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2-2 地下室

「あ、見つかったん?サンキュー、マジ助かるわ。」


 開いた扉を見つけた先程の司書がそう言いながら近づいてきた。レストは、この口調慣れないなと思いながらも、咄嗟に鍵を隠して言った。


「え、ええ。ただ、鍵は古かったのか、壊れてしまいました。」


「そっかー。そりゃ残念。後でまた付け直さねーと。ま、とにかく、ホントありがとね。変な魔法陣も付いてたし掃除も出来ねーし厄介だったんだわ。悪りぃね、見た目で判断しちゃって。やー、まだアタシも修行が足りないわ。」


 そう言って彼女は手を組み祈りを捧げた。レストは口調と行動が今までの常識では全く釣り合わない事に混乱しながらも、この世界、ソールディではこういう人もいるのだ、と自分に言い聞かせた。


 ふとカーネリアの方を見ると、彼女もまた絶句し、二の句を告げられずにいた。……珍しいのは間違いないらしい。


「んじゃ中見る?」


「はい、お願い致しますわ。」


 カーネリアがそう言うと、彼女は頷き、扉を開けた。


 ギギギギギ、と錆びついた音と共に扉が開くと、溜まっていた埃が外へばさりと飛び出してきた。


「ゲホッ、ゲホッ。うげっ、ずいぶん溜まってんね。」


「ブヘッ、ですね、埃がっ。」


 先頭に居た司書の女性とレストが咽る。


「あーもう、こりゃ相当気合いれんとダメね。アタシも行くわ。掃除しなきゃなんないし。」


 司書の言葉に二人は頷き、そして暗い部屋の中へと足を踏み入れた。


 直後、すかっ、と足が地に付かず、レストが転んだ。


「痛っ!!」


 よく見るとそこは緩い階段であった。階段の段の真ん中に強かに顎を打ち付けたレストが悲鳴を上げた。


「どーなってるんです!!」


「あー、そういや地下室だったわ。言わなかったっけ。悪りぃ。」


 そういえば彼女がそんな事をチラと言っていたのを思い出して、レストは「いえ、大丈夫」と返した。


「お気の毒ですわね。」


 司書が助け起こす横で、カーネリアが光の魔法で明かりを作りながら階段を降りていく。


 傷は無いのを確認し、レストと司書もそれに続いて降りていく。



 真っ直ぐな階段を降りていくと、その先には広めの空間があった。


 明らかに古い本が棚に狭しと詰め込まれている。整理が下手な人が担当していたのだろうか。それにしては妙だなとレストは思った。まるで何か荒らされた後のような、そんな違和感があった。


 気になって自分も光の魔法で床を照らしてみると、自分が歩いたはずのないところに足跡が残っていた。


「……ここ、どのくらい鍵が掛かってたんです?」


「ごめんね、アタシも分かんない。けど、結構(けっこー)数誰も入ってない、と、思うんだけどね?」


 司書の女性も足跡を見とめ、不審な目でそれを見つめていた。


 カーネリアがビクビクと恐怖を露わにしながら周りを見渡す。人の影は無い。


「……だ、誰かいらっしゃいますか?」


 その声に反応する者も居ない。


「居たらむしろヤバいですよ。」


「た、しか、に。……と、ともかく、本を探してみませんこと?……司書様、ご一緒致しません?」


「ん、んんん。そ、そーね。アタシもそうしようかと思ってたとこなんよ。」


 そう言ってカーネリアと司書は入って左側の本棚へ向かって歩き始めた。レストは手元のそれぞれ担当することにして二手に別れた。司書は適当に部屋を掃除すると言う。


「秘宝とか、家宝とか、そういうの無いかな……。」


 埃が入らないように口を塞ぎつつもボソリと呟きながら、レストは本棚を適当に見繕っていく。


 だが目ぼしい物は見当たらない。歴史に関わりそうな本は幾つかあるが、直接的に宝について触れた物は無いように思えた。『レピア国埋蔵金伝説』などという本はあったが、流石に関係性は無いように思える。というか、こうした本はどの時代にも存在するのだなぁ、と、半ば呆れてすら居た。


 と、目についたのが『レピア国の成立』という本であった。国の成立に関わる書物。レストは「なんでこんな重要そうな本が書庫に仕舞われているのか」と疑問に思い、手に取って読むことにした。



 その本には次のような事が書かれていた。


「かつてこの地は強大な悪魔により荒れ果てていた。人々は奴隷として扱われ、絶望に塗れていた。そんな不毛な大地であったこの国に現れたのが、勇者と呼ばれる者である。勇者は神より人智を超える力を得て、この地に住まう悪魔を払い、人々を救った。勇者は自らが得た神の力を宝玉に込め、この地に住まう者の内、正しき心を持つ十人の賢者へと渡した。勇者が去った後、勇者より力を託されし賢者は、その宝玉の力を以ってこの地を統治した。」



 宝玉、という単語が出てきた事に、レストは引っ掛かった。十人の賢者。宝玉。もしやとは思うが、賢者とは今でいう貴族の事なのではないだろうか。


 だが現在、貴族は十では足りない数の家が存在する。歴史がある貴族がそうだというのだろうか。それとも全くの無関係なのだろうか。


 何れにせよ、手がかりにはなるかもしれないとレストは考えた。


「カーネリアさん。司書の方。」


 二人を呼んで見てもらおうと思った。



 その時。


「キャァァァアッ」


 突然、上の方から悲鳴のような声が聞こえ、レスト達の視線が一斉に扉の方を向いた。


 何事かと駆け上がるべきか?そう彼らが考えている間、次々に悲鳴と共に轟いていく。彼らの足は動かない。否、動かせない。何事かと訝しむ思いと、何よりも恐怖が彼らの中に渦巻いていた。


 やがてその悲鳴が途切れ、沈黙が場を制すると、漸くレスト達は足を動かせるようになった。恐る恐る扉を開けようと近づいた時、三人の耳には別の音が聞こえてきた。


 階段の軋む音であった。

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