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ミラクルストーンⅢ  作者: 北石 計時朗
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地獄の女王

  16 地獄の女王


 第2展望室は得体の知れない機械やケーブルで埋め尽くされている。

 そんな展望施設内を磯田に先導された一行はその後に続く、

 達彦はその装置の仕組みを瞬時に理解してその身を震わす。

 案内された先には白衣を着た男が薄笑いを浮かべて一行を待っている。

「立石!…」

 咲石はそのにやけ面を見て込み上がる感情と必死で戦う、

 誰も憎んではいけないと王はそう命じたのだ。

「ようこそ槍のこの握りに、この後ろにあるマシンはあの槍の制御装置なのです。槍は隕石ではありません、それは巨大な宇宙船、いや、巨大な奇跡の石なのです。自らの存在を求める巨大な奇跡の石、私はその槍に感情を与えました。それは悪魔の感情、妬み、恨み、憎しみ、怒り、存在に向けられるあらゆる負の感情を宿した最強で最凶の悪魔、それを創り出しました。この装置でのみそれは制御出来ます。この装置を握る者がこの世界の運命を左右出来るのです。そうしないと槍は勝手に悪魔と化してこの世界を滅ぼすでしょう、さて、誰がこの槍を握る資格があるか、それは皆さんで決めて下さい、あの方は御子息にその権利があると考えていたみたいですが、ここで争い合っても構いませんよ、それでこのマシンが壊れれば制御不能になった槍は世界を滅ぼすでしょうから、だから出来れば話し合いで解決してもらいたいですな、私は臆病者の科学者なもので、だから争い事は嫌いなのですよ、さあ、どうぞ」

 立石が指し示すマシン、それが唯一現在は月と地球の狭間で停止した槍を暴走から繋ぎ止める最後の鎖、それを手中にすればこの世界の命運を握った事になる。

 悪魔達や魔女達は誰もがそれを欲しいと思う、それを手にすれば思いのままにふるまえる。

 その神に等しい力を手に出来る。

「気に入らねえ…」

 しかし暗黒の王はそれの所有を望まぬ言葉を吐く、

「あの憎しみの果てにこんな御大層な物をあの親父はこさえていやがっただと?馬鹿馬鹿しすぎるぜ、なんであいつは憎しみなんかに囚われたんだろう?くらださすぎて呆れるぜ、こんな事の為に世界中を大混乱に陥れただと、どう思う虹よ?あの親父は最大の呪いを創り出して息子にそれをかけたんだぜ、そんなのは御免だぜ、だからこいつはお前にやるよ、俺は手を出さない、もう勝手にしろ」

 そう告げられて困惑する希一郎、そんな世界を滅ぼす物なんか欲しくなんてない、だから、

「こんな物はいらない、俺は何も欲しくない、ただ絶望に苛まれない日が来るのが欲しいだけだ。その時が来るのが唯一の希望、それ以外は何も要らない」

 その言葉に目を光らせる2人の男と1人の女、

「君達がいらないというのなら私にも貰う権利があるのだね?」

 ステッキをを突いて悪魔の大統領がそう述べる。

「いや、その権利は僕にある。ジョージストーン、君は組織ではナンバー4だったからね、だから僕の方が立場は上さ、ここは僕に譲るのが筋だと思うよ、その後の君の待遇は悪いようにはしないから」

 炎の悪魔は瞳を燃やして自分の物だと主張する。

「こいつの言う事なんて当てにしない方がいいわよ、あんな世界を焼き尽くす兵器を組織に内緒で作っていたような奴なのよ、こいつが槍を手にしたらあんたなんか一瞬で消されるわ、それより私が預かる方が安心よ、何もしないで管理してあげる。そう一層これはみんなの物にすればいいのよ」

 そんなつもりは気とうもなく蛇を槍に変化させた黄昏の魔女が2人の悪魔を見つめて告げる。

 そして力ずくで決着が着かない三竦みの事態が生じる。

 黄昏の魔女はその力で悪魔の大統領を殺せるが炎に焼かれる。

 悪魔の大統領は炎に焼かれないが誰も殺せない、

 炎の悪魔は黄昏の魔女しか焼けない、

 この3人は戦っても誰も勝者になれない、

 そんな槍を求める者達は睨み合い動けなくなる。

「こんな連中に槍を渡してもいいのか?」

 その様子を呆れたように見つめる石崎は希一郎に尋ねる。

「しかし俺はこんな物は欲しくないんだ!」

 その叫びに笑みを作ると石崎は、

「ならいっそ悪魔と化した槍に自由を与えようか、その制御装置を破壊すれば槍は自由になれるんだろ?こんな世界が滅ぶならもう絶望する者はいなくなる。お前の希望が叶うんだ。願ったり叶ったりとはこの事だぜ、その望みを俺が叶えてやる」

