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ご先祖様は聖騎士  作者: 剣の舞姫
第一章~旅立ち編~
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第二話 「試験結果」

お待たせしました! 第二話投稿です。

ご先祖様は聖騎士


第1章~旅立ち編~

第二話

「試験結果」


 実技試験を終えたアルフォンスは1時間の休憩を挟んだ後、最後の試験となる面接を受ける事になっていた。

 もっとも、試験で一番重要視されているのは先の実技試験なので、この面接はあくまで形式的なもの、殆どの受験者は実技試験の結果によって冒険者になるのか事務職になるのかが決定される。

 なので、アルフォンスが受けた面接は5分と掛からずに終了し、今はギルドのロビーで結果を待っている所だ。


「アル~」

「お、姉貴か」

「うん! 結果発表をしにお姉ちゃん参上!」


 漸く結果が出たらしく、その発表にミゼリアが来た。

 彼女の様子を見るに、恐らくは合格していると見ていいのだろうが、やはり実際に聞きたいものなので、早急に結果発表を促す。


「それで、どうだった?」

「……うん! おめでとうアル! 今日からアルは冒険者の一員だよ!」

「っ! ぃよっしゃあ!!」


 結果は合格。これでアルフォンスは今日この時より冒険者として世界中を旅して、時に戦いの中に身を置く事となる。

 しかし、大喜びするアルフォンスは、彼を微笑ましげに見つめていたミゼリアの表情が少しだけ曇っている事に気付かなかった。

 それは、これから旅に出る弟が心配なのだとか、暫く会えなくなるから寂しいだとか、そういった感情によるものではない。もっと複雑な、まるで何かを恐れているような、そんな感情によるものだ。


