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ミラクルストーンⅢ  作者: 北石 計時朗
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魔神の指先

2 魔神の指先


 悪魔の頭領はこのべースの司令官の前でいらついていた。

「君は私の要請に対して拒否すると言い切るのかね?」

 そして忌々しそうにステッキで床を叩きながら悪魔の頭領はさっきと同じ質問を繰り返す。

「答えはノーだ。何度聞かれてもね、そもそも国際手配されているお尋ね者をかくまってやっているのだ。その事だけで満足できないのかね?ジョージストーン、いや闇世界の帝王か、君をかくまうだけでどれだけのリスクを私が背負い込んでいるのかそれがわからないとは言わせないぞ、君があの組織の大幹部でなかったらとっくにFBIか国際警察にその身柄を引き渡しているぞ、あの犯罪組織の犠牲になった善良な者はたくさんいるのだ。この私の妻や娘のように、その犯罪組織の首領が私に命令などできるかな?だから何度頼まれても答えはノーだ」

 その返答に悪魔の頭領に怒りの感情が蘇る。封印された感情その1つが、

 それを読み取った悪魔の1人、ジョージの背後に立つダークグリーンストーンが行動を起こそうとする。しかしそれは止められる。

「無駄なことはやめろリチャード、この石がある限りお前達の呪われた力は私に及ばない、この魔神が与えてくれた守護の石がお前達の能力を封じ込めるのだ」

 そう告げて不敵に微笑む司令官の手の平には銀の粒子がちりばめられた白い石が乗せられている。

「メタリックホワイトストーン、これは量産された人工石、この石の力は奇跡を封じる能力、だからそんな能力で私を殺そうとしても無駄なのだ。もちろん普通の方法で私を殺そうとしてもこの石はそれからも私を守ってくれる。私はもう忌々しい悪魔共の命令には服従する必要はないのだ」

 その石を忌々しそうに睨みつける悪魔の頭領、この司令官の言っていることは真実だと知っている。あのハイストーンの研究所で人工的に研究され作られた石は魔神の握る多色で無色の石だけではない、あの能力の無効化を研究していたグレーストーンはついに完成させたのだ。これらの石を、そんな絶対の守護の石を、それは能力者にとって脅威と呼べる人工石だ。

「ありがたいことに魔神はこれよりも小さいが同等の力を秘めた石を大量にくれたのだ。このベースの全員がそれを所持している。ここに来たのは選択ミスだな悪魔の頭領よ私達は君たちに手を出さないが君達は私達には手を出せない、だからと言ってここから出て行く事は許さないよ、こんな悪魔を野に解き放つなど私の神が許さないのだ。その破滅の時までおとなしくしていてくれたまえ、その時この守護の力を持たない君達は滅びるのだ。その後で我らの神が創り出す新世界には貴様達悪魔など必要ないのだ。はははっ」

 その怒りに歯軋りする悪魔の頭領、自分があの『魔神』と称する石崎喜久雄の罠に陥った事に気付いてしまう、

「君達の組織のボスは最初から誰も信用なんてしていなかったのさ、あのストーンサークルとは名ばかりの組織で真の組織の名は我々『ストーンワールド』なのだ。その希願者を憎む者だけがその組織に入れるのだ。あの全てを憎む神を信じる者だけが」

 その怒りに震えながらジョージは部屋を後にする。その背後を自分の家族の悪魔達がつき従う、

 そして出てきた部屋からは笑い声が聞こえてくる。そんな自分達を嘲笑う笑いが、

 そう石崎喜久雄は自分の握る暗黒の石さえ信じていなかったのだ。

 その全ての者を憎む代償を差し出した時に自分の石さえも憎んだのだ。

 そんな宿命を憎んだのだ。

 だからあの予言を変えようと決意したのだ。

 あの光と戦う不毛の戦争を世界の破滅としないと決めたのだ。

 それに抗ったハイストーンも自分達もその手の平の上で踊らされていたのだ。

 その全ては奴の自分の思惑通に事が運ぶように、

 その怒りの感情を再び封じ込めた悪魔の頭領はあの魔神に復讐する方法を考え始める。

 その為の打開策はある。

 しかしその為にはあの天使の力を借りなければならないのだ。



 その4人の少女が座るソファーそれに向かい合って座る悪魔の頭領、

「私達はここに閉じ込められているのだよ苦痛の魔女よ、あの君の父親の企みで、だから行動の自由を得るために協力してくれないかね?」

 しかし悪魔の頭領のその提案に希久恵は首を振ると、

「ごめんなさい、そんな行動の自由なんか私達に必要ないのよ、この私が魔神の娘だということだけであの人達は私達に優しくしてくれるのよ、それを望めば気が変になりそうなぐらいの苦痛をあの人達は私に与えてくれるの、よっぽど女に飢えていたみたいね、それに美希子もここが気に入っているみたいだし、あの虹の兄から隠れるのには最適な場所だと考えているのよ、それに李美もここにいる方がいいと言っているし、あの電脳世界に障壁を作られ槍の制御を失ったって言っているの、だから最終手段を行使するにはここにいる必要があると言っているのよ、ここにいたくないと考えているのはこの天使さんだけよ、だから美希子を説得するという無駄な行為を繰り返すの、本当に馬鹿な子だわ、心が子供なんだからしょうがないと思うけど…」

