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クオリア~十人十色の異聞奇譚~  作者: 色川玉彩
1 The normal chapter ~The abnormity all the time~
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四季創学園

他の学校の人たちって何故かすごそうに見える。

 十段階評価で、数学と物理が7で、化学と英語が8、あとはどれもそこそこの成績だった。5から下が無いことが自分としては誇らしかった。


 そしてその通り、僕の成績は理系科目が群を抜いてよかった。


 だからながらの言う理系クラスに行くつもりか、というのは、三年になる際に、生徒は自分の進路に見合ったクラスに変えることを許される。これは誰でも変えられるわけではなく、成績優秀者のみが、編入を許されるのであって、望まない生徒、そして成績不良者に関しては、このままのクラスが維持される。逆に、あまりに悪いと、進学クラスからでも下のクラスに落とされることもままある。人数調整とかなんとか。

 僕の成績ならば、理系クラスに編入することも充分可能な範囲だ。


「えージンジン他のクラス行っちゃうの?」


 古都がそう後ろで喚いた。駄々を捏ねる子供のように。


「まぁ俺らも言ってる間に受験生なわけだからよ、ジンがクラスを変えるってもの俺は納得だがよ、それにしてもお前は理系は苦手なんじゃなかったっけか?」

「苦手だったよ。まぁでも、だからこそ勉強したんじゃん?」

「それはそうだけどな……でもお前ってそこまで熱心なやつだったけか?」


 乍はどうにも納得できないという表情を浮かべた。

 失礼なやつだ。

 でも確かに、僕のここ最近の理系科目の成長の仕方は異常だとも言える。

 これは言い訳の余地なく、僕がなんとかあの電車の中の彼女に近づこうとしている証拠、である。理系進学クラスに行けば、模試などで出会う可能性が跳ね上がる。しかも同じ大学に行くなんてことになれば、彼女にぐっと近づくことができるわけだ。

こんなこと、地球がひっくり返っても他人に言えないが。


 でもまぁ理由がなんであれ、勉学に励むというのは、良い事じゃないか。ストーカーじゃないぞ。


「長期休暇の時に行われる、合同勉強合宿に参加したいからね」

「えーそれって、うちと四季創学園とかが一緒に勉強合宿するやつでしょ?」

「そうそう。やっぱり頭の良い人たちの間で揉まれるのが一番勉強になると思うんだ」


 なんて理屈の通った話だろう。

 誰も僕の下心なんて感づきやしない。


「四季創ってあの進学校でしょ? 私あんまし好きじゃないな」

「どうして?」


 珍しく古都が他人を嫌っているのを知って、僕はそう聞き返した。

 例の彼女がいるであろう学校を嫌う、その理由が気になった。


「だって何かこう、頭良い、って感じがして、見下されてる感じがするもん」

「なんだそんなことか。それは古都、お前が自分の中に潜在的な劣等感があるからそう思うだけだ。向こうが見下してるんじゃなくて、お前が勝手に見上げてるだけなんだよ」

「むー。何? ジンジンは頭良い人の味方をするのっ?」


 頬を膨らまして睨まれる。


「いや、味方とかじゃないけどさ。でも何もしてないのに勝手に嫌われてる四季創の人も可哀相だろう」

「それは……確かにそうだけど」


 もっと反発を受けると思ったが、しかし古都は僕の言葉に素直に納得したようだった。

 こういった部分が、彼女の良い所でもある。


「でもま、確かに俺も苦手だなぁ、あの学校は」


 そうぶっきらぼうな声で、今度は乍が言った。


「確かにジンの言うところの潜在的な劣等感というかよ、こっちが一方的に僻んでるだけだって言うのは少なからずあるんだろうけどさ、それはでも進学校全部に言えることだろ? でも俺は他の進学校はさほどでもなくて、やっぱあの四季創だけが苦手だな。嫌いじゃなくて、苦手、な」

「どうしてさ?」

「なんつうかよ、怖くねぇか? あの学校」

「怖い? いや、乍の方が怖いよ」

「そういう意味じゃねえよ。茶化すなって」


 乍は僕を睨んだ。

 だからそれが怖いんだよ。


「そう言うなんていうか敵からの脅威みたいな怖さじゃなくてよ、その存在の異質さというか、俺には理解できない何かがあるみたいで、怖いんだよ。こうなんていうか、ホラー映画の幽霊、みたいな?」


 お前はそんな図体をしていて、実はお化けが怖いんだな。意外と可愛い奴だ。

 殴られるのが怖いからもう茶化さないけど。


「そうかなぁ。僕には、よくわからないけど」

「それはあれだ、お前があんましあの学校の人間を知らないからじゃないか?」

「何? じゃあ乍は知ってるのか?」

「まぁ詳しく知ってるわけじゃねえけどよ、でも何だ、パッと見ただけで、俺はあんまし関わりたくないって思ったね」

「古都知ってるよ。あの学校、変わった人多いってヤミちゃんが言ってた」


 古都がそう言葉を挿んでくる。

 ヤミちゃんというダークネスなあだ名のその子は、たまに古都から出てくる四季創に通う親友の名前だ。たまにプリクラを見せてくるが、決して闇が深いわけではなさそうだ。


「例えば毎日放送で呼びだされてる馬鹿な子とかー。いっつも違う女の子と歩いてるイケメンとかー。いっつも先生と喧嘩してる人とかー」

「最初のはさておき、まぁあとの二人はうちにだっているんじゃないか?」


 どちらかと言えば、古都やそのヤミちゃんって子の方が変わり者っぽい。乍もたまに先生と言い合っているし。


「四季創って言えば、確かあそこには例の女子がいたろ」

「例の女子?」

「知らないのか? ほら、確か三年前に両親を殺したとか噂になってる――」

「はい、静かに」


 成績表を配り終えた担任がそう言ってクラス全体に声を掛ける。

 ざわついていたクラスが、一気に静まり返った。

 乍も話を途中で切り上げて、席に座りなおした。僕も視線を前に向ける。


「まぁ成績が良かった奴、悪かった奴、様々ではあると思うが、それはここまでの結果、というだけで、これからを決めるステータス、というわけじゃあない。だから良かった奴はそれを維持できるように、悪かった奴はそれはいくらでも挽回できるということを念頭に置き、精進して行って欲しい」


