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ミラクルストーンⅢ  作者: 北石 計時朗
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人の障壁

14 人の障壁


 夜明け前に城跡を制圧したエキスグラメーションだが突然の異変にその進撃が停止する。

 城跡内にある官庁施設を本部にした石崎達に異常事態の発生が報告される。

「軍団の兵士達が突然発病し行動不能に陥りました。軍医に診断させましたが病気の原因は不明との事です。その感染は拡大して行きどのような医薬品も効果はないそうです」

 そう報告する林劉石、目を光らせた石崎は説明を求めるように群青の悪魔を見る。

「してやられた。と言う事ですな、あの組織にはメンバーでありながら極寒の地にその身を封じていた存在がおりました。病魔の悪魔、またの名をサンタクロースと名乗るその男は病原菌を振りまく能力者なのです。そんな未知の細菌やウイルスをその体内で作り出しばらまく、その生きた細菌兵器と呼べる存在、そいつがあの炎の悪魔はに命じられて我が軍団に病原菌かウイルスをばらまくように指示したのでしょう、この戦いに自分の優位を作り出すために、実に抜け目のない存在ですな、よっぽどあの飛行場での一件を恨みに思っていたのでしょう、今頃さぞ笑っているでしょうな」

 無表情のまま目の前の机を蹴り倒す石崎、そして厳重に保管されている否定銃の入ったケースを取り出そうとする。

「それは思いと止まっていただきたい、もし奴を脅しつけても否定されるだけです。この軍団が使えないのならあの群衆を大量破壊兵器で駆逐すればいいだけです。あ奴とのけりは魔神の塔でつければいい、そこまでは幹部だけで行かなくてはなりませんが、それはあ奴も同じ事、その信者の全てをあの蹂躙の悪魔との戦いで失ったのですからな」

 しかし石崎は納得せず銃を手にする。そして怒声で、

「奴の企みが読めないのか、朴在石、その失った戦力を補填するためにあいつはあの群衆達を新たな信者に変えようとしているはずだ。だから大量破壊兵器を使用してもそれは阻止される。奴らにはそんな能力者もいるんだろ?ならその頭を叩き潰すしかない、あの組織の残党を皆殺しにして来てやる。それを病気で死んでいく軍団員の手向けにしてやる」

 その王の決断に抗えないとさとると群青の悪魔は笑みを浮かべて、

「そうしたいとおっしゃるならお供いたしましょう、あの組織の構成員は百名を超えます。それを貴方様1人で相手するにはちと荷が重い、それに炎の悪魔はこんな事態も想定しているはず。それを突破するというのは容易ではないのです」

 群青の悪魔のその言葉で石崎は手にした銃を元のケースに戻す。

「それなら襲撃はやめだ。あいつの挑発に乗ってやるのはよけいに癪に障る。それよりもあの群衆を皆殺しにしたほうがいい、奴があれを欲するのならなくせばいい、幹部全員でかかれば5万人いようとも数時間で殲滅出来るだろう、今から打って出る。支度をしろ」

 石崎の言葉にそこに集う幹部達が返事しようとする。

 しかし突然の訪問者の出現にその言葉は遮られる。

 突然の来訪者、それは段ボール箱を抱えた1人の少年と天使の衣装の少女、そして修道女と看護師…

 その天使が微笑んで幹部の1人に声をかける。

「希久恵ちゃん久しぶりなの」

 それにどう返事したらいいかわからない希久恵、黙ってその一行を見つめるしかない、

「何をしに来たラジオ?今お前らに構っている暇はないんだ。用があるならさっさと済ませろ」

 凶暴に光る眼で無表情に自分を見つめる石崎に羅冶雄は、

「王様の命令で来たんだ。おまえの友達を助けてやれと言われて、このシスターは治癒の力を持っている。このペットボトルの中をおまえの軍団の発病者達に飲ませろ、それで病は完治する。あの王様は誰も苦しむのも死ぬのも嫌だと言うんだ。この薬が効かない重症者はシスターが自身で癒す。だから群衆達を殺そうとするなと言うんだ。これは貸しでも借りでもない、あの群衆達は自分がなんとかすると言っている。だから手を出すなと」