 そんな苦痛の魔女の言葉に顔をしかめて仕方なく悪魔の頭領は天使に話しかける。

「ここからおじさん達が逃げだすのに君の力が必要なんだが…だから協力してくれないか?」

 その問い掛けに首を傾げる多舞、

「おじさん達を消してくれないか、そうすれば奴らに気づかれずにここから抜け出せるのだが…」

 その言葉に頷く多舞、そして笑顔で、

「悪魔のおじさん達はやっと罪を受け入れると思ってくれたの、だから消してあげるの、永遠なの、もう悪魔でなくなったと心が伝えたら戻してあげるの」

 そして悪魔の頭領に手を差し出そうとする。

 その差し出される手をステッキで止めてうろたえる悪魔の頭領は、

「いや、そんな永遠なんてそんな長い時間でなくていいのだ。ここから出られるまででいい、それまでに改心するからそれで手を打ってくれないか」

 しかそその悪魔の頭領の目を見つめて多舞は微笑み、そして首を振ると、

「悪魔は嘘つきだと教えてもらったの、あなたの目は嘘をつく時の目なの、多舞はもう騙されないの」

 そう言って差し出した手を引っ込める。

「ごめんなさい、もう観念したら?悪魔の頭領、ここで破滅を受け入れるのよ李美はそれを止めるつもりみたいだけど私は逆に望んでいるのよ、それが死の苦痛を私に与えてくれるかもしれないから…どうか御期待に答えられなくて本当にごめんなさい、でもここにいる少女達はみんな狂っているのよ、そんな存在にすがるなんて馬鹿だと思わない?貴方が悪魔の頭領と呼ばれるのなら自分でこの状況を変えて見せなさいよ、あのお父様に弄ばれて怒っているのでしょ、だからこんな魔神の指先1つ満足にあしらえないのなら今から無能の頭領と呼ばせてもらうわよ」

 しかしそんな苦痛の魔女の挑発の言葉を聞いても平然としてジョージは、

「君があの男を憎んでいるのは知っているのだ。苦痛の魔女よ、それに一矢報いたいと考えている事も、君に何か考えがあるのだな、この局面が覆る理由を知っているのだな、それは何かね?」

 やがてその右目を光らせ苦痛の魔女はこう告げる、

「好機を呼び寄せるのが私の能力、あの虹が黙って美希子をここに置いておくと考えられる?必ず奪いに来るはずよ、あの男は今頃きっと美希子の事を憎んでいるわ、この自分を捨てた妹を、だから必ずここに来る。いいえ自分では来られない、だからきっと虹の手先に任せるでしょうね、その時が好機なのよ、それがあの男に一泡吹かせる最大の好機、この魔神の指を1本へし折ってやりましょう、それまで待つのよここは居心地いいがいいんだから…」

 その言葉に満足げに頷くと悪魔の頭領は部屋を後にする。

 この苦痛の魔女が呼び寄せる好機、それに乗らない手はないのだ。

 悪魔の頭領はその方法を検討しながら自分にあてがわれた個室に向かう。



 このベースのミーティングルームでは今は隊長格の将官が集められ緊急会議が開かれている。

「魔神からの通告だ。この指令は大統領の命で発令されている。あの2人の少女を死守せよとの厳命だ。ここに彼女らを奪いに来る無謀な輩がいるとの情報を得ているのだ。しかし憶することはない我らには加護の石があるからだ。この石を持つ限り破滅も脅威とは感じられない、だから我らの神を信じるのだ。そして迎撃態勢を整えろ、何人もこの中に侵入させていかん、わかったか?理解したなら返事はどうした?」

「サーイエッサー」

 全ての者がそう答える。

 満足げにその様子を見つめて司令官は笑みを浮かべる。

 あんな奇跡の石の希願者など全てこの世界から消し去ってやるのだ。

 もし自分にそんな石があったならむざむざ目の前で妻と娘を殺される事はなかっただろう、そんな不公平など許せるものか、そんな絶望するのは石を握る者だけではないのだ。

 その全ての希願者を憎む男は自分に託された石を見つめ復讐を誓うのだ。



 しかし美希子の身柄を狙うのは虹の支持者だけではなかった。

 あの基地が見下ろせる山中で石崎は美希子がいると言われたその友好国の軍事基地を双眼鏡で覗いて見ている。

「戦車にミサイル、それに戦闘ヘリに完全武装の一個師団ってところか、だが滑走路がないから戦闘機は飛ばせないか、しかしこの国はいつまであんな連中をのさばらしておくつもりだ?それも金まで払って、馬鹿げているぜ、昔の戦争に負けたからと言ってやりたい放題を黙認するとは政治家って野郎は腰ぬけの馬鹿だぜ」

 そう悪態を吐いて双眼鏡を下すと後ろを振り向きそこに佇む男に問いかける。

「それであいつらと殺りあって勝算はあるか?朴在石、お前が精神を支配した連中は何人いる?どうせ捨て駒だ。かずは多い方がいいのだがな」

 その問いに淡々とした口調で朴が答える。

「およそ100人ぐらいです。あの暴徒と化した連中をそのまま支配しました。そしてそれなりに武装もさせています。しかしこの数であそこに切り込むにはリスクが大きすぎます。あそこは魔神の指先の1本なのです。あそこに囚われている悪魔の頭領ですら逃げ出せない場所なのです。だから正面から突撃しても玉砕するだけです。そんな昔の軍隊みたいな行動はいただけませんな、あんな近代兵器に刀や槍で武装した者達を立ち向かわせても犬死するだけですが…」