 そして暗黒の剣を手にした石崎は最初に薄ら笑いの科学者を見つめて、

「お前はいろんなおもちゃを作って俺をおちょくりやがった奴だな、許せん奴だ。生かしておいたらあの槍の制御装置もまた作れるだろ?だから殺す」

 しかし全ての攻撃を撥ね退ける能力を持つ科学者はその言葉には怯まずに、

「私を殺す?それは不可能です。どんな攻撃も私には届かない、それに私を殺す事は人類にとって大きな損失になりますよ、あの槍のテクノロジーを理解している者は私しかもういないからです。あなたの叔父は死んでしまいましたから、あの虹のマシンに対抗出来るマシンを作り出せるのは私しかいません、だからあなたにとっても損失になると思いますが」

 その科学者の言葉に幼女が答える。

「マシンはあるの、ここの地下にある。改造すれば宇宙まで行ける性能がある、だからその人はもう必要ないの」

 その言葉に石崎の目は凶暴に煌く、

「なんだ、おい、あいつは人の心が読めるんだぜ、たいした能力だろう、伊達に石崎の姓を持っている訳じゃないんだ。俺の親戚に養女に出された親父の妹、それが赤石の血を継ぐ者を婿にして生まれた娘だ。俺の隠れた従妹だそうだ。それが予言者の銀の石を握っているんだぜ、凄いだろう、そしてもっと凄いのは俺だ。あいつは黒い色を単色で持つ者の心は読めないんだぜ、暗すぎて見えねえだと、でも虹の心も見えねえとさ、あの2人の女の心も見えねえらしい、明るすぎるからだとさ、そんな凄い奴を家来にしている俺にお前のちんけな能力なんかで身を守れると思うのか?命乞いならもっと丁重にお願いしろ、そんな態度だからこうなるんだぜ」

 その胸に突き刺さる暗黒の剣を苦痛の中で茫然と見つめる科学者、その素早い動きを誰も止める事は出来なかった。

「石にはランクがあるんだろ?ならこうなる事は想像出来るだろ科学者さんよ、そんな灰色の石なんかの力が暗黒に通用するはずはないだろ?自分の能力や頭脳を買い被りすぎるからこうなるんだぜ、お前を生かしておいたら害になるだけだ。そこの悪魔達に利用されでもしたら大変だからな、地下にあるマシンは俺が貰うぜ、破滅が来たらそれに乗ってトンズラするつもりだったんだろうがそうは行くか、破滅が来たら虹達と俺達は生き残る。それからが本当の戦いだ。その前に邪魔者は一掃されろ、馬鹿な科学者よ」

 引き抜かれる剣、科学者は吹き出す血を茫然と見つめて、

「素晴らしい…私の創り出した悪魔が…この…世界を…滅ぼす…なんて…なんて…素晴らしい事だ!」

 歓喜にそう叫んで倒れ伏す。

 しかし制御マシンの前に2人の悪魔と1人の魔女が立塞がる。

「待ちたまえ、これを破壊したら世界は滅ぶのだよ、君はさっきこれはいらないと言っただろ?ならもう所有権はないはずだ。だから君にこれを壊す権利はないだろう?」

 炎の悪魔のその言葉に笑みを作ると石崎は、

「ああ、いらないと言った。そして虹にやると言った。でもあいつはこれを要らないと言った。しかし俺はお前達にやるとは言っていない、つまり所有権は俺に戻ってきただけだ。いいんだぜ、力ずくで奪いたいのならそうしても、でももう手遅れだけどな」

 3人の悪魔と魔女が振り向く先には出現した暗黒の魔人がマシンを打ち壊す光景がある。

「な…何という事を!」

 そんな改竄出来ない光景を目にしてジョージは悲痛に叫ぶ、

「お前の呼ぶ裏切り者を地下に送った。あのマシンは俺が手に入れた。もう逃げ場所はないぜ、観念しな悪魔共よ、そして絶望しろよ、なら生き残れる力が得られるかもしれないぞ、見ろよあのモニターを、あの槍とやらはさっそく動き出したみたいだぜ、超悪魔の降臨だ。あれこそが魔神と呼ぶにふさわしいぜ」