 その羅冶雄の言葉に笑みを作ると石崎は、

「敵に塩を送るつもりかお前の王様は、なぜ俺が素直に言うことを聞かないと考えないのか?」

 その言葉に無表情に羅冶雄が答える。

「俺が行けばおまえは言うことを聞いてくれると信じている。理由はわからないが…だから俺が来た」

 青竜刀を握りしめた群青の悪魔が羅冶雄ににじり寄る。

 この少年はあの虹よりも自分の王にとって今は危険な存在だと認識しているからだ。

「やめろ、朴!」

 しかし羅冶雄を攻撃する事を石崎が止める。

「今はまだその時じゃない…それはあの虹が真の敵になってからだ…」

 その言葉に群青の悪魔は手にした刃を納めて笑いを浮かべる。

「いいだろう、その虹の提案に乗ってやる。発病した者を収容してある建物がある。そこまで希久恵が案内してやれ、その治療行為を認めてやる。だがこれは借りじゃないぞ、お前達が勝手にした事だ。帰ったら虹の王様にこう伝えろ、腰ぬけは1人でここまでこられない臆病者とな」

 そんな言葉に目に怒りの色を浮かべた羅冶雄は、

「あいつは臆病者じゃない、いずれそれをおまえは思い知るだろう、勇気なんて言葉で表現できない思いがあるんだ。その矛先は全ておまえに向けられる。今ならまだ間に合う、手にした石を暗黒に投げ捨てろ、これは友として最後の忠告だ。次に出会う時はもうそう思わない」

 その羅冶雄の言葉に作る笑いを大きくして石崎は、

「上等だ」

 一言だけで返答する。

「ごめんなさい、こっちよ」

 ドアの前まで進み出てその一行を案内する希久恵、その後ろに黙って一同がついて行く、

 それを見送りながら石崎は赤くなるまで拳を握りしめる。

 その様子を群青の悪魔は笑いを浮かべてただ見つめる。



 虹の使節団が案内された場所は広い宴会施設だった場所、そこに無数の者達が熱に苦しみ呻いている。

「へーっ、厄病神も中々やっかいな疫病を振りまいたようね」

 そう言うと絵美理は羅冶雄が下す段ボールからペットボトルを取り出してその中身を紙コップに注いで患者の1人に飲ませる。

 その効果はてきめんで飲まされた患者は荒い呼吸が落ち着いていき意識が戻る。

「病気の正体がわかれば坑ウイルス薬が瞬時に作れる~あんたがいれば先生は失業ね~」

 そう言って皮肉に微笑む美世に絵美理は、

「へーっ、そう思う?でも私の力も及ばない怪我も病もあるのよ、治りたいと願わない患者や呪われた病には治癒は効かないの、癌の患者なんて私でも癒せない、それを何とかするのがあんた達の仕事、治りたいと願い信じる者しか救えない、神の使徒の出来る事なんてそんなことだけ、あなたが来たのはそんな者を救うためなんじゃないの?」

 その言葉にピンクの魔女は目を細める。

 そこに1人の女が歩み出てくる。

「あのう、重傷で今にも死にそうな女の子がいるのです。お医者様はもう駄目だとさじを投げました。助けてもらえませんか、お願いします」

 その女の哀願に絵美理は首を振って答える。

「へーっ、その子はここで死ぬのが運命なのね、なら私には助けられない、もしそれが出来るとすればあなただけ、行って見てくればその理由がわかる。過去が私に教えてくれる。行きなさいよピンクの魔女、いいえ、妬みの魔女の片割れさん、面白い者がそこいるから」