 しかしその言葉に笑みを作ると石崎は、

「この国の昔の軍隊は突撃するだけが能じゃなかったんだぞ、それは奇襲と夜襲をかけるのが常套手段だ。それに大和魂って奴は敵を倒すために自分の命を顧みなと言うことだ。その100人に例の物を配分しろ、あのTNTは奴は大威力なんだろ?だから別に何も刀や槍で戦争しろなんて言わないぜ、その武器は人間自身だ。そんな大陸育ちのお前には理解できない特攻精神って奴を見せてやろうじゃないか」

 そう告げられたダークブルーストーンもとい朴在石、共産主義国家から脱出して大陸に渡り独立した貿易都市で犯罪組織を作り出した経歴を持つ、だから武器弾薬の手配はその伝で入手できた。そして石崎が最も強く要求したプラッチック爆弾、しかしその使い道に唖然とする。

「武士道とは死ぬことを見つけたりだ。かっこいいだろ」

 かっこいいどころの話ではない、あの中東世界を震撼させた殉教による自爆テロを組織的に行うなんて考えられない事なのだ。

 「敵の意表を突いたいい作戦だろ?これぞ正に恐怖の軍団だ。あの日が暮れるのが楽しみになってきたぜ」

 そう告げると突然石崎の姿が見えなくなる。たぶん加速してあの兵士達が集合する場所に向かったのだろう、

 あの暗黒の石を握る男、しかしそれは悪魔達の王ではない、それは存在に対する恐怖その者の存在なのだ。

 あの恐怖の王がその頭角を現すのを見て朴在石は震えが止まらない、彼は父親とは別の道を選んだのだ。その支配する方法を変えたのだ。そう力ではなく恐怖で支配する道を、

 その心はあの魔王より純真に暗黒に忠実なのだ。

 そうなるように生み出されたのだ。

 そうなるように育てられたのだ。

 そしてそうなる事を自ら望んでいるのだ。

 その全ての存在を否定する石は世界に最大の恐怖を創り出したのだ。

 それはあの魔神のように全てを憎むのでなく全ての存在を否定する心を与えたのだ。

 だから全ての存在は彼にとって必要の無い物にすぎないのだ。

 そんな彼が暗黒の力を全て得る事が出来たならこの世界は消滅するだろう、

 それは存在する者にとって恐怖でしかありえない、

 それに立ち向かえるのは唯一あの虹の石の王だけなのだ。

 その事に気づいた暗黒の王はは恐怖の力を行使する為に行動する。

 あの魔神の手から虹の妹を奪うのだ。

 あの虹の王が自分に歯向かえないようにその切り札を手に入れて置きたいと考えているのだ。

 それを彼の父親が握っていると知っているのに、そんな事は関係なく…

 彼にとってもう父親さえ必要のない者なのだ。

 そして虹に勝利して全ての存在を消し去った時に彼は真の王になれるだろう、そんな誰もいない暗黒の世界の王に、

 しかしダークブルーストーンはそれが楽しくて仕方ない、

 その暗黒に呑み込まれるのが楽しみなのだ。

 彼は博打と言う娯楽をこよなく愛する。あの時間を飛べる能力を得るために絶望に差し出した代償が常にタイトロープの上にいると言う事だから、そんな不安定な綱渡りが彼に課せられた宿命なのだ。

 その渡る綱は自分で選べる。

 そして今はその真の恐怖の上に立っているのだ。

 それは今は落ちれば暗黒に呑み込まれる恐怖の綱渡り、

 しかしその賭けはかれにとって最大の娯楽なのだ。だから朴在石は笑みを浮かべるとその集合場所に向い歩きだす。

 日没まであと僅か、こんな自分の選択が正しいと信じながら悪魔は歩く、

 そうだ。今まで誰も与えてくれなかった真の博打の楽しさを与えてくれた者の手助けをするために、

 あの魔神や他の大悪魔達でさえこれだけの娯楽を自分には与えられなかった。

 このギャンブルに自分の主をきっと勝利させる。

 そう決心した群青の悪魔は恐怖の王に再び忠誠を誓うのだ。



 その何か所もの検問にそれを幻影を見せることで難なく突破した装甲車はしかし街の中で足止めを食う、

 そこでは暴徒と化した連中が戒厳令を無視して放火や略奪行為を行っているのだ。

 その連中に装甲車は取り囲まれ身動きが取れなくなってしまったのだ。

 しかしそれを鎮圧する為の警察はどこにもいない、いや、燃えあがる警察車両が鎮圧に乗り出した痕跡を示している。

 そして倒れる死体は機動隊員、なぜか皆焼死体となっている。

「炎の悪魔の仕業だ。あの野郎めその力を補給するためにこの街を焼き尽くす気だぞ」

 そう言うのは大男、そのモニターに映る惨状に思わず顔をしかめる。

「ここを突破しないと基地には行けない、しかしこの車は大きすぎるんだ。だから裏道なんて走れない、もうあの暴徒共を殲滅して突破するしかない」

 そう言う宇藤、その狂った連中には幻影の力は通用しない、

「人を殺すのか?あいつらは1時的に我を忘れて暴れているだけだ。だから殺さなくてもいずれ正気に返るだろ、そんな無益な人殺しなんかやめた方がいい」

 そう言うのは羅冶雄、その心が弱い者は狂うという事を知っているのだ。

「でもあいつらはこっちに火炎瓶を投げつけてくるのよ、こっちを殺す気満々なのよ、そうして警察から奪った銃を発砲してくる奴もいる。そんなのでこの車を破壊できないけど、でも癪に障ると思わない?やられっぱなしのやりたい放題なんて…」

