8-3 麓
「それのナーニが怖いの。」
歌を一通り聞いてシェルフが率直な意見を切り出した。
「確かにメロディはなんだかおどろおどろしいですが、それ以上でもそれ以下でもないと言いますか。」
「まぁよくある昔の歌って感じじゃないでしょうか。」
レストとレヴィがそれぞれ感想を述べると、カーネリアは不服そうに言った。
「かねですよ。かねを持たないといけないんですよ。それをりゅうが、ドラゴンが欲しがるんですよ。恐ろしいではありませんか!!」
「何が。」
「金を要求される事それ自体ですよ!!それ以外に怖い事なんてありますか!?」
聞いた自分達がバカだった、そんな顔でカーネリア以外の三人は見つめ合った。
「行ってきます。」
「よろしくおねがいします。お気をつけて。」
「はいはい。」
レスト、レヴィ、シェルフが淡々と言葉を交わして立ち上がりそれぞれの仕事へと向かうべく歩き出した。
「え?皆さんは怖くないのですか?」
そんなバカな事があるか、という顔でカーネリアは三人の顔を代わる代わる見たが、誰も顔を合わせなかった。
「行くわよバカ。」
「行きますよ守銭奴。」
「行ってらっしゃい金の亡者さん。」
カーネリアの地位は地の底へと落ちたようであった。
ドラン山の麓に着くと、依頼者と聞いていた女性らしき姿があった。その背後には、それの見物であろうか、集落の人々が集まっていた。十人か二十人、それくらいは居るだろうか。物珍しいのだろうかとレストは疑問に思った。そこそこ冒険者がよく行く山だと思ったのだが。
「騎士団の方ですか?」
レスト達が近づくと、依頼者と聞いていた女性が話しかけてきた。レストの目には、カーネリア程ではないがスタイルが良い、三十代くらいの女性に見えた。
「どうも。騎士団の方から来ました。レスト・ピースフルです。」
「シェルフ・レアード。」
「カーネリア・ゼーニッヒですわ。よろしくお願い致します。」
そう自己紹介する三人を、女性は珍しい物を見るような目で見つめた。
「何かありました?」
レストの問いに、彼女は慌てて答えた。
「失礼しました。その、騎士団の方の割には線が細いといいますか、その、あまり、強そうには見えなかったものですから。」
「ご心配なく。こちらのレストさんは素晴らしい才能の持ち主。何を気にされているかは分かりますが、いざという時はキッチリ対応出来るだけの実力を持っています。ご安心下さい。」
「まぁ、はい。」
褒められているのか分からず、レストは気のない返事をした。
「そうですか!!安心しました!!私はロール・マルア。この近くの集落に住んでいる者です。後ろの方々は、その、あまり気にしないで下さい。騎士団から人が来ると聞いて見物に来た方々なので。……早速ですが、依頼の内容について、詳しくお話させ頂ければと。とはいえ、依頼書に書いた通りなのですが。依頼書は読んでくださいましたか?」
「拝見しました。失踪した、マネリカ・ナリカの捜索、ですか。」
レストは依頼書を片手に言った。ロールは首を縦に振った。
「はい。最近行方不明なので心配で。ここの土地の管理は彼が行なっていたので、突然居なくなられると我々も困ってしまう、というのもあります。」
後者が主な理由ではないかとレストは思った。後者を話す時の方が力が籠っていたような気がしたのだ。心配している様子はあるのだが、心配のポイントが彼の生死ではないような気がした。そこまで焦った様子がないというか、彼の勘ではあったのだが。
「何か心当たりは?」
レストの問いに、ロールは首を横に振った。
「この山に登ったのを見たのが最後です。」
と、後ろに居た集落の男が割り込んできた。
「なんかな、行方不明になる直前、ブツブツと何か言っているのを見たで。確か、「勝手に山に登りおって」とかそんな事言ってただよ。」
「んだんだ。そんで山登ってそれっきりだーよぉ。」
「困ったもんだべ。」
訛りの酷い人々が口々に口を挟む。
「勝手に山に、ですか。」
「それは、どういう意味でしょうか?」
カーネリアの問いに、ロールは困った顔で言った。
「すみません、分かりかねます。」
すると集落の人間達が更に口を挟んできた。
「アンタらぁ、騎士団の奴らだべ?山行って、探してやってけんろ。」
「んだぁ、今この山にゃ俺たちゃ登れね、アンタらでなきゃ無理だぁ。」
集落の人間達が口々に訛り全開の口調で自由な意見を述べた。
「なんで無理なのです?例のドラゴンですか?」
「んだ。変なピッカピカのドラゴンが歩いてんの見たんだぁ。怖くてやってらんねぇだよぉ。」
「おめーの見間違いでねーか?」
「んだとぉ?んじゃオメェ、山登ってこいやぁ。」
「やだぁよぉ、わざわざ危ねぇトコに行きたかぁねぇだぁ。」
ロールの後ろで不穏な空気が漂った。レストは空気を少しでも変えるべく、ロールに尋ねた。
「あー、その、そうですね。参考までに伺いたいのですが、失踪前のマネリカさんに変わった所はありませんでしたか?」
「……そうですねぇ……。」
ロールはしばらく考え込んだ後、ふと思い出したように口を開いた。