 その言葉に無言の美世、そして自分を見つめる女に尋ねる。

「その子はどこにいるの~」

 女はお辞儀するとホールの2階の階段を指差して、

「2階にいるんです。事情があって隔離する必要があるので、お願いします」

 その普通の主婦の格好にびっくりマークを2つ付けた女は案内するように2階への階段を昇り始める。

 無言でその後ろを歩く美世、その階段を登り切り廊下を歩いて1つのドアの前で女は足を止める。

「この中です」

 そう言って開かれたドア、その中にいる存在に魔女の瞳が憎しみに染まる。

「あんたは?!」

 そう叫んで見つめる先にもう1人の自分がいる。

「この子が言ったように、私が来た。もう1人の私、その憎むべき存在が…」

 その同じ顔をした女は互いを睨み合う、

 しかしその1人は首を振るとその目から憎しみの感情を消し去る。

「王様に誰も憎んではいけないと言われたの~殺してやりたい奴でも~…ああっ…頭が痛いの~ちくしょう~その子を診てあげるからしばらく黙っているの~いい?」

 頭を抱えながら看護師は幼女が横たわるベツトに歩み寄る。

「変な事をしたら撃ち殺す」

 世美は拳銃を取り出して妹に銃口を向ける。

「その変な事をしないと助けられないの~私を撃ち殺したら救えないの~それでもいいのなら引き金を引けばいいの~気持ちは同じなの~」

 そう言って美世は長い針を取り出す。

 見つめ合う2人の女、

「あらそうのはやめて、おねえさんたち…どちらもやさしいのに…にくみ合うのはダメ…」

 苦しそうな声で寝る幼女がうわ言のようにそう告げる。

 その言葉に女の1人が拳銃を下して幼女に話しかける。

「末来ちゃんしっかりして、すぐ楽にしてあげるから、こんな女でも看護師をしていたのよ、風の便りでそう聞いて嘲笑ったけど、でもあなたを救えるのはこの女しかいない、そう言ったのはあなたなの、信じられないけどそれを信じるから」

 その言葉に眉を寄せながらも美世は幼女を診察し始める。そして首を振ると、

「絶望の代償~この子は奇願者なのね~あのウイルスに侵されたんじゃなく代償に苦しめられているの~その代償を取り除くにはもう1度絶望させるしかないの~その代償を打ち消す代償を支払うしかないの~預言者の石は代償を求め続ける。この銀の石は代償の石なの~それならな彼女が望まない事をしてまた絶望させるの~♪」

 そう告げて美世は幼女に針を突き刺す。

「この子の能力を一時的に麻痺させたの~先がわかれば絶望出来ないから~先がわかって絶望する事もあるけど今はそんな状況じゃないの~さあお姉さん殺し合いましょう」

 そう告げて針を自分に突き立てようとする妹に姉は拳銃を構えて発砲する。

 着弾する拳銃弾、しかし妹はそれに怯まない、ナース服の下に薄型の防弾チョッキを着用しているのだ。

 そして武器を針から鞭に変える。

「男をいたぶる趣味は治ってないみたいね!」

 サブマシンガンを取り出した姉はそう叫んで妹に向けて発砲する。

 その銃撃をかわしながら妹も叫ぶ、

「あんたこそ男嫌いは治らないみたいね~お父さんだけが愛せる男なんてこのファザコン女~男共に犯され続けて悲鳴を上げろ~」

 唸る鞭は弾丸を発射し続けるサブマシンガンを姉の手から叩き落とす。

 それに怯む事無くベツトの下から日本刀を取り出してそれを構える姉、

「母さんはどうなったの?あんたが私から奪った母さんは!」

 唸る鞭を日本刀で薙ぎ払いながら姉が叫ぶ、

「死んだわ~私が殺したの~最後までお父さんの名前を叫んで死んだわ~」

 その言葉に思わず日本刀で切りかかる姉がまた叫ぶ、

「この人殺し、あんたがいなければお母さんは死ななかった!」

 振り下ろされる日本刀に鞭を巻きつけて妹が叫ぶ、

「お父さんはどうなったの?死んだって聞いたけど本当なの~!」

 日本刀を手放して両手に包丁を構える姉は笑いながら答える。

「ええ死んだわ、自殺したのよ、最後までお母さんと別れた事を悔んでいた。それは全部あんたのせい、あんたがいたから家族が別れた。その罪をここで償え!」

 睨み合う憎しみの双子の姉妹、子供の時は仲良し姉妹と呼ばれていたのに、些細な喧嘩からその憎しみが生まれてここにある。

 投げつけられた包丁をかわして針を手にする妹、

 それ目がけてもう1本の包丁を逆さに構え体ごと突っ込んで行こうとする姉、その時、

「やめて!」

 ベツトから起き上がり銀色の光に包まれる幼女が叫ぶ、

姉と妹はその言葉に動きを封じられ動けなくなる。

「強制力?…それもすごく強い…私の能力以上に…」

 姉は動きを封じられてそう呟く、

「私達の争いを見て絶望して希願したのね~ならその代償が前の代償に上書きされる…矛盾の代償は消えさり新たな代償が優先されるの~荒療治だけどこうするしか出来なかったの~ごめんなさいね怖い思いをさせて~」

