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クオリア~十人十色の異聞奇譚~  作者: 色川玉彩
1 The normal chapter ~The abnormity all the time~
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運命って信じる?

あってほしいと思うけど。

なさそう。

「なぁ乍。お前は運命って信じるか?」

「はぁ? 頭大丈夫か?」


 僕の中二病的質問に、ながらは不快感たっぷりに僕を睨んだ。

 やっぱり怖い。カツアゲされている気分だ。


「運命ってお前、あの運命か?」


 乍は僕を睨むのをやめて、前方でアイスをしゃぶりながら学校の中庭を歩く古都ことを見て続けた。中庭にはお天道様が発する煌々とした熱い日差しが差し込んでおり、中庭の中心にドンと一本だけある大きな樹からは、何蝉かわからないが夏らしく喚いている。


 この前、学校が終わったと言ったが、実は学校にも夏期講習というものがある。二年生、かつ進学クラス以外は選択制であるため、強制的ではないのだが、僕はやはり心配性なため、この夏期講習にも参加することにした。夏休みに入って一週間後。そこから二週間という短い期間だが、僕はまた制服を着てこの学校に来ている。そして乍や古都も、僕が参加すると言ったら、それに便乗する形でこの夏期講習に参加した。


 夏休みと言えど、例の事件のこともあったり、ここは遊ぶところの少ないど田舎であったりするのが理由で、乍も古都も暇を持て余しているらしかった。こうして学校にきて、昼過ぎまで勉強し、帰りに少し街に出て遊ぶ。その方がよっぽど有意義だった。二年生の夏期講習など、基礎の基礎。ほとんど遊びみたいなものだ。


 ちなみにあの連続殺人事件、あれ以来一切関連する話が出てこない。もう半月以上音沙汰無しだ。僕等の中からも、あの事件に対する危機感のようなものが薄まってきている。

 警察の方も、犯人はこの辺りから逃げたと判断したのか、街で見る警官の数も減ってきている気がする。


 ま、それは良い事か。刺激が無くなるのはなんとなく寂しいが、しかし自分にまで飛び火されても困るしな。このままこんな物騒な事件は鎮火していってほしいものだ。


「そうだよ、デスティニー」

「フェイトじゃなくて、デスティニーの方か?」

「そんな辞書的な些細な違いを乍が知っていることには素直に驚きと賞賛の意を示したいところだが、僕自身その些細な単語の意味の違いを把握していないので、ここは英語表現を止めて純粋に日本語でよろしく頼む。もう今日は日本語縛りで行こう。日本語万歳!」


 僕がそう長々とツッコミを入れてみると、乍は眉間に皺を寄せて僕を見て、そして再び前方を睨みつけ、何かを考えるようにしたあと、ゆっくりと口を開いた。


「…………ツッコミが、長いな」

「遅いよ! お前は何を長々と考えてたんだよ!」


 乍は相変わらずの天然振りで僕の再度のツッコミを誘った。

 彼は鈍感と言うか、疎いと言うか、こう言った話のリズムがとことん人とズレている。だからこうしてボケたりしてみても、勢いよくツッコンではくれず、自分の独特の間でツッコんでくる。本人にはそう言った笑いのやり取りをしているつもりは一切なのだろうから仕方が無いのだが、それにしても人として会話のリズムがおかしいのは確かだ。


「運命っつってもよ、結局結果論だろ? たまたま偶然が重なったのを運命や奇跡と呼ぶだけであって、それは人間が勝手に自分に都合良く考えてるだけの話。最初から運命として決められているもんは俺には無いと思うけどな。結局どう解釈するかの問題だ」


 確かにそうかもしれない。結局僕は結果を見て運命だと思っているだけであり、それが初めから決められていたのもかどうかなんて、わからない。

 乍は話のリズムはおかしいが、言うことは至極全うである。そしてこういった哲学的なことを考えるのが得意だ。この辺は僕よりも大人なのかな、と感じる。


「じゃあこう恋愛とかの運命ってどうだ?」


 僕は少し誘導するようにそう言葉を返した。


「なんだジン。運命の出会いでもしたのか?」

「例え話だよ。例え」


 僕はそう言って視線を乍から逸らした。それを更に不審に思ったのか、乍は僕を見続けた。

 いやー。それにしてもただただ暑いな。本当。


「どうだろうな。それも結局結果が出てからしかどうとも言えないんじゃないか。もしその出会いが恋愛、ないしは結婚まで行ったとして、そこまで行けばそれは運命の出会いだったのかもしれないけどな。でもその恋愛が途中で破綻した場合、それでもその出会いを運命だったと思えるかどうか、それは結局その人次第だろ。だからジンが運命だと思えるなら、それでいいんじゃねえか?」

