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4-10 急

 そして、ゼーニッヒ商会本部、レストの部屋。


「ああ。疲れた。」


 戻ってくるなりレストはボヤいた。スオードの家もデューレスの家も、この本部からは少し離れていた。更に周辺の聞き込みもしたせいで、レストの足は張り詰めていた。


 何より緊張が解けたのが大きい。仕事が終わって、漸く一息つけるというところになった。


「私の方が歩いているのですから、文句言うのは私達の方ですわ。」


 カーネリアが不平不満の声を上げた。レストは確かにと思った。彼女らはギルドまでも歩いている。


「お疲れ様です。ありがとうございました。」


 そう言われて気分は悪くない。カーネリアはふふんと機嫌良さそうに鼻を文字通り鳴らした。


「ところでさ、今朝のあれは?」


 シェルフの問いに、きょとんとした顔でレストは答えた。


「あれ?」


「解読したあれよ。アンタ解読機だっけ?作って読んでたじゃない。」


「そうでした!!カウンター返してくださいまし!!」


「あぁそうだったそうでした。カウンターについてはまた後でなんとかしますから、ちょっと待って下さい、ね、と。」


 レストは軽くあしらいながら、二冊の本を開いた。カーネリアは再び不満の声をあげたが、今は仕方ないとやがて諦めた。


 そこに書かれていた古代の文字は、それぞれ次のような文面であると、解読機は囁いていた。



 『時間の宝玉は時を司り 空間の宝玉は空間を制する


  増殖の宝玉は物質を生成し 吸収の宝玉は魂を喰らう


  物理の宝玉は理を乱し 魔法の宝玉は理を弄ぶ


  精神の宝玉は心を狂わせ 共有の宝玉は力を共にする


  天罰の宝玉が下す罰は 知恵の宝玉が否定する』



 『滅びの神は世が荒れる時に現れる


  決して宝玉を集めるなかれ


  それは神の力


  世を荒らす力


  それが揃いし時 世界は滅びるであろう』



「……十個の力、十個の宝玉。辻褄は合いますね。」


 レストは一冊目の方を見て言った。


「私の家のは天罰の宝玉でしょうか。聞き伝えられる能力的にそんな感じな気が致しますわ。」


「うちのはなんでしょう。全然その辺の情報がないのでなんとも言えません。」


 二人の会話に割り込むようにシェルフは口を挟んだ。


「ねぇ、それより気にすべきなのは二冊目の方じゃね?」


「……あまり考えたくないのでスルーしていたのでございますが。」


「現実見なよ。」


「うるさいですわ。それよりも、これは本当なのでしょうか?」


 カーネリアは怪訝な顔をして言った。


「世界が滅ぶとは随分と御大層な事を仰います事。」


「少なくとも、翻訳の結果は正しそうです。一冊目の方ですが、鑑定眼鏡にも出力された、魔法の宝玉という言葉が含まれていますし、カーネリアさんの家の宝玉の能力も書かれているように思います。」


「とすると、何、十個集めるとマジで世界が滅びんの?あの教団が宝玉を集めてるのもそのため?」


「可能性は、あります。」


 レストが重く言葉を口にすると、沈黙が場を制した。


「どーすんの。」


 沈黙を切り裂いたのはシェルフであった。


 シェルフの問いにレストは無言で頭を抱えた。


 彼女が言いたい事はわかっている。この件をそのまま自分達でどうにかするのか、仮にそうするとして、どうにか出来るのか、という事である。


「ううん……。」


 再び沈黙が訪れようとしていたその時、バタ、とどこかで音がした。


「ん?」


 カーネリアがドアの方を見た。


 ドアは開いていない。階段を昇る音もしない。


 外からだろうかと考えて窓を見ると、


「ぎゃっ!?」


 思わず荒い声が出た。


 考え込んでいたレストも、それを見つめていたシェルフも、その声に込められた恐怖と驚愕の色に釣られるように目線がカーネリアの方へ行き、そして彼女の視線を追った。


 その先には、黒いローブを身に纏った女が立っていた。


 レストは見覚えがなかった。シェルフもカーネリアも口にはしなかったが同様であったし、彼にもそれは理解出来た。そして同時に彼は思った。嫌な予感がする、と。


本、返(ほん、かえせ)。」


 女は口を開いた。


宝玉、寄越(ほうぎょく、よこせ)。」


 続け様に言った。


「ほ、ほうぎょく?ほん?」


 レストは混乱のまま言われた言葉を口にした。混乱しているのはこの女性がこの場にいる事がとても信じられないためである。


 何故信じられないか。この部屋の位置取りに起因する。


 ここは五階。地上数メートルの空中だからだ。


「ど、そ、その前に、どこから?あなたはいったい?」


 思わず問いかけるレストであったが、その声は女性には届いていない、否、届いていたとしても彼女は無視して続けた。


(かえせ)寄越(よこせ)不然(さもなくば)、」


 そして彼女はローブから血のついたナイフを取り出して言った。


(ころす)。」

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