7-1 競売
「10,000!!」
「12,000!!」
「14,500!!」
「15,000!!」
威勢の良い声が部屋の中に響き渡る。
「17,000!!」
その言葉で部屋に静寂が戻る。
「他には居ないか!?」
司会の言葉が静かな部屋に響く。一瞬のザワツキの後、再び静寂が戻る。
「よし17,000!!」
そう言うと司会が手を上げ、17,000と叫んだ男の持っている札が光り、『1-17000』という文字が刻まれる。1品目を17,000ガルドで競り落としたという証拠である。これを後刻受付に見せる事で売買が成立する。この場に居る人間には周知の事実であった。
それ故に司会は早々に次の商品の紹介へと向かい、誰もその流れに疑問を持たない。
だが、場違いな感想を述べる者も居る。
「あれ、支払いとかは?」
「後でやるのではありませんか?」
「へぇー。その場で別室行ってとかじゃないのね。」
正装――一人露出度の高い、およそ正装とは言えない破廉恥なそれであるが――を着てはいるが、周りから浮いた三人が居た。
レスト・ピースフル、カーネリア・ゼーニッヒ、シェルフ・レーアドの三人であった。
「にしてもカーネリア、アンタなんで入札しなかったの。」
「そうですよ、あんなにウキウキだったじゃないですか。」
ニヤニヤと浮ついた笑みでレストとシェルフが尋ねると、
「あんなゴミみたいなもの欲しくはありませんわ。ああ、期待外れと言うほかありません。」
カーネリアは17,000ガルドという大金で競り落とされた、どこの部族の物ともしれない不可思議なお面が、舞台裏へと送られていくのを一瞥して、吐き捨てるようにそう言った。
昼間の事である。
「いや、昨日は本当にお疲れ様でした!!」
ショーン邸の事件解決後、騎士団長レヴィ・トゥイーナがレストの部屋を訪れて言った。
「そしてすみません!!私が同席出来なくて!!」
「いえ気にしないでください。大した事件じゃありませんでしたから。」
レストは心の底からそう思っていた。
「とんでもない!!やはりレストさんは凄い!!話はショーンさんとトレイナから聞きました!!いやあ流石はタンテイという奴ですか!!鮮やかなお手前!!」
だが褒められる事に悪い気はしなかった。
「いやあ、ははは。」
と、レストはポケットにある札の事を思い出した。
「そういえばお話しておきたい事が。」
レストはトレイナから聞いた裏オークションの話をした。ショーンの件については触れない事にした。ショーンに恩を売ろうというつもりは無いが、仮に現在の大臣が関わっていたとなれば、騎士団総出で潰しに掛かるという事にも成りかねない。レストとしては、オークション自体はそのまま開催して欲しい。
「そんな物が……。由々しき事態!!」
「ええ。ですがそこで宝玉が売りに出されるという話もあります。もしかするとアレイトス教も関わってくるかもしれません。」
「大事ですね。」
「はい。だから僕達で乗り込んでみようと思います。」
「それは危険ではありませんか!?」
「危険だとは思いますが、うまくいけば情報を得られます。今はまだ、騎士団の人も動ける状態ではないでしょう?」
レストの言葉にレヴィは言葉なく頷いた。
「人が足りない……。本当はそんなオークション一網打尽にしたいのですが……いかんせん。」
「その当たりを見極めるためにも、一度様子を見た方がいいと思うのです。僕達がそのための目になります。」
既にカーネリアとシェルフには共に乗り込む了解を得ていた。
「……言葉に甘えてばかりな事、騎士として恥じ入るばかりです。ですが、放っておくわけにも参りません事もまた重々承知。お願いしてもよろしいでしょうか。」
レヴィはキッとした眼差しで彼を見つめながら言った。
彼は重く首を縦に振った。
そうしてやってきたのが北地区3-3、トレイルから「裏オークションが開かれる」と聞いた場所へと、三人は正装でやってきた。
「なんですかその袋。」
スリットが入って生脚が人目を引く破廉恥とすら言える服を着て、妙に分厚い何かを持ったカーネリアに、レストは尋ねた。
「金です。」
「え。」
「は?何に使うの。バカ正直に宝玉を競り落とすつもり?」
以前同様に発信機を付けようと思っていたレストとシェルフは呆れながら言う。だがカーネリアはチッチッチと指を振ってそれを否定する。
「私が落とすのは宝玉ではございません。多分。他の出品物が目当てですわ。」
「え。」
「ふふふふふ、裏のオークション。いいですわ。響きが良い。たいそう曰く付きの、さりとて素晴らしい逸品が出品される事でしょう!!私が手を付けないわけには行きますまい!!そして騎士団に通報して金は回収する。私の手元には物品のみが残るという寸法ですわ!!」
「勝手にやってな。」
「行きましょう。」
レストとシェルフは、一人で盛り上がるカーネリアを置いて、かなり大きめの、空き家とされる家へと入っていった。
「騎士団に通報したら証拠として物品も押収されるのではないか」という考えが二人の間を当然の如く駆け巡ったが、盛り上がったまま着いてくるカーネリアの姿を見て黙っている事にした。少し痛い目を見たほうが良いと思ったためである。
カーネリアはと言えば、自分の財力で買えない物は無いと確信しているようで、どんな良い物が買えるかと意気揚々と軽いステップを踏みながら二人に続いていた。




