16頁-朱に染まった猫(7)
電話が鳴ったので、とった。
「はい、もしもし」
「…」
沈黙。
…ベッドから起きて電話に集中。
「俺だ」
「誰だ」
「…分かってんだろ?」
「分かってるけど?」
「…」
「…」
「…はは」
「ふふふ…」
…気持ちわる。
「で、何?」
「…電話するっつったよな?」
「遅くない?」
「黙っとけ」
「で…何?」
「俺が犯人じゃないと言うために電話した」
なるほど。
…うーん。
「君は猫を殺していない?」
「ああ」
「君は猫を新垣さんの机にトッピングしてない?」
「…なんだその言い方。…まあ、やってねえ」
…はい、終了。
「じゃ、もういい?」
「…よくない」
「何?」
「むしろ、お前が俺に質問すんじゃねーのか」
「…そうかも」
「…殴るぞ?」
「どうやって」
「…明日」
「困る」
…少しの沈黙。
「じゃあ、質問するけど…あの朝学校に居た?」
「……ああ」
ずいぶん間があるな。
…理由はまだ分からないけど。
「なんで?」
「…」
「…喧嘩?」
「ちげーよ」
「…じゃ、何?」
「言う必要があるのか?」
「ある」
すごく、長い間。
今度は…山本の方から話してきた。
「…猫を、探してた」
…え?
「猫?」
「…お前らも知ってるんだろ?…あの猫だ」
しばし、邂逅。
いや、邂逅って言葉を使ってみたかっただけだけど。
「…なるほど」
少しだけ、分かった。
「君も…あの猫を見てたんだ」
「……」
何故黙る。
「で、だ」
「おい」
「…他の質問は」
「…ま、いいか。…あの状況を知ってた?」
「ああ、朝見た」
「…いつ?」
「悲鳴が聞こえて、教室に行ったんだよ」
「あー、なるほど」
ふむふむ。
…うーん。
「で、茫然としている新垣さんに近づくこともできず、悲鳴を聞いてやってきた先生方から身を隠すようにして…というか実際隠れたわけか」
「そうだな…ってよく分かるな」
「…眠いから、あと二つだけ質問するね」
「おう、無視か」
…ソウなら、もっと手際よく推理するのだろうか。
いや、もしかしたら…すでに分かっているのだろうか。
「そのとき、他に誰かを見た?」
「新垣と教師以外は誰も見てねーよ」
「…ふーん」
「何だ」
「いや、新垣って呼ぶんだ」
「うるせーよ!」
受話器越しに怒鳴られた。
…怖い。
「お前、明日覚えてろよ?」
「いや、よく考えたら君停学じゃ?」
「うるせえ」
「あんまりお母さんに心配かけんなよ」
「…早く次の質問しろ」
「じゃあ、…その先生って誰?」
「あん?」
「いいから…」
「…駆けつけてきた奴か?」
「うん」
「…五反田とかいう野郎だ」
…五反田…。
えーっと、英語教師だっけ?
「社会科だったか…確か」
「ああ、うん、社会の五反田先生ね」
「何故焦る」
「別に焦ってないけどど?」
誰が焦ってなんか…っ。
「…まあいい。切るぞ」
「あ、う…」
切れた。
さてさて…、
事件の全貌というやつが…、
見えてきませんね?
寝ようか。