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13頁-朱に染まった猫(4)

 母親が…おめかししている。


 まるで、外出するみたいに。


 …思い瞼をこすりながら、訪ねる。


「…何その格好」


「学校に呼ばれたの。…猫が殺されたとかでね」


「ああ、…なるほど」


「全く…学校の事をちょっとは話しなさいよ」


 少々恥ずかしかったので、その日はいつもより早めに家を出た。


 …家族と一緒に登校なんて恥ずかしくてたまらない。


 

 学校について、いつものように教室に行くと…張り紙がしてある。


 "視聴覚室に行くように"と…。


 なるほど、まだこの教室は閉鎖状態なのか。


 視聴覚室での授業は…いつもと変わらないものだった。


 最も、朝のホームルームで「気をつけるようにしてください」と、念を押されたのだけれども。


 猫をあんな殺し方するような猟奇な人間にどう気をつけろと言うのだろうか。



放課後になると、当然のように…ソウに部室に引っ張られた。


何故か、新垣さんまで一緒になって僕を引っ張っている。


引っ張られていく途中で、教室を確認すると…警察が二人ほど居た。


もう、血の匂いはほとんどしない。


僕ら三人は、無言で教室の横を抜けると…部室に向かった。


部室に着くと、ソウが鍵を開けて…三人で中に入る。


「さて、…どうする?」


「いや、何が?」


「…どうするって?」


 イスに座った僕と新垣さんが、同じくイスに座って偉そうにしているソウに訪ねる。


「警察の情報とは…有用なものだ」


「はあ…」


「つまり、例えば…あの猫がどのような殺され方をしたのか。等を聞く必要がある」


 なるほど。


 …で?


「ふふふ、…マナミ、聞いてこい」


「なんで、僕が?」


「いや、警察が嘘を吐いても君なら…」


「うっせ!」


 危ないな!…いきなり何を言い出すんだ。


 新垣さんに気づかれたらどうするつもりなんだろうか。


「…え、あの…嘘を吐いても君なら…って何?」


 一人、事情をよく分かっていない新垣さんが無駄に興味を持ってしまう。


「何でもない。うん。…何でもない」


「…怪しい。うん。怪しい」


 まねしないでもらいたいものだ。


「ああ、実はこのマナミは…」


「だから!うっせ!」


「…何なの?二人とも…」


 ソウがにやにやと笑っている。


 まるで、早く行けと言わんばかりに。


「お前、地獄に落ちるぞ…」


「ふふふ、構わないさ。地獄も住みよいところかも知れんぞ?」


 はぁ…とため息を漏らしながら、僕は部室を出ていった。


 もちろん、教室に向かって。



 教室の傍には、都合のいいことに…私服の刑事さんらしき人が立っている。


「あの…すみません」


 できるだけ、丁寧に声をかける。


「ん?何だ…って君は…」


「刑事さん。…質問があります」


 質問、という言葉に驚いたのか…刑事さんが目を丸くしている。


「質問…?」


「はい、…猫は、…あの白猫は…どうやって殺されていたんですか?」


 僕は嘘が苦手なので、そのままストレートに聞いてみた。


「なぜ、そんなことを?…あー、そうか、なるほど」


「え、っと…事情は詳しく言えないんですけど…」


「ははは、いやいや、よく分かる。探偵ごっこだろう?学校で仕事をするとよく聞かれるんだ」


 …他の学校にも、ソウみたいな変人がいるとは驚きだ。


 にこやかに笑う(多分)刑事…もしかしたら?


「はは、…だめだ」


 あ、やっぱり。


「ですよね。…では、諦めます」


「おいおい、意外と簡単に引き下がるな?」


「…じゃあ、嘘吐いても構わないので、はい、か、いいえ、で質問に答えてもらえますか?」


「ん?ああ、俺の反応を見てやろうってんだな?いいぞ、それくらいなら」


 …ふっ、甘い。


「ちょっと、知りあい連れてきます」


「ああ、…少しだけだぞ?これでも俺は忙しいんだ」


 と、刑事さんに笑われてしまった。



「という訳で、来い」


 部室の扉を開けると…楽しそうに笑い合っているソウと新垣さんが居たので、ちょっと苛立ちながらソウに事情を説明して、逆にソウを引っ張って部室を出る。


「いってらっしゃーい」


 と、新垣さんが手をひらひらと振っていた。



 刑事さんのところに行くと、律儀に待ってくれている。


「まあ、質問に答えずに、勝手に調べられる方が困るからな」


 という理由らしい。


「それでは、刑事さん…。質問しますね」


「ああ、二つくらいまでな?」


 ははは、十分だ。


 …刑事さんの口調を少しまねてみた。


 腕組みしながら質問を待っている刑事さんに質問する。


 僕じゃなくて、ソウが。


 …きっとこいつの方が推理は得意だろうから。


「刑事さん。私から質問させて頂きます。…猫は潰されていたんですね?」


「ああ」


 …嘘を吐かない刑事さん。


「…どうやって?」


「おいおい、はい、か、いいえ、で答えられないじゃないか」


「…では、刑事さんのお名前を」


「はは、面白い子だな?…ほら、名刺。…犯人見つけたらその携帯に連絡してくれよ?」


「ええ、必ず」


「うん。…じゃ、頑張れよ」


 と、僕に名刺を渡した刑事さんはそのまま教室の中に入って行った。


「良い人だね、…田端(たばた)さん」


 ちなみに、田端さんというのは名刺に書いてあった刑事さんの名前。…刑事さんだということも名刺に書いてあった。


「…君は、想像以上に世間知らずなようだな」


「ん?」


 名刺を財布に閉まっていると、何故か馬鹿にされた。


「言っておこう…刑事という役職は、…存在しないぞ?」


「え、そうなの?」


 慌てて、名刺を取り出し、よくよく見てみる…"刑事 田端(たばた) 利勝(としかつ)"と、書いてある。


 …偽物?


「…いや、そう言う訳でもあるまい…からかわれたのだろう」


「…わざわざ用意したってこと?」


「かも知れないな。詳しくは、分からないが」


 …不条理だ。


「それよりも…問題は…」


「ん?」


「いや、何でもない。…新垣さんを呼んで帰ろう」


「はいはい」


 一瞬、ソウの顔が曇ったような気がしたけれども…気にしないでおこう。


 いちいち気にしてたら、面倒くさい。


 ともかく、今は帰って、疲れをとるべきだ。


 …ただ、眠たいだけだけど。


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