 その宇宙空間を現すモニターには動き出す円錐状の物体が映し出される。

 そして止まっていたタイマーがカウントし始める。

「零時丁度にぶつかるみたいだな、気が利いているじゃなえか、これも預言と同じ時間だぜ、後4時間少々だぜ、さあ、お前の出番だぜ、その破滅て奴は今始まった。それを止める事は出来たのにお前がそれを呼んだのさ、それも預言と同じだぜ、おい未来、あのお兄さんはその破滅を止められるか、それが見えるか?」

 しかしその石崎の問いに未来は首を振る。

「光が、とても強い光しか見えないの、だからわからない…」

 その答えに目を光らす石崎は無言で希一郎を見つめる。

「キー大丈夫、止める破滅を、2人いるから出来る。それ、キーは破滅呼んでいない、望まない、違うか?絶望創り出すは恐怖の王と悪魔や魔女、それと戦うが使命、宿命、なら愛を放棄するがよし、失う絶望が奇跡生む、李美と1つになる。愛と嘆きを槍に与える。槍は悪魔から人間に変わる…」

 咲石の腕からもがいて逃れふらつきながら立ち上がる太陽の娘は微笑んで、そして達彦が抱えるノートパソコンを指差す。

「これを接続するのか?電波送信システムに、そんな事をしたら彼女は槍の意識と同化してしまう、出来ないよ、失いたくないよ家族を僕は…君も李美も大切なんだ。だから…」

 微笑む少女は希一郎に告げる。

「命令する。キー早くしろと、時間ない、私の、もうすぐ死ぬ、それまでに奇跡を…」

 その太陽の娘の言う事には逆らえない、だから希一郎は涙を流しながら命令する。

「早く繋げ…」

 その命令に逆らえない達彦、そして涙を流しながら希一郎を睨む、

「俺を憎む事は認める…」

 泣きながら希一郎は達彦に告げる。

 達彦が開いたノートパソコンにはメッセージ、

 『いつまでもあなたをみまもっています』

 達彦は涙をぬぐって作業を始める。

 そのパソコンのコードを握って倒れ伏すリリー、愛する者との決別に絶望する。

 太陽の石は輝いてそしてリリーの姿が暗黒に消える。

 この双子の意思はマシンの中で1つになる。

 その愛する者を失った希一郎はその理不尽に絶望する。

 もう自分が愛する存在はこの世界にはいなくなったのだ。

 そして虹色の1つ黄色い光が希一郎を包み込む、

 失った物は愛すること、それを代償に2つが1つになった意識が強力な電波に変換され塔から槍に送り込まれる。

 モニターを動く槍がその動きを止める。

 そして破滅は止められた。

 月と太陽の力によって、その2つの鍵によって、

 虹がそれを架け橋とした。

 その奇跡に安堵する悪魔達と魔女、そしてそれぞれが虹の集団に攻撃しようと算段する。

 今は暗黒の王に加担した方が得策と判断したからだ。

 炎の悪魔は部下達を呼び寄せようとする。

 悪魔の大統領の前に悪魔のファミリーが現れる。

 黄昏の魔女は槍を構えそして魔獣を創り出そうとする。

 そんな光景、それを目を細めて見つめる石崎、このまままだ終わらないと感じているのだ。

 さっき暗黒に呑み込まれて消えた少女と瓜2つの涙を流す少女が歩み出て、そして床に転がる太陽の石が埋め込まれた髪飾りを拾い上げる。

 そしてそれで長い髪に束ねる。

 首のネックレスの月の石、腕環の雨の石、髪留めの太陽の石が同時に輝き出し眩いほどの光が少女を包み込む、

 その光が消えた時、そこには姿が変貌した少女が立っている。

 銀色、いや透明の髪を束ねた少女、そして閉じていた目を見開く、その虹色の瞳が悪魔達を見つめる。

「み…美希子!?」

 変貌したその姿に希一郎が驚愕する。

「私は美希子であって希来美という存在なの、ややこしいから悪魔達は地獄の女王と呼べばいいわ、貴方達は光の女王と呼べばいいの、この姿に変化したのはこの男が愛す事を失った代償なのよ、1番愛して欲しい存在を愛せない、もう愛する者がいないという見せしめなのよ、これは彼が望んだ事、だから私には罪悪感はないわ、そんなことはどうでもいいわ、それより羅冶雄に多舞ちゃん、よく頑張ってくれたわね、おかげで私はこの世界に永遠に留まれる。あの新たな月の誕生によって降臨する事が出来たのよ」

