003 ちびくろ
僕はアレの膝の上に乗るのが気に入っている。
アレはいつも座って四角いのを見て手を動かしているけど僕が近づくとくるっと向きを変える。
勘はいい時と悪い時があるから気が付いていない時は呼べばいい。
膝の上に跳びのるとアレの顔やお腹に手を伸ばしたりするけど、僕が寝転がらないとこてんとされる。そうしないと頭をぶつけてしまう。
僕が寝転がると向きが変わって机の下に僕は隠れる。
居心地がいいから膝の上で寝ているとアレがむずむずし出す。
僕が起きるまでじっとしていられないなんてアレは我慢が足りない。
もっと我慢できるように僕は膝の上で寝る。
膝の上にいる時、偶にアレが爪を調べる。
爪の手入れが悪いとアレの爪や僕の爪を使って爪の手入れをする。
剥がれかけの爪を取ってくれるのはいいけど、たまに少し痛い。
膝の上にいなくても突然、爪を調べてくることがあるから気をつけろって透明なのが言ってた。
綺麗にしていたら何もしないけど、ちょっと喧嘩したり遊んだりして綺麗にするのを忘れるとすぐに見つかる。
爪が長くなりすぎると先っぽをパチンとされるらしい。僕はやられた事はちょっとしか無い。
爪の先っぽがぼろぼろになるとパチンとされた時に痛いって透明なのが言ってた。
毛繕いをするのは気持ちがいい。
兄弟達にするのもされるのも気持ちがいい。
身体が綺麗になるし何となく落ち着く。
毛繕いをしている時に軽く噛みついて遊んだりもする。
小さな兄弟にはいつもくしゃみをしているのがいるけどいつになったら止まるのだろう。
透明なのに聞いても分からなかったけど薬を貰えばいいって言ってた。
薬を貰うにはアレが近づいてきても逃げないようにしないといけないけど、小さな兄弟はすぐに逃げる。
たまに撫でられてるけど、捕まるのは怖いみたいで気が付くと逃げてる。怖くないのに。
アレの毛繕いは兄弟とするのと違う気持ちよさがある。
何が違うんだろう。舌よりも手が大きいから?
うーん、それだけじゃ無い。なんだろう。
分かった、首を綺麗にする時に向きが違うんだ。
兄弟は胸から頭だけど、アレは逆だ。頭から胸に撫でてくれる。
秘密を一つ見つけた。
アレに毛繕いをして欲しくて近づくと身体についた邪魔な草を見つけて取ってくれる。
何か言ってくるけど、怒っては無い。
僕たちに草がつくのは仕方が無い。草のあるところで遊ぶのが楽しいのだから。
手で毛繕いをするのもいいけど、とげとげブラシでするのはもっと気持ちいい。
気持ちいいだけじゃなくて、毛が滑らかになる。
兄弟の鼻水や泥なんかでごわごわになった毛もあっという間に綺麗になる。
気持ちいいから立っているのが面倒でいつもごろんとしてしまう。
ちょっとこそばいこともあるから、そんなときはとげとげに攻撃するけどすぐに逃げられる。
兄弟達はとげとげの気持ちよさを知らない。
とげとげで頭から尻尾の先までやって貰うとすべすべになる。
でも、途中で何度も身体の向きが変わるから眠くなっても眠れない。
お礼に毛繕いをしてあげようとしてもアレの手には毛が無い。
だからとげとげが終わると手にしがみついて爪出して噛みついてしまう。
アレは「痛い痛い」といいながら笑っている。
噛みついていると指を口の中に入れてくるから口に力が入ってくる。
ときどき、やり過ぎて血が出ることもあるけど怒られた事は無い。
透明なのも、その程度じゃ勝てないから頑張れって言ってくれる。
アレはボスより強いから、アレに勝てるようになればボスになれるみたいだ。
でも、ボスには興味が無い。今のボスが誰なのかも知らない。
僕の兄弟達はちょっとだけしか触られたことないから、アレの毛繕いの気持ちよさは知らない。
透明なの達にも毛繕いをしてきたって言ってたからアレは毛繕いが上手いんだと思う。
そんな透明なの達だけど、とげとげの気持ちよさを知っているのと知らないのがいる。
古い透明なのは知らないし、新しい透明なのもみんな知っているんじゃないみたいだ。
兄弟達にも教えてあげたいけど、どうしようかって考えていたらアレが兄弟達をそっと撫でてた。
僕がアレの寝ている布団で寝てたらすぐ下の兄弟が来て一緒に寝てた時に撫でられてた。撫でられてるのに気が付いたら逃げたけど。
小さい兄弟も大きな中のお日様のあたるところで寝てるときに撫でられてた。アレと目が合ったら逃げたけど。
こんなんだから、毛繕いが上手いってこともとげとげが気持ちいいことも、教えてあげてもアレが近づいでもきっと逃げてしまうからまだ教えない。
透明なの達が教えてもたぶん大丈夫。
今はまだアレが毛繕いするのは僕だけでいいと思う。
とげとげブラシは「スリッカーブラシ」と呼ばれている物です。
今回、名前を知らなくて調べてみて初めて知りました。