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冒険者になった男  作者: 夏月
第一章「冒険者へ」
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ギルド受付にて

「ここでいいんだよな?」

 行き交う人達の多さに多少目を奪われたが、どちらかといえば離れたこの商業区画からでもありありとした存在感を放つ城の方に目を奪われる。

 恐らくはあの城が国王の住む場所であり、であるからしてここがオルガニスタンの首都、カントの商業区な筈だ。


 ようやく、着いた。


 一先ずは安堵。家を飛び出して今日で十日目、路銀も残すところ銅貨が十枚。

 これ以上の旅は正直キツかった。


 周囲を見回す。

 故郷の様な、あんな農業一辺倒で行き交う人間もボロ布を纏う田舎とは違い、目に入るは武具屋、鍛冶屋、道具屋、書店に酒場、小奇麗な服を身に纏う人、人、人。何もかもが違い過ぎる。


 と、足を止めて周囲を見回す俺を、周囲の人間は怪訝そうな顔や不審な顔で見る。

 しかしそれはそうだろう。あの田舎の人間同様、俺もボロ布を身に纏っており、或いは周囲の人間からは難民か物乞いとして見られているに違いない。

 ギルドの場所を聞きたいところだが、こんな格好で町人に話しかけられたら多分、逃げられるか騒ぎを起こされる。それは非常にマズい。

 自力で探すしかないだろうな。そう思い、止めていた足を進めた。




 一時間後、ようやく目的の場所であるギルドを発見した。

「デカい」

 足を止め、外観を見る。

 思わず出た陳腐な一言であったが、これ以上の感想は無いと思う。


 石造りなのは他の建物と同じだが、二階建てのそれは、ある程度均一な大きさである他の建物の三~四倍程の敷地面積があり、規模が全く違う。

 それはやはり、討伐した魔物の解体も請け負っているからだろうか、などと実態も分からずに勝手に思う。だが恐らく、間違ってはいるまい。


 まあいい。とにかく中に入ろう。


 頑丈そうな扉の前まで行き、開け放つ。

 建物内はガラスを通過して降り注ぐ光を受け、どこか神々しく見受けられるが、ゴツイ武器や防具を身に纏う人相の悪い人間がそこかしこにいる辺り、やはりここが冒険者の集うギルド支部である事を認識させる。

 早く要件を済まそう。そう思い、十メートル程先にある受付に向かった。


「すいません、冒険者登録をしたいのですが」

 受付にいる、恐らくは三十を少し超えたぐらいの利発そうな男性に声を掛ける。

「はい、畏まりました。では此方の書類の必要事項を記入して下さい」

 淡々とした口調でそう言い、書類とペンを渡される。

 俺のこの浮いた格好を見ても何も言わない辺り、農民の服装のまま冒険者登録をする人間も恐らくは珍しく無いのだろう。


「失礼ですが、字は書けますか?」

 受付の男性は俺にそう聞いてきた。

 字の書けない農民も少なくは無い。俺もその内の一人と見られたのだろう。


「はい、書けます」

「結構。では記入をお願いします」

 そう言われた後、ペンを取って書類に目を通す。


 その書類は上半分が記入する項目となっており、上から順に氏名、性別、年齢、出身地の四つのみ。

 下半分は冒険者になるにあたっての契約内容だった。その内容とは、


 1.当冒険者はギルドに属する。ギルドとは魔物の討伐、解体、流通を主とした組織であり、国、民間人からの依頼も請け負うが、魔物に関係する依頼のみ受け付ける。隷属する当冒険者もまたその限りである。


 2.当冒険者がギルドに対し害があると判断された場合、当冒険者はギルドより資格を剥奪されるものとする。また、当冒険者に剥奪命令が下った場合は速やかにそれを受け入れる事。抵抗をすればしかる処置が下るものとする。


