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Broken wing

空港のロビーでエヴァンはバネッサの肩を抱いていた。絶対勝ったと思った。エヴァンにはかける言葉も見つからない。


「やっぱりなんだって私は1番にはなれないの。ミスコンだって、ディベート大会だって。家でもいつも姉さんが1番」


エヴァンはさらにバネッサを抱きしめた。やっぱり僕がついてきて良かった。ラルフだったらロビーに響きわたるような声で号泣してただろう。警備員に囲まれるかもな。


審査結果に納得はいかなかった。バネッサがブロンドの白人だったら次期ボーカルに抜擢されていたのだろうか。あのバンドが求めるビジュアルに合っていたのはそこそこ歌えるブロンドの方だったのか。その答えは永遠にわからない。エヴァンはバネッサの気がすむまで泣かせてやろうと思った。


結果は先に知らせてあったけど、バネッサの顔を見てやっぱりラルフは号泣した。


「泣かないでラルフ、もういいの。夢見ちゃってたんだ、私。やっと目が覚めた」


そう言いながらバネッサもまた泣いた。


エヴァンはまだ釈然とした気持ちにはなれなかった。でもそれが現実。結果は結果。


「長いあいだありがとうラルフ。エヴァンもつき合ってくれてありがとう。明日出て行くね」


「出てくって? バネッサあなたお金も仕事もないじゃない。ここにいていいのよ」


「それはできない。自分でちゃんと幕引きしなきゃ。でも夢みたいだった。最終選考に残れただけでもラッキーと思わなくちゃ。その思い出だけでしばらく生きていけるわ」


ふたりを残してエヴァンは家に戻った。さすがにちょっと疲れていた。

ソファーに横になってスマホを取り出してあの日撮ったバネッサの動画を見た。街角でいきいきと歌う悪魔娘バネッサ。彼女に泣き顔なんて似合わない。ポチっとしてエヴァンはそのままソファーで寝てしまった。


真っ黒な翼を持った悪魔が現れた。バネッサだった。寝ているエヴァンを見下ろすとニッと笑ってどんどん天空に上昇していった。エヴァンの手からスマホが床にすべり落ちた。


バネッサはジョージアに帰った。父親に謝って「お隣のラルフ」のような「カタギの仕事」に就くべく準備しているんだろうか。黒い翼は根元からもげてしまったのだろうか。

その見習うべき「お隣のラルフ」は昼間はますます熱く法廷で戦い、夜は恋人の腕の中で泣くこともあった。

エヴァンはというと、まだ次の小説を書き出してはいない。『自称小説家、ゲイのフリーターで弁護士のひも』状態に戻っていた。今日もネタを求めて街をぶらぶら、いや散策している。

エヴァンもラルフも口には出さなかったがちょっとした喪失感に苛まれていた。悪魔娘バネッサに振り回された日々、エキサイティングで毎日なにか手応えがあった。あれから1ヶ月もたっていないのに、あの毒舌さえも懐かしいエヴァンだった。


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