 最後の締め、といった感じで担任が話を進めていく。

 当たり障りの無い、平凡な話。普通だ。


「あと一つ、これは絶対に言っておいてほしいと学校側から頼まれていることなんだが」


 と、担任はそう改まって話を切り替える。


「皆も知ってることだとは思うが、最近、この近くで連続殺人が発生している」


 その言葉に、静かだったクラスが、さらに静まりかえった。


「そして残念な事に、近くの四季創学園の生徒も3名、その犠牲となっている。事件に関しては警察の方でも警戒を強くしてるためか、現在止まってはいるが、しかし犯人はまだ捕まっていない。一部では近辺の学生が狙われているのではないかという見方もある」


 クラス中が、こそこそと噂話をするように少しだけざわつき始めた。


「皆には以前言ったように集団で帰宅してもらっているし、周辺は警察も巡回を強化してくれているが、しかし今日で学校も終わる。夏休み、皆は多く学校で指定された範囲外に出ることになるだろう。つまり生徒は学校という保護の下から放たれるわけだ。塾に通うものもいるだろうし、旅行に行くものもいるだろう。だから自分の身は自分で守る。そのことを念頭に置いて、どうかできるだけ夜は外を出歩かない事や、親に車で送り迎えをしてもらうなど、各々で対処をするようにしてほしい。どうせ自分には関係ない、なんて思っているやつが必ずいるだろう。しかし覚えていて欲しいのは、被害に遭った人が、総じてそう考えていただろうという事だ。だからこの夏休みは、常に、周囲に気を使って過ごしてほしい。馬鹿馬鹿しいと思うかもしれないが、皆の大事な命のためだ」


 そう長々と話し、担任は話を切った。クラスメイトは小さく、はいと返事を返し、暗い雰囲気を打ち消すように担任が明るい顔と口調でこの時間の終わりを告げた。

 皆も暗い雰囲気など一瞬で吹き飛ばし、さぁ夏休みを愉しむぞ、と意気込むように一斉に席を立ち上がった。ようやく解放されたわけである。


「やだなぁ。殺人犯。なんで捕まらないんだろ」


 後ろの席で未だに机に突っ伏している古都がそう呟いた。


「確か四季創の日本史の教師が容疑者だろ? もう逃げてこの辺りにはいないんじゃないか? あれだけ警察がいれば、さすがに犯行もできないだろうし」


 確かに恐ろしい話ではある。僕自身、自分は大丈夫だろうと高をくくっている部分が無いわけでないが、しかしその半分、怖いなという感情もある。

 だからと言って僕にはどうすることもできないし、ただ日々を当然の如く過ごすだけで、過剰な自己防衛意識は、今の僕にはマイナスでしかない。


 僕等が考えるべきは、一年半後の受験のことであり、殺人犯からの身の守り方ではない。


「そういえば、この間、その被害者のお母さんが四季創に押しかけてきたらしいね。どっかのクラスまで乗り込んだとか聞いたよ」


 古都はだるそうに鞄の中に机の中にずっと置いておいた教科書を仕舞いながら、そう言った。


「どうして? 何で被害者の母親が学校になんか乗り込むんだよ?」


 僕がそう尋ねると、二人は憮然とした表情で僕を見た。


「さっき言いかけただろ。あの学校に人殺しだって噂されてる女子がいるんだよ」

「それは僕も噂で聞いたことがあるけど、それが何か関係あるのか?」

「俺も詳しくは知らないが、どうやらそいつが今回の殺人もやったんだって、その被害者の母親がヒステリックを起こしたらしくてな、それで乗り込んだんだとよ」

「へー、なるほどね。ってことはただの思い込みだったってこと?」

「らしいな」

「ふーん。いや、それにしても乍、随分と詳しいね」

「ふんっ。噂だよ、噂。別に俺が調べたわけでもねぇ。ただそうらしいって話だ」


 乍はつまらなさそうにそうそっぽを向いて先に教室を後にした。意外と情報通なところがある。

 僕と準備の追えた古都も乍を追った。


「それにしてもその女子って、誰だ? 名前は何て言うんだ?」

「さぁな。そこまでは知らん」


 僕の質問に、前を歩く乍は背を向けたままそう答えた。


「あっ! その子の名前なら覚えてるよ!」


 すると横を歩いていた古都が、嬉しそうにそう言って僕を見た。


「名前はね、確か黄泉路よみじ。黄泉路(みつ)、だよっ」

「へー、黄泉路、蜜、か」


 これまた変わった名前である。

 黄泉、というのがなんとも不吉。ある意味殺人犯らしい名前である気もする。

 四季創学園の生徒に変わった生徒が多いというのは、少なくとも名前の面は間違っていないと思った。


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