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クオリア~十人十色の異聞奇譚~  作者: 色川玉彩
1 The normal chapter ~The abnormity all the time~
60/90

いつもの朝

親のお小言って、大人になってからとても大事だとわかる。

 次の日、どのニュース番組もトップを飾るのは、例の連続殺人事件の四件目の被害者のニュースだった。昼間のワイドショーなんかでは、特集を組み始めるほどの注目であった。

 それでは犯人は精神異常の猟奇殺人者だとか、その逆に実は至極全うな精神を持った知能犯だとか、いろいろと心理学や犯罪学の観点から犯人について語っていた。


 しかし誰一人として、金髪の外国人の女のことについては語らなかった。


 それはそうか。そんな犯人像を想像できるやつがいれば、むしろ驚きである。

 そして幸いにも、黄泉路さんの名前や彼女が少なからず関連していることに言及する話は一切聞けなかった。それはそれで良かった。


 ただ、一、二件目と、三、四件目の犯人は、別じゃないかという話をワイドショーのコメンテイターがしていて、それに僕は耳を奪われた。

 一、二件目の被害者は、共に同じ学校の生徒であり、共通点がいくつかある。それは黄泉路さんと関わっていたというのもそうだ。しかし、後の、三、四件目の被害者は、そもそもバラバラではなく首だけが切断されていたりと、これまでの共通点が当てはまらないのだ。


 なにより一番おかしいのが、三、四件目の被害者の身元が判明しないらしい。

 遺体としてそこに存在するのに、しかし彼等はこの社会のどこにも存在した形跡が無いという。被害届も出ていないし、遺族が名乗り出てくるわけでもない。正体不明の遺体。


 昨夜殺害現場に残された僕は、少しだけ悩んだ末、その場を逃げ出した。警察に通報するわけでもなく、ただ知らないフリをして、逃げ出した。

 そもそも、警察に連絡して事情聴取に付き合う気分でもなかったし、あの時、あの場所に僕がいたとすれば、どうしてあんな場所に居たのかとなる。それはもちろん彼女を、黄泉路さんの無実を証明したかったからなのだが、しかしそれはやはり印象的に良くは無い。何故なら僕と彼女はまだ他人なのだから。そこまでの関係性はできていない。最悪ストーカー扱いされて、殺人の容疑をかけられかねなかった。


 だから、逃げた。

 逃げて、あの時の出来事を、丸ごとなかったことにした。

 しかし逃げ出してからその判断はやはり不味かったんじゃないかと思い、内心焦りまくったが、しかし現状、何もそういった話題が出ていないことから、僕が現場で目撃されたとか、何かしか僕がいたという証拠が出ているわけでもなさそうで、ほっとした。


 僕の判断は間違っていたのかもしれない。でも、流暢な日本語を話す金髪の外国人風の女が犯人で、僕がその彼女と冷静に会話をしていたというのを、誰が信じるだろうか。僕だったら、ストーカーが苦し紛れに言い逃れをしてるのではないか、と怪しむ。


 ただこうして逃げて、それで僕がその場にいたのだとなれば、更に言い逃れができない状況に追い込まれるが、まぁ、その心配はなさそうだった。


 というか、僕の中で彼女が犯人なのかどうか、それがわからなくなっていた。

 金髪の彼女は、そんな人間に見えない。

 確かに短い刃物を持ってはいたが、それでも彼女は酷く落ち着いていて、殺人犯としての狂気性を感じさせなかった。そんな残酷な人間には見えなかったのだ。

 もし彼女が犯人とするならば、何かしら、罪を犯す理由、というものがある気がする。誰でも彼でも殺めているわけではなく、何かしらの使命を持って行動している、と思う。


 僕にはそれが検討もつかないが。


 必ず黄泉路さんの近くで起こる、狂気的な連続殺人。

 人の仕業とは思えない異常なバラバラ遺体。

 心の読めない、不可思議な金髪の外国人の女。


 それらはあまりにも僕の日常からかけ離れすぎていて、理解が及ばない。長い長い数式の、答えだけを見せられたような、そんな気分。問題文も途中式もわからない。

彼女の言ったとおり、僕は関わるべきではないのかもしれない。

 所詮、平凡は異常には太刀打ちできない。日常を生きる僕は、非日常には生きられないのだ。ただ現状を平凡らしく平凡に解釈をし、それで納得しておくべきなのかもしれない。


「またか。怖いな」


 リビングのソファに座っていた父が、不快そうに呟いた。

 いつも独り言なんか話さない父が、そう呟いたのは、おそらく僕に対する警告だろう。注意するように、そういうこと。


「ジン」

「何?」

「熱心に塾に行くのは結構だが、できるだけ友人と帰宅するようにするんだぞ」

「わかってるよ」

「それと――向こう側には絶対に近寄るなよ」


 それは父からの初めての強い警告。あからさまな禁止の言葉を父からもらったのは、初めてだった。それほどに、あちらに対する疑心というか、危険視は強まっているということだろう。

 父はテーブルを挿んで僕の前に座っていた妹にも強くそう言い、妹は至極適当に返事を返した。僕は遅めの朝食を食べ、部屋に戻った。


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