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8-6 販売

「ピピピ、ピー。侵入者、発見。入山パス、確認不能。」


 再び山道を行くと、機械竜がレスト達を発見し、機械の音声で先刻と同じ文言を述べた。


「金を払え。」


「はい。」


 レストが適当に、一人当たり10ガルドを突き出す。これでもパスとしては高い方である。ポーションなら2,3個は買える。


 だが機械竜は一瞬沈黙した後、


「……不足。一人50ガルド。」


 と述べた。


「はぁぁぁぁぁ!?山に登るだけで50ガルドぉぉぉ!?」


 思わず叫び声を上げたのは金の亡者(カーネリア)であった。


 50ガルドはレストの元の世界で言うと5000円。入山料としては相当の物である。レストは思った。「遊園地に入るのと同じ価格でこの山登るのか?」と。


 すると機械竜は「不満を検知。セールスモードへ移行」と言うと、突然目尻を下げてニコニコとしながら手揉みをしつつ言った。


「いえいえ、一回限りというわけではございません。本日から一年間有効期限が設定されており、その間は使い放題となっております。」


 その口調はレスト達が唖然とする程にあっけらかんと明るかった。先程までの威厳に満ちた、魔物の中でも最上級の位置にいるドラゴン属らしい口調はどこへ消え失せたのかと思う程であった。


 そんな感想には気付かないまま、機械竜は手を広げて更に続けた。


「ご覧くださいこの雄大な木々を、広々とした大地を。」


 機械竜が翼と手でその雄大さを示しているが、レスト達には山より眼前の異物しか目に入らなかった。


「ナリカ家所有のドラン山、全域の散策が自由に行なって頂けます。植物、動物、魔物、原則として狩り放題となっております。」


「原則ってなんですの。」


 カーネリアは尋ねた。彼女はこの手の話には突っ込まずにはいられなかった。


「まずキノコや山菜に関してはこちらの袋をご利用下さい。一日につきこの袋一袋分となっております。」


 機械竜は手からスーパーの袋のような物をポン、と取り出して言った。


「こちらの袋はご主人様謹製、錬金術により生成された自然に優しい使い捨て袋となっております。注意と致しまして、こちらの袋が破れた場合は翌日にならなければ生成致しかねますので、当日の散策はご遠慮頂けますようお願い致します。聞き入れて頂けない場合は入山パスの没収及びこの山からの退去をお願いする事となりますので、予めご了承下さい。」


 聞いてもいない免責事項を述べ始めた機械竜の言葉を聞くと、「まるで前世の契約書だな」、とレストは思わずにはいられなかった。ある種の誠実さであろうか。詐欺にならないよう予め説明する事は正しいが、この流れで言われてもお得には感じない。


「狩りは?」


「正当防衛の場合以外は一頭のみとさせて頂きます。正当防衛かどうか、当方にて判断する場合がございます。あまりに過度な場合は入山パスの没収及びこの山からの退去をお願いする事となりますので、予めご了承下さい。


「やっぱり価格には見合っておりませんわ!!誰が払うものですか!!」


「そんなぁ。それじゃあ即時退去を……。」


「ああもう、ストップストップ!!」


 感情的になったカーネリアと、申し訳無さそうにその金属の腕を振るおうとした竜の間に割り込みながらレストは叫んだ。


「ちょっと待って下さい!!僕達はマネリカ・ナリカ氏を探しに来ただけなんです。入山パスでも何でも買いますから、探索はさせてもらえませんか?」


 もう金を払ってしまった方が早い、レストは確信した。


「いやいやいやいや、(わたくし)は反対ですわ。こんな大した意味もない紙切れに150ガルドも出すなんて、いくら私の金でなかったとしてもですねモガ。」


「はいはい黙ってな。」


 シェルフが手でカーネリアの口を塞いだ。


「ありがとうございます。では150ガルドです。」


「はい。」


 金属竜が淡々と金額を述べ、それに合った金――無論スキルで生み出した金だが――をレストが払うと、竜の腕から紙きれが三枚落ちてきた。そこには『ドラン山入山パス』と書かれていた。


「お買い上げありがとうございます!!いやあ、漸くちゃんと払ってくれる方がいて助かりました。これで私のノルマも少しは満たせるというものです。」


「あーはいはい、それは良かったですね。」


 レストは気のない返事をした。


「ところで、僕達の目的はさっき言った通りマネリカ氏の捜索です。この山に入っていらい行方不明と聞いているのですが、何かご存知ありませんか?」


「んんん、すみません。存じ上げません。」


 機械竜は今までのセールストークのように明るくノリの良い口調を捨て、冷静な声で否定した。その態度の急激な変化に、若干の違和感をレストは感じた。だが有無を言わさず彼?彼女?――レストには判断出来なかったが――それは続けた。


「それでは失礼します。良い山旅を。……報告モードに移行します。」


 そうして機械竜は再びズシンズシンと大地を揺らしながら山の中へと戻っていった。


「怪しい。」


「怪しいわね。」


「怪しいですわね。」


 全員がそう感じた。ならばする事は?

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