「それでアル、ちょっとアルに会いたいって人が居るの…来てくれる?」

「あん? 誰だよ」

「来てみれば判るよ」


 ミゼリアに案内され、ギルド3階にある職員の仕事場、その更に奥にある豪華な造りの扉の前まで来た。

 扉の上にあるプレートにはギルド長室の文字、つまりこの部屋はこのギルドの責任者であるギルド長の部屋という事だ。

 そして、アルフォンスをこの部屋に案内したという事は、アルフォンスに会いたいという人物は、ギルド長という事になる。


「ミゼリア・マーヴェリック事務長です、本日の合格者であるアルフォンス・マーヴェリックをお連れしました」

『入りたまえ』


 部屋の中から聞こえた声、それに聞き覚えがあった。

 否、聞き覚えがあるどころではない。いつも、毎日聞いている声であり、生まれたときからずっとアルフォンスを見守り続けてきた声、それは……。


「失礼します」

「…っ!」


 中に入ってアルフォンスの目に飛び込んできたのは、大きなデスクの向こうに座る壮年の男性、蒼い髪を短く切りそろえた筋肉質の彼こそが、このギルドの長であり、同時に。


「親父!?」


 アルフォンスとミゼリアの実の父親であるゲルギウス・マーヴェリックその人なのである。


「ようアル、今日も寝坊してたみたいだから、朝は会わなかったな」

「お、親父がギルド長だったのかよ…ギルドで働いてるのは知ってたけど、マジか……」


 ゲルギウスはその昔、冒険者として“蒼い剣撃王”という二つ名で世界中にその勇名を轟かせた伝説級の剣士だった。

 だが、そんな彼も結婚し、ミゼリアが生まれたことで冒険者を引退、以降はこの村のギルドでギルド長というポストに着いたのだ。


「それで、俺に何か用事でもあったのか? 態々呼び出して」

「うむ……その、だな」


 本題に入ると途端に父の表情が曇りだし、言葉を噤んだ。

 何か言い難そうにしているものの、意を決して口を開くと、とんでもない事を言い出してきた。


「冒険者にならず、事務員にならんか…?」

「……あ?」


 嘗ての伝説級剣士が、随分と日和った事を言い出したと、この時ばかりはアルフォンスも思わざるを得ない。

 せっかく冒険者として合格して、これからという時に父から、剣士最強の一角でもある男から冒険者ではなく事務員を勧められるなど、何の冗談なのか。


「親父、そりゃ何の冗談だ?」

「……そうだな、確かにお前にしてみれば性質の悪い冗談にしか聞こえんだろう、だがミゼリアの事を考えるとな…」

「姉貴の? それってやっぱ、姉貴が冒険者から事務職になった事と何か関係あるのか?」

「……ああ」


 見ればミゼリアも何かを思い出したのか青褪めた表情でアルフォンスを心配そうに見つめている。

 いったい何があったのか、今まで何一つ教えてもらえなかったが、察するに父はミゼリアに何があったのかを知っているらしい。


「教えてやりたいところだが…すまんな、こればっかりは国王の許可が無ければ話すことはできん」

「…おいおい、姉貴が冒険者辞めた理由が国家機密級だってのかよ」


 本当に何があったのかは知らないが、どうやら国家機密級の、本気で不味い出来事があったのは予想できる。

 だけど、それでもアルフォンスの考えは変わらない。せっかく冒険者になれて、姉の分も冒険者として頑張ろうと決めたのだから、考えを変えるわけにはいかないのだ。


「親父、姉貴、俺は冒険者になるぜ」

「「アル…」」

「姉貴が冒険者辞めた理由なんざ俺程度では知る権利が無いのかもしれない、でもどんな理由があろうと考えを改めるつもりは無い、むしろ姉貴が続けられなかった分まで俺が冒険者として活躍してやるさ!」


