8-8 奇怪
レストが言うと、少しだけ黙った後、マネリカは首を縦に振った。
「ああ。」
「どういう事?」
シェルフの問いにレストが答えた。
「ロールさんは噂としてマネリカさんが借金していたと言っていましたが、それは事実だったんです。集落の方々に借金をして、それが返せなくなったか、返す気が無くなったか。そのどちらかで失踪した。」
「両方だ。わしが借金したのは山の整備・管理・開発のため。それで集落の奴らは利益を得ていたのに、わしにゃ感謝の一つもない。口を開けば借金返せばかり。わしへの投資と考えるやつは一人もいやしない。それで嫌になってここに篭って、集落の連中に復讐する事にしたのだ。」
「この洞窟を作り、錬金術でこのカリーナさんを生み出し、山を見張らせる事にした、と。カリーナさんは入山パスを売って金を作り、山を荒らさせないようにすることで、集落の方々への復讐を果たす。マネリカさんはここに隠れて借金取りに備える。カリーナさんが途中果物や魔物を集めていたのはマネリカさんの食事にするため。どうです?」
マネリカは感心したように言った。
「その通り。驚いた、今の会話だけでそこまで理解出来るか。」
「探偵ですから。」
「タンテイ?まぁいい。全部その通りだよ。このカリーナはこの山で採掘できた魔力を弾く特殊な金属と、わしの錬金術、そしてなけなしの家宝を使ってで作り出した、完全単体稼働ドラゴンゴーレム。生み出した後は魔力を消費する事もなく存在し続ける、わしの最高傑作じゃ。」
マネリカは自慢げに語り、そして再び怒りを浮かべた。
「わしは怒っておる。ノブリスオブリージュなぞくそくらえじゃ。わしの山はわしに権利がある。わしが入山パスを売ろうと、パスがない人間を追い返そうと、わしの勝手じゃ。」
実際のところ、マネリカの言葉は正しかった。このレピア国において、土地の権利を有している者は、どう使おうと自由であり、逆に権利もなくその土地で散策するなどという事は基本的には認められていなかった。
魔物が住み着いている場所には基本的に土地の権利者などいないので、あまり問題にはならないが、マネリカのようなケースも稀に発生する。
「騎士団に依頼したのは金をケチるためですかね。ギルドに依頼すると冒険者とギルドに金を払わないといけませんから。その点、騎士団は捜索みたいな依頼であればタダです。人命優先ですから。でも借金があるからなんて話を持ち出すと、マネリカさんの方が正しいという話になりかねません。だから借金云々については伏せたんでしょうね。」
「ふぇー、確かに、それなら納得いくわ。」
「全くです。」
「納得されては困りますねぇ。そこまで深く考察されるのも、大変困ります。」
その言葉と共に、レスト達の後ろに誰かが現れた。いや、何者かの集団が。
「ロールさん!?と集落の方々!?まさか後をつけてましたか!?」
「ええ。途中、貴方がたが突然消えたので、どうなるかと思いましたが、竜を追って正解だったようですね。」
レストの問いかけに、ロールと集落の人間達が答えた。十人二十人ではきかない大勢が洞窟の中に潜り込んでいた。全員が鍬や鉈などを持っている。
「いやはや苦労様でした。お陰様で、この人に再会出来ましたからね。」
「んだんだ。」
「まー国の人間がわしらの為に働くのは当然だからなぁガハハ。」
ロールを含む借金取りの集団は下衆な笑みを浮かべた。
「さあマネリカさん。貸した金を返してもらいましょう。」
そういってロールが手を差し出すと、マネリカは不満気に叫んだ。
「何が貸した金だ!!わしがどれだけ苦労してこの山を安全にしてたと思うとる!!わしが冒険者雇って魔物を退治したりしてたからこそ、お前らが安全に散策出来ていたのだろうが!!」
「そんなの土地を持つ者の当然の義務というものでしょう。」
「おめぇさん貴族だべ?そんくらいやって当たり前だべ。」
「そだそだぁー。」
好き勝手に罵言を重ねる。
