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魔女と貴方の恋物語  作者: 七草せり
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アインダル国の森奥に住む魔女、アニシア・ハウナ。

一応子爵令嬢ではあるが、両親を亡くし屋敷をはらい、森に住み着いた。


アインダル国は魔女、魔法師、獣人、人間が共に暮らす平和な国であった。


何も森で暮らさなくとも何の問題はないのだが、アニシアにとっては煌びやかな王都は性に合わず、気楽に暮らせる森が良かったのだ。


特段不便はなく、森で摂る薬草や木の実を調合して様々な薬として近くの街へ売りに行く。


アニシアは有能な魔女であった。

年は十七。たが、前子爵夫人の血を濃くひいたのか、はたまた子爵の魔術の血をひいているのか…。

才能のある魔女であった。


ただ、少しひと嫌いな所があり、子爵家を継ぐ者としてどうかと思うのだが、それでもいいかと思っていた。


しかしアニシアも年にニ、三度開かれる、王主催の夜会には顔を出さなければならなく、それが嫌で仕方がなかった。


父の親戚は健在なので、夜会の前日に屋敷に行き、翌日着慣れないドレスを着せられ王宮へと赴く。


「……はぁ。早く帰りたい」


馬車の中でついそうこぼしたら、夫人に呆れられてしまった。


父の親戚。細かい事はわからないが、伯爵家であるそのお家は、アニシアの両親が亡くなると、直ぐに後見人になってくれた。

しかも屋敷や土地を手放し、森へ行くと言うアニシアを引き止めたが、結局は賛成してくれた。


面倒な手続きも行なってくれ、非常に助けられた。


「アニシア…。まだ王宮には着いてないのよ? 」


「おば様。だって詰まらないんですもの…」


「貴女は滅多に顔を見せない、森にばかりいる。偶には外の世界を見なければだめよ? 」


そう諭されては何も言えなかった。


「そうよ! 良い殿方がいるかも知れないわよ?


伯爵家長女ブルメラが口を挟んだ。


「でも魔女って言ったら、普通怖わがるわよねぇ…」


次女のサラが嫌味を含めた口調になる。


この家の姉妹は全く性格が違う。


十八のブルメラは優しくて品がいい。伯爵樣は人狼だからその血を受け継ぐ。顔立ちも申し分なく美しい。

伯爵夫人は人間。サラはどちらかと言うと夫人の血をひいたのだろうか。特段美しい顔立ちではなかった。

人狼の伯爵樣はそれはモテたらしいが、夫人と出会い永遠の愛を誓ったと何度も聞いた。


サラはそういう事に憧れている節があり、朝から念入りにお洒落をしていた。

アニシアへの嫌味を忘れずに…。


何故こんなに嫌味を言われなければならないのか。

アニシアには分からなかったが、周りは解っていた。


アニシアの美しい銀色の髪、赤味がかった瞳。

魔女としての才能。


赤毛の人狼とのハーフ。サラにとっては敵視の対象でしかなかった。


「サラ。アニシアに謝りなさい」


いつも夫人が咎めるが、サラはどこ吹く風だ。

勝てる物は家柄だけだろう。

それでも悔しくてならない。


結局サラの嫌味は続き、アニシアは聞かない事にした。




「久しぶりの人混みだわ…」


「アニシア、無理はしないでね? 」


「……じゃあ来なくても」


「それはダメよ」



憂鬱な気持ちのまま夜会は始まった。


王の挨拶に始まり、皆が浮き足立つ。令嬢たちは殿方に視線を向けたりしているが、アニシアには関係ない事だった。



「ねぇ聞いた? 今日は第一王子がいらっしゃっているのよ? 」


「えー! ずっと夜会を避けていたのに? 」


「何でも適齢期だから、いい方を探せって」


「やだ! あっちのドレスにすれば良かった…」



第一王子…?

アニシアは王の顔は見た事はあっても王子の顔は余りみた事がなかった。


いや、確か第二、第三王子の顔は見た事があるが…。

はて、第一王子とは。


そう考えてやめてしまった。自分には関係ない事だ。



「それにしても疲れた…」


飲み物を貰い、アニシアはバルコニーから庭へと出た。


ひんやりした風が心地よい。月明かりを眺めていると… 「ご令嬢が一人では危険ですよ? 」


後ろから声がかかった。


そろりと振り向くと、若い男性が立っていた。

正装の軍服を着ている。となると、兵士なのだろうか?


アニシアがついまじまじと見てしまったら、苦笑いをされてしまった。


「そんなに見つめられると恥ずかしいですね」


「やだ! ごめんなさい! 」


アニシアは急いで謝った。


「美しい令嬢から見つめられると嬉しいですが…」


「お上手なんですね…」


「本心ですよ? 」


「ふふふ…」



自分が見知らぬ人とこんな風に話せるなんて。

アニシアは信じられなかったが、思いの外楽しく感じた。


「さて、戻りましょう。冷えてきた」


「はい……」


少し残念に感じたがホールに戻る事にした。


「お手を…」


差し出された手に一瞬戸惑ったが、アニシアはその手に自らの手を重ねた。





「夢は覚める物よね…」


王宮の夜会から三日。アニシアは自分の屋敷に居た。

屋敷と言っても簡素な物で、それでも一人のアニシアには十分だし、何せ森の中なのでそんな大きな屋敷でなくても良かった。



あの夜会の日。結局お互い名乗らずに別れた。

それは残念だが、サラに睨まれ散々嫌味を言われたのは納得がいかなかった。



「まぁいつもの事なんだけど…」


薬草をゴリゴリとすり鉢で潰しながら、アニシアはあの夜の事をまた思い出した。

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