6-7 応接室
ショーンに連れられて入った隣の部屋には三人の男女が居た。二人は何やら喧々諤々のやり取りをしていて、もう一人は我関せずといった様子でその喧騒から離れ、部屋の中をウロウロとしていた。
そんな三人であったが、ショーン達が部屋に入ってきたのを見ると、それぞれの動きを止めてそちらに目を向けた。
「旦那様。」
そう言って言い争いをしていた内の一人がショーンに駆け寄った。レストは恐らくこの人が執事のネイティなのだろうと理解した。
「ネイティ。どうした。言い争いなど。」
ショーンが暗に咎めると、ネイティは頭を下げてから言った。
「申し訳ありません。ですが、その。」
「ハン、アタシが怪しいってんでしょ?」
美脚を見せびらかすように足を組んで、先ほどまでネイティと言い争いをしていた女が不満げに言った。
「そうだ!!お前らが来てから無くなったんだ、お前らが犯人なのだろう!?いい加減白状したらどうだ!!」
「知らねっていってんじゃんおっさん。アタシはそもそも、この家には仕事で来ただけ。なーんで王城で働いてるアタシが、将来棒に振ってまでそんなことしなきゃなんないのよ。そこのコレクターの女ならともかく、さ。」
そう言ってその女はジロリと、先ほどまで部屋の中をウロウロしていた女を睨みつけた。
「ややややや、ワタシですか、ワタシ疑われてますか!?いやいやいや、そんなそんな。確かにワタシはコレクター、宝物には目がありません。ですがワタシにも良識というものがございます。古代の王家の墓とかならともかく、他人の部屋にズケズケと入り込んで他人の宝物を奪うなどコレクターの風上にも置けないというものです!!失礼極まりありません!!謝罪を要求致します!!」
女は叫ぶなりウーと犬のように喉を鳴らし、言い争いをしていた女を睨みつけた。
「ああその、トレイル氏、それにローゼン、執事が失礼を。それに、このような部屋に押し込めてしまった事も謝罪致します。申し訳ありません。」
ショーンが口を挟んだ。トレイルと呼ばれた落ち着きなく喋る女は口を閉じ、ローゼンと呼ばれた女は急に機嫌が良くなったように笑みを浮かべて立ち上がった。
「いえいえ大臣、お気になさらず。ところで如何です、お仕事の方は。」
「ああー……。すまん、待たせてしまって。もう少し掛かりそうで。何せこんなことが起きてしまったものだから。」
「いえいえいえ、仕方ありません。大臣に落ち度はございませんとも。ですが、出来れば早期に、お願い致します。以降の事務手続きが滞ってしまいますので。」
その言葉には若干の怒気が込められていた。
「オホォーッホッホッホ、勿論だとも。」
だがショーンは特に気付いていないようで、軽く答えるにとどまった。
その態度に不満なのか、ローゼンと呼ばれた女は、引き攣った笑みを浮かべていた。
「それで、旦那様。見つかったのでしょうか。」
ネイティが尋ねると、ショーンは首を横に振った。
「だが安心しろネイティ。タンテイさんを連れてきた。この人達がいればきっと見つかるはずだ。」
「そうですわ。見つかりますわ必ず。ご安心くださいませ。何せこの方は名探偵ですから。」
カーネリアが満面の笑みでハードルを上げた。
「探偵のレスト・ピースフルです。どうも初めまして。」
「レスト。聞いた名前ですな。」
言ってレストはハッとなった。貴族の執事であれば、自分の事を知っているかもしれない。誤魔化す事にした。
「同名の方はどこかにいらっしゃるでしょう。世界は広いですから。それよりも。宝玉についてですが、……うむ、そうですね。」
話題を流しながらレストは部屋にいた三人の顔をまじましと見つめ、そして眼鏡のフレームをぽちぽちと弄った。
眼鏡には次のような情報が映った。
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[ネイティ・バトラム]
- 50歳
- 男
- スキル:速度上昇 レアリティ:コモン
→自身の行動速度・反射神経を向上させる。
[ローゼン・ネイマール]
- 33歳
- 女
- スキル:速度上昇 レアリティ:コモン
→自身の行動速度・反射神経を向上させる。
[トレイル・クォーツ]
- 26歳
- 女
- スキル:物質透過 レアリティ:レア
→対象の物質に対し、「透過可能」ステータスを付与する。
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スキルのレアリティというのが、レストにはよく分からなかった。
ネイティとローゼンのスキルが同じである事が起因しているのだろうか。
肉体強化スキルや二人の速度上昇スキルは、他の人間も有しているのを見た/聞いた覚えがあった。
だがトレイルの、物質透過スキルは初めて耳にしたし、初めて目にした物であった。自分の物質変換同様に。
つまりこれは、人に付与されるスキルの貴重度を示しているのだろう、とレストは理解した。
今はその理解で十分だった。
何故なら重要なのはスキルの貴重度ではなく、スキルそのものの能力だったからである。
何かを得心したように頷いた後、レストはショーンに尋ねた。
「この部屋にこの御三方を入れたことは?」
「執事のネイティはともかく、二人は今回が初めてです。
「確かですか?」
その"二人"の方を向いて尋ねると、
「ええ。」
「間違いありません。」
トレイルとローゼンが肯定した。
「よろしい。誰が宝玉を紛失させたか分かりました。」
全員が一瞬絶句した後、同時に「えっ」という声を上げた。
「もうですの!?」
カーネリアが言った。
「どうやって!?」
シェルフが言った。
「誰ですか!?」
ショーンが言った。
「一斉にしゃべられても困ります。」
レストが耳を塞ぎながら言った。そのせいで残り三人の言葉は聞こえなかった。
「で、実際のところどうなのですか。本当に見つかったのですか?」
「ええ。勿論。僕は嘘をーーえー、まぁ、あんまり付きません。」
そう言ってレストは三人の顔を見て、そして、
「紛失させたのは貴方です。」
そう言って一人の顔に指をピンと伸ばして掌を上にして手を差し出した。




