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7-7 捕縛

「大丈夫ですか。」


 男が話しかけてきた。聞き覚えの無い声であった。


 目を開けてボヤけた視界のまま、その声の主を探す。


 が、目に映る光景自体が飲み込み難い物であった。


 人、物、部屋の間取りから内装まで、どれも見覚えが無く、何故自分が此処に居るのか理解出来ないで居た。


 やがて、視界がハッキリしてくると、


「ヒィッ!!」


 恐怖で声が上がった。


 眼前に居たのは、かつて自分に狂気を見せつけた女であったからだ。


「落ち着いて下さい。今の彼女は大丈夫、正気です。」


「……。」


 最初に話しかけてきた男の、優しい声が耳に届いた。女はジッと黙り、何か恥ずかしそうに口を噤んでいた。


「あ、えっと。」


 此処は何処とも誰何出来ず困っていたところ、手が動かない事に気づいた。手が何かで結ばれて、後ろで固定されている。手袋のようなものを被せられているのも分かる。恐らくスキル対策なのだろうが、どうやってスキルの事を知ったのだろう。そして、痛みが無いのは何故だろうか。


 戸惑っていると、不貞腐れた表情の女が口を開いた。


「ここは騎士団の本部。アンタの傷はアタシが治した。感謝しな。」


 吐き捨てるように言った女には見覚えがあった。朧げではあるが、確か。


「さて、ブルーア、でしたか。」


 奥に居た巨大な盾を持った騎士が静かに、だが威厳と重圧を感じさせる声で言った。


 ブルーアが自分の名前である事は、混乱している今の彼女でも理解出来た。


「この宝玉について、説明をして頂きましょうか。それと邪教に関して。」


 そう言って騎士が突き出してきたのは、蒼く輝く綺麗な宝玉であった。



「……ああ。どうして、こうなっちゃったやら。」


 ブルーアは静かに自虐的に笑った。


「神様の宝玉を儲け話に使ったのがイケなかったのかねー。」


「いえ、アレに関してはこの人が悪い。」


 レストはカーネリアの頭をポンポンと平手で撫でるように叩きながら言った。


「シュン。」


 カーネリアは肩を竦めた。今回は少々やりすぎたというのは、彼女も分かっていた。宝玉に魅入られてしまった。催眠スキルに抵抗するだけならまだしも、ナイフを、金貨をぶん投げ、殺しかねない勢いで彼女――ブルーアと司会の男に食って掛かった記憶がしっかりと残っている。あればかりはどうにも、暴走にも程があると自戒していた。


「まぁ許してくれとは言いません。元を正せばあんな物をオークションに出すのが悪いのですから。……宝玉の能力が使われたわけでは無い事は理解していますが。」


「起きたらビックリよ。カーネリアは宝玉に頬擦りして満面の笑みなのに、壇上は真っ赤に染まってるんだから。ウゲ、思い出したら気持ち悪くなってきた。」


 シェルフが首を抑えながら言った。カーネリアの肩が更に竦んだ。


「その件については、別にお願いします。」


 レヴィが静かに言った。


「それよりも、まずはちゃんとご説明を頂きたい。」


「わーった。わーったって。話す話すよ。」


 ブルーアは観念したように言った。


「その代わり、さ。身の安全は保証して貰える?」


 レヴィは頷いた。


「騎士団長として必ずお約束致します。」


「OK、んじゃ。まずその宝玉は、裏オークションの倉庫から見つかったの。つい最近の話。アンタらがウチらの神殿……仮設だけどさ、それに突撃してきた後の話。」


「あの神殿は爆破されたようですが。」


「ええ。ウチの司祭様が念の為にって。んで散り散りになって活動する事になったの。一ヶ月に一度のペースで進捗を報告するって事にしてね。あ、言い忘れてた。アタシはブルーア・ロンド。アレイトス教の青の神官よ。」


「まだ聞かれてもいないのに、随分と流暢ねぇ。」


 シェルフが半ば呆れたような声を出した。


「まだ死にたくないからねー。あの場に居たから高位の人間だと思ってそうだし、ちゃんと協力しないと、幹部だからって死刑にされそうじゃない?アタシは金と名声、それと男が欲しいだけで、あんま神様信じてないからさ。」


 飄々とした様子でブルーアは続けた。


「アタシはスキルが特殊だから成り上がっただけ。こんなスキルだから、裏の社会の方が重宝されんのよ。それ以上でも以下でも無いわ。そこんトコは理解してちょーだい。」


「分かりました。貴方の罪に対しては罰を与える事になりますが、身体への危害を与えるようなものからは私がお守り致します。続けて下さい。」


「はいはい。んで、散り散りになって宝玉を探したり信徒を増やしたりしようって話になったわけ。そんで、裏のオークションの噂を聞いてね。アタシの催眠スキルを使うにゃ閉鎖空間が一番だし、壇上に上がれば人目を集めるでしょ?美術品を買う連中なんて金を持ってるのは簡単に想像ついたし。ちょうどいいと思ったの。それで一枚噛ませてもらおうと思って、そこの司会の――えーっと、名前は確か、メイナード・オルドリッジだったかしら。」


 レストはオルドリッジという姓に覚えがあった。かつての名門貴族の一家だったはずである。だが、偽物の美術品を売り捌くなどの理由から貴族の立場を追放されたと聞いた事があった。表にされていない理由に、邪教信仰があったようである。


「そいつに協力して貰って、裏オークション開催の準備をしてたら、倉庫から宝玉を見つけてさ。ちょうどいいから餌にしようと思ったわけ。売れそうだし、アンタらみたいな騎士団の連中が嗅ぎつけてきたらまとめて洗脳出来るでしょ?勿論司祭様には話しておいたけどね。既に信徒になってる連中を催眠に掛けるのも問題あるし。」


「なるほど。」


「まー、まさか大抵引っかかるこのスキルを破られて、挙げ句あんな……あんな……。」


 軽口を叩いていたブルーアだったが、カーネリアの醜態を思い出そうとした時、肩を抱いて震わせた。恐怖が再燃したようである事はレストにも理解出来た。


「そこまでで大丈夫です。」


 レストは優しく肩に手をやり、労いの言葉を掛ける。


「よく話してくれました。まぁ後は追々。」


 その言葉の裏にそれ以上の、つまり労り以外の意図がないことを理解し、ブルーアはしばし呆けた。このような思いやりの言葉をかけられることが少なかった。皆無と言っていい。彼女は単純に嬉しかった。


「あ、う、うん。」


 ブルーアはそう言いながら頬を赤く染めた。


「はいはいはいはい、寒気がすんなら毛布でもかぶりな。」


 ぶっきらぼうに言ったのはシェルフであった。彼女はベッドから毛布を持ってくると、レストを押しのけてブルーアの肩に毛布をかぶせた。


「乱暴な。」


 レストの異議をシェルフは無視しながら、


「それで?続けなよ。」


 とブルーアに話の継続を促した。


 ブルーアは少々不服ではあったが、その言葉に従った。


「……とは言っても、後はアンタらの知っての通りだからね、あんま言う事はないわよ。催眠(ヒュプノシス)スキルで競売参加者を眠らせて、本当は現場にいる全員の金を奪ってトンズラしようと思ってたんだけど、そこのお嬢様の暴走で全部パーよ。あーあ、ついてない。」


 ブルーアは肩を落として、口を噤んだ。


 そこで話は終わった。

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