 そして、そのついでに姉が冒険者を辞めた理由を独自に調べてみれば、何か分かるだろうし、それを自分が解決してみせれば良い。

 また、いつの日か姉がもう一度冒険者として旅立てるように、弟の自分が何とかしてみせようと意気込んでいた。


「そうか…ならばもう何も言うまい。ミゼリア、あれをアルに」

「……わかった」


 ミゼリアはポケットから何かを取り出すとアルフォンスの右手に握らせて、自身の手でアルの大きな右手を包み込む。

 いつの間にか自分よりも大きくなった弟の手に、頼もしさと、愛おしさが込み上げて来るミゼリアだったが、それを表に出す事無く弟の顔を見上げた。


「これは、私が冒険者だった時に使っていたアクセサリーよ、お守りにして」

「……ペンダント?」


 アルフォンスの手に握られていたのはプラチナの鎖にトップが蒼いサファイアらしき宝石の付いたペンダントだった。

 宝石の中には金色の剣らしき形の紋章(エンブレム)が刻まれており、それ自体が魔力を帯びているようにも見える。


「これ、すっげぇ高いんじゃねぇか?」

「そうだね、売れば一生遊んで暮らせるだけのお金にはなるだろうけど…でも、絶対に売らないでね、それはアル…いつの日か必ずあなたを守ってくれるはずだから」


 どういう意味なのか、それは父も姉も語らなかった。

 だけど、姉がそこまで言うからには逆らわずこの場で首から掛けると気のせいだろうか、一瞬だが何かが聞こえた気がしたのだ。

 まるでこの世界ではない何処かからか頭の中へ直接語りかける様に、女性のような、男性のような、誰かが…何かを…。


「アル? どうしたの?」

「あ、いや……」


 突然黙り込んだアルフォンスを怪訝に思ったミゼリアが問うてきて我に返った。

 恐らくは気のせいだろうという事にしてミゼリアに何でもないと返すと、そろそろ良い時間になっていた。


「じゃあ、俺はそろそろ行くぜ」

「うむ、そうか……アル、気をつけろよ」

「絶対に、死なないで……」

「ああ! 死ぬもんかよ!」


 これから先、暫くは会えなくなるであろう父と姉に精一杯の笑顔を向けて、アルフォンスは部屋を出て行った。

 ギルドから出たアルフォンスが向かうのは村の出入り口、そこからアルフォンスの冒険者としての旅が始まる。

 最初に向かうべき場所は10km離れた所にあるギルド出張所がある村、マイト村。そこでアルフォンスは冒険者として最初の依頼を受ける事になるのだ。


「お…!」


 見えてきた村の門、そこを潜れば村とは暫くおさらばだ。

 最後に振り返り、18年間過ごして来た村を見渡し、頭を下げる。これまで育ててくれて、ありがとう、そして……いってきます、そんな想いを込めて。


「……よし!」


 自然と浮かんでいた涙を拭うと勢い良く振り返って村の門へと走り出す。

 門を出た所でアルフォンスの胸に去来した感傷を振り切り、振り向く事無く走り続けた。いつの日か、冒険者として成長したらまた…帰って来るからと。


「待ってろよ! まだ見ぬ冒険の旅よ! 俺は絶対に親父みたいな最強の剣士になってやるぜ!!」


 勢い良く剣を抜いて目の前に現れた人型のトカゲモンスター…リザードマンのシミターによる攻撃をかわし、その首目掛けて思いっきり刃を振り下ろす。

 一撃でリザードマンの首を切断したアルフォンスは勢いそのままに己が魔力を剣に込めて剣身を蒼い魔力の光で覆う。

 魔力に覆われた片手剣の切っ先を地面に触れさせると、一気に振り上げて魔力の刃を地面へと奔らせた。


「グギャアアアア!」

「遠くから狙っても甘ぇよ!」


 アルフォンスが使ったのは初級魔法の一種、アースザンバーというザンバー系初級魔法の中でも最速を誇る魔法だ。

 魔力の刃を地面へと奔らせることで相手へ土煙の中から刃が現れたようにも見せかける事が出来るので、人間相手には中々通用しないが、知能の低いモンスター相手ならば余程の事が無い限り確実に当てられる。

 当然だが、遠くで弓で矢を引いていたリザードマン・アーチャーは突然発生した土煙の中から一気に目の前に迫っってきた蒼い魔力の刃に対応する事も出来ず、股下から脳天まで真っ二つに斬り裂かれ絶命するのだった。


「ふぅ、リザードマン程度ならこんなもんか」


 いきなりリザードマンとリザードマン・アーチャーが出てきた時には少しばかり驚いたものの、村に居た時から修練で村の外に出ては戦っていた相手だ。

 よっぽど緊張していない限りは簡単に倒せるという自信があったし、それだけの腕はあるという自負もある。


「にしても、中級魔法っての早く使ってみたいなぁ」


 思い出すのは実技試験の時に見た中級魔法だ。

 未だ初級魔法しか使えないアルフォンスにとって次の段階である中級魔法、その更に上に位置する上級魔法、そしてベテランの冒険者でも数える程しか使いこなせないと聞く最上級魔法を会得したいと思うのは当然だろう。

 中にはエルフ族や妖精族などが使う精霊魔法というものや、ドワーフ族などが使う祈祷魔法、人間族の中でも僧侶や神官が使う神聖魔法、既に失われたとされる古代語魔法というものもある。

 因みにだが、一般的な人間族が使う魔法は技術魔法と呼ばれていて、主に剣などによる近接戦闘の補助に使われる事が多く、魔法をメインに使う魔法使い(メイジ)という職の者は戦闘魔法と呼ばれる物を使うのだ。

 もっとも、技術魔法と戦闘魔法とは呼び方に違いがあれど術式としては全く同じ物であり、特に大きな違いというものは無い。


「ま、その内覚える事になるだろうなぁ」


 聞いた話では冒険者として旅して行く中で何処かのギルドが中級魔法の魔法書を管理しているらしく、そこで中級魔法を覚える事になるのだとか。

 当然、上級魔法や最上級魔法も同じで、何処かのギルドに魔法書を保管している場所があるので、そこで覚える事になる。

 そのギルドが何処なのかは原則冒険者の間でも他言無用となっているので、地道に旅をして見つける以外に知る方法は無いのだ。


「んじゃま、先を急ぐとしますかねぇ」


 まだまだ先は長い。

 アルフォンスの旅はまだまだ初日で、始まったばかりなのだ。だからこそアルフォンスは先ほどまでと違い、少しのんびりと歩き出す。

 この先、アルフォンスを待ち受けるであろう様々な出会い、別れ、戦い、それは今のアルフォンスに知る由は無い。

 だけど彼の事だから、乗り越えられるであろう。何故なら、彼は聖騎士の末裔であり、その秘めたる才覚が未だ発展途上で、この先更に磨かれて行く事になるのだから。

次回から本格的に冒険スタート! そして、次の村に到着して早々に……。

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