 そう言うと絵里は手動で車体上部の機関砲を操作しようとするが、

「待て、あの連中を操っている奴のお出ましだ。この俺達に何の用があるか知らないが懲りない野郎だ。見ろよ、あの薄ら笑いを…俺たちを絶対馬鹿にしてやがるぜ」

 そう言う大男が見つめるモニターに映し出されるのは白いスーツを着た白人の青年、それは暴徒が開ける道を平然と歩いてくる。

 その姿に思わずハッチを開けて棍棒を掴むと外に飛び出す大男、その素早さに誰も止める暇もない、

 そんな大男を見て怯む暴徒達はまるで凶暴な野獣を見る目で大男を見つめる。

「ようこそ我が灼熱地獄に、鬼神よこの惨状に満足していただけかい、この連中はちょっと狂気を植え付けただけで簡単に悪鬼になったよ、こんな連中がうようよいるのだ。正にここは地獄の世界だね、さて君達は虹の妹を連れ戻す為に魔神の指に向かっているのだろ?それなら止めた方が身のためだと僕は思うね、今はこの世界はあの魔神に握られているのさ、だからその指に触れただけで握り潰されてしまうよ、それより僕達と一緒に遊ばないか?あの虹の王の無茶な命令よりその方が楽しめるよ、今ならやりたい放題暴れられるんだよ、その鬼神の血が騒がないかな?」

 炎の悪魔、マイケルはそう言って自分を睨む大男を薄笑いで見つめる。

「貴様!俺達の邪魔をしろと魔神に命じられたのか?それならただで済まさんぞ、この貴様が創り出した悪鬼共を残らず地獄に送り返してやる。もちろん貴様もろともな」

 そして昆棒を振り上げる大男、その気迫に暴徒達はうろたえそして逃げだして行く、

 それをあきれ顔で見つめてマイケルは、

「本物の鬼には敵わないと思い逃げだすとは、悪鬼となっても所詮は人間か…ただの役立たず。まあいいさ、あんな連中はいくらでも量産できるからね、それより僕は別に魔神に命令なんかされていないよ、あの男は組織を抜けて自分の組織を新たに作ったのだからね、だからストーンサークルの最高責任者は今は僕なのさ、あの新たな魔王君が組織を僕にくれたからね、それでこの最高責任者である僕の方針を君達に知らせておこうと思ってちょっと止まってもらっただけさ、その用事がすめば自由を保障してあげよう、あの破滅まであと二週間しかない、おそらく君達はその破滅を止めようと考えているのだろ、そうさ僕達もその破滅の到来は歓迎していないのさ、石崎喜久雄、あの魔神に騙されていたとわかったからね、彼は世界中で希願者を憎む連中をまとめあげた組織を創った。その名はストーンワールド、それは破滅を招いて世界を淘汰しそしてそこに自分達の新世界を創る事を目的とする集団だ。その為には生贄が必要なのさ、そう絶望という名の生贄が、この世界のほとんどの者を絶望させて力を得た魔神は新世界の創造神になろうとしているのさ、そして呆れたことに世界中の国の代表者がいつの間にか奇願者を憎む者達にされていたんだ。あの男は組織をハイストーンに任せて楽隠居を決め込んでいたと思わせて影でそんな陰謀を企んでいたのさ、その背徳と呼べる行為に僕達は許せないと考えているのだよ、だから復讐すると誓った。しかし僕は虹の軍門に下る事はしない、この組織の力であの男の野望を止めて見せると誓ったのだよ、だから僕が提示するのは休戦協定さ、僕達は互いに争わない、しかし協力もしない、この提案を受け入れるなら道を開けようではないか」

 炎の悪魔のその言葉、それは信用されない悪魔の約束なのだ。しかし余裕のマイケル、

 だから装甲車から降りてきた咲石はその余裕に微笑む悪魔を睨みつけて、

「休戦協定?何を馬鹿な事を言っているんだ炎の悪魔、そんな協定を結んだら俺達に手が出せないようにして好き勝手に暴れるつもりだろ、だがそんな言葉で騙されないぞ、現にここを修羅場に変えているではないか、こんな無法を俺達が見過ごすと思っているのか、お前達も俺たちの敵である事には変わりはない、だからそんなふざけた提案を受け入れられるか!」

 そう喚く咲石にしかしマイケルは手でそれを制すると、

「ここを修羅場にしたのは僕ではないよ、ちょっとその規模を大きくしたのは認めるけど、そして君達の王様はこの事を知ったみたいだよ、希恵がその様子を世界の石で見ているのだ。もうすぐメッセージがここに届くよ、あれがそうじゃないかな」

 そう言ってマイケルは高速で飛来する物を指し示す。

 それは紙飛行機、その星の見えない闇の中を燃える炎に照らされて咲石めがけて飛んでくる。

 それを掴むと咲石は開いてその中の文面を読む、

『協定を受け入れろ、こいつらと遊んでいる暇はない』

そのメッセージには石橋希一郎の署名がある。

「使者としてジャックを君達の拠点の屋敷に送ったのだよ、この僕の提案を携えさせてね、彼は虹に支配されないからね、暗黒の色が混ざった石を握っているから、それにしても君たちの王様は実に寛大だ。そして賢明でもある。僕だって彼なら忠誠を誓ってもいいと思うがそれが出来ないのが残念だ。この僕だって王家の子孫、その誇りもプライドもあるからね」

