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悪魔降臨

「愛してるラルフ!」


ラルフのハガネの肉体を征服してエヴァンは果てた。


「今日の逆転判決を勝ち取る弁論、みごとだったね。さすが辣腕弁護士ラルフ・アンダーソンだよ」


エヴァンは法廷で熱弁を振るう恋人の姿を見るのが好きだった。暇があれば裁判を傍聴した。

最初はエヴァンの傍聴を嫌がったラルフだが、「逆転の巨人」の異名を持つだけあって法廷での彼は夜のラルフとは別の人格になったように辛辣で容赦なかった。


「仕事の話はしないで」


と甘えるラルフの髪を撫でながらエヴァンが囁いた。


「法廷でのキミとベッドのキミとのギャップがたまらないんだよ」


「もう、エヴァンったら倒錯してるんだから」


ラルフはエヴァンの胸に顔を埋めた。


「そういえばもうひとり居たよな」


「え?」


「僕以外にキミの熱弁を凝視してる人物がね。それが怖いほど美人なblack ladyだった」


「女の子になんて興味ないわ」


「ところが彼女の方は興味深々って感じだったよ。まさか身に覚えは?」


「あるわけないでしょ! バカ言ってるとグーで殴るわよ!」


「その鋼鉄の腕で殴られたら新聞の見出しはこうだな。『哀れな被害者の男は脳挫傷と顔面陥没で即死』第一級殺人罪だろうけど自分で弁護する?テッド・バンディみたいにさ」


「エヴァンったら意地悪ばかり」


「魅力的すぎるキミが悪いんだよ」

   

幸せな恋人たちに第2ラウンドを告げるゴングが鳴った。


翌日、ラルフの個人オフィスの電話が鳴った。


「お客様が面会を希望されてますが」


「アポのない来客は断ってくれないか、失礼のないようにね」


「それが名前を言えばアンダーソン氏は会ってくれるはずだと……」


「誰かな?」


「バネッサ・グリーン様と名乗っておられますが……」


「バネッサ? かまわない、通してくれ」


ほどなくノックの音がしてラルフがドアを開けたらひとりの女性が笑顔で立っていた。


「バネッサ!」


「ラルフ! お久しぶり!」


ふたりは満面の笑みでハグし合った。


「あいかわらず大活躍だったわね、きのうの裁判も」


「バネッサ、あなただったのね。傍聴してくれたの?」


ドアを閉め切ったオフィスでラルフは本来のラルフに戻った。


「きのうの傍聴席にいたハンサムさんは恋人? 私の方をチラチラ見てたけど、あれは私に気がある視線じゃなかったわ。敵意に満ちていたわ」


「そうなの! でも恋人じゃないわ、彼は婚約者よ」


「ワオ!」


外から運んでもらったランチをとりながらふたりの話ははずんだ。


「バネッサ、ジョージアのみんなは元気?」


「変わりないわ、みんな元気よ。でもラルフあなた最近帰ってないんでしょ?」


「忙しくてね、いろいろと」


ラルフの顔が曇った。


「それよりバネッサ、見たわよ。おめでとう。準ミスジョージア!」


「もうずいぶん前の話よ。それも準優勝だなんて。ミスと準ミスとじゃ世間の評価は天と地よ」


「そんなことないわ、あなたはますます美人になったわ。で、今回は旅行? エヴァンにも会わせたいわ。今夜食事などいかが?」


「食事もけっこうだけど。実はしばらく泊めて欲しいの」


「え?」


「行くところがないの。パパにカンドーされちゃったの。カードも盗難届出されて使えなくされちゃったし」


「ええっ!」


その夜、ラルフの部屋。


「は、初めまして、ミス・グリーン」


エヴァンの笑顔は引きつっていた。


「正確には初めましてではないわね、ミスター・ギルバート。昨日傍聴席で私を睨んでいたでしょ?」


「まあまあ、とりあえず乾杯しましょう」


とラルフが間に入った。


「最初に言っておくわね、ギルバートさん。私はストレートよ。だからなんの心配もしなくて結構よ。あなたたちの関係にもなんの興味もないし干渉もしないわ。だからどうぞ私にもおかまいなく」


エヴァンは言葉を失った。なんだ? この好戦的な態度は。


「まあまあ、ふたりとも。バネッサは故郷のお隣のお嬢さん、同級生の妹でアタシにとっても妹みたいなものなのよ。仲良くしてね」


「よろしくね、ギルバートさん。ご不満かもしれないけどしばらくここにお世話になるわね」


ラルフがひとりで盛り上げてそれなりにお酒も進んだ頃。


「でもねぇ、故郷の何百というラルフに憧れていた女の子たちが哀れよね。ハイスクールの伝説のスターだったのにね。今でも『逆転の巨人』は地元の誇りよ。あはは、逆転したのは判決だけじゃないけどね」


「ちょっと、飲みすぎよバネッサ」


「しかもこんなに甘いルックスのハンサムさんが夜は逆転して猛々しいケダモノに変身しちゃうらしいし。見かけによらないものね」


「悪いけど僕は失礼する! もうがまんできない」


席を立ったエヴァンは部屋を出た。ラルフは後を追いかけた。


「待ってエヴァン、ごめんなさい。彼女、悪い娘じゃないのよ」


「少なくとも僕の人生で出会った女性の中ではダントツのいちばんで口が悪い!」


「お父様に勘当されちゃっておうちを追い出されたかわいそうな娘なの」


「父親の判断は正しいね!」


「そんなこと言わないで、もう少しがまんして。バネッサともちゃんと話すから」


「あんなヤツとはまともに話なんてできないね」


「バネッサはね、たぶん試しているのよ。ゲイのカップルを。それとひとつ大事なこと」


「大事なこと?」


「彼女を論破するのは難しいと思うの。彼女は学生ディベート全国大会の州代表」


「悪酔いした。帰って寝る。永遠に眠りたい気分だね」


それでもおやすみのキスだけは交わしてエヴァンは帰路についた。




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