 妹はベツトに起き上がる幼女を見つめて微笑む、

「こんなに憎しみ合うおとなになんかなりたくない、そう思ったの、それで2人の争いを止めたいと思ったの、でも子供の私には何も出来ないの、だから止める力がほしくなったの」

 ベツトから降りると未来は2人の手から武器を奪うとそれを投げ捨てる。

「仲良くするまで動かしてあげない、喧嘩はやめてお願いだから…」

 2人を見つめて涙を流す幼女、しかし妹の方は笑みを浮かべると、

「残念ね~私は魔女さんなの~あなたの能力は強力だけど呪いの力まで封じられないの~」

 そう告げると美世は動かせるはずのない腕を動かし針を取り出し自分に突き刺す。

 そして拘束から解放され自由に体を動かして見せる。

「運動神経を麻痺させる能力にも抗える術はあるの~でもその女は殺したりしないわ~そんな事の為にここに来たんじゃないから~そんな弱い女はいつでも殺せるの~まだ魔女になっていない存在なんて殺す価値もないわ~悔しいなら早く妬みの魔女になってみなさいよ~おねえちゃん♪」

 そう告げると魔女はドアを開けて廊下に出て、そして振り向いて舌を出す。

 そして嘲笑と共に歩み去る。

 身動きが出来ない姉はその挑発に何も出来ない事に絶望する。

 あの憎たらしい妹を殺してやりたい、自分を殺す機会があったのにそれをしないで嘲笑った存在が許せない、なら力を、あいつに勝てるだけの力が欲しい、そのためなら男を愛する感情なんかもういらない、どんな男も愛してなんかやるものか、たとえあの王様でも男ならもう愛してはいけない、全ての男を憎んでやる。

 サーモンピンクの光が姉そのの願いを聞き届ける。

「私よ、自由に動きなさい」

 金縛りは解けて体の自由が取り戻される。

 言葉の力は強化された。

「私の拳よ鉄のように硬くなれ」

 そして世美はその拳でコンクリートの壁を殴りつける。

 その衝撃にコンクリートの壁にひびが走る。

 それを満足そうに見つめて世美は嘲笑を浮かべる。

 しかし不安そうにそれを見つめる幼女の視線に気づき嘲笑を微笑みに変えると、

「大丈夫よ、あの女を殺しになんか行かないから、あいつはあれでもあなたの命を助けてくれたのよ、あなたはもう殺意を感じる代償に苦しめられなくなったのよ、その代りに成長を犠牲にしたみたいだけど、でも子供のままでいいと思わない?仲良く遊べる子供の方があなたにはよかったのよ、私達大人のように憎しみ合い殺し合う事なんてしない方があなたにはいいの、私も子供のままだったらあの女といがみ合うことはなかった…だってあの時はいつも2人で仲良く遊んでいたのだから…」

 そう言いながら魔女は涙を流す幼女を優しく抱きしめる。

「ええ、大人になっても遊ばないと、大人の遊びは闘いなのよ、死んだ方が負けというルールのゲーム、それに子供が参加する必要はないの、でもそれに巻き込まれてしまう、だからお姉さんが守ってあげる。だから何も心配しないでいいの、私はもう誰にも負けない、もう男達にも怯えない、私が勝ったらあなたのママになってあげる。ずっと傍にいてあげる。おいしいご飯も作ってあげる。おもいっきり甘えていいのよ、かわいい我が娘よ」

 顔を上げて未来は世美の顔を見つめてそして微笑むと、

「今すぐママになってくれないと嫌」

 そう言ってまた世美にしがみつく、

「わかったわ、今からあなたは私の娘、ちょっと若いけどすぐおばさんになっちゃうから、歳を取るのはしかたがないから…でもあなたが死ぬまでは絶対に生きていてみせる。ずっと傍にいると約束したから…」

