6-2 来客
そして翌朝、レストは起きてからというもの、じっと考え込み始めた。
今後自分はどうするべきか。過去自分はどうするべきだったのか。
関係する事件を二つも解決してしまったのがマズかったのかもしれない。
しかし事件を解決してマズいことなどあろうかとも自問する。いや、自分は正しいことをしているはずだ。レストは自分に言い聞かせるように心の中で叫んだ。
迂遠な方法を取った結果、ドツボにはまっているというのは自覚していた。だがそれでも今更引き下がれない気がしていた。
仕方がない、彼は自分の中で妥協の言葉を上げた。
厳密には妥協ではない。失敗を受け入れるのだ。確かに、確かに色々と首を突っ込んだのは失敗だった。それは間違いない。
だがその結果、アレイトス教というパブリック・エネミー的な物の姿が明らかになった。
そしてそれが、自分の生活をドン底に落とした相手である事も。
であれば、もう開き直るしかない。
アレイトス教を潰す。
そのために出来る事は何でもする。
……求めていた平穏は何処へともなく消えていく事が予想される決断ではあるが、見てみぬ振りをして、はいよし終わり、では僕はこれで、等といって立ち去るのもまた敗北、妥協のように思えてならなかった。
無論、アレイトス教の、あのシアと呼ばれた暗殺者への恐怖が無いわけではない。
だが逆に怒りも満ち満ちているのも確かであった。
一晩置いて、幸い痛みはカーネリアの治癒魔法のお陰で無くなった。だが同時に、あの時の痛みに伴う恐怖も徐々に失せ、代わりに去来していたのが、自分を傷つけた相手に対する怒りであった。
僕が何か悪い事をしたか!?その答えは明らかである。していない。僕は道徳的には道徳的には正しい事をしているはずだ。だのに何故刺されねばならないのか、と。
「そうだ!!僕は悪くない!!悪いのはあいつらだ!!」
勢いよく立ち上がった瞬間、
「何ですの立ち上がったりして。」
ノックもなく扉を開けたカーネリアが口を挟んだ。
「……何でも無いです。お願いですからノックして下さい。」
「別にXXXXXXXXXしてたわけじゃあるまいし、別に構わないでしょうに。」
「だあああああっ!!」
レストはカーネリアの口を塞ぐべく手を翳して飛びかかった。
閑話休題。
「それで、何の御用ですか。」
カーネリアに二度とそういう事を言わないように念を押してから、レストは尋ねた。
「別に気にする必要ないでしょうに。私と貴方の仲ではありませんか。」
「ではもっと気にして下さい。」
「ちぇっ。ま、よろしいですわ。レヴィさんが御用があるそうですわ。」
「レヴィさんが?」
彼女の用事とは何だろうかと考える。と同時に、本人が来ない事を訝しむ。
「来客でもありました?」
「おお、流石探偵。」
尊敬とからかいの混ざりあった声色で彼女は言った。
「そういうのいいですから。来てるんですね?」
カーネリアは頷いた。
「ええ。来客の用事は、とある事件の調査依頼。それを貴方に依頼したいとの事で、呼びに来ました。」
「早速かぁ。」
レストは溜息をついた。本格的に探偵としてやっていこう、開き直ろうとは確かに思ったが、早速それを助長するかのように依頼が来るのはどうにも、複雑な心境であった。選んだ方向性が正しいと喜ぶべきか、それとも忙しくなる事を嘆くべきか。
「仕事を依頼される内が華ですわよ。」
カーネリアはそんな彼の心境を読み取ったかのように言った。
「まぁ、そうです、ね。」
手掛かりゼロに戻ってしまった以上、こうした事件を解き明かす事で、アレイトス教につながる事件を探していくのが、自分の性に合っていそうだと彼は自覚した。
「話、聞きますか。」
そう言って彼は、カーネリアに連れられて部屋を後にし、レヴィの居る騎士団長室へと向かった。
「ああいらっしゃいました。こちら探偵のピースフルさんです。」
騎士団長室に入るなら、レヴィがレストを手で指し示して言った。
その言葉の先をレストが目で追うと、部屋の中にはレヴィそしてシェルフ以外に見覚えのない人が一人。ふくよかな男性が居た。
「オホォーホォー、そうですか貴方が。私の悩みを解決して下さるという。」
「えー、その、多分、そうです。」
「オホォー、結構。」
最初のそれは何かの合図なのか呻き声なのか、レストは判断に極めて迷ったが、満足気にしているように聞こえた事から、納得や満足を示す声なのだろうと彼は理解する事にした。
「では、もう一度お話した方がよろしいですな?」
「ええ。お手数ですがお願いいたします。」
この流れをレストは以前、否、生前見たことがあった。読んだ事が、といった方が良いかもしれない。探偵小説で見た事があった。どこでもこの流れは変わらないものだと彼は若干の感動すら覚えていた。
「それでは改めまして……。私の家に起きた事件についてお話致します。」
ふくよかな男は咳払いをして、仰々しく話し始めた。




