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あかにー

覚えてないの?

「気が付いた?」

 頭の上から声がする。目を開けてみると眼鏡をかけた女の子がこちらを心配そうな顔をして見つめていた。

「ん……?」

「はぅ」

 俺が声を発するとその子はさっと顔を背けてしまった。突然の明るさと、よくわからない状況で頭がぼぅっとしている。女の子の顔もよく見えなかった。誰だ。


 俺はゆっくりと身体を起こし、周りを確認する。白いカーテンに囲まれているだけで、それ以外の情報は入ってこなかった。しかし鼻にツンとくる消毒液の匂いと遠くに聞こえる生徒の声で、ここが保健室だとわかった。


「……っ」

 さらに言えばカーテンの端から顔をちょっとだけ覗かせ、こちらの様子を伺っている女の子、先ほど俺に声をかけたのが俺のクラスの学級委員だということもわかった。

「委員長」

「あ。気が付いたんだね」

「見りゃわかるだろうが」

「そ、そうだね」

 うむ。

 俺は制服のポケットを確認し、携帯を取り出す。今の時刻を確認する。午後二時。五時限目の途中だ。俺も委員長も体育着だということを踏まえると確かだろう。

 そんな時間になんで俺はこんなところに寝っ転がっているんだ?

「相馬くん?」

 まだカーテンの端からこちらを見ている委員長はなぜか少し顔を赤らめ、おどおどした調子で話しかけてきた。

「あの……えっと……」

 何か言いかけるとどこかに行ってしまった。


 俺のクラスの学級委員ははっきりと物が言えない。なんか風貌が委員長っぽいから、という理由で学級委員に抜擢されたのだった。彼女はみんなを取りまとめる学級委員としての才は無いようだが、確かに顔に合っていない大きめのメガネといい、着崩さずにきちんと着ている制服といい、彼女の背後に揺れるおさげ髪といい、漫画に出てくる頭の良い『委員長』のイメージだった。成績が良いのは確かだが。ちなみに『委員長』というのはもうあだ名として定着してしまっている。


 そんなことを思っていると委員長が戻ってきた。手には水の入ったコップを持っており、それを俺に差し出してきた。

「はいっ」

「ん。ありがとう」

 零さないようにコップを受け取り、横目で委員長の様子を見ながら水を飲みほした。飲んでいる間、彼女はずっとそわそわした様子でこちらを見つめていた。

「……なんだ?」

「えっ?」

 ばれてないとでも思ったのか。彼女はまた頬を赤く染めて顔を反らす。

「なぁ委員長、なんで俺こんなところに寝っ転がってるんだ?」

「えっ? 覚えてないの?」

「んー……」

 思い出そうとしても思い出せない。昼休みまでの記憶は残っている。五時限目の体育の時間に何があったのか思い出せない。

「んーー……」

 頭を抱えて悩む俺に対して、委員長は「えっ?えっ?」とか言いながらどうしようかとあたふたしている。

「覚えてないの?」


 もう一度聞いてくる。とても心配そうな顔だ。もしここで覚えてないとか言ったら委員長はわけもわからず責任を感じてしまうかもしれない。委員長が俺に付き添って保健室にいてくれたのだとしたら恐らく授業中に何かあったのだろう。それぐらいわかれば十分だ。


「いや、大丈夫だ。思い出した」

「ええっ! 覚えちゃってるの!?」

 心配させまいと俺は何事もなかったかのように言った。そうしたらこの反応が返ってきた。どういうことだ?

「あ、あぁ。覚えてるぞ」

「へぇぇぇ……」

 みるみる内に彼女の顔が赤くなっていく。保健室の白いカーテンと委員長の顔で日本国旗のようだった。

 なんだこの反応はっ?

 まだ俺はここに運ばれる前に何していたか覚えていないが、どうやら委員長と何かあったようだ。俺は委員長とは普段から接点があったわけじゃないんだが、なんだろう?

「あっ……あっ……じゃあっ!」

「え?」

 耳まで真っ赤にした委員長はいきなり俺の体育着を掴むと脱がし始めた。なんだなんだなんだっ?

「な、なにやってる!?」

「えっ? だって……汗かいたでしょっ?」

「はっ?」

「汗ふかないと風邪ひいちゃうよっ」

 ええええええ!?

 委員長で俺の身体をタオルで拭き始める。はたはたと押し当てる要領で俺の上半身の汗を拭きとる。確かに俺は汗だくなのだが……何故だっ?

 胸やお腹にタオルを押し当てられる。汗を拭いてもらっていると言えばそれまでなのだが、これがとても恥ずかしい。



 そのあと、これでもかというぐらい汗を拭かれたが、焦りやら何やらで汗は絶え間なく噴き出していた。そして約三十分後、俺は解放された。授業終了のチャイムがなったから良かったものの、これがなければ俺が干からびるまで続いていたのではないか。考えるだけで恐ろしい。悪い気分ではないが……。


「な、なんなんだよ……」

 何故か半裸になっている俺と、息を荒らげている委員長というよくわからない絵が完成されたところで、俺は改めて聞いてみる。

「だって……相馬くん、汗かいてたから……」

「いや…訳が分からない」

 ここまでやられても俺がここまで運ばれてくる前の記憶は戻ってこなかった。仕方ないので観念して聞いてみることにした。

「俺、実は覚えてないんだ。ここに来る前何してたのか……」

「ええっ!!」

「俺、委員長に何か言ったのか? それとも……」

 それを聞いて委員長はふるふると震え始め、今日一番の赤面で、

「し、知りません!」

 とだけ言って保健室を出て行った。

「俺はいったい何したんだっ!?」

 叫んでみたあと気づいたが、この保健室には誰もいなかったのか? 誰かいたらそれこそ大惨事、俺は自宅謹慎を余儀なくされていただろう。誰も来なくて本当によかった。


そう思いながら頭を書くとズンっと頭に痛みが走った。何故か後頭部に大きなタンコブができていた。


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