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冒険者になった男  作者: 夏月
第一章「冒険者へ」
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冒険者についての説明

 受付で待つ事数分、手に何かを携えた受付の男性が戻ってきた。

「お待たせしました。まずは此方をお受取り下さい」

 そう言い、俺に渡してきたのは四角いカードとペンダントだった。


「それではご説明を。そのカードは冒険者としての証、身分証明書の様なものですね。ご自身の名前、ステータスやランクが記載されています」


 カードを見る。名前、ステータスの他に、Fランクという文字が刻まれていた。


「次にペンダントですが、そのペンダントを身に付けて魔物を討伐すると、その討伐数が分かる様な仕組みになっています。これはご自身のランクを上げる際の参考となりますので、必ず身に付けて魔物を討伐して下さい」


 そう説明されたペンダントを持つ左手には、殆ど質量を感じなかった。

 防具では無い何かを身に付けるというのは邪魔なだけだと思ったが、重さが殆ど無いならまあいい気がした。


「詳しい内容はFランク冒険者の講習で説明されます。丁度三十分後にこの建物の二階、階段を上ってすぐ左の部屋で行われます。ぜひ参加して下さい。参加後の行動は貴方の自由です」

「分かりました。ありがとうございます」

 受付の男性に礼を言い、少し横にある階段を上る。


 俺は冒険者になった。そう思うも、不思議と何も感慨が湧かない。

 それが手続きの簡易さによるものか浮かれる事の出来ない現状によるものかは分からないが、少なくともこの町に着いた時の様な安堵は無い。何故だ。


 いや、いい。そんな事を考える必要は無い。

 とにかく講習を受けて魔物を討伐し、金銭を得なければならない。

 まずは、生きる事だ。


 階段を上り、すぐ左にある部屋の扉を開く。

 すると部屋の中にいた人達が一斉に此方を向いた。


 大よそ二十人はいるだろうか。

 ある者は剣を、ある者は杖を持ち、上は二十台後半ぐらいから下は明らかに十四、五歳程度。武器も防具も、年齢も性別もバラバラだった。


 今ここで行われるのはFランクの講習、つまりここにいる人達は全員Fランクの冒険者駆け出しな筈だ。

 それでも、俺の様な元農民では決して買う事が出来ないだろう武具を持っている人間もいる。


 こんなにも違うものなのか、そう思った。

 狩猟用のナイフ一本しか無い俺は、彼らにどう映っているだろうか。

 いや、仮に良い武具を装備してもこのステータスだ、相手になどされないだろう。


 案の定彼らは此方を向き、俺の出で立ちを見た後、すぐに興味を失って視線を外した。

 まあ、こんなものだ。精々談話する彼らの邪魔をしないように部屋の隅にいよう。


 それから暫くし、これからの講習を受け持つであろう男性が部屋に入ってきた。筋骨隆々で髭を生やし、如何にも戦士といった男性だった。

「さて、Fランク諸君。これより講習を行う」

 野太い声でそう告げられる。自然と全員が講師の周りに集う。

「まず最初に名乗ろう。今回の講師を務めるダグラスだ。宜しく頼む」


 その言葉を聞き、頭を下げる者、腕を組んだままの者など、反応は様々だった。

 ダグラスと名乗るその講師はその反応について特に何も言わず、再びしゃべり始めた。


「この講習は基本的な事しか君達に伝えない。つまりはFランク相当の内容だ。君達のランクが上がればそれ相当の講習をその都度開く。まあ、ランクアップ申請をする際に受付の人間から講習を受けるように言われるだろうから、別にそれは覚えておく必要は無い。この講習は基本的な事のみを伝えるという事だけ分かればいい」


 時間も勿体無いしな、とダグラスさんは豪快に笑いながら言った。皮肉か?


