死霊の街
7 死霊の町
今は走る車のない国道を金色のマシンは激走する。
邪魔な障害物を弾き飛ばして速度を増して激走する。
目指す先は魔神の許、そこに行けば破滅を止める扉があると告げられたから、
それに差し込む鍵は持っている。
それを差し込む者もいる。だから出来るだけ速く行かなくてはならない、その場所に、
地上走行の限界速度、時速600㎞で金色の怪獣はその暗闇の中を突き進む、
しかし首都圏に近づいた都市の中で障害に行く手を阻まれる。それは人間達の群れ、
その道路中に溢れる人間達の群れ、
そんな数千人の人間が道に溢れマシンの行く手を塞いでいる。
しかしそれは生者じゃない、みんな死んでいるのに動いている。
その数はさらに増えいき停車を余儀なくされたマシンに群がり集まってくる。
「なんだ?この連中は一体?」
しかしその新庄の問い掛けに答える者はいない、
皆が見つめるモニターに映る姿を見て納得したからだ。
道を塞ぐため積み上げれたダンプやトラック、そしてその上に立つ巨大な斧を手にした男を、
マシンの行く手を阻んだのは黄昏の魔女と力の悪魔、そしてそれが創り出した死霊達だ。
その湧いて出る死霊達がマシンに纏わりつきその動きを封じている。
上によじ登られて死霊の山に覆い尽くされる。旋回する機関砲、しかし、死霊達にしがみつかれてその動きを封じられる。
「どうするよ?」
その惨状を見かねた大男が状況の改善策を要求する。
「死んでいる者は殺せない…あの魔女はこの街中の人間をあんな死霊に変えたんだ。まるでB級ホラー映画を見ているみたいだね、これが現実とは思えない」
なぜか愉快そうに幸一がその感想をそう述べる。
「そんな悠長な事を言っている場合じゃないぞ、この中には入られないにしても動けない、一体何人いるんだ?こいつらは?」
そう言って新庄が銃を手にしてモニターを見つめる。そこに映るのは死者達の顔、顔、顔、顔、
思わず目を背ける少女達、そんな悪夢の光景など見たくない、
業を煮やして運転席から美沙希の声が届く、
「主砲を撃って奴らを蹴散らせ!」
しかし達彦は悲惨な声で返答する。
「だめだ!出来ない、その主砲筒に潜り込まれた。だから暴発の危険がある」
その返事の代わりに舌打ちする音が聞こえてくる。
「とりあえずマシンを囲む連中だけでも何とかしないといけない訳か…」
そう言って大男は棍棒を握りハッチを開けようとする。
「まだ待つのじゃ、鬼神、いくらお主でもこの数は持て余すじゃろう、まだ出てはならん、あの金の娘がなんとかしおるわ」
その声に応えるように運転席から声が届く、
「分離して変形する。それでマシンの周りの連中を片づける」
それとともに連結部を解除された震動がマシンに伝わる。
そして巨大な斧を携えた力の悪魔は疑わしい存在が出現するのをその目にする。
死霊達を振り払って出現したのは巨大な人型、それはまるでアニメの世界のロボットのような存在だ。
それが突然動き出す。そして剣を握って死霊達を打ち払い始める。
ビルの上からその様子を見ていた黄昏の魔女はその異形の登場に度肝を抜かれる。
「冗談じゃないわ…あんなの反則よ!」
その魔獣を創る存在が言えた義理のないセリフを吐く、
その状況に力の悪魔はトラックの山から飛び降りて、そして邪魔な死霊達を蹴散らし黄金のマシンに詰め寄る。
その全長15メートルのロボット兵器に挑もうとする力の悪魔、それは正気のある者のする事ではない、
その巨大な斧を振り下ろし邪魔者を排除しようとする悪魔、しかし敵はその攻撃にびくともしない、その呪いの力が相殺される。この相手も呪いを受けた存在だと力の悪魔は理解する。
そして巨大な人型が振り下ろす剣をその斧で受け止める。
そして自分の怪力を持っても太刀打ち出来ない相手がいることを知る。
そんな巨大な力に屈服することに絶望する力の悪魔、こんな事は許されるわけがない、だからもっと力が必要だ。その代償に悲しみの感情を捨て去る。恐怖の感情も捨て去る。邪魔だと思う感情はみんな捨て去る。
そして魔石が光輝いた時、その金色のマシンは地面に倒れる。
「冗談じゃないぞ、お前の親父、ありゃまじで怪物だ!」
モニターでその光景を目撃した新庄が思わず叫ぶ、
