6-9 未遂
「そりゃあ盗難です!!」
何を当然のことをと若干の憤慨の色も混ぜながらショーンが叫んだ。
「ケースの中に落ちていただけのものが盗難とは言えないのでは?」
「…………あれ?」
ショーンがきょとんとして、レストに振り向き言った。
「では何罪で?」
「僕が尋ねたのですが。まぁいいでしょう。僕が言いたいのは、彼女を罰する罪状は、せいぜい宝玉の窃盗未遂に留まるという事です。やろうとしたはいいが、結局ドジって実行出来なかった哀れな方です。そこまでの悪人ではない、まぁせいぜい、金に目の眩んだ小悪党という奴でしょうか。許せとは言いませんが、そこまで強烈な罰を与えるのはやめてあげてくださいね、という事です。」
ケースの中に落ちているのを見落としたショーンにも責任がある、とレストは思っていた。見つけていればここまで事が大きくならなかったかもしれないからである。
一方で、そこで気付かれて犯行が止まったからこそ、更に事が悪化しなくて済んだとも言える。
もし宝玉が見つかり、トレイルが諦めなかったら、別の方法で犯行に及び、ここまで簡単に解決することは出来なかったかもしれない。ここで反省するに至らなかったかもしれない。
「まぁでも、ちゃんと反省はしてください。二度とやらないと。」
レストはトレイルを強く睨みつけて言った。
「勿論です!!二度とやりません!!神に、クレア様に誓って!!」
トレイルは手を握り天を仰いだ。クレア。その名前を聞いて、レストは懐かしく感じた。
クレアはこの国の宗教名であり、その教派における最高神、そして自分を転生させた張本人の名前である。
だが最近は邪神たるアレイトスの名前ばかりを聞いていたせいで、久しくクレアの名を聞いていないように思えた。
「ありましたぞ!!」
そんなレストとトレイルを尻目に、ネイティが警備員と共に戻ってきた。
「これです!!黄金の宝玉!!確かにタンテイさんとカーネリアさんの仰る通りでした!!」
レストはネイティが掲げた宝玉に目をやり、それを大きく見開いた。
「どったの。」
シェルフがレストに尋ねると、レストは意気消沈した様子で言った。
「あれは……あれは宝玉じゃないです。」
「え?」
「宝玉です、宝玉なんですけど。僕達が探してた物では無いです。あれは……。」
眼鏡にはネイティの言う通り『黄金の宝玉』と表示されていた。
「あれはただの豪華な宝玉です。」
「……あー。まあ、仕方ないんじゃね。」
シェルフはレストの沈めた肩を掴んで言った。
「ありがとうございます!!ありがとうございます!!」
そんなレストの姿を尻目に、ショーンは礼の言葉をレストに浴びせかけた。
「本当に良かった!!これが無くなったらどうしようかと!!これは家宝なんです!!綺麗でしょうこの輝き!!数十年以上前から代々受け継いでいるのに失われないこの輝き!!」
ショーンはレストに金の玉を見せつけた。
確かに年季が入っているとは思えないほどに美しく金色に輝いている。
「あはは、ああ、はあ、まあ、そうですね。」
乾いた笑いがレストの口から溢れ出た。
「こんな大切な物を売りに出そうなぞ……全く!!」
「すみませぇん……。ですが仕方なかったんデスー。」
「何がだ。」
ショーンが再びイライラしながらトレイルに尋ねると、彼女は泣きながら答えた。
「魔法の込められたすっごい宝玉っていうのが、次のオークションに出品されるらしくて……。それがどうしても欲しかったんデスー!!これは只のピカピカ光る玉ですが!!そっちは本物、らしいんデスよ!!」
「只のピカピカ光る玉とはなんだ!!確かに魔法は込められてないかもしれないが、これはこれで大切な……」
言い換えそうとするショーンを尻目に、シェルフとカーネリア、そしてレストは目を見合わせた。
「ところでオークションってあれかね。この間行った。」
ショーンは怒りを一旦抑えて尋ねた。
「ええ。裏の。」
「裏?」
レストが口にすると、
「ここでそれを言うバカが居るかね!?」
ショーンが叫び、バツが悪そうにレストの方を見た。
「バカでなきゃ窃盗などしようとしません。」
レストが冷静に言う。トレイルは反論しようと口を開きかけたが、少し黙っていてくれというショーンの視線を感じて口を閉じた。
「……ですな。……白状します。私はコレクションを増やすために裏のオークションに参加することがあったのです。裏と申しますのは非合法という意味です。つまり、盗品でもなんでもOK、本物かどうかも分からない、全てが自己責任の秘密オークション。トレイルに誘われて参加することがありましてな。……どうか騎士団には御内密に。」
国の財務を担っている者が非合法のオークションに出ているというのは倫理的に良いのだろうか。三人は同時に思ったが、今はそれよりも気にするべきことがあった。
魔法の込められた、宝玉。それはまるで、あのアレイトス教が求めている宝玉の特徴と一緒のように思えた。
「それはどこで?」
「開かれる時々により変わりますので、私にも分かりませんな……。」
「私達はそのオークションに出るという宝玉を探しております。是非出たいのですが!!」
カーネリアが鬼気迫る勢いで詰め寄ると、
「えっと、北地区3-3、空き家になっているところで開かれるとか。」
そう言ってトレイルは魔札、魔法の込められた札をポケットから取り出した。
「これを。これが入場券などなどになります。もうワタシは行ってもなんも買えませんし、そもそもそこに行くより行くべきところがありますから。」
「ありがとうございます!!」
レストは感謝の言葉と共にその札を手に取った。
「開かれるのは明日だったはず。時間は19時からです。もし本当に行かれるのならお気をつけて。あそこはその、魑魅魍魎が跳梁跋扈する弱肉強食、権謀術数の場ですから。」
トレイルの言葉にレストは頷いた。
そしてシェルフはトレイルの肩を掴み、
「さ、行こか。」
と言って、部屋から連れ出し、レストやカーネリアと共に、騎士団の元へと向かっていった。
「最初にショーンさんの説明を聞いた時から、犯人がトレイルさんである可能性は高いと思いました。」
レストが自室についた後、説明を求めたシェルフに対して言った。
「部屋の配置からしてトレイルさんが壁を通ったりしない限りは難しいと思ったので。ですが方法に関しては魔法か?スキルか?検討が付きません。それで現場に行くことにしたのです。」
「それでド直球のスキルがあったから察せたってことかしら?」
「はい。念の為見た感じ、道具やトリックで隠せるようには、パッとは見えなかったので、残る方法は魔法かスキルのどちらか。痕跡から魔法は無いと考えて、じゃあスキルだな、と。」
「はーん。まぁ聞いてみれば簡単というか安直ねぇ。」
シェルフが椅子に深く腰掛けながら、口を開けて軽く言った。
「まぁ、そうですね。複雑ではない事件で良かったです。場合によってはもっと――そうですね、トリックとか、他の人とグル、いえ、一緒に組んで盗みを働くとか。そういう可能性もありましたが、今回はショーンさんにとっては運が良かったといえるでしょうね。トレイルさんも、罪が重くなる前に踏みとどまれたという点では運が良かったと言えると思います。」
そこまで言って、レストはカーネリアの方をチラと見て言った。
「宝玉の場所はカーネリアさんの目を見て分かりましたし。」
「目!?私の目に何か!?」
自覚が無かったのか、とレストは半ば呆れた。
「もう少し目の色変えるの止めた方がいいでしょうね。……さて、問題は。」
レストはそう言って、手元の札を、闇オークションとやらに参加するためのそれを、まじまじと見つめるのであった。
6話はここまでとなります。
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