 咲石は手にした紙切れを思わず握り潰す。

 王の命令は絶対だ。それに逆らうことは自分には出来ない、

「ああ、それから黄昏の魔女と悪魔の頭領はこの休戦協定とは無関係だから、この組織は今分裂状態なのさ、あの恐怖の王がもっと僕を後押ししてくれたら状況は改善するのに、まあ彼は世界に恐怖を振りまく存在だから組織の事なんてもう気にしてないだろうからね、まあ悪魔の頭領と黄昏の魔女の対処は君達次第だ。出来れば彼らも僕と同じ考えならいいんだけどね、とにかく魔神と事を構えるならどこかでまた逢うかも知れない、その時は協定の事を忘れないでくれたまえ、それでは君たちの前途に絶望を願いそしてこれで会見はお開きにするよ、でもくれぐれも魔神の指には気をつけたまえ、それだけは忠告しておくよ、ではごきげんよう」

 そう語り終わるとマイケルの姿は炎の中に消え見えなくなる。

 手で握り潰した紙切れをその燃える火の中に投げ込むと咲石は、

「悪魔と戦う事も許されないとは、いや、そんなことはあいつの眼中にはないのだ。あの何も欲しがらない王は平和すら求めない、そうして今欲しいのは妹の命だけとは…そんな事は馬鹿げているを通り越して呆れ果てる。どうしてあんな奴の為に俺達が苦労しなくてはいけないのだ?」

 いつの間にか暴徒の群れがいなくなった路上を見つめて大男がそれに答える。

「あの虹の少年を信じられないのなら降りてもいいんだぜ先生よ、とにかくあいつは俺達の障害を取り除いてくれたんだ。その道を開いてくれた。それも誰も殺さず傷つけずに事を進めて見せたんだ。逆にあっぱれだと俺はそう思うがな」

「……」

 その言葉に無言の咲石、こんな戦闘馬鹿の大男にそんな事を言われては返す言葉も出ない…

 自分だって極力流血沙汰は避けたいと考えているのだ。

 なぜなら人を殺すのではなく助けることを職業に選んだのだから、

 その2人の男は無言で装甲車に乗り込む、

 そしてハッチが閉じられ装甲車は動きだす。

 その燃え盛る車両を蹴散らし死体を踏んで、

 あの魔神の指に向い走り始める。



 その山奥の朽ちはてかけた洋館を木の上から見下ろす影が2つある。

「炎の悪魔の使者が来てから吸血鬼共が屋敷を警護している、だから迂闊に近寄れない、あの存在は私の力でも創り出せないわ、それは血色の石の呪いの産物、あんな不死身の化け物なんて相手に出来ない、だから息子を殺すなんて考えはもうやめたら?あの虹も不死身なのよ、そんな殺しても死なない奴なんてほっといてもっと2人で楽しみましょうよ」

 そう語る黒人女性を睨んで見つめウオッカの瓶をラッパ飲みする男はこう答える。

「あいつが死なないのは好都合だ。死ぬのを気遣う必要なく殴り蹴り続けられるんだからな」

 その返答にリザ=ベラは溜息をつくと、

「殴ったって蹴ったって痛みなんて感じないのよ、そんな無駄な事をして何が楽しいの?」

 しかし空になった酒瓶を投げ捨てると石橋修一郎は新しい酒瓶の封を開けて、

「痛むのは体だけじゃないんだぞ、その心は体より痛みを大きく感じるんだ。この俺のようにな、だから俺を裏切って王様気取りの希一郎なんか許せるわけがないだろ、だから痛めつけてやるんだ。あいつの心を思う存分にな、それにはあいつを殴るよりあいつの家来を殴った方が効果があるんだ。あの屋敷にいる連中を皆殺しにしてやる。それから奴の折檻だ。それには美希子をあいつの目の前で殴り殺すのが1番効果があるのだ。たぶんあいつが俺に酒を運んで来なくなったのは美希子があの事をあいつに話したからだ。だから待つのさ、あいつの家来が美希子をここに連れて来るのを、そして秘密を漏らした裏切り者の俺の娘をいたぶり殺してやるのだ。あいつの目の前でな、お前も許せない奴があいつの家来の中にいるんだろ?それなら互いに利害は一致している。だからそれまで力を蓄えておくのさ」

 また空になった酒瓶を投げ捨てる男に魔女が尋ねる。

「力ってお酒の事?そんなに飲んでよく酔っ払わないわね、不思議な体ね、どう言う作りになっているのよあんたは?」

 更に新たな酒瓶を取り出すと男はこう告げる。

「こいつを飲めば体が壊れ死に近づく、この酒というのは毒なのさ、その寿命が短くなるほど俺は力が大きくなる。今ならお前が創り出す魔獣の1匹や2匹は素手で簡単に殺してやれるぜ」

 そう嘯く小柄な男を蔑んで見つめ黄昏の魔女は、

「死んでしまったら元も子もないわ、とにかくあの山荘に帰りましょう、使い魔を1匹ここに置いておくから何かあったら教えてくれる。それまで2人で楽しみましょう、お酒で酔えないあなたを私が酔わせてあげるわ」