 そして他人同士が結ばれる。親子の絆で結ばれる。決して裏切られぬ太い鎖で結ばれる。

 安心を代償に裏切りを呪いに変える太い絆で結ばれる。

 娘の手を取ると母親は優しく微笑んで歌い出す。

 それは保育園で子供達に歌い聞かせた定番の歌、その歌に子供たちは笑顔になる。

 そして歌いながら部屋から出て廊下を歩いて外に出る。

 もう男を恐れる必要なんかない、あいつらは人間じゃなくゴミなのだ。

 もう女だけが自分が愛せる存在だ。

 この組織の幹部が集う施設に赴くために女は歌いながら幼女の手を引く、

 女達の部隊の責任者として軍議に参加しないといけない、

 もう男達の自由にさせない、その権利は全ての女達にある。

 びっくりマークを4つ付けたマントを翻して妬みの魔女は幹部達が集う部屋に踏み込む。



「へーっ、仕事は済んだみたいね」

 穴だらけのナース服を見つめて修道女は本当に感心したようにそう告げる。

「最悪~替えの服はマシンの中なの~こんなみっともない姿を先生に見せたくないの~身だしなみが悪いと怒られちゃうの~どうしょうかしら~」

 その看護師は涙目で訴えるが、

「へーっ、いいじゃない別に、こっちはもう片付きそうだし、あなたの大好きな先生もあっちに出かけているんだから先に帰れば問題ないわ、それとも近くで病院でも探してナース服を盗んで着替える?神の使徒もその行為には目をつむるわ」

 その広間では回復した患者達が笑い合い喜びあっている。

 その光景を眼帯の少女が不思議そうに見つめて天使の衣装の少女に尋ねる。

「ごめんなさい、多舞ちゃん、私達は敵同士なのよ、美希子も姿を変えて虹の傍にいる。どうして虹はみんなを助けようなんて考えたの?」

 微笑む天使はその質問に、

「美希子は言ったの、王様の敵はあなたのお兄さんだけだと言ったの、みんながその戦いに巻き込まれるのはよくないと王様は言ったの、美希子も李美もあなたと戦いないと言っているの、友達だと信じているの、わたしもそう信じているの」

 あの基地で誓い合った友情はまだ損なわれていない、それを感じた少女は自然と涙が流れるのを何も感じない、

「ラジオもマシンとは友達なの、だからここに来ることを願っていたの、王様はその願いを感じて私たちを使者にしたの、あとはマシン次第なの、でもラジオはマシンを止められないとさっきつぶやいていたの、とても悲しい心なの、でもラジオは泣けないの、わたしも泣けないの、かわりに美希子が泣いてくれるの、だからあなたもなく必要なんてないの」

 その微笑む天使が差し出すハンカチに初めて自分が泣いていることに気づく希久恵、ハンカチを受け取りそして涙を拭いて天使に尋ねる。

「ごめんなさい、マシンって誰の事?」

「ラジオがつけたあだ名なの、あなたのお兄さんの事をそう言っていたの、ラジオもマシンに気違い馬鹿と呼ばれていたの、いつも学校で喧嘩ばかりしていたの、だから仲がいいの、友達なの、マシンはわたしを助ける時にも協力してくれたの、本当はいい人なの」

 そんな信じられない話を聞いて動揺する希久恵、あの悪魔より恐ろしい存在がいい人なんかである筈がない、その悪を超えた存在なのだ。それを測る尺度なんてないほどに、

 涙を拭いたハンカチを多舞に返すと希久恵は、

「ごめんなさい、洗って返したいけど次に会う時はこんな風に笑い合えないように思うから私の涙を受取って、貴女の愛する人は多分ものすごく苦しんでいるわ、あの虹は残酷ね、裏切れないのを知っていてあえてそれを彼に命じた。彼は望んでいたかもしれないけど、でもそれを恐ろしがっていた。貴女達は虹の許から離れる方がいいのよ、虹も私の兄も想像もつかないくらいの怪物よ、そんな友情なんていうちんけな思いは通用しない化け物よ、貴女達の愛なんてその中に巻き込まれたら消し飛んでしまうくらいの存在達よ、逃げだすなら今しかないわ、用事が済んだら2人で逃げて、忠告ではなくそれは私の願い、貴女ならどこにでも逃げられる」