「まず一つ目。君達の中にはこの町の住人では無い者もいるだろう。なので、この町の事について少し触れる。この町にはオルガニスタンの国王である、グインデル七世が住んでいる。勿論、遠くに見える城にな。で、その城を囲うようにして貴族達が住む住宅地がある。これが富裕層だ。当たり前だが俺達には縁が無い。間違ってもそんな場所に行くんじゃないぞ」


 憲兵に殺されるだろうからな、とまたしても笑いながら言った。

 ちなみに、周りは誰も笑っていない。


「で、富裕層を城壁で囲う様にして、その外側にあるのが商業区、工業区、居住区だ。君達冒険者に関係があるのはこの町に家を持つ人間以外、商業区のみとなる。お世話になるだろう店は五つ。冒険者宿、武具店、鍛冶屋、食事処、そしてここギルド支部だ」


 この五つは必ず覚えろ、とダグラスさんは俺達を見回しながら言った。


「冒険者宿は冒険者証を見せれば格安で泊まれる。金が無いだろう君達にはうってつけの宿屋だ。武具店は様々な武器、防具を売っている。自分に合った武器を探せ。鍛冶屋は武器を研いだり、防具を修復してくれたりする。高級な素材を使用している武具ならそれ相応の値段がするが、安い素材なら安く仕上げてくれる。食事処はまあ、自分好みの店を探せ。冒険者宿などの場所に関して分からなければ受付の者に聞くといい」


 死活問題だからな、と告げる。確かにそうだろうな。


「さて、次だ。君達はこれから魔物と戦い、倒した魔物を売って生計を立てなければならない。基本的に魔物の肉は食用になる。部位は生活用品その他の素材になる。当たり前だが、倒して終わりじゃない。では、売る為にはどうすればいいか分かるか?」


 ダグラスさんは一番近くにいる剣士風の男に聞いた。


「ギルドに魔物を運んで解体して貰う、ですよね」

「その通り。ギルドには魔物を解体、流通するシステムが常備されている。その際に解体料金と徴税が発生するが、徴税率に関しては冒険者のランクによって違う。Fランクの君達にはさほどの税金は発生しないから安心しろ」


「あの、徴税って何ですか?」

 剃っているのか分からないが、スキンヘッドの農民風な男が手を挙げ、ダグラスさんに質問した。

「簡単に言えば、君達の収入の一部でギルドを運営する為の必要な金を集めるといった事だ。年貢と似たようなものだが、まあ、分からなければ個人的に調べろ」

「はあ、そうですか」

 スキンヘッドの男は首を傾げながらもそれ以上は何も言わなかった。


「さて。君達は倒した魔物をギルドに持って来て金を得る、ここまではいいな? しかしFランクの君達程度の実力では下級の魔物を相手にするのがやっとで、実入りは少ないだろう。生活が潤い始めるのは中級の更に中級程度の魔物を安定して倒せるぐらいになってからだ。そしてそれらの魔物と戦うには、4程度のレベルが必要になる」

「そんなにですか!?」

 と、先程の剣士風の男が言った。


「そうだ。ランクにすればD、ステータス能力値でいえば『7』~『8』程度だな。レベル1の君達が相手にする魔物はチーブやフックが主だろうが、これらの魔物を討伐し続けてレベルが上がるのは大体一年程度かかるだろうな。そしてその次のレベルに到達するには、より強い魔物とより多くの月日をかけて戦わなければならない」

 その場にいた半数程度の人間が不安そうな顔をしたり、隣の人間と相談したりしていた。

 冒険者の自伝などの本を読めば大体分かるものだが、彼らは自らの職業について調べなかったのだろうか、などと思ってしまう。

 もしかしたら彼らはAランク、Bランク冒険者の華々しさに憧れただけでこの職業を選んだのかもしれない。


 個人差はあるらしいのだが、本で読んだ限りでは通常レベル2に到達するのに一年。レベル3に到達するのに二年。レベル4に到達するのに二年。合計五年かかってレベル4に到達するらしい。

 その際のステータスは、自身の一番高い能力値で『7』~『8』程度。

 レベルが1上がれば能力値は通常『1』~『2』上昇するが、全部のステータス項目が上がる訳では無い。

 俺が読んだ本の中の一般的な近接戦闘タイプの能力値であれば、『力・8』、『敏捷・6』、『賢力・4』、『巧妙・6』、『体力・7』だった。この能力値であって一般水準以上の生活が出来る権利を得られる。