 そう言って巨大な梟を創り出した魔女はそれに乗り男と共に闇の中に消える。



 その場を走り去る装甲車をビルの屋上から見つめてマイケルは両脇に立つ2人の少女に話しかける。

「さて、これで当分の間は障害は無くなったわけだ。この間に組織の体制を立て直さないといけない、あのグレーストーンとオパールストーン、それにメタルグレーストーンは魔神側についてしまったし、あと目ぼしい能力者はサンダーストーンとグレイトブルーストーンしか残ってないのが残念だけど、まあ残りの雑魚共を従えさせるのは簡単だけどね、とにかく岩城ビルに行ってあの連中に組織の支配者が誰であるかわからせる必要がある。それと僕の部下もこの国に全員呼び寄せないとね、ここがメインの戦場になるのだから体制を整えておく必要がある。あの虹の王様は我々を従えようとしないのが好都合だ。僕と希恵は彼が望めば彼のその命令を拒絶出来ないからね、なんせその石に暗黒が混ざっていないんだ。彼が僕に望めばその命令には逆らえない、残念なことだが彼は本当に王様なのだ。だから希恵、君の復讐はしばらくお預けだ。あの虹の傍に血色の魔女がいる限りあそこには近寄れないからね、でもマーガレットは違う、なんせ暗黒の石の模造石を握っているんだ。あの虹の支配を受け入れない石をね、その代り暗黒には支配される。あの恐怖の王様も無欲な存在でよかったよ、全ての暗石の希願者を支配しょうなんて考えてないからね、だから僕達は自由でいられる。この幸運を逃す手はないんだ。出来れば魔神と虹と暗黒が戦い共倒れになってくれればなおさら好都合だ。その時は僕たちが世界を破滅させるのさ、そうだろう?それが理想的だろう、こんな灼熱の炎が世界中の街を、そして人間を焼き尽くすのさ、その時が来るまで力を蓄えとかないといけない、あんな人間達を生贄にしてね」

 そう語る炎の悪魔は再び暴徒と化した連中を見下ろし微笑んでみせる。

「あいつらに私の力を見せつけてもいいの?」

 そう尋ねるマーガレットに微笑みながらマイケルは、

「もちろんそれは構わない、なんせ君達は魔女なのだから、だから人間達に憎まれ呪われなければいけないよ、特にマーガレットは今は魔女の女王なんだから世界中から呪われ憎まれなければいけない、だから試しにあの連中を懲らしめやれよ、その姿であいつらの前に出て行けば必ず君は襲われるから、だから懲らしめるのだ。そうすれば連中は君に恐怖して呪い憎むようになる。この前見たアニメみたいにすればいい、悪い奴はお仕置きよとかいうあれだ。あのヒロインはかっこよかっただろ、そのようにすればいい、あいつらは好き放題に暴れている悪い奴らなんだ。だから君はあのヒロインの少女のようにあいつらをやっつければいいんだよ、でも殺してしまってはいけないよ、あのアニメでもヒロインは悪役をやっつけるだけで殺しはしなかっただろう、でも懲りない悪役はヒロインを憎んで何度も悪事を重ねるのさ、そんな状況が好ましいんだ。そんな君にはね、だからお行き、そして悪者を散々懲らしめるんだ」

 その言葉にこの前見たアニメのヒロインの扮装をしたマーガレットは、

「あのアニメにはヒロインを陰から助けてくれるヒーローがいたの、それはマイケルなの?」

 そんな魔女のその質問に笑顔で頷くマイケル、

「じゃあ行って来るわ」

 その頷きに満足した破壊の魔女はビルから飛び降りて地上を目指す。

「何よ…悪い奴をやっつけろ?その1番悪い奴はあんたじゃないの」

 そういう希恵は地上で繰り広げられる魔法少女の戦いをあきれ顔で見つめる。

「まあそう言うなよ、僕は1番にはこだわるが、その悪の1番の座は辞退させてもらうよ、それは決して名誉ある事じゃないからね、そんな事より見てごらん楽しい見物だと思わないかい、思ったように可憐な少女の登場に悪鬼共は我を忘れて襲いかかろうとしているぞ、弱き者はあんな連中には格好の獲物なのだ。もし彼女が魔女じゃなかったら襲われて悲鳴を上げて犯されて最後には殺されるんだ。それを見ても1番悪いのは僕だと言い切れるか希恵よ、現にそんな目に遭っている少女達は今世界に沢山いるのだよ、だから本当に1番悪い奴なんかいないよ、みんなが悪い、だからこんな世界は灰にした方がいいのだよ」

 そう告げるマイケルの見つめる先で破壊の魔女の魔力におののいた連中が恐怖に退散していく様が見えている。

「こんな風に世界を変えてしまったのは誰かな?それは魔神だけのせいだけだとは言い切れないだろ?こんな状況になってしまったら誰だって悪魔にも魔女にもなれるのさ、所詮は人間という奴らは愚かで馬鹿な存在なんだ。だから焼き尽くしてやるしかない、その力はもうすぐ僕の物になる」