 しかしその希久恵の願いは天使の後ろに立つ少年に否定される。

「用事が済んだとシスターに言われたから多舞を迎えに来た。逃げろとおまえは多舞に言うが何でだ?何から逃げる必要がある?とうの昔に逃げ場所はなくなっているんだ。俺の親父が逃げ場所のない道を作った。おまえの親父とぐるになってな、自分だけ暗黒に逃げ出して虹のお守りを俺にさせて、あの姉が帰ってくるまで逃げられない、でももう逃げるつもりはない、俺の家族は俺が守る。狂ってでも守り徹す。おまえも戦闘マシンの妹なら家族を守ってみろよ、父親も兄もいるんだろ?ならその気持を考えてみろ、俺も自分の父親を憎んでいた。でもその真意を知って許せたよ、あの石崎にも自分の親父の真意を知る時が来る。それがどんな思惑かはわからない、しかし知る権利は俺にもある。石崎との友情ごっこはもう終わりだ。あいつがそれを否定したんだから仕方ないことだ。このけりは自分でつける。そうなることをあいつは望んでいる。だからもう悩む必要はない、あとはその時が来るのを待つだけだ。だから余計な心配を多舞にさせるな魔女、おせっかいも立派な呪いなんだ。俺の天使を呪いで汚すな、それでもまだ言いたい事があれば聞いてやる」

 苦痛の魔女を睨む羅冶雄、その狂気が満ち始めた目を見つめ返して魔女は笑うと、

「ごめんなさい、余計な事を言って、でも後悔しないことね、この魔女の忠告は素直に受け入れないと呪われる。いいえ、貴方はもう既に呪われている。それは魔女なんかよりもっと恐ろしい存在、地獄の女王の呪い、私が出る幕はないわね…」

 そう告げて苦痛の魔女はその場から歩き去る。

 それを無言で見つめる羅冶雄、その手を握って天使は微笑む、

「虹の所に帰るの、ナースが早く帰りたがっているの、ここの人達たすけたの、でもたすけられない人もいるの、たすけない者はたすからないの、シスターがそう言ったの」

「ああ…そうだな」

 手を握る2人はナースとシスターと合流する。

 そして突然その4人が消える。

 その様子を右目だけで見つめていた魔女はマントを翻らせその場を後にする。

 あの少年の言った事を全て否定してやると心で決めて、

 真意など知る必要なんかない、理解すれば苦しみが増えるだけにすぎない、

 苦痛の魔女も心の苦痛は快楽には出来ない、それを自ら求めるのは浅はかなのだ。

 呪われた存在はその理由を知れば死んでしまうのだ。

 その呪いが解けぬ限りその運命から逃れられない、

 呪い呪われる存在はその運命からも見捨てられる。

 そして永遠の苦しみに苛まれる。

 それを増やす事なんて愚行というしか表現できない、

 しかし自分の兄ならばその苦痛に終わりを与えてくれるのだ。

 だから思いっきり憎んで憎まれなければならない、

 その先にしか安らぎはないのだから…


 昆棒を担いだ大男、日本刀を抜き身のまま肩に担ぐ少女、そして白衣の医師と胡散臭そうな新聞記者は道に広がる能力者の集団と対面する。

 その100人を超える集団は大男達の実力を測るような目で見つめる。

 その力が秩序と考える集団は強い者には服従する。その掟に縛られている。

「炎の悪魔に用事がある。だから雑魚は引っ込んで大将を出せ!」

 そう喚く大男、その気迫に能力の弱い者はたじろいでうろたえる。

「前にいるのは小鬼達だ。CかDランクの能力者、あの紙切れ使いの少年にも劣る能力者だ。ランク外の君達とは比べるほどもない下っ端だ。こんな連中は相手をしていても疲れるだけ損だぞ、脅して追い散らかせてやるか?」

 その医師の提案に大男は巨大な棍棒振り上げて威嚇する。

「待ちたま!」

 その声に2つに割れる能力者の集団、その造られた道を白いスーツの青年が2人の少女を供にして歩いて来る。

 その後に3人の男が続く

「あのサンダーストーンは後方待機か…抜け目のない奴だな、あの悪魔の頭領が間抜けに見える。あいつと会うのは2度目だが背筋に悪寒を感じる。炎の悪魔と呼ぶには冷酷すぎる意思を感じる…」