 しかし不可解な顔になった羅冶雄が尋ねる。

「姉ちゃんなのか?」

 少女は笑顔でそれに答える。

「ええそうよ」

「まだ一カ月も過ぎてないのにそんな適当な理由で現れるなんてなんか変だ。どうゆう理由だ?ちゃんとわかるように説明してくれ」

 混乱する羅冶雄に美希子の姿をした希来美は、

「太陽と月と雨、色を持たない石が3つ揃って奇跡が起きたの、その代償に私の能力は限定されているけど、でも能力の無効化は出来るわ、石の所在は感じられなくなったけど、でも能力のコピーは可能よ、近くにいる者に限定されるけど、降臨した目的は暗黒の侵食を食い止める事、さて、これで説明は終わり、質問はもう受け付けません」

 そう告げて笑いを浮かべる少女は悪魔達に歩み寄る。

「さて、貴方達の能力を無効化しちゃおうかな?暗黒に加担しようなんて考えているんだもの当然ね」

 悪魔達は怖れ慄き逃げだす算段を頭に巡らす。

 唯一人、石崎だけは平然と虹色の瞳を無表情に見つめる。

「貴方は望んだように暗黒の王様になったのね、おめでとう、かな?でもそれは私の敵になったと言う事なのよ、私は暗黒の王様のお妃にはなれないの、ふがいないけど私の王様はお兄ちゃんなの、あれを嫌でも王様にしないといけない、前途多難ね、あまりゆっくり話をしている時間はないみたいだから手短に言うわ、光は必ず暗黒を呑み込む、存在は許される。それを消し去る事は許さない、絶望を希望する者達を集い挑みなさい、希望に絶望する者はそれには負けない、この世界の唯一の黒い染みよ、あの暗黒に汚れた存在よ、真の戦いは今から始まるのよ」

 その言葉に作り笑いを浮かべて石崎は答える。

「虹の妹が地獄の女王の正体だったとは上等すぎるぜ」

 そして暗黒の魔人を創り出すと展望台のガラス窓を叩き割る。

 そこには宙に浮くマシンが出現して出入り口のハッチが開く、

「その宣戦布告は了承した。地獄の女王様よ、でも俺は強いぜ、だからその臆病者をもっと鍛えておけよ、甘い事ばかり言いやがるから家来がかわいそうだぜ、遊びじゃねえ戦争なんだと言い聞かせろ、そうじゃないと遊びにもならないぜ、そいつに健闘という奴を期待しているぜ、じゃあ、あばよ」

 最後にそう告げると石崎達エキスグラメーションの幹部達と突然現れた磯田は浮遊するマシンに乗り込んで闇の中に消える。

「貴方達も逃げた方がいいわよ」

 地獄の女王にそう告げられた悪魔達は各々の方法で塔の展望室から脱出する。

「私達も逃げないと、もう迎えは来ているみたいだから」

 塔をよじ登る金色のマシン、展望室に辿り着きハッチが開く、

「みんな早く乗りなさい、下の展望室の者はもう乗っているわ、あの科学者は愚劣な悪魔と呼ばれた存在なのよ、自分の命が尽きた時に起動する時限爆弾を塔に仕掛けているの、それを解除する時間はないわ、急いで!」