しかし美沙希も黙って倒れているわけにはいかない、
魔神の許に行く為に血路を開く必要があるのだ。
だから起き上がると握る武器を銃に変える。
それは粒子砲と呼ばれる未知の兵器、力の悪魔に向けてその銃口を向ける。
そしてセレクトを拡散に切り替える。その方が効果があると判断したから、
銃口に溜る光の粒子、それに不吉を感じた力の悪魔は地面を蹴って咄嗟に宙を飛ぶ、
それは正しい判断だったのだ。
その発射された光の粒子は拡散してその射程範囲の物質を粉々に粉砕する。
「すげえ…」
その威力にまた感想を幸一が呟く、
しかし消し去るはずの悪魔に逃げられた美沙希はそれを探して空を見上げる。
そこには巨大な烏に乗る黄昏の魔女、そして跳躍した力の悪魔を回収する。
それに銃口を向ける美沙希、しかし創り出された魔獣に襲われ照準がつけられない、
その隙に大烏はビルの陰に隠れる。その邪魔な魔獣を蹴り飛ばし美沙希は粒子砲をそれに向って発射する。
死霊達もろとも魔獣も消滅する。そしてトラックの山も消滅する。
とにかく血路は開かれたのだ。
そこを通って行くしかない、その変形する人型は装甲車と連結する。
「いくぞ!」
運転席から美沙希が叫ぶ、
そして死体を轢いてマシンが再び動き出す。
しかしそれで終わりではなかったのだ。
前方のビルが倒壊して道を塞ぐ、
砂煙る中には斧を背にしたシルエットが映る。
行く手を阻むためにビルを丸ごと倒壊さしめたその怪力に脅威というより皆は呆れ果てる。
あんなのを相手している暇はないのだ。
止む無く美沙希はマシンを後退させる。
まだ残る死霊達を轢き潰して推進機を逆噴射させる。
しかしそれは魔女の計略だったのだ。
背後のビルが倒壊して退路が絶たれる。
思わず舌打ちする美沙希、粒子砲でビルの瓦礫を破壊してもまた次のビルが倒壊してきて行く手を阻むだろう、
このマシンに空を飛ぶ機能のないことに悔しさを感じて歯ぎしりする。
これは地上を疾走する事を望む自分の気持ちに応えられて作られたマシンだ。
だから飛行の機能はない、
しかし粒子砲で死霊達はその数を減らしている。
さらに倒壊するビルに阻まれてこれ以上数を増やすことはない、
「メガネ!この周囲のゾンビを殲滅しろ!」
それに答えるのは2基の4連装の機関砲、その砲弾は群がる死霊達を動けぬ死体に変えていく、
飛べなければ無理やりにでも飛ぶ、
そう決断した美沙希はマシンの駆動を六足歩行に切り替える。
その6本の脚で立ち上がるマシンはすぐ横のビルをよじ登り始める。
しかその相手の意図に気づいた力の悪魔、マシンがよじ登るビルを倒壊させるために姿を現す。
そこにミサイルが飛来する。
そのミサイルは分解して多弾頭と化して力の悪魔に襲いかかる。その多数の爆発の中で力の悪魔は地面に転がる、
これで屋上に到達するための時間は稼ぐことはできた。
しかし誰も力の悪魔があれで死んだと思っていない、
事実その通り、力の悪魔は立ち上がり忌々しそうにビルを見上げる。
そうしてそこから飛び立つマシンを忌々しそうに睨んで見つめる。
しかしそのミサイルのように飛ぶマシンの速度が急に遅くなる。
巨大な魔獣がマシンに取り付きその爪で機関砲を掴んで大きく羽根を開く、
リリーの言いたげな顔に李源は首を振る。
「あれは鴉の死体を変質させた魔獣じゃ、じゃから消し去ることはできん」
その言葉に無言の希一郎、突然立ち上がると上部ハッチを開いて外に出て行く、
その自発的に行動する少年に驚愕する一同、ありえないと思っていた事が目の前で起きたのだ。
大鴉の背に乗る黄昏の魔女もその脅威と対面する。
「安心しろ、お前を支配しようなんて考えていない、ただ邪魔だと考えている」
その虹色の大剣を手にした少年は、いや虹の王は黄昏の魔女にそう告げる。
「力で私を支配しない?なぜだ。王よ、私の力は不用と判断したか?」
しかし希一郎は笑みを浮かべると、
「あんな怪物でも俺の親父だ。だから面倒を見てくれる奴がいないと困る。理由はそれだけだ」
そして虹の大剣で巨大な鴉の両足を切断する。
そして推進力を取り戻したマシンは再び加速する。
その遠ざかるマシンに向い黄昏の魔女は大きく叫ぶ、
