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春色  作者: てと
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春風駘蕩

しゅんぷう-たいとう【春風駘蕩】

春の景色ののどかなさま。春風がそよそよと気持ちよく吹くさま。また、温和でのんびりとした人柄のたとえ。▽「駘蕩」は春ののどかなさま。のびのびしたさま。





春休みが平和に過ぎていく。

平和に見えるこの春休みの中、ユウトが補習を受けるようになってからもう四日目。

たった一人での補習はかなり堪えるものがあって、自由を奪われた小鳥のようだなどと自分を表現してみたりする。


「ちょっと!」


しかし、そんな補習の毎日にも少しは楽しいことが待っている。

呼ばれた方に振り返ってみれば。


「やぁ、なずなさん。」


そこには少し不貞腐れたような顔のなずなが居た。


「ちゃんと終わったらこの道通ってよね?」


「わかってるよ。」


なずなは毎日のようにユウトが補習に行くのを見つけては後から着いてきて校門で終わるのを待っているのだ。

一見バカップルのようにも見えるその二人。

でも二人の間は出会った当初から何も変わっていなかった。


「どうせ補習中も春の陽気に誘われてうとうとしてるんでしょ?」


「あながち間違ってないね。」


「私が教えてあげるって言ってるのに。」


「まぁ遠慮しておくよ。」


ユウトの母親は勉強さえすればそれでいいのだろうが、いかんせんユウトにそのやる気が無い。

その申し出を丁寧に断ると、ユウトはそのまま校門から学校へ入り姿を消していった。


「にゃ~ん。」


「あれ、また来たんだ。」


二人が出会った日に、その出会いになったきっかけの猫はいつものようにユウトを待つなずなの元にタイミングよく現れていた。


「別に食べ物をあげるわけじゃないんだけどね。」


「にゃ~ん?」


そんなものに興味は無いよ、といった顔でなずなが座るバス停のベンチの横にすっと座る。

まぁいっか、と呟いてなずなもそろそろ咲くであろう桜の木を見ながら手持ち無沙汰な両手を持て余して指の体操を始める。


「待ってるほうはたまったもんじゃないわよね。」


「にゃん。」


猫は相槌を打つように鳴くとなずなの動いている指に目を向けている。

小指までの全ての指を回し終えてなずなは再び暇になってしまったのだろう、バス停のベンチの周りをべたべたと触り始めた。


「きったないわねー・・。」


汚いなら触らなければいいのに、という意見を言う相手は今はここに居ない。

猫はその声には答えず、もう終わり?といった顔でなずなを見返した。


「春の陽気で寝ちゃいそうだわ、まだかな・・。」


「にゃ~ん。」


まだまだ時間は30分が過ぎようとしている程度だった。

毎回のことを考えるとユウトは3~4時間は補習を受けているのでただ待っているだけのなずなの体感時間は中々過ぎていってくれない。


「あれ?倉石さん?」


「あ・・。」


「何してるの?」


なずなに声をかけてきたのはたまたま通りかかったのだろう、クラスメイトの南だった。


「こんにちは、南さん。」


「倉石さんもこんにちは、バス待ってるの?」


「ううん、バスじゃなくて人を待ってるところ。」


「そっかー、何々?補習でも受けてる人?」


「うん。」


「なんだー、ユウトかぁ。」


そこまで話してしまった、ということになずなは気づいた。

よく考えれば補習を受けているのはユウトだけなのである。


「珍しい組み合わせね、友達だったの?」


「う、うん。そんな感じ。」


「へぇー、ユウトったら倉石さんみたいな可愛い子に待っててもらえるとは幸せ者め!」


「そ、そんなんじゃないよ・・。」


なずなの顔が真っ赤に染まり、少しうつむき加減で普段の教室での口調に戻っていく。


「付き合ってるわけではないの?」


「な、ないない。私そんなんじゃないよ・・。」


「なんだー、でもユウトの奴ね案外もてるんだよ。」


「そうなんだ・・。」


何だか自分の知らないユウトの話を聞いて少しなずなは悔しくなりながらもいつもどおりの自分を演じる。


「でもまぁ、ユウト地味だからね。」


「私も地味だよ・・。」


「倉石さんはねー、何か地味なんだけど。あ、ごめんね。悪い意味じゃなくて、地味なんだけど目立つんだよね。」


「そう・・かな。」


「地味で可愛い子って結構、目立つものなの!目立つっていうかギャップ?」


「ギャップ?」


「そうそう、男子なんてバカだからちょっといつもと違うことをしたらころっといっちゃうんだから。」


「へぇ・・。」


「にゃん!」


話し込んでいるうちに時間が過ぎていったのだろう、猫の鳴き声ではっと我にかえったなずなは校門のほうを見る。

そこにユウトの姿は無かったが・・。


「あれ?南さん?」


「わっ。」


すでに校門からバス停まで近づいていたのだろうユウトが横から声をかけてきた。

その声に驚いて、南が大声で叫んでしまう。

さらにその大声になずなもびくっとして思わず三すくみのような硬直状態が続いた。


「ご、ごめん。」


「あー、いいよいいよ。大声出してごめんごめん。」


「う、うん。」


なずなは何となくどんな顔をしていいのかよくわからなくなってうつむきながら二人を交互に見る。

ユウトもその気持ちは同じようで、二人を目だけで交互に見ている。


「・・なんか、ジャマしちゃった・・かも?」


「いや、そんなことは無いよ。」


「うん。」


南が恐る恐る聞く、が二人は平静を装っているのがすぐにわかったのだろう。


「ま、今日は二人が友達っていう発見があったし・・。私も用事の途中だしまた今度ね。」


「あ、うん。」


「ま、またね。」


じゃーねーと、手を振りながら歩いて去っていく南に互いに手を振りながらなんとなく姿が見えなくなるまでそれを繰り返す。


「・・なずなさん。」


「・・なによ。」


なずなに向かって何か言いたそうにするユウトだが、ふぅと一息つくと言葉を飲み込んで手を差し出した。


「・・なに?」


「・・握手でもしようかと。」


その言葉で今度はなずながため息をついて、その手を取った。


「素直じゃないのはお互い様ね。」


「・・まぁね。」


手に力を込めて、なずなを引き上げるとさっと顔をそらしてユウトは少し歩き出す。


「ちょっと!」


それを追いかけるようになずなが駆け出して、それをさらに追いかけるように猫がたとたと、と走り出す。


「こんな日もあるんだねぇ・・。」


ユウトは背を向けて、後から叫ぶなずなを尻目に呟くと頭の上で両手を組んでゆっくりと足を進めた。

昔に書いたものの続き…ということです。

ちょっと春を過ぎかけている時期に書いてしまったのでやっぱりなんだか消化不良。

四文字熟語のサブタイルの通りの内容にしてみた…つもり。

新キャラも出てきたのでどんな動きになるんでしょうね!

もう少しだけ続く予定です。

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