 白いスーツの青年の印象を医師は思わず呟いてしまう、

「何の用だね鬼神?僕達は急いでいるんだ。あの勝負の事はもう忘れてくれないかもう、引き分けでいいよ、君と遊んでいる暇はないんだよ」

 そう言って笑うマイケルを睨む鬼神、握る棍棒に力がこもる。

 それを制する少女、

「パパ駄目よ、ここには話し合いに来たのよ」

その言葉に鬼神は黙って棍棒を下す。咲石はその前に進み出ると炎の悪魔に申し出る。

「俺達は争いに来たのじゃない、お前の陰謀を止めに来ただけだ。あの群衆には手を出させない、もちろん暗黒にも使者を送った。群衆には手を出すなと伝えるために、これは虹の意思による行動だ。この提案を拒否すればお前達を支配すると言っている。暗黒が混ざらない石を持つ者はそれには抗えぬ、自分達の自由を欲するならこの提案を受け入れろ」

 その言葉にマイケルは肩をすくめると、

「陰謀?それは何の事かわからないな、僕は先を急ぎたいだけだよ、もう時間は残り少ないからね、あの群衆は僕達に危害を加える事なく通してくれるよ、だから邪魔しないでほしいんだ。でも虹が僕達を支配するなら話は別だ。あの休戦協定は無効となり群衆は灰になる。それは虹も望まないだろ?だからそっちの提案を受け入れる理由が分からない、穏便に事を運びたいのなら帰って虹に伝えてくれよ、群衆は誰も傷つけないとね」

 しかし咲石はマイケルを指さし大声で叫ぶ、

「群衆に傷をつけるのではなく手を出すなと言っているんだ!」

 そして能力者達を見廻して、

「この悪魔は暗黒の軍団を病魔で無力化して、そしてあの群衆を自分の信者にしようと企んでいる。5万人を自分の兵隊に変えようとしている。それに疲弊した暗黒の軍団を襲撃させ殲滅させようと企んでいる。あの暗黒の王にばれぬように周到に事を運ぼうとしている。なんて悪辣な企みだ。それを陰謀と言って何がおかしい?こっちには預言の力を持つ者がいる。お前の手の内は読めている。それが理解出来たら俺たちが群衆を何とかするまで待っていろ!」

 そう叫び終わると炎の悪魔を睨みつける。

「血色の魔女さんの予知能力か…希恵の言うようにあれは邪魔な存在だね、では陰謀とやらは止めて群衆を焼くしかないね、ついでに暗黒の軍団も焼いてしまおう、病気で死ぬ者の火葬する手間が省けるじゃないか名案だね、そして怒った暗黒の王様が来るまでに逃げるとしよう、その怒りをぶつける相手がいないとその矛先は虹に向かうだろうね、そして全ての魔神の思惑通りになる。もう誰も破滅は止められない、ゲームオーバーだよ、今ここで、さあどうする?勇敢な医師よ、君に決断する選択権はないのかな?なら虹に聞いてみてもいいのだよ、僕は急いでいるんだ。だから時間はあまり与えられないよ」

 そう告げてあくまでも不敵に笑う炎の悪魔に咲石は最終手段に打って出る。

「あの休戦協定はたった今破棄する。そして残念だがお前に群衆も暗黒の軍団も焼く事はできない、ランク外の能力者が虹の許にいる、その能力はSランクにも匹敵する能力、ナイトスカイストーン、夜空の石は宙にある物を引き寄せる。流星の石と呼んでもいい能力、そしてその力がある物を流星に変えた。あれを見ろ!」

 明けかけた空に焼けながら大気圏に突入する物体、それは人工衛星、悪魔の業火と名付けられたマイケルの左腕、

 大気との摩擦熱でその光を消滅していく流星、そしてマイケルは自分の腕の消失をその苦痛と共に知る。

「これだけではない、あの暗黒の軍団は既に病魔から解放されている。どんな疫病でも癒す力を持つ能力者が虹の許にいるのだ。お前の陰謀は全て潰えている。虹の王は誰も殺さないし殺させない、しかし無理に支配もしない、今頃群衆は幻影を見せられシェルターに逃げ込んでいるだろう、王は無傷で道を開いた。そこを通りたければ勝手に進め、通行料はお前の左腕で充分だ。それを屈辱だと思うのはおこがましいぞ炎の悪魔、寛大な王はお前みたいな存在も容認しているのだ。悪魔と呼ぶのにも大がつくお前をな」