「必ず後悔させてやる虹の王、この私を見くびった事を悔ましてやる!」
そんな魔女の呪祖の叫びは虚空に消える。
大剣を握る虹の王は遠ざかる死霊の街を見つめて涙を流す。
あの死者達の絶望をみんな知っているからだ。
しかしその絶望を創り出した魔女は殺せない、従わせたくない、
そんな事の為に王になったのではないのだ。
自分は祭り上げられるだけで充分なのだ。
あの光景に涙する事が出来る者達に祭り上げられるだけで充分なのだ。
だから自分は決して憎しみに囚われない、
そう決心した希一郎は加速し続けるマシンの上に平然と立って、そしてせまる大都会の夜景を黙って見つめる。
その停電のため明かりの少ない大都市、唯一の明かりは燃える炎、そこに真の敵がいる。
しかし絶望を創り出す者を倒すのは自分ではない、
そんな奴らは自滅する。
殺し合って自滅するのだ。
だからその絶望も受け入れてやる。
その真の敵は魔神ではないのだから、
希一郎が睨む暗黒こそが敵なのだ。
しかし対決の時は今ではない、
でも破滅の後では戦うことは意味を失う、
2人だけで争い合っても何も得る物は無くなるのだ。
そんな不毛は望まない、
相手もそう考えるだろう、
だからこの破滅を止めるのだ。
そう望まない者は1人しかいないのだから、
そんな永遠の地獄などそいつに創らせてはいけないのだから、
そして全てを無に帰すこともさせてはいけない、
存在したいと絶望が自分にすがりついてくるのだから、
やがて速度を落とすマシンは着陸態勢に入る。
ハッチから顔を出したリリーが中に入れと訴える。
その困った顔に微笑んで希一郎はもう1度暗闇の中の大都市を見つめる。
力の悪魔は狂気を帯びて狂い暴れている。
動く死体をさらに動けぬ死体に変え車を打ち壊し、暴れまくる。
それは暴走状態と言っていい状態だ。
その手のつけようのない暴れぶりを上空から見つめる黄昏の魔女、
自然と溜息を洩らす。
あの虹の王には支配されなかった。
それは良かったと思う、
しかし1つだけ命令された事がある。
でもその命令の対象は暴走状態で手がつけられない、
あの男は疲れる事を知らないのだ。
いくらでも力を引き出せるのだから、
それを正気に戻す方法は酒を与える以外にない、
それも少しの量では足りないのだ。
樽ごと飲んでもまだ足りないとぬかすのだ。
自分が背負い込んだ厄介事に黄昏の魔女は頭を抱える。
魔獣を創り出して止めようとしてもあの力の前にすぐに消されてしまうだろう、
まさに最凶の男と言うしかない、
あの虹は首都に行ってしまった。
その後を追わねばならぬというのに逆にここで足止めを食うのは自分達とは笑い話にもなりはしない、
とりあえず誘導するしかないだろう、
黄昏の魔女はさっき見た虹の少年の姿を創り出す。
そしてそれを地上に下ろし暴れる男の前に晒す。
狂気の男の目が光る。
それめがけて走り寄る。
それから逃げるように遠ざけてそして男を誘導する。
ついでに残った死霊も移動させる。
そうやって死の軍団は首都を目指す。
狂気に満ちた力の悪魔を先頭に死の軍団は動き出す。
そして生に群がる者達の許に静かに確実に移動し始める。
着陸したのはレールの上、今は走らぬ電車の線路、それは地下にもぐって都内に通じている。
そこを金のマシンは疾走する。
そのレールが封鎖されているのは承知の上だ。
それを突破できるだけの力はある。
やがて地下にもぐるトンネルの入り口が見えてくる。
鉄の扉で堅く閉鎖された入口が、
そして主砲が発射されその扉が消えさる。
まだ出力半分のメガ粒子砲、それでも威力は絶大な兵器、
そして金色のマシンは地下にもぐる。
その暗闇の中をライトも点けずに疾走する。
明かりはいらない、暗視カメラが全てを映し出しているからだ。
そして崩落するトンネルの前で急停止する。
トンネル内から都心部に侵入されない為の処置だろう、
しかしそんなことは想定内だ。
後退するマシンの主砲が2門同時に発射される。
その光の粒子が瓦礫の山を吹き飛ばす。
そうして自ら開いた入口をマシンは再び疾走する。
「都心内に入った!ここはもう首都だ」
ナビを見つめる達彦が美沙希にそう告げる。
そこは駅のホームのある場所、しかしそこから先はもう進めない、
