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鉄拳パンチ!  作者: 須方三城
第壱章 河童医者と巨大な少女
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第肆話 約束を果たしに


 ――よいしょ、完璧ですな。

 やはり、十文字流鉄鍛術法(てつうちじっぽう)は天下無類って話で。


 ご覧ください。昨夜大破し、俺に貪られた撫流土動去鞍ブルドウザアさんが完全復活ですの事よ。


 いやぁ、本当、徳ってのは積んでおくもんだとつくづく思います。

 先生の伝手おかげで、こんなご立派な町工房をお借りして修理作業ができた訳ですから。


「鉄之助さーん! 聞いてください聞いてください聞いてくだぎゃのん!?」

「うぉぉおう!? スミレちゃぁん!? 大丈夫!?」


 ちょッ、君は身長高めなんだから、屋内で不用意に走り回っちゃ駄目ですって!

 あーあー……入口ん所で見事に額をぶつけちゃってまぁ……相変わらず、ちょいといけない気持ちをそそらせる泣き顔だし。


「あー、よしよし、泣くな良い子でかわいいかわいいもう本当にもうかわいいスミレちゃん」

「ぅきゅううぅぅうぅ……かつて無い程に痛いれす……」

「……まったく、落ち着きの無い居候め」

「おや、先生まで。何か御用で?」

「ああ、先程、アバ…」

「って、あー! すごいすごい! もう直ってますよあの車! 鉄之助さんって本当にすごい鍛冶師の技術を持っているんですね!」

「あー……スミレちゃん。お褒めいただけるのはすごく好いんですがね? あんまり目上の方の話を蹴っ飛ばす様に大声を張りあげるのはいかがなもんかと」

「へ? え、あ……ご、ごめんなさい……!」


 少しばかし眉間にしわがよった先生に怯え、スミレちゃんが俺の後ろへと回――おほッ、何やら大きくて柔っこいもんが後頭部にッ! これはなんたる幸運でしょう。ここで立ちくらみを起こして後方へ全てを投げ出しこの何か柔らかいものに埋もれてしまうと言うのはイケない事でしょうか!?

 ……まぁ、保護者の先生が見ていますし、控えておきますか。


「……やれやれ。気を取り直して。先程、アバドン一派にひとまずの仮処分が決まった。【魔都みやこ】への移送、その後、そちらで本格的な処分が検討されるそうだ」

「おや、そりゃあまた大袈裟な」


 みやこと言えば、三大陸それぞれの首都を指す通称――この中央大陸、奔州ほんしゅう恵土えどで言えば、【魔王】サマの膝下、眠らぬ町だの常昼とこひるの地とも呼ばれる大都市【大王恵土覇白夜町おおえどはっぴゃくやちょう】の事でしょう。

 わざわざそんな仰々しい所まで連れてって裁くと?


「放火の件だけならそこまでではなかったのだろうが、アバドン一派は叩けばその分だけ埃が出る部類だからな。それに何より、昨今は恵土全体で魔府威會マフィアの問題化が著しい、と言うのも背景にあるだろう。おそらくは、見せしめにすべく魔都みやこで大々的なお裁きを受けると言う所か」

「あらあら。流石にお気の毒って話だ」


 まぁ、何から何まで悪い意味での因果応報・自業自得って奴なんでしょうがね。

 見せしめの役割をまっとうできる様にと必要以上に厳罰をくだされるかも、と考えると、ちょっぴり程度には可哀想だ。


「……鉄之助。君に、礼を言う。ありがとう」

「ほい? ええ、はぁ。どういたしまし、て?」


 スミレちゃんを助けた件で先生に礼を言われる覚えはありますが、その件は首の治療の件で相殺した事になっていたんでは? なんでまた。


「何か、私にできる事があれば言ってくれ」

「いやいや、そんなん別に。大体、何の礼かもピンときてませんし」

「君は無能な私の代わりに、連中を止めてくれた」

「!」

「…………私は……昔、医者では無かった頃に、大きな過ちを犯した。以来、暴力に一切頼らず生きると誓った。……そのせいで、私は、連中の横暴を、看過し続けるしかなかった」


 ……察するに、親父のご同類って所ですかね。


 相当、歯痒かったんでしょうねぇ……心底からの吐露、って感じだ。

 医者としての矜持、立派だと思いますが……まぁ、世の中ってのは片方を立てればもう片方が立たないもんだ。長所と短所、美点と欠点は大抵が表裏一体。

 医者として誰も傷付けないと言う立派な矜持が、誰かが傷付くのを見過ごす結果になってしまっていた……と言う話でしょう。


「本当に、ありがとう。その礼がしたいんだ」

「ああ、そう言う事で。それなら別に礼は要りませんよ」


 元々、先生に至れり尽せり世話になるんじゃあ帳尻が合わねぇと、こちらから潰しに行くつもりでしたからね。


「そうはいかない。恩義と言うのは、助けられた側が勝手に感じるもの。助けた側――即ち君が押し付けるものでなければ、君が引っ込めて良いものでもない。君が礼を欲するか欲しないかと言う感情は、さして重要ではない」

「……割ととんでもない事を言いますね」

「す、すみません、先生はこう言う御方なんです……」

「さぁ、どんな些細な事でも良い。言え」


 おう、恩返しを押し売りされたのは初めてですわ。

 先生が年頃のお嬢さんだったら「体を少々まさぐらせていただく」って事で簡単に話が付いたんですけどねぇ……さて、どうしたもんか。


「あ、そうだ。先生。その博識ぶりに期待して、ちょいと訊きたい事があるのですが」

「何だ? 知っている事であれば、全て教えてやろう。キュウリの下拵え関連なら他の追随を許さない自信があるぞ」


 ああ、キュウリってーと、あれですか。南の大陸、龍柩りゅうきゅうみんの国の特産品。河童系の方が大好きと噂の。実物は見た事もありませんし、鉄丈郎テツジョウロウの分際ではこれから食す機会だってあるはずも無し。その辺の知識は遠慮しておきましょう。


