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8-2 依頼

 このレピア国は平和そのものであるが、一方でこの世界における平和とは必ずしも平穏を指すものでは無い。


 何故なら、この世界には魔物がいるからである。


 人間の天敵たる魔物がいるこの世界で、真の平穏が訪れる事は決して無いのである。


 魔物は、通常の生物が、魔力を帯びることで強靭な肉体と優秀な頭脳の何か或いは両方を得た姿である。魔物は魔力を主食とする。人間は魔力を有しており、人間を喰らうことで魔力を効率よく得る事が出来た。故に魔物は人間を狩り、人間は魔物を恐れた。


 それ故、魔物に対抗出来る冒険者、そして騎士達は、国民にとって希望の象徴であった。


 そんな彼ら彼女らに魔物討伐を始めとする仕事を依頼する方法が、「依頼書」である。




「依頼書については知ってますが、なんで僕達の所に依頼が来るんですか?」


 ブルーアの一件から数日、平穏な日々を過ごしていたレスト達の元にレヴィがやってきて、依頼書を提出した。


 依頼書、魔物討伐やダンジョン踏査など、冒険者に依頼したい事項とその報酬を整理した書類である。


「いや本当に申し訳ないのですが。」


 レヴィは幾度目か頭を下げながら言った。最近になりレストは、彼女は事のためならやすやすと頭を下げるという事を漸く理解した。彼女が頭を下げるという行為の価値は安いという事も。


「騎士団に来た依頼ですか。毎回ですね。」


「返す言葉も無いです。ですが分かって下さい。」


「人が居ない、そういう事ですか。」


「はい……。」


 レヴィは悪びれながら両手の人差し指の先をトントンとぶつけながら言った。


「もう少なくて少なくて。最近は魔物の出没も多すぎるんです。本当どうにかしたいのですが、如何せん私の権限だけではどうにも。ああでも、理由も無く皆さんにお願いしているわけではありませんよ?」


 カーネリアとシェルフの方も見ながら彼女は言った。


「完全にアタシらもセット扱いじゃん。」


「些か不服ではありますわね。」


「そうそう。」


(わたくし)に依頼すべきですわ。何故レストさんなのですか。」


「そっちかい。」


「レストさんに依頼した方がお二人も納得されると思いましたので。」


「そういう事は口にしなくていいです。」


 レストは馬鹿正直に全てをひけらかすレヴィに釘を刺した。


「失礼しました。理由というのは、この依頼書の内容なのです。」


 そう言ってレヴィは依頼書を手渡した。それに目を通したレストは納得したように首を縦にゆっくりと振った。


「ははぁ。なるほど、僕たちに"これ"を回してきた理由は分かりました。」


 そう言って彼は依頼書を二人に見せた。シェルフは紙を見た時に理解した。


 レストが渡された依頼書は人探し。山に出没する魔物に襲われたかもしれない特定の人物を探して欲しいというものであった。だが問題はそこではなかった。


 依頼書には絵が書いてある事がある。討伐対象や注意対象の魔物の特徴を明確にする目的で。


 この依頼書にもご多分に漏れず、魔物の特徴が明確に書かれていた。



 竜の形の絵、その頭に光輝く球体が。



「これは本当に?」


「騎士団に依頼してきた方に聞く限り、本当らしいです。光る玉が頭にあって、ピカピカと光っていたそうですよ。」


「強いのですか?」


「分かりません。近くの山に住み着いていて、それのせいで捜索も出来ないという話しか頂いてないので。」


「そんな所の捜索をウチらに依頼するわけ?危なくね?」


「お願いしますよぉ。隠れたりするの得意でしょう?」


「得意っていうか、そういうアイテムはまぁありますけれど。」


「お願いしますぅ〜!!食事の量増やしますからぁ〜!!」


 レスト達三人は顔を見合わせ、やむ無く了承した。日々の食事量にあまり不満はなかったが、レヴィにはお世話になっている。少しは借りを返さねばならないと考えた。


「仕方ありますまい。行きましょうか。」


「そーね。場所は……ドラン山ね。」


「ドラン山。」


 カーネリアがギョッと目を見開いた。


「何よその反応。なんかあんの?」


「あんのも何も、ご存知ないのですか?」


「何の話か分かりません。」


 ドラン山はスラス都の東にある小さい山である。ダンジョンは無いただの山。冒険者には見向きもされないが、スラス都をある程度の高さから見渡せるので、ちょっとしたハイキングにはもってこいという程度の極々平凡な山である。それ以上の知識はレストには無かった。


「あそこにそんな変顔するような噂あった?」


 シェルフも特に聞き覚えが無かった。


「知らないのですか……あの恐ろしい伝説を。」


「伝説?」


「聞いたことないわね。」


「同じく私も初耳です。」


 レヴィも割り込んで言ってきた。


 カーネリアは無知蒙昧な愚民達に溜息を吐きながら、仰々しく口を開いた。


「最近は話にも上がらないようですが、地元にはとある伝説があると聞きます。」


「又聞きですか。」


「誰から聞いたのよ。」


「昔開かれたパーティで、あの山の近くに住んでる貴族から。……というか、この依頼書の探し人その人なのですが。」


「ナリカ家でしたっけ?あの辺に住んでるのは。」


「そう、マネリカ・ナリカ。」


 依頼書を読んだ時も引っかかった名であった。レストの記憶では、確かナリカ家がドラン山を含む一帯の土地を管理していたはずである。そのナリカ家の当主、マネリカの失踪。結構な問題である。


「で、どんな伝説なのよ。」


 シェルフが本題への答えを求めて切り出した。


「伝説と言いますか、民謡と言いますか。あの山には竜が住むと昔から言われています。そしてその竜に纏わる歌があって、それを聞いて(わたくし)は恐怖を覚えたのです。」


「歌。」


 レストは元の世界の事を思い出した。古い村などでよくある、伝承を元にした子守唄や童謡、そういった類の物であろうか。


「どんなのなんです。」


 カーネリアに問うが、当の彼女は嫌な顔をした。


「なんですかその顔。」


「いや、思い出したくないのです。」


「アンタが切り出したんでしょうが。モヤモヤするからちゃんと説明しな。」


「ここは観念して頂きましょう。私も気になります。」


「えーと、確か……。」


 シェルフとレヴィの交差攻撃でカーネリアは断念したように、記憶を振り絞りながら歌った。



 きかい きっかい ききかいかい


 どらんやまには きをつけろ


 きかい きっかい ききかいかい


 きかいなりゅうが まっている


 きかい きっかい ききかいかい


 やまにいくなら かねをもて


 きかい きっかい ききかいかい


 おかしなりゅうが ほしがるぞ

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