「私が言うべき事はただ一つだ。精進したまえ。レベルを上げずしてより強い魔物と戦える訳は無いのだからな」

 戦闘も慣れると楽しいぞ? とにこやかに語るダグラスさんの過去は知らないが、何となく戦闘狂だったんじゃないかと思う。


「あの、レベルって魔物を倒す以外には上がらないのですか?」

 杖を持った女性がおずおずと手を上げて言った。

「上がらん。未だ嘗て魔物を討伐する以外でレベルを上げた人間は存在しない」

 その言葉を聞き、女性はあからさまにガッカリして手を下げた。そんな旨い話はないか。


 そうだ。丁度良い機会だし、俺も質問したい事があったので言ってみる事にしよう。


「何故魔物を倒すとレベルアップするのですか?」

 手を上げ、ダグラスさんに質問を投げ掛ける。

 俺が発言するとは思っていなかったのか、或いはそんな質問をして何になるのかと思ったのか、周りの人間が眉をひそめて俺を見た。


 魔物を倒すとレベルアップする。

 子供でも知っている事で、理由は誰も分からないらしい。

 この場でするべき質問では無い事は分かっているのだが、魔物を専門として扱うこのギルドの講師であれば、もしかしたら知っているかもしれない。


「ふむ。何故レベルアップするのか、か。あくまで仮説なのだが……」

 と、髭を触りながらダグラスさんが僅かに沈黙し、やがて考えをまとめたのか口を開いた。


「人間には魔物の魂を得る事が出来る器があるとされている。その器が一定以上の魔物の魂で満たされた時、人間は昇華されるという説がある」


 昇華? 高められるって事か? 何にだ?


「この昇華というのも様々でな。より高等な生き物への昇華、精霊への昇華、神への昇華。どれも荒唐無稽な話なのだが、学者の間では割と認知されているらしい。だが個人的な見解を言えば、魔物には精霊が絡んでいると思う」


 精霊。

 この世界には火、水、風、土の精霊がいる。千年以上前の伝承曰く、自然と共にある、人間には見えない、植物の形をしている、動物の形をしている、人間の形をしている。

 各地にある精霊の伝承は殆ど一致しないので、何が本当なのかは分からない。


 それでも精霊はいる。

 少なくとも十年前、歴代四人目のレベル10到達者であり、Aランク冒険者のオスカー・ゲインは精霊と共に旅をしていると自身が言っていたし、伝承と同じ現象を起こす事が出来た。


 寒害があれば火の精霊が暖め、水害があれば水の精霊が治め、風の精霊は疫病を吹き飛ばし、土の精霊は豊穣をもたらす。精霊は人間を味方し、人間は精霊に感謝し続けている。

 その精霊が人類の敵である魔物と絡んでいると言われても、俺にはよく分からない。


「何故そう思うのですか?」

「そうだな……。君達の中で魔法を使える者は?」

 突然ダグラスさんが皆に向かってそんな事を言った。周りの人間は顔を合わせながらも、二十名の内、八人が手を上げる。その内の一人は男性だ。勿論俺は上げていない。


「ふむ。その中でヒーリングを使える者は?」

 四人が手を下ろした。

「成程。じゃあ肉体強化魔法と治癒魔法の両方を使える者は?」

 全員が手を下ろした。

「まあ、そうなるだろうな。つまり、この二十名の中の四人が肉体強化魔法使いで、四人が治癒魔法使いとなる。この話の後で言うが、魔法を使えないヤツは今手を上げたヤツを覚えておけよ。パーティーを組む時には近接戦闘タイプと中・遠距離戦闘タイプの混成になるだろうからな」


 さらっと大事そうな事を言い、話を続けた。


「Fランク、レベル1で使える魔法は殆ど限られている。肉体強化魔法を使える人間は、大抵二つの魔法を覚えている。その何れもステータス五種類の内の一つを強化する魔法だ。治癒魔法を使える人間は、その名の通り怪我を治す魔法や毒を打ち消す魔法を覚える」


 確か今のこの状況と同じ様に、女性の方が魔法を使える人間の比率が高いんだったよな。


「この魔法というのは今現在でも解明されていない。特定の人間が何故か使用出来、賢力が上がればより威力が増幅し、新しい魔法を何故か覚える事がある。が、一説によると、魔法とは先程言った器に干渉し、増幅させる力らしい。そして、太古から精霊を崇拝する人間は誰しもが魔法を使えたらしい。つまり、魔法と魔物には何らかの因果関係があると思っている。或いはそれが精霊への昇華に繋がるのかもしれん。分かるか?」

「ちょっと待ってください」


 考える。

 魔物の魂を得る器が人間にはある。

 魔法はその器を通して人間に影響を与える。

 精霊を崇めていた人達は魔法が使えた。じゃあ魔法は精霊の力を借りていたのか?


