5-3 追跡
「で、具体的にはどうすんの。」
シェルフがレストの方を見て言った。
「手掛かりなくなったわけだけど。精神論でどーこーなる問題じゃなくね?」
「冷静ですね。まぁ仰る通りです。そう、精神論ではどうにもならない。」
そう言ってレストは懐から何かを取り出した。先程の解読機のように見えるが、形状が異なる。
「だからこういう物を用意しました。」
勝ち誇ったように言うレストであったが、残る二人は彼が言いたい事が理解出来ない様子で、「それが何(さ/だと言うのですの)」と冷ややかに告げた。
ふとカーネリアは彼が手に持っている物が光っているのがわかった。その光は徐々に中央から外側へと離れているように見える。
そして、その光の向かう先は、先程の侵入者が飛び出した窓の方向と一致していた。
「……まさかこの光?」
「察しが良いですね。多分考えている通りです。」
「何何。どーいう事よ。」
「この光、あの暗殺者っぽい人を追跡か何かしてらっしゃるのでは?」
カーネリアの言葉に、レストは頷いた。
「正確には、暗殺者の方ではなく、持っていった本の方ですが。」
レストは本を渡す時、手元の解読機を発信器に変えていた。小型の発信器複数を生成するようイメージした結果、ポケットの解読機は無数の小さな機械へと変わった。そしてそのいくつかを本につけ、手元の発信器一つを更に追跡機、つまりレーダーへと変換したのであった。
二人にその経緯を説明しても理解出来ないだろうと思ったレストは、細かい説明は省略した。二人もそれは暗黙の内に了承した。今重要なのは仕組みでは無い。この光を追えば、先程の暗殺者を追跡出来る、その理解だけが三人の間で暗に共有された。
「私は騎士団へ行って参ります。レストさんとシェルフさんは。」
「ええ。僕達は追跡します。これを使ってください。」
そう言ってレストはカーネリアにもう一つ生成した追跡機を渡した。
「それは僕達を追うためのものです。光の軌跡は僕達の居場所を示しています。」
「分かりました。レヴィさんであれば話が通じるでしょう。これで後から合流致します。」
「よろー。んじゃ、行くよ。」
そう言ってシェルフは、手元の折りたたみ式金属棒を展開し、レストを促した。
レストは肯くと、二人で夜闇の中へと駆け出した。
「無理はなさらないで下さいね!!」
その声を聞いてレストは手を振った。
カーネリアはそれを認めると、騎士団の方へと向かって走り出した。夜ではあるが、騎士団長を聞いてくれることを祈るしかない。そして、彼らが追跡だけで留まってくれることも。
*******
夜の都市部は静かで暗い。レストの元いた世界はもっと明るかったが、それは電気というものが一般的にエネルギーとして利用されているからであり、この世界においては攻撃手段としては使われているが、エネルギー、明かりとしては普及していないため、月灯だけが道を照らす光源であった。
だがそんな暗闇に一条の、月灯とは別の光が点っていた。
それは上下に揺れながら、闇の中をせっせと駆けていく。もし事情を知らない者が見れば、何事か幽霊かその類かと不可思議に思うことであろう。
それはレストの持っていた追跡機の光である。
光はどんどん中央、即ち、レスト達の元から離れていく。
「ひぃ、ひぃ。早すぎる。」
追跡機の光を見ながら駆けるレスト。その息は荒い。
元々彼は体力に自信はない。貴族として不自由はしない生活をしていたせいで、運動はそれほどしていなかった。加えて暗殺者の離れていくスピードは相当なもので、移動速度向上の魔法を使えればよかったと心底思うほどであった。
「ぜぇ、ぜぇ。確かにその、辛いわ。」
シェルフは腕こそ立つが、体力にはレスト同様自信が無かった。基本的には護身程度の能力しか有していなかったためである。
とはいえ、この世界で言う護身とは即ち、敵対者、最低でも熊以上の腕力と体力を有する魔物を撃退出来る程度の実力を有することを意味する。そのため、単純な戦闘能力だけでいえば十分ではある。不足しているのは継戦能力である。
だがそう嘆いても始まらないということを、二人は理解していた。だからこそ彼らは静かに、出来る限り荒い息が音として変わらないように努めながら、光の軌跡を追っていた。
やがて光の軌跡が止まり、動かなくなった。
レストはふと周りを見ると、そこは首都スラスの街外れ、近隣に聳えるアッティカ山の麓であった。アッティカ山は禿山、麓は荒地が広がっている。
「ストップ。」
レストはそこでシェルフを静止した。これ以上進み、荒地に突入すると、身を隠すことが出来なくなる。
レストが言いたいことを理解して、シェルフは止まった。
「どーする?」
「身を隠さないと危険です。光が止まったということは、もしかすると敵のアジトとかに着いたということもあり得ます。そんなところに突っ込んだら。」
「まねー。でも身を隠すったって、目の前にゃ広場だけよ?」
「ええ。……何か、ないか。」
そう言ってレストは辺りを見回した。木、土、赤土。めぼしいものがない。
「シェルフさん、姿を消したり音を立てない様にする魔法とか使えません?」
シェルフは首を振った。
「覚えてない。」
魔法とは技術である。詠唱して簡単に使えるというものではなく、詠唱の文言を記憶した上で、正しく魔力を込める必要がある。そのためにはある程度の訓練が、魔法の体系ーー攻撃魔法、補助魔法などの大別に加え、炎、水などの属性も関わるーーごとに必要となる。
シェルフはそういった作業は面倒だと判断し、護身に必要な最低限の技術だけを身につけている。
レストも姿を消す、音を立てないといったステレス系の魔法は学んでいなかった。
「むぐぐぐぐ……。」
ここでレヴィの到着を待つべきか、それとも他の手を考えるべきか。
時間はあまりないが、それでもレストは頭を抱えてしばし考えこんだ。




