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7-5 狂乱

 場が沈黙に包まれた。


 レスト以外の全員が、一言も言葉を発する事なく、呆けた顔になったかと思うと、突然バタバタと眠りに就き始めた。その中にはシェルフも含まれていた。


 レストは周りの動きに従い、椅子に凭れ掛かるようにして眠りについたフリをして、女の、ブルーアの出方を見る事にした。


「ニャフフ。いやー、成功成功。」


 ブルーアはレストの狸寝入りには気付いていないようで、満足気に裏オークションの参加者の眠る姿を見ながら笑みを浮かべた。


「ごくろーさま。」


 その言葉は司会の男に投げかけられた。


「とんでもありません。これも世界再生のため。……とはいえ焦りました。まさか十億なんて大金になるとは。」


「なんか微妙に怪しい金な気がするけれど、まぁいいよね、別に。」


「ですね。しかし、ブルーア様、こんな形でオークションを終わらせるのは宜しかったのですか。それに、宝玉を餌にするなど……。」


「いーのいーの。十個もあるらしいじゃない?一個くらいこーいう使い方したってさ。オークションだって、そろそろ騎士団に嗅ぎつけられてたんでしょ?潮時って奴よ。引き際を見極めないとダメ。」


「はぁ。」


 同意もし辛いのか、司会は気のない返事をした。彼もアレイトス教の人間だったようである。邪教の信奉者はどれだけ居ると言うのか。そして、宝玉の出品自体、教団に仇なす人間の炙り出しと、そして恐らくは資金収集のためだったという事を、レストは理解した。


 この場に集まった人間を眠らせて、持ってきた金を奪い、宝は回収する。完全な詐欺である。


「……せ。」


 と、また聞き覚えのある声がした。


「……渡せ。」


 自分の隣からの声である事にレストが気づくのにはそう時間は掛からなかった。


 その隣を見て、声の元を見て、レストは恐怖の顔を浮かべた。


「ん?」


 ブルーアと呼ばれた女性の視線が、レストの横でゆっくりと立ち上がったカーネリアに注がれた。レストのそれには気づかない。


「あれ?寝てないの?」


「渡せ。」


 答えになっていない回答をカーネリアは返した。


「やーだー。これはアタシらのモノ。金を積まれても渡すわけないじゃん。」


「買った、ぞ。」


 いつものお嬢様らしく教育された口調を捨ててカーネリアはポツリと言った。静かな会場にその言葉だけが響く。


 レストは、根拠は無いが、何か恐怖のような物を感じた。その言葉の裏に秘められている感情にだろうか。


 だがブルーアは何も気にしていなかった。


 ブルーアのスキルは催眠(ヒュプノシス)。相手の精神力や場の光量によっては成功しない場合もあるが、ブルーア自身の能力が極めて優秀であり、特に知能に関してはアレイトス教でも一、二を争うと自他ともに認める程であった。それ故、今までスキルの発動に失敗する事は無かった。


「んじゃもう一度。おやすみー。」


 今回はただの掛け漏れだろう。そう思った彼女は手を広げて再びスキルを発動した。


「渡せ。」


 カーネリアは眠りに就く代わりにそう声を荒げると、手元にあった鞄からナイフを取り出し、ブルーアに向けて投げつけた。


 ザクッ、という音と共に、ナイフがブルーアの掲げた手に突き刺さった。


「ガッ……。い、たっ……!?」


 ブルーアの手から赤い液体が流れ落ちはじめ、司会は慌てて回復呪文を詠唱し始めた。


 ドガン。


「ガッ。」


 だが、カーネリアの鞄が司会の頭に何かが命中した事で、それは途切れた。


 司会の頭からは血が、そしてその横には鞄が落ちていた。


 ガシャ、ジャリジャリジャリ。


 その鞄からは金貨が――十億分の金貨が溢れ出していた。


「寄越せ……私の……」


 ブルーアは痛む右手を抑えながら、カーネリアの方を見た。レストも見た。


 二人は同時に恐怖を感じた。


 カーネリアの目は金色に、そしてギラギラと輝き、血走っていた。


 その目にはレストも、ブルーアも、シェルフも、誰も映っていない。


 映っているのはただ一つ、自分が十億ガルドという巨額の値を付けた、それ程までに魅入られた、蒼く澄んだ輝きを称える宝玉であった。


「金は、払いました、わ。」


「あ、あ、……あ?」


「それを、宝を、(わたくし)の宝玉を、渡せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 カーネリアは叫ぶなり跳躍し、壇上へと上り詰めた。

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