7-6 暴走
「ひ、ひぃっ!?」
「さッキからウダうだウダうだ抜かシて何をしていますノ!!寄越セ!!宝玉ヲ!!私は買ッタ!!それを!!つまりソレは私のモノ!!」
「あ、あ、いや、その、」
ブルーアは痛みと恐怖とで尻もちをついた。獰猛な獣の如く牙を剥き出しにしたカーネリアの目は、下手に言葉を紡げば、ブルーアの手に突き刺さったナイフを抜き取り今度は心臓に刺すであろうという具体的な殺害方法まで確信出来る程に殺気に満ち溢れていた。全身のオーラがそれを更に確信へと導く。
「え、え、えっ、な、んでスキルが、その。」
「は゛や゛く゛、よ゛こ゛せ゛。」
濁った声でカーネリアが言うと、ブルーアの恐怖は最高潮に達し、手足がガクガクと震えだした。決してナイフが刺さった痛みだけではない。このままだと殺されるという本能的恐怖がそうさせているのである。
「わ、わわわ、わたしましょうブルーア様!!これ、わたさないと!!」
「えええ、えええええ、えええーと、ええ、そそそそ、そうね。わ、わたす、渡すから!!」
ブルーアは司会に目配せをした。司会は二の句も告げず壇上に置かれた蒼い宝玉を、今にも食い殺さんと目をギラギラ輝かせる女らしき生命体に差し出した。
それは宝玉を引ったくると、頬をすりすりと擦り寄せ、満面の笑みで甘い言葉を垂らした。
「あぁ〜素晴らしい〜。この輝き、この迸る魔力、堪りませんわぁ〜。一眼見た時から欲しかったんですのぉ〜。私の元にいらして下さったこと感謝致しますわ〜。」
カーネリアは元の口調を取り戻すと、宝玉に二度三度と口付けをした。舌を這わせて舐めまわしすらした。トロンとした目の焦点は定まっていないが、しかし一点、手に持った宝玉だけはしっかりと見据えていた。
まだ正気は戻っていないようであった。
ブルーアと司会の二人はその姿に顔色を失った。もはや言葉も無く、ただその狂気に満ち溢れたその姿を見つめることしか出来なかった。
ブルーアの心には慚愧が宿り始めていた。この化け物を生み出してしまった自分の愚かさに。そして強欲の化身を呼び寄せた自分の運の無さに愕然としていた。
「あ、ああ、なんで、こんな事に……。」
そして後悔と痛みが押し寄せる。
宝玉を抱き寄せてキャッキャウフフと微笑み踊る魔物を超えた怪物を尻目に、ブルーアは自らと司会の流す血に囲まれて段々と意識が薄れていくのを感じていた。
やがて流れた血の量が一定を超えたのか、ブルーアの瞼はゆっくりと落ちていく。
その目に最期に映ったのは、狂気に満ちた一人の女の狂喜乱舞であった。