 そうしてマイケルは空を指さし微笑んで、

「我が祖国が飛ばした人工衛星、あれは僕が金を払って飛ばさせた物なんだよ、それには兵器が搭載されている。あの太陽光を集めてそのエネルギーを地上に送射する破壊兵器が、その悪魔の業火と名付けた人工衛星、狙った所を焦土に変える破壊兵器、それの制御が完了した。この僕の意思で稼働するシステム、それは電子制御じゃないから誰の干渉も受けないよ、それを破壊しようとミサイルを飛ばしても迎撃できる。この僕だけの持つ切り札さ、それを試しに使ってみたいけど今はまだやめとくよ、あの魔神にまだ目を付けられると困るからね、あれの開発に携わった奴らは全員焼き殺してある。だからこの秘密を知るのは君だけだよ、希恵よ、この僕がその秘密を君だけに打ち明けた理由を考えてみたまえ」

 地上から空に視線を向ける朱色の魔女、そのマイケルの言う事が事実なら槍の到来より早く破滅を地上に送る事が出来るのだ。この世界の命運を握っているのは魔神だけではないのだ。この悪魔も周到にその準備を整えていたのだ。そしてその秘密を自分だけに語って聞かせたということは…

 思わず希恵はマイケルを抱きしめる。

 それに優しく抱擁返するマイケル、

「あれを使えば君の復讐は難なく果たせる。でもそんなので君は満足出来るか?できないだろう、その憎む相手は自分の手で殺さないと気が済まない、違うかな?希恵よ、ならばもっと力を得るんだ。あの血色の魔女と対等に渡り合えるだけの力を、だから君はもっと呪われなければならない、その為に魔神の用意したカードを集めよう、今はこの国では皆がそれを欲しているのだからね、それを餌に人間達に争いを起こさせ憎まれろ、そして絶望するほどに呪われろ、そうなれば君の石は必ず力を与えてくれるはず。その舞台は僕が演出してあげる。ならば君を妃にしてあげる。その灰塵の世界の中に2人で新しい世界を創るんだ」

「ああ、マイケル…」

 その抱擁し合う2人、燃え上がる炎がその2人を怪しく照らす。

 もう下の騒ぎなどもう関係ない、やはりマイケルは破壊の魔女をただの人形だと思っていたのだ。

 そして選ばれたのは自分だったのだ。

 その虜にしたのは魔女の力か悪魔の意地か、しかしそんなことはどうでもいい…

 その歓喜に震える魔女は愛する者のためにこの身を捧げると決心する。

 このマイケルの為に恐怖に震える人間達を作るのだ。

 それがこの悪魔に力を与えるのだから、

 それが自分の愛の証明になるのだから、

 そして最後に裏切られ焼き殺されても構わない、

 それが憎しみの呪いになるのだから、

 全てを焼き尽くしたいと願う悪魔は愛する者さえ焼き尽くすだろう、

 しかしそれでも構わない、この魔女の呪いは永遠にこの男を苦しめるから、

 だから自分は決して忘れられる事がないのだから、

 やがて抱擁をといて見つめ合う2人、もう互いの意思は通じ合った。

 その2人の見つめる世界はもう灰塵と化している。

 そんな幻想を見つめている。

 雲が晴れて欠け始めた月の光が辺りを照らす。

 そんな地獄の世界を嘆くかのように。



 友好国の基地の中、その宿舎の部屋で4人の少女のうちその2人が話し合いを始めている。

「ごめんなさい、もうすぐ貴女のお兄様の支持者達がここに貴女を迎えに来るようだけど…どうするつもり?もうお兄様には会いたくないんでしょ?この基地の兵隊達の支援をして断固ここに立て篭もる気なの?貴女が何を考えているのかそれを聞かせてほしいのよ」

 そんな希久恵の質問に美希子は微笑むと、

「もう私の使命は終わっているわ、あの扉を開ける事に成功したから、でお残された時間も残り少ない、それに新たな鍵を創り出さないといけないわ、だから最後に奇跡を起こすつもりなの、李美ちゃんも私の提案に賛同してくれた。私達は今までずっと堪えていた絶望の感情を解き放つの、この世界の全てを見つめて絶望する嘆きの魔女もそれに賛同してくれた。その2人は同時に絶望してそして奇跡を起こす。その後でならお兄ちゃんに会いに行ける。鍵となり彼の望みを叶えてあげる。そうしてお兄ちゃんはもう私を愛せなくなる。そんな奇跡を起こして見せるの」

 もう魔女の魔薬も効かなくなってきた苦痛に耐えながらも美希子は微笑んでそう答える。

「ごめんなさい、奇跡を起こす?石の力で?でも絶望なんて故意に起こせるものじゃない、どうしてそんな事が言い切れるの?これから起こる事がわかるとでも言うの?私には何がどうなるかなんてわからない、貴女はあの預言者みたいに預言でも出来るの?」

 その問いかけにまだ微笑みながら美希子は、

「もう用済みになった私をここに魔神が置いているのはどうしてか、それはまだ存在しない者を創り出そうとしているため、それがなければ虹も暗黒も支配出来ないから、だから絶望の時は訪れる。必ず。この残り少ない時間の中で必ず起きる。それを招いたのは他ならずあなたなのよ希久恵ちゃん、ありがとう、そして天使さん、いえ多舞ちゃん、あなたが鍵を創る時は近いわ、あの絶望する太陽の娘をあなたが鍵にするの、そうなれば世界を破滅から救える。あのお兄ちゃんが必ず救ってくれるの」

