8-4 遭遇
「強いて言えば、最近金に困っていたように見えました。噂ですが、金の無心をよくしていたようです。山の開発や維持に相当資金を割いていたようで。よく井戸端で話題に上がります。」
ロールの言葉にうんうんと頷く人々。ここの集落の人間は、包み隠さず話すタイプのようであった。レストは、この人達に秘密を話すのは止めようと固く誓った。
「ほう。あの自称錬金術師が。」
「錬金術師?」
カーネリアの言葉にレストが反応した。
「はい。彼は昔会った時に、自分の事を「オレは錬金術師の家系だ」なんて嘯いてましたわ。その場で金を生めといったら、「錬金術ってのはそういうんじゃないから」とか言ってそそくさと去っていったので覚えております。」
実際、マネリカの言葉が正しい事をレストは知っていた。
この世界の錬金術とは物質の合成により新たな物質を生成する術である。起源こそ何かの物質から金を生み出す事を目的としていたが、そのコストが生み出す金より大きい事が明らかになった現在では、そうした方向性よりも、別の物質を生み出す事で物理法則の何たるかを追求する学問となっている。
カーネリアも勿論その事は承知していたが、他方、金を作り出せない錬金術に価値を見出していなかった。それ故、錬金術とは役立たずの学問である、という考えが前提にあった。言うまでもなくカーネリアの偏見である。
「まぁ、ともかく、錬金術師ですか。覚えておきましょう。ちなみに、その、伺いたいのですが。」
そう言ってレストはロールに手招きをした。ロールはそれに応えて三人の近くへと寄った。レストは小声で話しかけた。
「ドラゴンについてですが。この特徴は本当ですか?」
「私は見たことありませんが、先程の方に聞いて書きました。他の見たことある方にも確認して頂いたので、間違いないとは思います。ただ、その、今みたいに、あまりドラゴンについては表で口にしないで頂けると助かります。怖がる人もいらっしゃいますから。」
「例の民謡ですか。」
「ご存知でしたか。その通りです。」
「まぁ何かの見間違いでしょう。最近現れたのに昔から伝わってる民謡と特徴が一致するなんてあり得ないとは思うので。」
レストはそう言ったが、
「ですかねぇ。」
ロールは震え上がるカーネリアを見ながら疑問を呈した。
「あ、あと、この額の宝玉についてなんですが、これを見た人は何かおかしな事になっていたりしませんでした?精神が取り憑かれたようになっていたりとか。」
カーネリアが赤面しながら歯噛みした。レストとしては何か周りに影響を与えるような能力を持っている可能性を危惧しての質問であり、その事はカーネリアにもおおよそ予想は着いたので、何も言えなかった。「自分の時のそれはただ自分が暴走しただけである」などと大声で叫んでしまえば、それこそあの時の醜態を無意味に思い起こさせるだけである。
「すみません、私も聞いた話を絵にしただけですので……ですが、キラキラしてた、というのは確かに仰ってました。」
「なるほど。分かりました。」
レストは少しだけ気落ちした顔を見せた。確かな事は分からなかった。だがともかく、行ってみる価値はありそうだと彼は判断した。
「まずは行ってみましょう。」
「そーね。」
「分かりました。参りましょ……あ。」
「どうしました。」
「もし竜に会ったら金取られるではありませんか!!どうしましょう!!」
カーネリアが本気で焦っているのを見て、ロールはあははと苦笑しながら言った。
「あれはただの童謡ですから。実際にはそんな事ありませんよ。……多分。」
「多分!?」
「いーから行くわよ。」
シェルフが金属棒を展開させて言った。静かな脅しである。
「うう……金取られたくありませんが、致し方ありません……。」
ズレたポイントを怖がるカーネリアを引き連れて、レストとシェルフはロール達に別れを告げ、山道を登り始めた。
山道を歩き始めて数十分。山道は人に踏み固められていた。それなりの数の人間がこの山を登った事があるのがわかる。他方、最近の足跡は特にないように見えた。足跡はあっても落ち葉によって隠されていた。
木々は肥えて時折風がそれらを鳴らす。そのせせらぎが耳に届き、カーネリアは先日の心の乱れがようやく落ち着くのを感じていた。大体中腹といったところであろうか。
一方のレストは疲れていた。
「はひぃ、ひぃ。ふぇぇ。」
「早すぎじゃね?」
「もっと体力つけないと夜大変ですよ。」
「なんで、夜、なんですか。」
本当に分からない様子でレストが言うと、カーネリアがやれやれといった顔で前を向いた。まったく先は長い。
「ん?」
カーネリアが前を向くと、何かが前にいるのが見えた。
「魔物?」
「かもね。下がって。」
シェルフがそう言って武器――折りたたみの金属棒、彼女は自衛ロッドと呼んでいるが、それを広げた。
木々と山々に隠れて陽の光は遮られ、まるで夕方のような光景の中、何か大きな影が木々の合間を蠢いているのが見えた。
「んんん……。」
レストの目には、それは巨大な竜に見えた。そしてその額には輝く何かがあった。
アレはきっと宝玉だろう。
そう思ってレストはよく目を凝らし、解析眼鏡を起動させると、違和感がある事に気づいた。
輝いているのは額だけではない。全身が少ない日の光に照らされてキラキラと輝いているように見えた。
そして、見た。
「……は……?」
眼鏡に映る妙な、場違いな、有り得ない言葉を。
『耐魔力特殊装甲』
『動力源』
『カメラ』
「……どういう。」
どういう事なのか、と言葉を紡ごうとした時、その言葉に反応したかのように、竜の首がレスト達の方を向いた。
そこで日の光が当たり、姿がよく見えるようになった。
「ピピピ、ピー。侵入者、発見。入山パス、確認不能。」
「入山パス……?」
「金を払え。」
竜が口を開いた。
角ばった、
全身がピカピカと磨かれ、
金属で出来た皮膚に包まれ、
目はレンズで輝く、
機械の竜が。
レストの脳裏に蘇った。
カーネリアの歌っていた民謡が。
機械 機っ械 奇々怪界
ドラン山には気をつけろ
機械 機っ械 奇々怪界
機械な竜が 待っている
機械 機っ械 奇々怪界
山に行くなら 金を持て
機械 機っ械 奇々怪界
おかしな竜が 欲しがるぞ