 ステータス、正確に言えば賢力が上がればより魔法の威力が上がるんだよな。

 賢力を上げるにはレベルアップが必要だ。

 レベルアップには魔物討伐、ダグラスさんの話だと魔物の魂が必要で、その魂がある程度人間の中に満たされたらステータスが上がる。


 魔物の魂が人間を強くして、魔法も人間を強くする。

 より強い魔法を使うにはより多くの魔物を倒す必要があって……ん? 魔法と魔物って?


「……何となく、因果関係がある気がする。それぐらいしか分かりません」

 どうにも新しく考える事は時間が掛かるし、理解が不十分だ。

「ま、そんなもんでいい。俺も冒険者として魔物を討伐していた時にお遊び程度で考えたものだ。より詳しく聞きたければ学者にでも聞け」

 と、ダグラスさんは話を終える。


 結局は分からず仕舞いだったな。

 それが分かればレベルアップをより速く、或いは直接魔物と戦わなくてもレベルアップ出来るのではと思ったのだが、残念だ。


「さて、じゃあパーティー編成の話をしよう。君達はこれから魔物と戦い、生計を立てるという事は既に言った。その相手がチーブやフックである事も言った。そしてこの二体は通常三~四人のパーティーで討伐する事になる。何故だか分かるか?」

 ダグラスさんはスキンヘッドの男を見た。

「えっと、一人じゃ討伐出来ないからですか?」

「違う。苦戦はするだろうが、上手く立ち回れば一人でも討伐する事は出来る。パーティーを組むのは危険性の低下及び戦闘、運搬効率を高める為だ」


 いいか皆、よく聞け。

 と、ダグラスさんはこの部屋に来て初めて厳しい顔をしながら話した。


「魔物に敗北する、それ即ち死だ。いいか、君達はただ一度の敗北すら許されない。僅かにでも死の可能性のある戦いは極力避けるべきだ。つまりは、確実に勝つ為には一人で魔物の討伐をするなど自殺行為に等しい。よく考える事だな」

 そのダグラスさんの言葉を聞き、僅かに鼓動が早くなる。俺はパーティーを組む事が出来るのか?

 俺がそう思っている間にもダグラスさんの話は続く。


「で、運搬効率。これは二つ目の話に戻るが、魔物をギルドに運んで初めて君達は金を得る。チーブやフックはそれほど重量がある訳では無いが、それでも一人でギルドまで運ぶのは少々骨が折れる。運搬具を使用すれば三匹程度は運べるだろうが、買う金の無い者もいるだろう。一匹討伐してギルドに運び、また戻って討伐、ギルドに運ぶ。効率が悪い事この上無い。以上がパーティーを組む理由だ。分かったか?」

「パーティー編成はどういう形がベストなんですか?」

 剣士風の男が真剣な顔つきでそう言った。

「一般的には三~四人だな。魔物を引き付け、近接攻撃をする人間が一~二人。近接か中距離で闘う肉体強化魔法使いが一人。中距離か遠距離で闘う治癒魔法使いが一人。繰り返すが、あくまでもこれは一般的な役割分担としての編成であって、正解では無い。ベストなパーティー編成はパーティー毎によって違う。それは自分達で探せ」


 決まった形を嫌うのか思考放棄を嫌うのか、或いは説明のみの時間を嫌うのかは分からないが、ダグラスさんは結局、物事の触りの部分しか話さない。

 出来ればチーブやフックの様々な情報を聞きたかったが、多分無理だろうな。


「さて、ではこれで最後となる。ギルドは成立以後、魔物討伐にのみ特化し、組織されている。長年にわたり培ったノウハウがあり、世間からもそれが周知されている。であるからこそ、魔物に関した困り事は国や村、個人でギルドに討伐依頼を出したりする。しかし、冒険者ランクによっては受けられない依頼もあり、Fランク冒険者への依頼は殆ど無い。繰り返すが、君達の最初の目標はレベルアップだ。レベルを上げ、冒険者ランクを上げれば更なるギルドの恩恵を受ける事が出来る。ここにいる全員がEランクの講習を受ける事を願っているぞ」

 はい! と剣士風の男が元気良く返事をした。それを聞いたダグラスさんが満足そうに頷く。

「以上で講習を終わるが、まだパーティーを組んでいない人間にはこの場は絶好の機会だ。積極的に声を掛けるといい。では、解散」

 数名が、ありがとうございました、とダグラスさんに向けて礼を言った。ダグラスさんはそれを受け、頑張りなさい、と言って部屋から出て行く。


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