太陽と一輪の華
凛々しい、という言葉が似合う少女がいた。
少女の名は、華崎かれん。神代高等学校の二年生だ。
ブロンドの長髪にすらりとした手足、整った目鼻立ち。
彼女が学内を通れば、歓声が沸いた。
そんな世間離したかれんにも、想い人がいた。
陽田あかり。同じく神代高等学校の二年生。
黒髪のセミロングに優しげな瞳、純真可憐、という言葉の似合う女子生徒である。
しかし、女子生徒であるということは、かれんには関係なかった。
きっかけは、かれんが一年生のときである。
勉強もそつなくこなすかれんだが、彼女に勝った人物がいた。
それが、あかりだった。
学年トップの成績を取ったかれんは、一躍時の人となった。
しかし、彼女は誰の前でも太陽のように微笑んでいるだけで、本当の友達がいないようだった。
そんなあかりに、かれんは心を砕いた。
かれんは、太陽を求める花のようにあかりのほうを向き続けてきた。
しかし、太陽は一輪の花には気づかない。かれんも、これは一方的な想いだと自覚していた。
とある放課後。
かれんはいつものように太陽を追いかけていた。
太陽は、どんどんと翳りのある道へと進んでいってしまう。
かれんは戸惑った。なぜ、私の太陽がーーー。
そのまま彼女は、あかりを追い続けた。
すると、複数の男の声がするではないか。かれんは物陰に隠れ、耳を澄ませた。
「何なんだ、お前!」
「華崎かれんはお前のものじゃない、俺たちのものだ!」
「かれんはお前のことばかり見ている!お前がたぶらかしたんだろう!」
口々に男はまくし立てると、あかりににじり寄っていく。
あかりは怯えきった目をして、その言葉に耳を傾けているだけだった。
かれんはその薄汚い言葉に、怒りを覚えた。
そして気がつけば、物陰から勢いよく飛び出していた。
「お前らこそ何なんだ!私はお前たちのものじゃない!」
かれんの言葉に、男たちはたじろいだ。
そして、俺たちはかれんの為に、などとぶつぶつぼやいている。
かれんはあかりの前に立ちふさがり、こう告げた。
「いいか、私は陽田あかりが好きなんだ。お前らのことなんか眼中にない。これ以上邪魔されたくない。わかったらとっとと失せろ!」
男たちは狼狽えながら、あるいは喚きながら散り散りになっていった。
かれんが、はあ、とため息をついて振り返ると、あかりは瞳に涙を溜めていた。
「怖かったよね、ごめん。大声出したりして…」
「いいんです。ありがとうございます…それより、その…」
あかりは、窺うようにかれんを見上げた。その、の先は言いづらそうにしている。
かれんはすっと背筋を伸ばして、それから、その場に跪いた。
「私は、陽田あかりが好きだ。誰に何と言われようとかまわない。女子が女子を好きだなんておかしいと言われてもかまわない」
あかりは身をよじらせ、驚いている様子だった。
かれんはそんな彼女を見上げてから、瞳を見据えて言う。
「あなたは私の太陽なんだ。私はあなたの華になりたい。野に咲く花ではなく、あなたに彩を添える華のように…」
その強い言葉に、あかりはほころんだ顔を見せた。
かれんを優しく見つめたまま、ゆっくりとしゃがんでかれんの手を取る。
「私は太陽なんかじゃありません。それに、私はあなたを花にしたりはしませんよ。私とあなたで花になりましょう。好きです、華崎かれんさん」
あかりは、僅かに瞳を潤ませながら言った。
かれんが驚いていると、あかりは涙を拭おうとする。その手をかれんが掴み、反対の手で優しく拭い去った。
そうしてふたりは、寄り添いあう。
かれんは、そっとあかりに手を回し、さするように動かした。
その後ろ姿を、花壇に咲き誇る花だけが、優しく包み込んでいた。