 その言葉に皆は慌ててマシンに飛び乗る。

 それでも動こうとしない希一郎を羅冶雄が強引に担いで最後に飛び乗る。

 4基のエンジンをふかして強引にマシンは宙を飛ぶ、

 その後ろで連鎖的に起こる大爆発、そして魔神の塔は粉々に砕けて崩壊して行く、

 地上に着地したマシン、安全圏まで走って停車する。

 その頭上を挑発するかのように黒いマシンが旋回する。

 葉巻型のそのマシンはあの飛行戦艦の半分くらいの大きさで、武装として多数の砲塔がすえ付けられている。

 しかし戦闘行為は行わず闇夜の中にその姿を消す。

「兵士達を収容しに向かったのよ」

 そう告げると光の女王はハッチを開いて皆に外に出るように促す。

 外に出る皆は異様な光景に沈黙する。

 夜空に輝く三日月が半分に割れているのだ。

「槍が陰になって月を半分にしているのよ、あれの争奪が当面の目的ね、このマシンをもっと改造する必要があるわ、あの宇宙まで行ける性能、それが必要になる。暗黒も悪魔達もそれを目的とするでしょう、あの槍をあそこから遠ざけるのが私達の目的、誰の手も届かない遠い宇宙に解き放つのよ、あの暗黒を中に封じ込めて、今は普通の人間達はほっといても大丈夫、立ち直りは早いから、皆は存在を望んでいるのよ、それを脅かす者は駆逐するのよ、それが貴方の使命なのよお兄ちゃん、だから存在達の絶望を歓迎しなさい、その無念の思いが貴方の力になるのだから、そして行動するのなら早い方がいいわ、魔人よその封印した石を全部吐き出しなさい、それは存在を認める者を選ぶ権利がある。そうすれば内なる暗黒に呑み込まれる事を許しましょう」

 その言葉に歓喜に震える李源、その宿願が叶う日がついに訪れたのだ。

 口を開いて石を吐き出し、そして石は小さな山を作る。

「こんなに封印していたの…かわいそうな子達、これがあれば絶望する者が何人も助かったのに、酷い人ね、魔人と呼ばれて当然ね」

 女王の言葉に石を吐き終えた李源は顔をしかめると、

「絶望を糧とする石達じゃ、主無しを見つければ必ず封印して来たわい、欧州ではこれが災いの元になっておったのじゃ、希願者は善悪を問わず虐殺されたのじゃ、宗教なる教えによって、絶望出来んぐらいの拷問を受けて死んだ奇願者達の石を拾い集めて呑み込んだのじゃ、それで西洋から石はほとんど消えたにじゃ、その我の行為は善意と解釈するがいい地獄の女王よ、こんな地獄の世界の到来を五百年も阻んでいたのじゃ、しかしついに暗黒の石だけは見つけられなかったのじゃ、それが暗黒に封印されているとは気がつかなんだ。迂闊だが寒さの男がそれを取り出し預言者に託したのを見て動けぬ事を選択した事を悔うておる。ならば我が子孫の娘達の悲劇も無かったであろうに、運命とはかにも残酷なものなのか?答えよ女王、この身が消滅する前に我に聞かせよ」

 女王は目を閉じるとこう告げる。

「その問いに答える義務はないわ、貴方は何もしないを選択したのよ、行きつく未来を創造もしないで安逸に世界を見つめて寝て過ごした。私が揺り動かしてやっと目覚めた。それも自分の願いの為にだけ働いた。私を地獄の女王と呼びなさい、こんな世界を創るのに加担した責任は私にもあるから、でも貴方にもある。人は過酷さを全て運命のせいにする。幸福を運命とは感じない、それが当然だとそう思う、だから絶望する者の手に石は握られる。運命なんて最初からないのよ、それは創り出される物だから、あの預言者の言葉が真実にならなかったのがその証明よ、時の流れの渦は抗えば流れが変わる。暗黒に呑み込まれる未来は訪れない、砂時計のように無くなれば裏返せばいい、そこからまた始まるのよ」

 李源は笑う、おかしくて笑う、笑いながら暗黒に呑み込まれて消えて行く、

 女王は李源が消えて残された2つの石の1つを拾い香奈枝に差し出す。

「ストーンマザーよ、貴女の石はこの石よ、鏡の石、これはもう手放せないわ、そして絶望の未来が貴女にも訪れる。でもそれは恐ろしい事じゃないと貴女は知っているでしょ?そうやって石を託して来たのだから」

 小山のように積み上がる色とりどりの石達は次第に消えて行き、そして何も残らなくなる。

「全て持ち主を求めて旅立ったのか?」

 希一郎は石が消えた場所を凝視してつぶやく、

「ええそうよお兄ちゃん、こんな地獄の世界だから絶望する人は沢山いるわ、その仲間を集める事も重要な課題なのよ、むりやり従わす事はしないのなら人望を作る必要があるわ、この人とならどこにでも行ける。王様ならそれぐらいの人望がなければ見捨てられるわよ、この人達みたいな人ばかりじゃないのよ、善も悪も関係ないの、どうすれば存在できるかが重要なのよ、この地獄の世界に存在する事を架せられた貴方はそれの象徴にならなければならないの、ミラクルストーンズは随時会員募集中なのよ、頭数は暗黒より多いのが今は救いね、みんな優秀な能力者達、彼らが貴方を支えている。そして貴方が彼らの支えになるの、誰も殺さないなんて綺麗事は通用しない地獄の世界で存在したいと貴方を頼る。私は貴方の頼りにはならないわ、ふがいなかったら容赦なくぶっ叩き蹴っ飛ばす。地獄の女王は無慈悲なのよ、それも特別に貴方だけにはね、それが嫌ならみんなで考えて方策を立てなさい、頭のいい人もいるんだから意見を聞いて貴方が決めるのよ、私はそれに口出ししない、私の仕事は貴方の教育だけだから、だから頑張ってね、お兄ちゃん」

