7-4 落札
「は?」
レストの口から思わず馬鹿にしたような声が出た。
何を言っているんだこの人は。率直な感想であった。
「金を出して下さい!!何か持ってきてるんでしょう!?」
「そりゃ、まぁ、一応準備は……。」
万一競り落とさないとダメそうな時のために、物質変換スキル発動の材料は持ってきていた。だが今のカーネリアに、この女にこれを渡すのはマズイ気がしていた。
そもそも金を無から生み出すというこのスキルは経済の崩壊を招きかねない。それをこんな所で良しとして良いのだろうか。
一瞬の戸惑いであったが、その間もオークションは刻一刻と進んでいく。
「200,000,000!!」
別の老いた男が涙を流しながら叫んだ。
「300,000,000!!」
別の女が、袖を付き添いに男に引かれながらも、今更引くに引けず叫ぶ。
局所的インフレーションもまた同時に進行していく。このままどこまで上がっていくのだろうか。司会も焦り続けた。
「は、はい、200,000,000。そちら、えっと、300,000,000?ほ、他にいないか?もう終わりでいいですか!?」
金額を復唱する速度と音量も段々と落ち込んでいった。
舞台横から何かそれを咎める声が出ているようだったが、司会はそれを無視しているのか、それとも、何も聞こえないほどに焦燥しているのか。何にせよ、もうすぐ司会は競売を止めるであろうという事は明らかであった。
「早くッッッ!!」
カーネリアが鬼の形相でレストに詰め寄った。その背後には「出さないと殺すぞ」と言わんばかりの殺意のオーラが満ち満ちていた。
「わ、分かりました!!」
「弱っ。」
レストは一瞬で折れた。シェルフは仕方ないとは思いつつもその折れ具合に呆れた声を上げた。
「『胡麻→鎌→金、物質変換』!!」
手元にあった胡麻粒を足元にばら撒きながら、レストはスキルを発動させた。途中鋭い鎌の刃が足に刺さりそうになったが、その前にその鋭い刃は金色に輝く貨幣へと姿を変え、レストの脛を強かに連打し、そして地に落ちた。
ーーその音が聞こえた瞬間、余りの価格に騒然としていた場が静寂に満ちた。
チャリン、チャリン。
金貨が落ちる。
チャリン、チャリン。
金貨が積み上がる。
音が響く。
音だけが響く。
人目は宝玉から少しズレて、その音源、レストの足元へと注がれた。
そして、それを歓喜と狂気の目でかき集めるカーネリアの姿へと。
カーネリアは至福に満ち溢れていた。
金。金。金。
自分の自由な金。
好きな物を、欲しい物を買える金。
それが今ここにある。
そして欲しい物もまた、ここにある。
幾らあるだろうか。カーネリアはそれをかき集めながら正確に数えた。自分の手持ちと合わせて、その金貨の数は。
「1,000,000,000!!」
止めを宣言するように、カーネリアが力の限り叫んだ。
レストの元の世界に無理矢理換算すると、恐らく1000億。
そこで、声は止まった。
年老いた恐らくコレクターであろう老夫が、近くの執事らしき者と話し合ったが、やがて諦めたように手を下げた。
女が泣き崩れながら手を下げた。その手を掴んだ男もまた涙ながらに彼女を抱きしめた。
「い、居ないか!?他に居ないか!?」
司会がキョロキョロと周りを見渡す。
入札を続ける意思として手を挙げるという行為があるが、上がっている手はただ一人、カーネリアの物だけであった。
カーネリアの目は血走っている。これもまたコンコルド効果か、レストはそう思った。シェルフはやり取りされる金額の大きさに、自分は夢を見ているのではないかと頬を抓った。当然痛みが襲った。
「じ、十億!!十億で落札です!!」
司会がカンカンカンカンと木槌を叩き、夢のような、或いは悪夢のようなチキンレースの終焉を告げた。
「ニャハハ、はーいお疲れ様ぁー。」
終焉を迎えたオークション会場で、司会を遮るように壇上へと唐突に登ってきた女が、妖艶な笑みを湛えながら言った。青いローブを着た女であった。
「では落札後の流れを改めて説明するのでぇー、こっちに注目ぅー。」
女はそう言って手を掲げた。
レストはその女の声と服装に覚えがあった。青いロープ、ニャハハと笑う声、先日アレイトス教の祭壇で見かけた女であった。
眼鏡に映し出される女の情報を見て、シェルフとカーネリアに「伏せて!!」と声を掛けた。
だが時既に遅く、シェルフは「え?」と言いながら女の手を見ていた。
女の手から放たれた光をシェルフはまともに目にした。レスト以外の全員がそうであったように。
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[ブルーア・ロンド]
- 22歳
- 女
- スキル:催眠 レアリティ:レア
→掌から放った光を目にした生物に、特定の行動を取らせる事が出来る。
指示内容と自身の知力、相手の精神力により成功率が変動する。
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