5-5 祭壇
「回収、完了。」
レストの耳に、松明の輝く音と共に聞き覚えのある声が届いた。
先刻突撃してきた暗殺者……らしき者の声である事はすぐに理解出来た。
レスト達はこそりと部屋に踏み込み、そして声のする方を見た。
祭壇の上下に人の影が幾つも見えた。ひい、ふう、みいとレストが昔ながらの方法で数えると、それは五人の影である事が分かった。
何れもがローブに身を包んでいる。そしてそれは、何れか一色に染められていた。黒、青、緑、橙、そして祭壇の上に一人、灰色のローブを身に着けた者が居る。
一人は暗殺者だろうが、残りの四人は分からない。
レストが観察をしていると、祭壇の上の男が口を開いた。
「ご苦労。奪っていった者達はどうした。」
それが自分達の事であるのを察した。
「邪魔。一旦、退却。」
「ニャハハハハ。」
青いローブから笑い声が聞こえた。――若い女の、跳ねるような声であった。
黒いローブの女は、声色も変えずに冷静に問うた。
「何笑?」
「ニャハハハ。いやいや?あの暗殺者シア様ともあろうお方が御慈悲でも与えたのかと思うと面白くってねぇ。」
「考誤。面倒事、後回。重要、宝玉、本。」
そう言って黒いローブの女は、灰色のローブに対して懐から、レスト達から奪った宝玉と本を取り出して渡した。
灰色のローブから男の物らしき手が伸び、その二つを手に取り、そして宝玉の方を祭壇の上に置いた。
レストはその祭壇の上を更にまじまじと観察した。鑑定眼鏡には三つの宝玉が映っている。
一つは奪われた物、つい今目の前で受け渡しがされたもの。それは「共有の宝玉」と表示された。
一つは赤い宝玉、レストにはどこかで見た覚えがあった。――幼い頃、宝物庫で見たような気がした。とすれば、あれが求めているものだろうか。それは「吸収の宝玉」と表示された。
もう一つ、青い宝石があった。それは「天罰の宝玉」と表示されている。
相手が持っているのはこの三つだけだろうか。とすれば、青い宝玉はカーネリアの家の物かもしれない。
更に祭壇の上、宝玉が置いてある台の上に何かが吊るされていた。
レストは最近良く見るな、と思った。もう見るのも飽きてきたぞ、とも。
天使の輪っか、キーボード、大きな女性の手。
これだけ連日目にすると嫌でも覚えてしまう、彼は静かに嘆いた。嘆きの声はマントで掻き消された。
彼もシェルフも確信が持てた。これが、この場所が、アレイトス教のそれである事に。
無論今までの流れから言って、二人共どう考えてもそうだろうとは思っていたが、ここまで大々的にアピールされると逆に怪しく思えてこない事もない。だが、流石にそのような無駄な事はしないであろうから、多分アレイトス教の祭壇なのだろうとは思えた。
「ままま、いいではありませんか。必要な物を集めて来てくれたのですから。」
「うむ。ご苦労であった。」
緑のローブを着た男が冷静な声色で言うと、灰色のローブの男が威厳のある声で労いの言葉を述べた。
「大事無。所盗人殺?」
赤のローブの女が口を開いているが、何を言っているのか、レストには良く理解出来ない。
音が聞こえない訳ではなく、途切れ途切れで意味の通じる言葉になっていないのである。
だが、ローブを着た面々にはその言葉が、何を言っているのかが理解出来ているようで、会話は平然と進んでいく。
「うむ。邪魔者は消した方が良い。……だが今は止めておくべきだ。」
灰色のローブの男が言った。
「何故でしょうか。」
青色のローブの男が尋ねた。
「先日来、スレッドの暴走のせいで、首都の警戒が上がっている。下手に動けば我らに手が及ぶ可能性もある。」
「ニャハ、いやああいつはどうしようもないわねぇ。死んで尚アタシらに迷惑かけるとかさぁー。」
「言葉を慎み給え。いや、吾輩も同意ではあるが。」
灰、赤、橙のローブの順に口を開いた。橙のローブからは渋い老年の男の声がした。
「まあ。火事を二件も起こすわ、図書館の人間皆殺しにするわ。良い行動とは口が裂けても言えなかったのは事実ではあります。」
「ニャァ、血気盛んな奴は嫌だねぇ。ね?シアさぁん。」
「……黙、ブルーア。」
「ああん怖ぁい。レンジおじさま、見ましたぁ?今睨んで来ましたよアイツぅ。」
「今のはお前が悪い。」
緑、青、黒、青、そして橙の順に言葉が紡がれる。レストは何となくではあるが、このローブの連中の関係性が見えてきた。少なくとも分かったのは一つ、青と黒は仲が悪そうだという点である。
さて、ここからどうすべきだろうか、レストは思案する。
このまま踏み込んで全員捕まえるという事も案としてはある。だが現実的で無い事はすぐに理解出来た。拘束用の魔法を覚えていない。ローブをロープに変えれば拘束出来るかもしれないが、一人が限界だ。物質変換スキルは、一度に複数の物を変換出来る程にまで万能ではない。
「とりあえず試してみたら?」
シルエットが口を開き囁く。レストは頭を抱えてジェスチャーで伝える、「無茶を言わないで下さい」と。




