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クオリア~十人十色の異聞奇譚~  作者: 色川玉彩
0 The yellow chapter ~Where bees are,there is honey~
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放課後の告白

放課後の告白。

とかしてみたかった。


 電気も点いていない薄暗い美術室。私はそこの机に寄りかかるように座っていた。

 放課後の美術室は、少し怖かった。薄暗い教室の中でポツリといると、壁際の石膏像や絵画などの目がこちらを見ているような気がして、恐ろしい。

 しかしその目線は慣れたものだった。なぜなら今までずっと自分を見てきた周りの人たちも、同じような冷たい目線を向けてきたのだから。


(……そんなに怯えなくても、別に壊したりしないよ)


 心の中で、そう思う。

 だがその中で石膏像でもなく、絵画でもないリアルな人間の目が二つあった。

それは美術室の机にもたれるように座る私の左手、私から二、三歩離れたところに立っている細長い垂れ目の少年の目だ。現在、美術室には私とその少年の二人しかいない。


「す、すいません……急にこんな所に呼び出して」


 恥ずかしそうに少年が言った。

 敬語を使うのは、ただ彼が私より一つ下の一年生だからだろう。授業が終わって帰ろうとした時、おそらくこの垂れ目の少年の友達であろう生徒に呼び止められ、この美術室まで行って欲しいと言われたのだ。話があるからと。

 普段なら来ない。いや、その話すら聞かずに無視するだろう。それでも今日来たのはあのクラスメイトに――皇子代黎との会話に、刺激されてしまったから。

 会話――正確にはそうではない。私は何も言っていないのだから、それを会話とは言えない。しかし確かに、あの時、偶然とはいえ私の心の声に応えるように、彼は言葉を返してきた。数年ぶりの、他人とのまともな会話。

 しかしそれはただの偶然で、ここに来たのも、所詮は気まぐれ。

 そしてその気まぐれは間違いなく失敗。


(何を、期待しているんだろ……)


 もう一度、会話をしてみたかったのか。他人とのつながりを、感じたかったのか。

――愚かしい。

 そんなもの、要らない。そう決めたではないか。そう願ったのは自分ではないか。

 本当に、愚かしい。

 こんな下らないことで、心を、信念を揺らがしてしまう自分がとんでもなく愚かしい。


「そ、それで、あの、話が……あるんですけど」


 途切れ途切れにそう話す垂れ目の少年の顔は、明らかに緊張していた。放課後にこんなところに呼び出されて、その姿を見れば、どんな鈍感な人だってわかるだろう。


「告白、ですよね」


 垂れ目の少年の目も見ず、そう訊いた。

 敬語なのは礼儀、ではなく牽制。親しくなるつもりは無いという気持ち。


「え……あ、そう、ですけど」


 まさか、告白するつもりなのか、と告白する相手から訊かれるとも思っていなかったのだろう。少年は戸惑っているようだった。当たり前だろう。普通はそうわかっていても、黙って待つものだ。それこそ礼儀、そして相手に恥ずかしい思いをさせないというのもあるが、何よりそれが間違っていた時、勘違いしている自意識過剰な人間と思われてしまう。それを避けるのが普通だ。

 でもあいにく、私は普通ではない。


「や、やっぱ、わかりますよね。はははっ」

「ごめんなさい」


 そんな取り繕いなどお構いなしに、叩き込むように言葉を続ける。自分の気まぐれの卑しさに気付き、すぐにでもこの場を去りたい、この関係を終わらせたいと思ったのだ。


「私はあなたが好きではありません。顔もタイプじゃないし、年下は苦手。というよりそもそも人とお付き合いをするつもりはないんです。だから、ごめんなさい」


 グサリ、と何の容赦も無く、その関係に止めを刺す。相手に入り込む余地など与えないように、しっかりとナイフを突き刺した。その目も少年を見てはいない。私は最低だ。

 少年はあまりにも突然で、むしろ清々しいまでの私のその言葉に、唖然としていた。


「それに、私は……いや、あなたは知らないんですね」


 私がそう意味深な言葉を発すると、少年は慌てて首を振り、


「し、知ってます。両親を殺したとかなんとか……でも、僕は――」

「それじゃ無い」

「え?」


 それじゃ、無い。それではなく、あの夜、私が両親から告げられた真実。それを彼らは知らない。いや、ほとんどの人間は、それを知らされていない。

 そうだ、それを告げれば、結局関係は絶てるのだ。いや、向こうの方から絶とうとしてくる。まさに一撃必殺。最終奥義。これを初めから言えばよかった。

あまり気の進むことではないけれど、しかしそんな躊躇すら愚かしい。

ここで、全ての関係に終止符を打とう。全ての未練とおさらばしよう。

 私は少し自嘲気味に鼻で笑い、今度はしっかりと少年の目を見て口を開いた。



「あのね、私――」



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