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クオリア~十人十色の異聞奇譚~  作者: 色川玉彩
1 The normal chapter ~The abnormity all the time~
73/90

殺人鬼からの老婆心

恋は盲目。

煙モクモク。

焼肉食べたい。

「やっぱりこの何処かに、黄泉路さんを狙う殺人犯がいるってことですか? あの公園で殺されていたのは、その真犯人が殺していた? で、それをあなたが発見した? 待てよ、それともあなたが殺したのか? ということは、真犯人は複数人? んん?」


 わけがわからなくなってきた。

 こういう時、頭の回転が速いながらや大山先輩との差を感じてしまう。


「あの子を狙う人間がいるかもしれないし、いないかもしれないね」

「どんな奴なんです? なんで黄泉路さんを?」


 はぐらかされるのは飽きた。僕は話を前提に進めていく。


「そうだね。意外と普通さ。ぱっと見では人殺しなんてこれっぽっちも思えない。彼女を狙う理由は、特にないんじゃないかな」

「はい? 理由がないのに、どうして」

「犯罪というものは、必ずしも必要があるから犯すわけじゃない」

「じゃ、じゃあどうやって殺すんです? 銃とか?」

「気付かれず、こっそりと。音もなく殺す。おそらくやられる本人も気づかないだろうね。相手もプロだ」


 そう言われて周囲を見渡すと、その誰もが怪しく思えてくる。女子高生2人組を装った暗殺者? いやいや、さっきの家族連れかも。待てよ、あの服屋さんがもしかして?!


「落ち着きなよ。疑心暗鬼は相手の思う壺さ」

「あなたにはわかるんですか? 暗殺者の居場所が」

「私もそちらの人間だったことがあるからね。おおよそ手口はわかる」

「コツとかって教えてもらえませんか? いざというとき僕も黄泉路さんを守れるように」


 勇気を出して言ってみると、その女はきょとんとした目で僕を見た。


「君が、守る? 何も持たない普通の君が? 君は、すごく面白いな」

「で、でも、黄泉路さんを逃がす時間ぐらいは稼げるかも」

「身を挺して守るのかい? 断言してもいいよ、君はいざとなったら動けないし、自分の身を優先するよ。漫画のようにはいかない」

「それは……」

「君はひどく普通だね。普通が故に、特別に憧れる。どこかの誰かも言っていたね。憧れは理解から最も遠いと。私もそう思うよ」

「そこまで言いますか」

「人は身の程をわきまえた方が良い。イカロスのように翼を焼かれたくなければね」


 イカロス――確か、神話で蝋で翼を作って太陽に近づいたという話だったはず。結局蝋で出来た翼が溶かされて地面に叩きつけられ死んでしまう。それは傲慢は身を滅ぼすという教訓だ。


「分相応という言葉がある。それに普通であることは何よりの幸せさ。だから君が、あんな美人な女の子とデートしていること自体アンバランスだよ。釣り合ってない」


 彼女の視線は、黄泉路さんの方へと向けらた。


「う……これでも勇気出してデートに誘ったんですよ」

「君だけの力で? よくできたね」

「そ、そりゃあ、先輩のアドバイスなんかもありましたけど」

「なんだ、他の人に決めてもらったのか?」

「決めてもらったって、そういう言い方……すごい先輩なんです。僕なんかじゃ到底敵わないような。あの人の言うことなら傾聴に値します」

「また憧れか。君は自分を持っていないのか?」


 なんだこれは。圧迫面接のようじゃないか。

 僕何か悪いことしたか。


「憧れは盲目だよ。恋みたいなものだ」

「恋?」

「そう。どちらもきちんとその存在を捉えられていない。君は、あの美人の彼女をきちんと見れているか? 見て見ぬフリをしているところがあるんじゃないか?」

「それは――」

「言わなくていい。君の問題さ。でも後悔してから、そんなこと知らなったと喚くのはあまりにもみっともないよ。すべては自己責任だ。よくよく考えて、その目で見て自分の意思で判断することをおすすめする」


 そうしないと、時に取り返しのつかないことも起こる。そう付け足して、女は最後のコーンを口に放り込んだ。


「少し老婆心が過ぎたようだ。これ以上は黙っておくよ。久しぶりにアイスクリームが食べられて饒舌になってしまった」


 僕の暗い顔を見て言いすぎたと思ったのだろう。女はすくりと立ち上がり、アイスのコーンを包んでいた紙をくしゃりと手の中に丸め込んだ。


「さて、私は行くよ」

「行くって、黄泉路さんを守るんじゃないんですか?」

「今日はおそらくもう大丈夫だろう。帰って古本屋さんに行かなければ。今日はセールでまとめ買いが安くなっていたはずだからね」

「ま、漫画って……本当に大丈夫なんですか?」


 そう言って僕の横を通り過ぎた彼女を振り返ると、しかし。


「え」


 そこに、女の姿はもうなかった。

 まるで幽霊のように。


「……もしかして、イマジナリーフレンド、みたいな?」


 遅れてサブイボが立った。

 だとすれば。

 あれが僕の幻で。

 僕が見たいものを見せているんだとすれば。


「……はぁ」


 疲れた。僕は大きなため息を吐いた。


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