 そう告げて笑う虹色の瞳を恐怖の目で見つめる希一郎、完全に帰って来た妹は確かに地獄の女王と呼ぶにふさわしい存在に変化している。

「とにかく寒いからマシンに乗ろう」

 薄着の多舞を気遣う羅冶雄がそう提案する。

「夜明け前が一番冷え込む」

 新庄がそれに同意する。

 皆が希一郎を黙って見つめる。

 別に命令されるのを待っているのではない、勝手にマシンに乗り込む自由は誰にでもある。

 気遣いが欲しいだけだ。

 それがなければこの女王の言うように人心はこの王様から離れて行くだろう、

「ああ、そうだな…俺は寒さなんか感じないからわからなかった。みんな寒いのならマシンに乗ろう、そして中で教えてくれないか最善を、そうしないと女王様にぶたれてしまう…」

 その怖そうな声に笑いが起きて、そして皆はマシンに乗り込む、

 王様のキャラは確定した。

 頼りないのにやる時はやる。うっとおしいが憎めない、そんな存在が王様だ。

 それでいいとみんなは納得する。

「とりあえず俺の屋敷に行こう、女房を留守番にさせているんだ。こんなに日を開けて待たせていたら頭から角出しているかもしれん、怖い怖い、絵里ちゃん何か言い訳を考えておいてくれよ、機嫌がよくなったら御馳走を作ってくれるはずだ。みんなが入れる大広間もある。そこで会議も出来るぞ」

 大男の提案に皆が同意する。

 帰る場所も行き場所もない者達ばかりなのだからその提案に賛同して当然だ。

「行こう」

 希一郎がそう告げる。

『行こう』

 皆がそれに答える。

 そしてマシンは動き出す。

 速度を上げて戦場跡の首都から抜け出す。

 福操縦席に座る達彦はノートパソコンを開いて仰天する。

 そこには未知のテクノロジーの理論が表示されて行く、

 その理論を使えば宇宙船だって簡単に作れるだろう、

 彼女達は生きている。

 これは彼女達からの贈り物なのだ。

 早く会いに来てくれというメッセージなのだ。

 早く家族に再会したい、

 達彦は夢中で理論を使い頭の中で設計図を描き始める。

 あの虹に対する憎しみはもう消えている。

 いや憎しみなんか最初からなかった。

 そう感じて自分を誤魔化していただけだ。

 ミラクルストーンズのメンバーは人を憎んではならないのだ。

 憎しみの果てを見た者にはその無意味さが理解出来る。

 憎しみは愛には勝てないのだ。

 愛があれば全ての憎しみは否定出来る。

 全ての憎しみを引き受けると言ったあの少年は偉大な愛の王なのだ。

 誰も愛する事が出来ない愛すべき存在なのだ。

 7つの色は希望の象徴、その色の石を持つ存在は皆に愛されて当然なのだ。

 昇る朝日に照らされる金色のマシン、それを操縦するメイドは笑顔になる。

 今日はクリスマスなのだ。

 あの王様の誕生日でもある。

 訪れぬはずだった今日が始まる。

 魔神に扇動され翻弄された者達が茫然と朝日を見つめる中を金色のマシンは突き進む、

 その希望のマークを誇らしげに晒して走る。

 しかしいつ明日が来ない日が訪れるかはわからない、

 あの恐怖の怪物は闇に潜んで爪を研いでいるだろう、

 そして悪魔達は槍を手に入れんと奔走するだろう、

 この地獄の世界は今日始まったばかりなのだ。

 社会という秩序を失くした人間達はこの世界を生き延びられるのか、

 その運命は自身で決めなくてはならない、

 存在したいと願うならそれを否定する者と戦うしか生き残れない、

 全てを運命のせいにして死んではならない、

 光の女王の言う事は過酷のようだが真実なのだ。

 だから地獄の女王と呼ばれるのだろう、

 彼女はこの地獄の世界を創り出した張本人だから、

 それをどうにかする責任がある。

 その答えの日は来るのだろうか、

 全ては1人の少年に託される。

 そんな全ての希望を握る1人の少年に。










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