5-2 咄嗟
カン。
金属同士がぶつかる乾いた音が響き、レストの思考は再開された。
「何。」
女性は静かに呟いた。そこには僅かに疑問と、行動を疎外されたことに対する怒りが込められていた。
女性の視線がナイフの元へと進む。そこには何かの棒があった。先端が金属で加工されている、修行僧の職業に就いた者が用いる物であった。
「離しな。」
その声はシェルフのものであった。
シェルフは手首を自在に動かし、長棒に勢いを与えると、女性の手元を狙う。女性はそれを避けようとしたが、彼女の反射神経ですら捉えられない程の速度で長棒はしたたかに彼女の手をはたき落とした。
「苦。」
ナイフがカタンと音を立てて床に落ちる。
ブゥン、音を立てて棒が唸る。
更に勢いをつけてシェルフが回転すると、棒の勢いも増す。そのまま一回転し、棒が女性の腕へと命中する。
女性は舌打ちをすると窓へと引いた。女性の目から見ても、眼前の棒使い――シェルフは手練であった。階下の油断しきった男共と格が違う。このまま争って殺しきった方がいいかもしれないが、残る二人の出方にも依る。それに、自分の手元には必要な物が揃っている。こいつらを放っておいたところで大した問題にはならないだろう。
「……十分、目的達成。」
そう言うと彼女は窓から外へと文字通り飛び出していった。シェルフはそれを追うように窓を覗き込んだが、既に黒いローブは闇夜に紛れて消え去っていた。
「鍵かけて!!」
シェルフの叫びに応えるように、レストはスキルを発動させ、窓の枠を鉄の幕へと変え、部屋を密室化した。更に窓際に紙を置き、以前の図書館のように壁へと変化させた。
これで、少しは安全だろう、三人は同時に息を吐いた。
「ふぅ……。いざという時のために持ってきてよかったー。」
シェルフは手元の棒をぽんぽんと弄ぶように投げ回した後、畳んだ。スライド式で展開する長棒のようであった。
「し、シェルフさん?それは一体?」
「こりゃあれよ。こないだの襲撃の件もあったし、護身のために。」
「そういう問題では無くですね、貴方、そんな事出来ましたの!?」
「言ってなかった?アタシはモンクだから。棒術体術なんでもオールオッケー。魔法は怖いから勘弁だけど。」
モンクってそういうものでしたっけ、とレストは思ったが、声には出さない事にした。怒らせると怖いのは理解出来た。
「そ、そうだ。それよりも。」
カーネリアは何か思い出したように部屋を飛び出した。
「ちょっ、あぶねーって。」
「待って下さい!!」
シェルフとレストがそれに続いた。
殺されていたのは玄関を見張っていた用心棒であった。レスト達が居た部屋のちょうど真下で殺されていた。
「ご冥福を。どうか安らかに。」
シェルフが祈りを捧げた。
「……とはいえ幸いと言うべきでしょうか。商会の全員が殺されでもしていたら私、正気では居れませんでしたわ。」
レストにはカーネリアの目の半分が金の色に染まっているように見えたが、半分は本心なのだろうと無視する事にした。
遺体を中に入れて弔いながら、再び商会の扉に壁を作り、今夜は誰も出入り出来ないようにしてから、レストは言った。
「あれは……やはりアレイトス教の者なのでしょうか。」
「ローブも同じように見えたし、多分ね。……ったく、人の命をなんだと思ってるのかしらアイツら。」
シェルフが怒りを滲ませながら言った。
「どうせ滅びるのだからと、その程度にしか思っていないのですわ、きっと。」
「腹立たしいですね。」
「でもどーすんの。宝玉も本も盗られちゃって。」
「……騎士団、レヴィさんには話しておきましょう。ですがそれだけでは不十分ですね。」
レストの顔にも怒りが滲んでいた。命を弄び、そして何より、今は自分の求めていた平穏を奪った敵に。
「必ず捕らえましょう。」
切り出したのはカーネリアであった。
「私の家に襲撃を掛けるなど、どうして許せるでしょうか。絶対に捕まえて晒し首にして差し上げますわ。」
「晒し首はどうかと思うけど、アタシもまぁ絶対許さない。」
三人の心は再び固まった。




