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4-9 陥落

 どうする。


 突きつけられたデューレスは絶句し、動き続ける眼球で視界を移動させながら、次にすべき事を考えた。


 何も出来ない。


 やがてその結論へと至った。詰んだのだ、という事がおおよそ彼には理解出来た。


 デューレスの考えはレストの読みと一致していた。


 四日という時間の中で、デューレスはマントとナイフを買い、そしてスオードの家の周辺で彼の家を観察し、どのように行動すべきかを検討した。同時に、四日という時間の中で、彼は殺意を高め続けた。


 切欠もレストの考えと同様であった。スオードが荷物を漁り、デューレスの持っていた紋章を奪った事。それが殺意の芽生えの始まりであった。


 デューレスは世界のすべてに怯えていた。明日、魔物が来たらどうしよう。今、盗賊が家に押し寄せたらどうしよう。そういった万一の出来事すべてに怯えた彼は、世界の破滅を望み、アレイトス教を信奉していた。


 いつか、この世界が終焉を迎える事を願って。


 だから、スオードが、アレイトス教の、自分の心の支えを奪い、挙げ句恐喝してきた事は、彼には我慢のならぬ事であった。


 更に彼は、手紙でこう宣った。デューレスは一言一句覚えている。


「この紋章はあの邪教、アレイトス教の物ですね。これが知られれば、貴方は騎士団に拘束され、尋問を受けるでしょう。明かされたくないのでしたら、貴方の誠意を見せていただきたい。お返事お待ちしております。」


 誠意が何を示すか、それはデューレスにも理解出来た。だが許せないのは、アレイトス教を邪教と言った事だ。


 確かに邪教と呼ばれている。だがそれを大っぴらに指摘される事が、デューレスには我慢がならなかった。そして何よりも、紋章を奪った相手が脅してくる。その図々しさ、たちの悪さが気に入らない。


 デューレスは彼なりの()()を、率直な気持ちを見せることにした。


 その結果が、彼の死であった。



 デューレスの眼前の男は、果たしてどこまでそれを理解しているのであろうか。デュ―レスは考え込み、そして意を決して口を開いた。


「あー、えー、その、それはなんです?それは、その、私が知らな」「嘘ですね。」


 レストが口を挟んだ。


「その血は確かにスオードさんのもの。貴方の指紋もついているので、貴方の持ち物である事は間違いありません。」


 レストの言葉に、再びデューレスは言葉を失った。


 しもん?血がスオードのもの?何故そんなことが分かるのか。だがそれは正しい。正しかった。


「念の為、処分すら恐れて、といった所ですか。持ち帰ってきた理由。」


 正解であった。彼は何もかもを不安視していた。自分の行動、他者の行動。信用しているのはアレイトス教のみ。そしてその次に信用出来るのが、辛うじて自分であった。


 自分が管理していれば、何かあっても確認出来る。ちゃんと箱に入っている事を。そのために箱に入れて置いておいた。ほとぼりが冷めた頃に処分しようと思っていた。


 結局のところそんな自分の判断を信用した自分の愚かさだけが、デューレスの心に残る事となった。


「う、う。」


 言い逃れは出来ないと分かり、どうする事も出来なくなったデューレスは、やがて、


「あ、あ。」


 膝から崩れ落ち、五体投地した。


 涙も無い。


 殺した事に対する後悔もない。


 崩れ落ちたのは只管、自分に対する嫌悪と、自分の未来に対する嫌悪故にであった。




「ご協力ありがとうございました!!」


 その日の夕方、騎士団の間にて、レヴィがまた頭を下げていた。


「いえ、大した事は。」


 レストが畏まる。だが顔には若干の余裕が浮かび、口角も少しばかり上がっていた。


 あの後、彼らはデューレスを連れて騎士団の元を訪れ、事情を説明していた。


「まぁ肝心な調査は(わたくし)達がやりましたから。私達のお陰と言っても過言ではございますまい。」


「そーそー。カーネリアなんてショーコの確保?ってやつ?までやってたし。」


「お二人もありがとうございます!!」


 レヴィは素直で真面目な性格であった。心の底からのお礼に、二人は戸惑いながらも、悪い気はしなかった。


「これだけの証拠があり、自供までしているのです。言い逃れはさせません。……信じている物が否定されるというのは悲しいものです。気持ちが分からないとは申しません。ですが邪教を信じ、そして、あまつさえ人を殺す。そのような事を許すわけにも参りません。正しい罰を与えます。」


 彼女は真っ直ぐ前を見据えて言った。


「御三方、ありがとうございました。先にお話した通り今回は報酬と呼べるものはございませんが、また何かあればその時は、正式に仕事として依頼致します。」


 レストは心の中でガッツポーズをした。だが現実にしても誰も理解してもらえないだろうからして、心の中で止める事にした。


「はい。例の宝玉の件もお願いします。」


「勿論です。それでは失礼いたします。」


 彼女は再び深々と頭を下げて、そして自分の部屋へと戻っていった。三人はその姿を見てから、一度話し合おうという事になり、カーネリアの商会へと戻る事にしたのであった。

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