 その言葉に左目を光らせて苦痛の魔女がまた訊ねる。

「ごめんなさい、その鍵って何なのそしてどうしてお父様はそれを求めるの?」

 その言葉に妖しく光る魔女の瞳、それを見つめて美希子は答える。

「私が開いた虹の扉でお兄ちゃんは王様になった。でもそれは何も出来ないし、したくない無能の王に、あの絶望に耐えるしか能のない無能の王、だから今度はその扉を閉めて真の王者を作らなければならないの、そのために2つの鍵が必要なの、でも魔神にとってその存在は脅威になる。だから自分の企みを邪魔されたくないと考えているの、それどころかそれを利用しようとまで考えている。そうでなければ私達はとっくに殺されていたわ、今は多舞ちゃんがいるから手を出さないけどいつその考えを変えても不思議じゃない、その鍵が出来るまでに抹殺されてもおかしくないの、この私達は危うい立場に立たされている。あなたの力も魔神の指先には通用しない、あなたのお父さんは楽しんでいるのよ、もう勝ちが決まったゲームなんて面白くないと考えているの、なんせ世界の全てを憎んでいるのよ、そんな憎んだ者を簡単に殺そうなんて考えていないの、あがきもがき苦しめて、そして最後に絶望の引導を渡そうと考える。その呪いが今世界を覆い尽くしている。それに一糸報いたいと考えたなら、あなたは自分の兄の許に行くべきだわ、あなたは暗黒の色の混ざりあわない不思議な石を持っている。だから立場は完全な中立、だから虹にも暗黒にもどっちにもつける立場を許された存在、あなたが兄を苦しめたいと願うなら天使の愛する者が鍵になる。どちらにしてもここで私達の運命は分かれるわ、でも大丈夫、あなたの事を友達だと信じているから」

 そして差し出したのはプリクラの写真、それは笑う2人の少女が写る写真、

「私を蝕む暗黒から声が聞こえるの、あの光の女王の声が、それが私に教えてくれるの、その何をするべきかを教えてくれる。だから私は言われたように行動するだけ、それを信じるのなら私を信用してほしいの、あなたも私の事を友達だと思ってくれるなら」

 その写真を見つめ希久恵は自分の持つ写真を取り出す。そして微笑むと、

「ごめんなさい、そうね、あの時は楽しかったわ、一緒に遊んで色々あったけど…私も外に出たのは久しぶりだったの、あの社長が会社に私を閉じ込めていたから、それを外に連れ出してくれたのは貴女、だからお互い束縛から解放された者同士、だから友達てそう言ってもらえるとうれしいの」

 その言葉に美希子はニッコリ微笑むと、

「それなら私を信じてくれるのね、ありがとう、この残り少ない時間に苦痛の魔女の信用を得たのならきっと奇跡は起こせるわ、見てもう残り時間は少ないの、あと数時間で私は消滅してしまう」

 そう言って美希子は服をまくりあげる。

 その胸の部分は大きな穴が開いている。どこまでも暗い暗黒の大きな穴が、

 それを見て絶句する希久恵、この子はもうすぐ蝕む暗黒に呑み込まれてしまうのだ。

 やがて小瓶を取り出しその中身を全部口に含んで飲み込む美希子、そしてまた微笑むと、

「これで苦痛はもう感じない、あの美世さんの薬を全部飲んだから、その副作用も克服できたみたい、だから正気でいられる。その全てはあなたが好機を呼び込んでくれたため、だから私は行動できる。あなたはあの悪魔を利用しなさい、そうすれば兄の許に辿りつける。私を導くのは天使の役目、私は自分の兄に会いに行く、こんな魔神の指先から脱出するの、そうすればまた出会う事が出来る。その為の迎えが来たみたい、ほら外が騒がしくなっているわ」

 その時建物の外から銃声が木霊する。

 その音は次第に数を増やして大きくなる。

 そして爆発音も混ざり始める。

 やがて2人の少女は立ち上がる。

「あなたに幸運を、そして奇跡を」

「あなたにも思いを遂げる奇跡を幸運はあなた自身で呼び込めるから」

 そう言って互いに抱きしめ合う、

 そしてお互いの温もりを感じ合ってそして離れる。

 やがてて希久恵は歩き出す。

 その左目を光らせた苦痛の魔女は部屋を出て廊下を歩く、そして眼帯を外して右目を晒す。

 この石の力が必要なのだ。

 あの悪魔共を従えるためには、

 そしてあの間抜けな悪魔の頭領に指示を出さなければいけないからだ。

 そして部屋に残された美希子は李美を見つめる。そしてその手を引いて立ち上らす。

 そしてポカンとした顔の多舞を見つめる。

「多舞ちゃんしばらくの間私達の存在を消してくれない?そしてあなたも存在を消して、それからこの子を私の向かう場所まで導いてくれない、そこに行けばあなたの最愛の人に巡り合える。だからお願い!早くして、この暗黒が私を蝕む速度が加速していく、もし本当に消えてしまったら元も子もないの、あなたの奇跡を私たちに与えて天使さんお願い!」

 その言葉に悲痛な心、決心の心、勇気の心、そして愛の心を感じた多舞、

 そして立ち上がりにっこり微笑むとこう告げる。

「あなたはまちがってないの、正しいの、だから言われたようにしてあげるの」

 その多舞が触れると2人の少女の姿が消える。

 そして多舞の姿も消えて見えなくなる。

 やがて司令官に命じられ警備兵が部屋に来た時にはもう4人の少女の姿はどこにもなかった。










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