8-7 報告
ステルスマントをつけていれば、機械竜はレスト達を認識出来ないようで、実際レスト達がコソコソと後ろをつけているのに気付く素振りは一切無かった。
レスト達はステルスマントを身につけ、機械竜の後を尾けた。ひっそりと木々の間の坂道、人が歩いた後――を機械の竜が二足歩行で上書きし、無理矢理作り出した道を歩いていく。途中、虫や動物――イノシシや狼――、そして魔物――ゴブリンやオークが居たが、どれも機械の竜を見て目を見張るとすぐに退いていった。明らかに自然界に存在しない物を見た時の反応は、人間であろうと人間の天敵であろうと、同じものになるようであった。
だがそれを機械竜は許さない。オークやゴブリンに対し、口から火を放ち、燃やして焼肉へと変換した。それを竜は口の中へと含み入れる。食料だろうか。機械が?レストは自分の考えを一笑した。
森に生えているキノコも竜は口に含んだ。何の為であるかは理解できなかった。
「どこに行くんでしょうか。」
カーネリアが呟くが、他二人には聞こえない。ステルスマントは防音機能も有している。防音とは即ち声も含む。
「ああ、こういうのは不便ですわね……。」
ボヤきながら、黙々と機械竜に続く二人のシルエットを追って、彼女もまた黙々と歩く事にした。
やがて機械竜は山の頂上に到達し、更にその奥、集落から見て山の裏側にあたる方向の崖の下、洞窟が一つあった。機械竜は辺りを見回してから、その穴の中へと入っていった。
レストはそこでステルスマントを外した。合わせて二人もそれを外す。
「この洞窟に何かありそうですね。」
洞窟の入り口を見ると、機械竜が入れるだけの巨大さを誇ると同時に、自然に出来たとは思えない不自然に整った形をしていた。
「作ったのでしょうか。」
「そうかもしれませんわね。あれだけ大きな竜が入れる洞窟なのですから。」
機械竜はレストの見た限りではカーネリアの三倍はありそうだった。更に奥行きは尻尾の関係上相当なものである。それがすっぽりと入れて更に奥行きもある洞窟が、果たして自然に出来るのだろうか。
否であると考える。
では次の問題は、果たして誰が作ったか、という点に至る。
レスト達は再びステルスマントをつけて、洞窟の奥へと進んだ。「誰か人間を見つけたらマントを取ろう」と示し合わせた上で。
洞窟の中は機械竜が曲がれる程度の角度ではあるが、右へ左へと畝っていた。自分達がどの方向を向いているのか分からなくなるほどには入り組んだ構造になっていた。
そして道の途中には魔法の松明が等間隔で設置されていた。
レストはこの洞窟が人工物であるという考えを更に強くした。自然にここまで複雑で、かつ「機械の竜が曲がれるような角度」という縛りで整えられたものを作り出せるかというと困難であるように思えたのである。
さて、この洞窟そのものを作ったのは眼前に居る機械の竜である可能性が高いとは思えた。人間がこれを作れるかというと、魔法でも使わない限り難しいように思えたのと、解析眼鏡に残る記録では、魔法は照明用の魔法しか使われていないようであった。そこから考えて、この機械が自分の力で切り開いたと考えた方が良いと思える。
では魔法の松明は誰が作ったのか。
レストはその答えが、この機械竜の先にある事を期待した。
ガサ。
「うん?」
レストは振り返った。背後で何か音がしたような気がした。
背後には曲がった角があったが、その先は光量が減って何があるのか見えない。
ポチャッ、と洞窟の天井から水滴が落ちてきた。
この音だろうか。レストは再び前を向いて、機械の竜に着いていく事にした。
やがて少し広い部屋に出た。松明がいくつも設置されて、この世界での普通の部屋の夜間と同程度の光量が保たれていた。
「ご主人様、戻りました。今日は収入がありましたよ。」
機械竜が口を開いた。その先には初老の男性がいるようだが、機械竜の図体が邪魔ではっきりと姿は見えない。手や背中の曲がり方で年老いている事はわかった。
「おお帰ったかカリーナ。」
カリーナとは機械竜の名前であろうか。
「収入という事は、パスが売れたのか。誰にだ?」
「名前は伺っていませんでしたが、どうもご主人様が仰っていた方々とは異なるようでした。」
「そうか。冒険者か?まぁ良い。というか次からはわざわざ一回売れる度に戻ってこんで良いぞ。夜まとめて報告してくれれば良い。だがご苦労だった。引き続き監視を頼む。」
「はい、ご主人様。」
そういってカリーナが引き返そうとしたところで、「ご主人様」の姿が見えるようになった。
カーネリアはその顔を見て、「あっ」という声を上げた。だがレストにもシェルフにも、マントのせいでその声は届かない。カーネリアはマントを脱ぎ捨てた。
「ぬっ!?誰だ!?」
「侵入者!?あれ、さっきパスを買ってくれた……?」
「ご主人様」とカリーナが口々にその姿を見て声を上げる中、カーネリアは言った。
「誰だとはご挨拶ですわね。貴族のパーティでお会いしたのをお忘れですか?マネリカの叔父様。」
「……カーネリア嬢?何故ここに?」
マネリカ。その名前を聞いてレストとシェルフはハッとなった。今回の依頼対象、探し人の名前である。
カーネリアは貴族間の交流などの関係で、マネリカとは面識があった。その老けた顔、疲れ切った顔は、まさしくカーネリアの知っているマネリカ・ナリカの顔であった。
「何故も何も、貴方を捜索せよという依頼がありまして。あ、私、今は少々理由があって騎士団のお手伝いをしておりますの。」
捜索という単語を聞いてマネリカは顔を顰めた。
「捜索、依頼……?まさか、それはロール・マルアとかいう名前ではないだろうな。」
「ご存知ですの?その方ですが。」
「あああああああっ!!バカ者!!お前、お前!!何故こういう時に人を疑えないのだ!!商売が絡むと平気で人を蹴落とすくせに!!」
「なんという言い方!!もう少し言葉をお選びなさい!!」
「あの、ご主人様、私はどうすれば……?」
状況が混沌としてきて、カリーナは表情こそ崩さないが、困惑の色を示す声をあげた。
「ああストップ、ストップ。ちょっとお話伺わせてください。」
「そーそー、カーネリアは一旦黙って。」
「むぐ。」
シェルフがカーネリアの口を手で塞いだ。
「あれ、あなた方も。」
「さっきパスを買ったという奴らか。わしの身柄が目的か。」
「だったんですが、ちょっと今のやり取りで気になる事がありまして、ちょっと方針を転換するかもしれません。……マネリカさん。もしかして貴方、借金取りから逃げるために此処に居たりします?」
レストが出し抜けにマネリカに尋ねた。




