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4-2 依頼

 レヴィに連れられてやってきたのは、とある一軒家だった。布のかかった人と同じくらいのサイズの何かと、黒い床が印象的だった。


「先日、深夜と思われますが、ここで殺人事件が起きました。」


「殺人……。」


 レストはその言葉でなぜ呼ばれたのかを大体察してしまった。だが今は大人しくしておこうと、それ以上言葉を紡ぐ事は無かった。


「ええ。短刀で喉元をグサリと。」


「うげ。」


 思わず想像してしまい、レストは少しばかり気分を悪くした。やはり死体の結末などというものはあまり触れたくないし考えたくもない。その時の痛みも思うと言葉を失う。


「そのせいで血が吹き出し、見ての通り床にもべっとりと付いています。」


 それを聞いて、レストは家に入ってから妙に鼻につく鉄臭い匂いの源が理解出来た。血だ。未だ残されている遺体の近くにある黒い染みだ。木造の床に赤い液体がこびりついて黒くなっているのだという事は理解出来た。


 つまり、布のかかった何かとは。


「ただ、犯人の痕跡が見つかりません。足跡、血の跡、何れも見つからないのです。」


「それで、犯人を探して欲しい、と?」


 レヴィは首を縦に振った。


「誰がやったのか。恨みによる犯行なのか、殺人を好む人間の犯行なのか、それすらわからない状況なのです。仮に後者とすれば、このままではこの首都に殺人鬼がのさばる事を許すという事になってしまいます。」


 レヴィは強い目で言った。


「それだけは避けたいのです。……とはいえ、警備に騎士団の人間を割くにも限度があります。出来る限り早期にこの事件を解決させ、人々の生活に平穏を再び齎したいのです。ただでさえ最近は、昨日のエルモット家の火事もですが、不審火による事件が相次いでいます。貴族の家すら的になる始末です。」


 レストは自分の家――ウィーラー家の話であると理解していたが、他方レヴィは、レストがその当事者の一人である事には気付いていないようであった。レストの名前は有名ではない。あくまで「ウィーラー家の一人息子」という立場だけが知られているだけで、それがどのような人間で、なんという名前かは誰も気にしていなかった。


「そちらにも人を割かねばならず、とかく人手が足りないのです。そこで、レストさんの話をお聞きし、事件の捜査をお願い出来ないかと思いまして。」


「なる、ほど。」


 レストは少し考えた後、


「分かりました。僕に出来る事でしたら、お引き受け致します。」


 それを引き受けた。


 騎士団に繋がりを持てるのは大きい。自分の家の事件についても騎士団が動いているのであれば尚の事である。


 全て任せるつもりは無いし、あの事件については自分にも事情聴取をしないくらい雑な捜査しかされていないので、大したものは得られないだろうが、何かしらの情報が得られるかもしれない。


 それに、こんな凄惨な殺人が行われたのを知って、自分が狙われる可能性もあるのではないかという恐怖が若干なりとも去来していた。何もせず放っておくわけにもいかない、彼の中の平穏を求める心と、若干の正義感が、そう叫んでいた。


「ありがとうございます!!」


 レヴィは満面の笑みで感謝の念を伝えた。



「カーネリアさん、シェルフさんも、よろしくお願いします!!」



 そして、レストの後ろに居た二人にも声を掛けた。


「はーい。よろー。」


「報酬はおいくら程頂けますか?今なら安く――いえ、なんでもないですわ。」


 レストの冷たい視線を感じ、カーネリアは渋々、親指と人差し指を繋げて丸を描いた手を下げた。


「申し訳ありません、今回はお金に関してはお支払い出来ませんが、ゼーニッヒ商会様に仕事の方を依頼させて頂きますので、それでお許しください。」


「仕事につながるのであればヨシと致しましょう。さあレストさん、謎を解いて実績を積むのです!!」


 カーネリアがレストの肩に手を置き、がんばれとばかりに叫んだ。


「なんでお二人まで来たんです。」


 レストは冷静に言った。


「だって面白そーだし。……おっと、このような事は、眠れる人の前で言うべきではありませんでしたね。まずは安らかな眠りをお祈り致します。」


 シェルフは声色を切り替えると跪き永遠の眠りについた者に対し祈りを捧げた。


「本当切り替えが早いですこと。(わたくし)は探偵というものがどのような事をするのか?興味が湧きまして、見学させて頂きたいのですわ。」


「見せ物ではないんですけれどねぇ。それに、探偵っぽい事をしているだけで、探偵というわけでも……。」


「でも嫌ではないでしょう?顔にそう書いてありますわよ。」


 レストは否定も肯定もせず、ただため息を吐いて、死体へと向かう事にした。


 自分でも何をやっているのかと思わなくもない。元々の目的からずいぶんと逸れているような気はしていた。だが、これはこれで、つまり探偵として事件を解き明かすという職に就き、そして自分の身に起きた例の事件も解き明かす、というのは、考慮に値する事ではあるような気がしていた。


 だがそれを考えるのは、眼前に謎を解き明かす事が出来てからだろう。


 レストは表には出さないものの気合いを入れ、死体にかけられた布を取り払った。

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