トンネル自体が完全に封鎖されている。
音波で探知してみると2百メートルが完全にコンクリートで固められている。
「だめだ…ここから先にはもう進めない…」
悲痛な顔で達彦が呟く、
たぶんここが防衛ラインの最前線、この先に進むには地上に出て行く以外に道はない、
その移動手段を6足に歩行に変えてマシンはホームに上がり柱や天井を破壊しながら地上を目指す。
邪魔な物は吹き飛ばして突き進む、その地下鉄の入り口を通れるように吹き飛ばす。
そして地上に現れる。
そこは大きな交差点のある場所、スクランブル交差点、しかし走る車も横断する人もどこにもない、
そこは大きな数字が書かれたビルがひときわ目立つ無人の歓楽街、
燃やされた車、転がる死体、割れたビルの入口のガラス、それがここで起きた悲劇を物語る。
この都内から退去するように命令された者達、それに抵抗する者はみんな虐殺されたのだ。
そんなあまりにも悲惨な光景を見つづけると人の心は麻痺してしまう、それを知る新庄はモニターを消すように達彦に要求する。
達彦は黙ってその要求に従う、
誰も消すことのない火災が起きて街がその炎に照らされる。
それを見るのは2人となった。
操縦する美沙希と李源だけに、
しかし恐怖心のない美沙希にも悲しみの感情は残っている。
そしてその感情が怒りに変わる。
そうでもしないと壊れてしまう、
心が壊れて狂人になってしまう、
それほど悲惨な光景なのだ。
その地面に転がる。死んでいる者達は皆その瞬間に絶望しただろう、
それを1人で引き受けている自分達の王の偉大さを美沙希は知る。
その絶望の瞬間を見させられ続けている。その強靭な精神に脅威すら感じる。
美沙希はそれをなぜか恐ろしいと感じてしまう、そんな感情はもうないはずなのに、
自分たちの王は真に恐ろしい怪物なのかもしれない、
そう考えながら美沙希はマシンを走らせる。
その体がなぜか震える。
その震えはコントロール出来ない魂の悲鳴の証か?
しかしその回答は得られない、もう考える必要はない、
重装備の軍団が目の前で待ち構えているのだから、
もう震えている場合じゃない、
この怒りをぶつける矛先が見つかったのだから。
だから粒子砲の照準を無意識に軍隊に向い合わせる美沙希、そしてトリガーに指をかけた時、
「やめてくれ!」
そんな悲痛な声が操縦席に響き渡る。
その叫びには強制力が込められている。
美沙希は指を動かせなくなり体が再び震え出す。
「どうして!なんで撃ってはいけないんだ?あいつらは敵なんだぞ!あの光景を創り出した連中なんだ。それをどうして?…」
その理不尽に震える体、湧き上がる怒りがぶつける先を求めて美沙希にそう叫ばせた。
「希望を信じる者が絶望を創り出してはいけないんだ。もしお前がそれをしてしまったらあの悪魔達と同じ世界に呑み込まれてしまう、俺を信じてくれるのならそんなことはさせたりしない、お前が怒っていることはよくわかる、それならその怒りを俺にぶつけるがいい、お前の気が済むまで殴られて蹴られても文句は言わない、だからここから離れよう、俺達は殺すために来たんじゃない、止めるために来たんだ。わかってくれ…」
この虹の王は最強の兵器まで人を殺せぬ無能の武器に変えてしまったのだ。
その言葉に抗うことは許されない、
やがて後退するマシン、それを操る美沙希は真の恐怖に思い知る。
その自由を奪われるという恐怖を、
しかし虹の少年の言った事は真実なのだ。
だからもう何も言い返せない、
腹いせにあの少年を蹴り飛ばすしかもう出来ない、
それだけは許された行為だから、
安全地帯と思える場所までマシンは後退していく、
攻撃に対して反撃も出来ないのだから仕方がない、
しかし後退するマシンを操る美沙希は安堵する。
あの怒りと憎しみに囚われようとする自分をあの少年は救ってくれたのだ。
だから魔女にならずに済んだのだ。
あんな妹のような存在に自分はならずに済んだのだ。
自分はまだ金の女王でいられたのだ。だから感謝しないといけない、
だから思いっきり蹴って殴ってその気持を伝えなければ…
その光景を思い浮かべて美沙希は微笑む、
そして金色のマシンは大きな交差点の真ん中でその動きを止める。