 3.当冒険者が魔物との戦闘、或いは上記第2項により命を落とした場合について、ギルドの関与する限りでは無い。


 以上、三つになる。


「成程」

 思わず呟く。

 誰にでも分かる様にした、短くて簡潔な内容だったからだ。


 要は、冒険者は魔物だけを相手にし、ギルドに迷惑をかければ追放され、死んでもそれは自己責任という事だ。

 予め書物と噂で知った内容と変わったところは無い。

 俺は素早く項目に記入し、受付の人に書類を渡した。


「お願いします」

「はい、承りました。……ふむ、漏れは無いですね。では確認します。クロード・ウィルスさん、お歳は二十で隣国のイスタ国出身。お間違えは無いですか?」

「ありません」

「宜しい。では次にステータス確認に入ります。この結晶に触って下さい」

「はい」

 掌より少し大きい、透明の結晶を触る。するとその結晶に数値が浮かび上がる。


「はい、結構です。では確認させて下さい」

 受付の男性は結晶を覗き込み、顔をしかめた。それはまあ、そうだろう。

「失礼ですが、ステータスの確認は以前にお済みですか?」

「済んでいます」

 俺の言葉を聞いた受付の男性は増々顔をしかめる。


「ふむ。では、今更必要無いとは思いますが、確認の意味を含めて各種の説明をしましょう。ステータスとは人間の潜在能力を意味します。区分は五つ。『力』は腕力や脚力といった、自らの力で他の物質に影響を与える能力。『敏捷』は己の機敏性。『賢力』は頭の回転の速さ及び、魔力に影響する能力。『巧妙』は物事をどれだけ繊細に扱えるかという能力。そして『体力』は持久力と肉体に受ける衝撃を受け流す能力です」


 受付の男性はすらすらと淀み無く話を進める。


「男女で多少の差異はありますが、通常、レベルが1の人間の各平均能力値は『3』です。そして貴方の能力値は全て『2』。五つのステータスはその数値に依存します。そしてこの数値は、あくまで個人能力の限界数値です」

 受付の男性はここで一旦話を区切り、俺の体を眺め始めた。


「見たところ貴方はかなり体を酷使していた様ですね。そういう環境にあったのだろう事は充分に予想出来ます」

 それを聞き、僅かに身構えてしまう。

 突然何だ。話の延長線か? それとも、素性でも調べようとしているのか?


「ああ、いえ。別にそれがどうという訳ではありません。冒険者になろうなんて人間は後ろ暗い事をしているケースも多分にあります。余程の事で無ければ大丈夫です」

 何か勘違いをしている様だったが、別段どうもしないというのならば問題無いか。


「とにかく、貴方は本来ならもっと力強く、機敏に動ける筈です。ですが、幾ら肉体を鍛えようと、ステータスである『2』という限界数値を超える力を得る事は出来ない。つまりは、ある程度のトレーニングを積んだ『3』という限界数値を持つ人間より、貴方は絶対的に劣る」


 右手で『3』と『2』の数字を交互に表しながら、噛み締める様に俺に言い聞かせた。


「早い話、貴方は常人より力が無く、鈍足。不器用で体力も無い。そして、頭の回転が鈍くて魔法も使えない。これが純然たる事実です。私には貴方が冒険者になるのを止める権限など無い。だが敢えて言いましょう……馬鹿は止めろ。命を捨てる様なものだ。別の道を探せ」

 受付の机に手を付き、睨むように俺を見ながら言った。

 その迫力に俺は僅かに気後れするが、そうは言われても俺の現状はどうにもならない。


 そもそも物心がつき、ステータスを確認した時から、周りの人間からはゴミ扱いされてきたんだ。

 今更そんな事実を突き付けられたからといって、引き下がる訳にはいかない。


 大体、別の道なんてものは無い。

 農家の二男でステータスはゴミ。自分の村でさえ子供のいない家に養子として行く事すら出来なかった俺だ。

 そんな俺を家族はボロ雑巾の様に使い続け、挙句には凶作に遭ったからといって、口減らしとして俺を殺そうとする。

 生きていく上では極々当たり前の事なのだが、だからと言って、はいそうですかと殺される訳にはいかない。


 俺は死にたくない。生き抜くんだ。

 だからこそ村から逃げ、イスタ国を跨ぎ、今現在オルガニスタンという国の首都、カントにいるのだ。


 路銀も無くなりかけている。金が無ければ何も買えない。

 死にたくなければ金を稼がなければ、職に就かなければならない。

 それが例え死と隣り合わせの冒険者であっても、どうにもならない。

 俺を雇う人間なんていない。

 だって俺は、出来損ないなんだから。


 そこまで考えると改めて自分の境遇を認識出来た。即ち、この道しかない。

 受付の男性には申し訳無いが、聞き入れる訳にはいかない。


「他人より劣る。そんな事はずっと前から分かっている事です。俺にはこの道しか無いので、何をどう言われようが冒険者になります」

 彼の目を見ながらそう言った。


「……左様ですか。であれば、これ以上は何も言いません」

 受付の男性は僅かに嘆息した後、改めて俺が記入した書類を手にした。

「書類を受理致しました。これより貴方は冒険者となります。只今証明書を発行しますので少々お待ち下さい」

 そう言い、記入済みの書類を持って何処かに行った。

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