「だから例えだって言ってるだろ」


 僕は手に持ったアイスの残り棒をしゃぶりながら言った。

 挙動不審なんかに、なってはいない。

 あー美味いな。アイスの棒は。優しい木の香りがする。


「最近はこの棒の部分を食べない人が増えているらしいね。勿体無い」

「…………いや、えびの尻尾みたいな言い方するなよ」

「だから遅いよ。いちいち」


 ツッコむならもっとスピーディーに来て欲しい。ツッコミ次第で全てのボケの生殺与奪を握っていることを、彼は理解しないといけないと思う。


「でもよ、逆に言えばな」


 僕がアイスの残り棒を食べ終えた頃、乍はそう言葉を続けた。

 本当にマイペースなやつだ。


「異性と出会って、結婚まで行ってしまえば、それは全部運命の出会いだったってことだろ?」

「まぁ、そうなるな」

「だったらよ、誰がどんな道を辿ろうが、結局それは運命だったっていう落ちなんだよ」

「はぁ……」


 乍の言っていることがいまいちよく理解できず、僕は空返事を返す。


「例えばジン。お前がAさんと結婚したとしよう。じゃあお前とAさんは出会った際に、運命の出会いをしていたわけだ」

「だな」

「でもジン。お前が別の世界線でBさんと結婚していたとしよう。どうだ? これも結局運命の出会いだったんだよ」

「ほう」

「そして例えば途中でお前がCさんと付き合って、そして別れていたとしよう。でもそれもBさんと出会って結婚するために必要な運命だったんだよ」

「つまり?」

「つまり、運命ってのは決まっているもんじゃないんだ。逆説的に捉えるものでしかないんだよ、結果論さ」

「ってことは乍。結局、運命っていうのはあるのか、ないのか?」

「だから結局、お前次第だってことだ」


 うーん。わかったような、わからないような。

 僕がそれを運命だと思えば運命だ。またはゴールをどこと定めるか、それによって変わってくる。運命は決まっているものではなく、運命だったんだな、という結果論でしか語れない。ということでいいのだろうか?

 僕はこういった類の話は得意としていない。たまにこうして乍が熱く語ってくるのだが、僕はたいてい流して聞いている。


 哲学なんて答えのない、解釈の問題だと思うから。

 考えを突き詰めていくことに、意味は無い。

 人間とは何か? ――人間だ。その言葉に全てが包括されている。それを解いていくことに、必要性を感じない。


「で、その運命の相手ってのは、誰なんだ?」


 乍は少し声を落として僕にそう尋ねた。

 こいつ、しつこいな。僕は一言も運命の出会いをしたなんて言っていないのに。

 やれやれ。ま、平静を保ってしっかりと否定すれば信じてくれるか。


「だだだだだ、だから、なな、何の話だよ」


 おっと、少し声が上ずっていたかな。少し震えていた気もするが、まぁ許容範囲だろう。

 乍もようやく信じてくれたみたいで――


「なんだ。この間言ってた電車の子か?」

「ギクリ」


 乍は楽しそうにニヤニヤと僕を見ながらそう言う。


「やっぱりか。お前この間聞いてきたよな。その時なんか不自然な聞き方してきたし、なんとなくそうじゃないかなって思ってたんだよ」

「……し、知らないなぁ」


 僕はそっぽを向いて口笛を吹いた。

 でも僕は口笛ができないのだった。空気だけが抜けていく。


「お前が好きなの。四季創しきそうの黄泉路だろ」

「っ?!」


 ビクリ、と身体が反応してしまう。

 いやーやっぱり暑いなぁ、今日は。


「ど、どうして、そう思ったんだ? さ、参考程度に聞いてみたいな」


 あくまで平静を装ってそう聞いてみる。不自然さは無いはずだ。


「いや、四季創に通ってて同い年で背が高くて目つきの悪い女子なんてそんなにいるもんじゃねぇからよ、大体予測はついてたんだけどな。お前がこないだラインで黄泉路蜜の事件に関することを訊いてきたのと、黄泉路蜜がお前と同じ塾に通い出したって噂を聞いてピンときた」

「へ、へー。でもそれは、ただの推しょ……推測、だろ?」

「決定打はお前の成績だな。理系科目が軒並み上がってやがる。お前は短所の伸ばすのが苦手だったはずなのに、だ。そこで確信を得たね。お前は理系に進学して、黄泉路蜜に近づくつもりだ、ってな」

「……」


 もはや返す言葉がなかった。

 こいつ探偵かよ。頭脳は大人。

 全てを読まれていた。

 自分の卑しい心を全て読まれ、僕は死にたいくらいに恥ずかしくなった。

 いや、本当に恐ろしい男だ。僕は同級生で唯一彼を尊敬している。

 目つきと口の悪さ以外は。


「まぁ気にすんなよ。気付いてるのはどうせ俺だけだって。古都も全く感づいてない」

「もうやめてくれ。それ以上僕を辱めないでくれ」


 僕は本気で頼んだ。肩を落とす僕に、乍は背中をポンと軽く叩いて励ました。


「別におかしいことじゃないだろ。この時期、誰だって恋するさ。しない方が異常だ」

「何だ。その言い草だと乍、お前も好きな人がいるのか?」

「当たり前だ」


 そう、乍は躊躇することなく、言い切った。しっかり僕を見て。

 まるで、何も隠す必要など無い、と言いたげに。

 これではますます、僕が矮小に見えてしまうではないか。


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