「【鈩姫タタラメ】って種族の事なんですけど」

「……何?」

「あたりめ?」

「スミレちゃん、た・た・ら・め。亜人の一種でしてね。簡単に言いますと、すごく上質な玉鋼を産むと言われている種族ですよ」

「へぇー……そのたたりめを、探しているんですか?」

「ええ。俺が旅をしている本懐と言っても良い」


 ――親父との、古い約束でしてね。


 いつか、俺は、鈩姫タタラメの玉鋼を、手に入れてみせる。

 そして、半分は俺が食べて、半分は、親父の墓前に。


 親父が死んじまって特にやる事も無いもんで、世界中の女子と戯れつつ鈩姫タタラメを探す旅をしている、って訳です。


「つぅ訳で、何か情報はお持ちではないですかね?」


 ここに来るまでの旅路、色んな所で色んな方に訊いてはきたんですけどねぇ。誰もそんな種族は知らないってんで。

 ただでさえ老いぼれだった親父が、若い頃に聞いた話――となると、そりゃあまぁ、あまりに昔の事。しかも鈩姫タタラメ鉄丈郎テツジョウロウ並の極少数部族であると仮定したならば、そりゃあ知名度も低いだろうって事で、聞き込みで探す方法は諦めていたんですよね。


「……一応、知っている事は、あるにはあるが」

「本当ですか!?」

「ああ……御伽噺、だ」

「あ、鈩姫タタラメが出てくる話なら知っていま…」

鈩姫タタラメが出てくる話、ではなく、鈩姫タタラメそのものが、御伽噺……と言うか、伝説の中の存在――つまり、空想上の種族だ」


 ――へぃ?


「そ、それは、ど、どう言う……?」

「遥か昔、とある鍛冶師が偶然に素晴らしい鉱石を発見した事をきっかけに生まれた信仰の対象、鍛冶の女神【辮杯守徒主ヘパイストス】。それを民話や御伽噺の領域に落とし込んだのが、鈩姫タタラメの原典だ」

「……つ、つまり……」

「神話が変形し、変遷し、形成された空想物語。それが鈩姫タタラメ伝説」

「ん、んな、ん」

「……魔都みやこの学術研究会の医療部門に所属していた時、交流のあった神話考古学部門の権威から聞いた話のひとつだ。私としては、的外れな話では無いと思うが」


 ……え、えぇ、えええええええええ……?


「ひゃわっ!? ちょ、鉄之助さん!? だ、大丈夫ですか!?」


 ぉ、おう。当初の念願叶ってスミレちゃんの大きな大きなそれは大きな乳と乳の間に収まる事ができたのに、余り楽しむ余裕が無いのはなんででしょうか?

 あ、いやでも待って、やっぱり楽しい? 嬉しい? 興奮してきてなくもない? それともなくなくなくもない? あ、もうわかんないこれ、どうしようこれ。


「て、鉄之助さんのお目目がぐるぐるに……!? ちょ、先生!? 何でそんなどうしようもない現実を叩きつけちゃうんですか!?」

「いや、しかし、質問には自分が知り得る正しい答えを以て正しく応えるべきだろうと……」

「確かに嘘は良くないって鉄之助さん自身も豪語していましたけれども!」

「うーむ……あ、だが、しかし待て。絶望するのは少し早いぞ、君」


 ……ふぁい?


「確かに、鈩姫タタラメは空想上の存在だ。だが、原典となった話は存在し、その原典が生まれるきっかけは、確かな現実だった」

「!」

鈩姫タタラメの前身、女神・辮杯守徒主ヘパイストスの存在が生まれる程の代物、つまり『女神の授ける奇跡としか思えない様な素晴らしい鉱石』は、存在したはずだ」


 じゃ、じゃあ……、


「そ、それを見つけられれば……」

「ああ、実質、鈩姫タタラメを見つけたも同義だ」


 ……っし!

 ああ、危ない! 何かすごい危なかった気がする!

 色々と崩壊しかけていた感がしましたよまったく!

 気を取り直して、まずは深呼吸ッ! ふぉぉぉおお……スミレちゃんの谷間で吸う空気は甘露ですなぁ……。


「……な、なんだか鉄之助さんの顔が急にだらしなく……」

「安心した、と言う所だろう。……ああ、それと、補足情報だが……鈩姫タタラメ伝説は鍛冶師界隈に限定されるが、一応禍の国すべての大陸に広まっている。しかし――今まで君が知らなかった様に、辮杯守徒主ヘパイストスの神話が認知されているのは、この恵土たいりくだけだ」

「!」


 それってつまり――この大陸がその女神様発祥の地である可能性が高いって事で!?

 おお、おお……一度は奈落に落とされたかと思えば、一気に天国まっしぐらな情報が!?


 そうと聞けば、こうしちゃあいられない。

 早速、旅を再開して、その女神様の元になった素敵鉱石を探しに行かねば!


 ええ、そうです、俺の旅はこれからだ!


 ――……その前に、もう少しだけスミレちゃんの谷間の空気を堪能するとしましょう。

 あー、極楽極楽……眠くなってきましたって話。


 待っていろ親父。

 この乳を悔いがない程に堪能したら、約束を果たしに行くから!



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