャリン、チャリン。
硬貨が地面にぶつかり音を立てる。
「ああっ!!ああっ!!ああん!!」
カーネリアがもどかしそうに洞窟の道からそれを眺め、硬貨が地面にぶつかる音が鳴る度に、まるで自分の痛みかのように喘ぎ声を上げる。
「やめれや!!」
シェルフが彼女の後頭部を強かに叩いた。
「ァァァァァァァイスゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
だがロッテンスイーツドラゴンはそれを気に留めず、何事も無かったかのように眼前の金属の化け物に戦いを挑んだ。大きいものの方が美味しそうに見えるのだろうか。
「……気にしてませんね。民謡の一節にあったのに。」
「あの歌か……。確かにこやつを見てから気にはなっていた。もしあの歌がこのドラゴンを歌ったものだとすれば色々説明はつくが、今の反応から言ってお前もわかっているだろうが、『かね』というのは金ではないのかもしれん。」
「では何を?」
「わからん。わしもご先祖からは何も聞いておらん。」
カーネリアが飛び込んで金を取りに行こうとして、シェルフがそれを必死に止める一方、レストとマネリカは冷静に状況を見極めていた。
カリーナはロッテンスイーツドラゴン相手に善戦していたが、致命傷を与えるには至らない。いくらダメージを与えても回復してしまうのだ。
「ご主人様、このままでは埒が開きません!!決戦モードの発動を承認願います!!」
「馬鹿者、この山を消しとばすつもりか!!ダメダメダメ、ダメだ!!おいそこの!!カーネリア嬢のお付き!!」
「侮辱罪ですよソレ。」
「いいから何とか考えろ!!お前の頭ならなんか思いつくだろ!!」
頼られることは決して悪い気はしない。だがロクに面識も、自己紹介すらしてない相手に無茶振りされることはレストとしては不本意であったが、しかしこの状況で妥協もくそもあったものではない。まずは目先の問題を解決すべく、彼は頭を絞り始めた。
「……かね、カネ、金……鐘?」
カーン。
と、カーネリアが洞窟の出口ーーレストが作り出した道ーーにあった小石を蹴り落とし、それがカリーナのボディにぶつかり、音が響いた。まるで鐘が鳴ったような音が。
「ゲィギ!?」
その音に反応するかのように、ロッテンスイーツドラゴンがたじろいだ。
「鐘か!!」
その反応からレストはそう判断すると、残っていた胡麻を空中に投げた。
「カリーナ!!今から投げる物を全力で叩いてください!!『胡麻→鎌→鐘、物質変換』!!!!」
レストの叫びに呼応するように、空中にばら撒かれた胡麻が大きな鎌、そして鐘を形取った。
「は、はい!!」
カリーナはそれ目掛けて腕を伸ばし、そして、
ゴーーーーーーーーーーーーン!!
巨大な鐘が、金属竜の爪で叩かれ、そして音を立てた。
「カァァァァァァァァァァァァァァァァァァァルパァァァァァァァァァァァァァァァァス!!」
音を聞いて苦しみ悶えるロッテンスイーツドラゴン。徐々にその肉体を構成するスポンジやクリーム、そしてクッキーやチョコなどの各種菓子類が溶け出した。腐ったそれらは元々ドロドロに溶けていたが、更に液状化し、そして消えていく。
「ゲェ、イィ、ギィ……ッ……。」
この呻き声を最後に、ロッテンスイーツドラゴンを構成する菓子が完全に消失した。
カン、という音を立てて額にあった飴玉が落ちる。
そして、パリン、という音を立ててそれが割れた。
それを最後に、腐った菓子竜の痕跡は、完全に無くなった。