「貴様らみたいな愚民にわしの土地を勝手に荒らさせるなどもう許せんのだ!!金を払え!!借金くらい帳消しにしろ!!さもなくばこの山、このわしの土地から出ていくがいい!!」
「そんな態度取っていいのですか?」
ロール達は鎌や斧、鍬を構えてレストやマネリカの元へ滲みより始めた。
「この人数ならそこの変な竜もどうにか出来るでしょう。」
ロール達はカリーナが機械であることを理解していない。つまり、ロール達ではどうにもならない事を理解していないという事である。
「あ、あの。」
レストは「それは止めた方がいいのでは」と言いかけたが、無視するように集落の人間達は口々に勝ち誇った。
「アンタらにゃ世話になったな。」
「だども、こーいうのは知られるとマズいかもしんねーからな。」
「安心して下さい。一発で脳天かち割ってあげます。」
口々に恐ろしい言葉が紡がれる。レストは汗をかき始めた。彼ら彼女らが本気である事は簡単に見て取れた。この状況、どう転ぶか全く予想出来ない。マネリカは「攻撃モード」などと物騒な事を言っている。
「ちょ、これは、流石に厳しいんだけど?」
シェルフが金属棒を構えながら言った。
「この人数差はちょっと……無理がございますわ。」
「無理かどうかは一旦置いておいたとしても、ロクな事にならないのは間違い……ん?」
レスト達が洞窟の奥へとじわじわと追いやられようとした時、レストの眼鏡に何かが映った。
「……あの、後ろ。」
「あぁ?」
「そんなもんに騙される奴があるかい。」
集落の借金取りは無視した。
だが、次の瞬間、
「カァァァシィィィィィ。」
咆哮と共に何かが借金取りの一人を頭から食らった。
カラン。
持っていた鍬が音を立てて地面に落ちた。音が洞窟の奥へと共鳴する。
「ひぃぃぃぃぃぃっ!?」
突然赤い液体に姿を変えた借金取りを見て、他の借金取りやロールが尻もちをついた。
「……何かが居ます。」
「ななななな、何かって、何よ。」
シェルフの問いに答えず、カリーナが解析を開始する。
「……生物、ドラゴン族、腐臭有り、砂糖、スポンジ?炭水化物?なんですかコレは?」
レストも振り返り、眼鏡を起動した。
「確かに、言う通り、何か変な物で構成されている物が……?」
分析の途中、更に何かがやってくる。
ドシン、
ガブリ、
カラン、
グチャリ。
ドシン、
ガブリ、
カラン、
グチャリ。
その何かの歩む音、借金取りを食らう音、借金取りが持っていた武器が落ちる音、何か液体のようなものが落ちる音。その謎の音のセットが、徐々に、徐々にこちらに、レスト達の元へと近づいている。
「明かりを点けます!!」
カリーナが言って、目のカメラのライトを点けた。
その光に照らされて、『何か』が姿を現した。
「……ゾンビ。」
カリーナが言った。
「ドラゴンと死霊の両属性持ち。」
レストが言った。
「キュァァァァァァァァァァァァデェェェェェェェェ!!」
ドラゴンが叫んだ。
――そのドラゴンの姿は、
巨大で、
クリームのような白い液体を垂れ流し、
黒いスポンジで肉体を構成し、
赤黒いイチゴのような目、
片方の目はこぼれ落ち、キャラメルのような色の弾力性のある半液体で垂れ下がり、
長いガムのような首、
牙は欠けたチョコレート、
そして頭には飴玉。
全身をお菓子で構成しているが、その何れもが腐り果てていた。
「……おかしな、りゅう。」
「伝承のあれって、そういう……?」
「おかしって。え、お菓子?」
「ァアァァァァミェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!」
再び竜が咆哮を上げた。
レストの脳裏にまたあの民謡が浮かび上がった。
奇怪 奇怪 奇々怪界
ドラン山には気をつけろ
奇怪 奇怪 奇々怪界
奇怪な竜が 待っている
奇怪 奇怪 奇々怪界
山に行くなら かねを持て
奇怪 奇怪 奇々怪界
お菓子な竜が 欲しがるぞ




