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クオリア~十人十色の異聞奇譚~  作者: 色川玉彩
1 The normal chapter ~The abnormity all the time~
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心を持ってしまった故に

娯楽がないと出生率が上がるらしい。

つまり娯楽がない方が陽キャが育つと。

「心ですか……まぁ、概念としては理解できますけど」

「あるよ、心は。ジン、女の子と会話するなら、その即物的なものの喋り方は止した方が良いな。ロマンに欠ける」

「はぁ」


 それは確かにありがたい助言であったが、しかし違和感だ。

 先輩は、いや、先輩こそそういう抽象的で概念的なものを嫌うと思っていたのだが。医者志望として、心とはなんぞや、としっかりと現実的に説明したがるものかと思っていた。先輩は意外と、ロマンチストなのかもしれない。


「人間は他の生物と違い、心を、それに理性を持った。そうなってしまった人間は、次第に子孫繁栄以外のものを求めるようになった。何かわかるか?」

「他の何か、ですか……」


 僕が答えに悩んでいると、


「幸せだよ」


 先輩は僕の返答を待たずにそう言った。

 幸せ――これまた抽象的な概念である。


「全ての人間は、自らの幸せを求めるようになった。嫌な言い方をすればエゴイストになったんだよ、人間は。だから人間は種としての繁栄ではなく、個としての幸せを求めるようになった」

「幸せですか。まぁ確かに、否定は出来ないですよね」

「だろ? 誰だって結局のところ、自分の幸せを求めてる。それに嘘ついて、他人のためだ、無償だなんだって表面作るから、偽善だと言われる。下心だと笑われる」

「……」


 それは以前、あの金髪の女から言われたこと、そのままだった。僕は結局、黄泉路さんのためではなく、自分のために行動していたに過ぎない。そしてやはりそれを僕は、否定できない。


「誰だって、自分のために生きたい」


 先輩は確認するように、もう一度そう言った。


「それは当然だろ?」

「当然ですね」

「うん。だから幸せを求めるようになった人間にとって、その子孫繁栄の本能以上に、心が惹かれるものがたくさん出てきてしまうんだ。あれをしたいこれをしたいってな。ジンだってやりたい事の一つや二つあるだろ?」

「そうですね……なんでもいいなら、地球一周旅行に行ってみたいですし、プロサッカー選手にもなってみたかったですね」

「じゃあジン、その地球一周旅行に行くのと、黄泉路蜜と恋愛関係を育むのと、どっちがお前はしたい? どっちかしか選べないとしたら」

「それは……」


 僕は一瞬考えるように黙り、しかしすぐにあまり考えずに、


「恋愛関係、ですかね。今は」


 と答えた。


「つまりジン。そう言うことなんだよ」

「はぁ」


 要領を得ない先輩の話に、僕は困惑気味に言葉を洩らす。


「要は優先順位の問題だ。あれもこれもいくつもやりたいことがある。でも人間体は一つだし、時間も体力も有限だ。だから人間には出来ることが限られてくる。だったらジン、優先順位の高い、やりたいことからやってくだろ? 普通」


 それはもちろんそうだ。


「だから俺にとって、恋愛って言うのは、それは確かに興味のあるやりたい事ではあるが、でも優先順位が低いんだ。他にもっとやるべき事が、やりたい事がある。俺は医者になって世界中の人たちを救いたい。だからそっちに時間と体力を回してれば、恋愛にかける余力なんてミジンコほどにも残ってやいない。ジンだって、本気で地球一周旅行に行きたいと思えば、せっせとバイトをしてお金を稼いだり、向こうで簡単に会話できるくらいの語学を学んだりしなきゃならないだろ? そこに黄泉路蜜と恋愛するだけの余裕があればいいが、現状、そうやって恋愛に裂く時間が無い人間が多いんだ。それが俺が恋愛をしない理由であり、この日本において少子化が進んでる主な理由だよ。ただ間違いなく、興味が無いなんてことは、ありえない」


 優先順位の問題、か。人生において、恋愛を最上と考える人間が多いが、確かに世の中を見てみれば、それを最上としている人は恋愛しかやりたいことが無い人が多い気もする。


 夢を持っている人間は、たいてい恋愛を後回しにしがちなのかもしれない。

 僕もそうだ。特に目指す進路があるわけでなく、黄泉路さんとの恋愛以上にやりたいことが無い。地球一周も、サッカー選手も、所詮戯言。たいして思っても無い事を言っただけだ。優先順位なんて下の下、である。順位的には寝る方が高い。


 僕は先輩の言ったこと全てを理解したわけではないが、ただ自分なりに解釈して納得できたので、そこで、「なるほど」、とうなった。


「冷たい、それこそ即物的な言い方をすれば、恋愛なんて結婚するためのものなんだから、結婚を考える歳に結婚したい相手とさえすれば、それでいいんだよ。要は後回しにしても何も問題は無い。……あっ、別にジンの恋愛を無駄だって言ってるわけじゃないぞ」

「わかってますよ」


 慌てて否定する先輩を見て、僕は少し笑って答えた。


「人間誰だって幸せを求めてるんだから、今やりたいことを、今やらないと生きてる意味ないだろ」

「生きてる意味が無い、ですか。厳しいですね」

「まぁな。でもじゃあジン。お前は生物として子を成す事が定めなんだから、やりたいことをやらずに結婚して子供だけ生めって言われて、納得できるか?」

「……まぁ、無理ですね。自分の人生を、決められるなんて、いい迷惑ですよ」

「だろ?」


 先輩は肩を竦めてくすりと笑う。


「ジン。知っているか? ある宗教では、幸せの絶対量ってのは決まってるとされてるんだよ」


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