 叫ぶ咲石それめがけてマイケルは炎を投げつけようとする。

 しかし桜色の結界が出現してその炎を遮る。

「マーガレットあれを無効化しろ!」

 怒りで炎の目をしたマイケルは破壊の魔女に命じるが、

「出来ない、あれは物質でもエネルギーでもない想念の防壁、呪いより硬い想念、だから破壊できない」

「この役立たず!希恵、君ならあれを何とか出来るだろ!」

 怒れる悪魔は巨大な火球を創り出す。

 その想念を突き破ろうと希恵が飛ばした式神はしかし強固な想念に何のダメージを与えない、

 投げつける巨大な火球も結界を突き破れず飛散する。

「あの男は何者だ?」

 いらつく悪魔はその問いの答えに打開策を求める。

「咲石和也、組織に反逆する医者、攻撃力を持たない代わりに聖域と呼ばれる完全結界を作り出せる能力者、桜色の石の希願者、でも虹の加護を受けてその力は特Aランク並に引き上げられている。あれを破るのは相反する想念を同等の力でぶつけないと無理だわ、でも想念の正体がわからないから事実上は不可能、どんな攻撃もはねのける。でも戦わないならほっとけばいいだけよ、あっちからは何にも出来ないから無害と同じ、そrに意地をはって攻撃してもこっちが消耗するだけよ」

 いつの間にか現れた雷の魔女がマイケルにそう答える。

「しかしサンダ――ストーン、あいつは僕を嘲笑ったんだ。そんなことは許せない、言いたいだけ言って引き籠るなんて卑怯者だ。しかも僕の左腕まで流星に変えられた…」

 その怒りに震えるマイケルに希恵は抱きついてなだめ始める。

「落ち着いてマイケル、急いでいるのは奴らも同じなの、ほら変なのが来るわ、あれが奴らのお迎えよ、だからあれをやっつければいいのよ」

 そこに走り来るのは金色の装甲車?そんな形状をした奇怪な乗り物、

 すかさず破壊の魔女が念を飛ばしてそれを破壊しようとするがやはり出来ない、

 桜色の結界の前で停止したそれは巨大な人型に変形する。

「けっ、希美の怨敵に炎の悪魔、それに破壊の魔女に雷女までいやがる。だから最初から俺も行くと言っているのにそれを断るからこうなるんだ先生よ、あの虹の王様が待ちくたびれている。群衆はとっくに退散してもういないぜ、こいつらを脅しつけとくからその隙にトンズラかませ、その結界を引きずって走れるんだろ早くしろ」

 巨大な人型は兵器であることを示すように銃のような物を構える。

 そして能力者達が投げつける様々な攻撃に平然と耐えて見せる。

「あいつの叔父が作ったマシン?なんて性能なのよ信じられない!」

 そんな予想もしない存在の出現にうろたえて希恵はそう叫ぶ、

 巨竜に変身した魔獣がそれに挑むが勝負にもならない、尻尾を掴まれ振り回されて最後はビルに叩きつけられる。

 恐慌に捕らわれた能力者の集団は恐れを抱いて敗走する。

 いつの間にか桜色の結界はその姿を消している。

 その人型兵器が銃をマイケルに合わせて何かを発射する。

 しかしその光の粒子は破壊の魔女の力で消滅する。

「へえ、そのおちびちゃん中々やるね、まあそう出来ると思って発射したんだけど…なんせ誰も殺すなとのお達しがありますからね、きついでやんすよあたいには、先生達も逃げた見たいだからあたいも退散しましょかね?希恵ちゃん、妹と遊ぶのがあきたらあたいが遊んであげてもいいのよ、お姉ちゃんの方が強いのよ、なんせ女王様だから、でも同族の娘達の中では最年長者…とほほほほ、でもまだおばさんじゃないの、ごめんあそばせ」

 その頭の下げて変なポーズを取る人型に向って希恵が喚く、

「おちょくっているのか?この気ちがい女!不良であばずれな凶暴女!いつも神社に来たらあたいをいじめて喜んでいた最低野郎!とっと帰れ、もう二度と来るな!ボケカスタコ!今度来たらその趣味の悪い色を塗り替えてやる。あの鳥居のような朱色にね、それもあんたの妹の血で塗り替えてやる。覚えとけこら!おとといきやがれ暴走女!」

「そいつはいいや、ははははっ」

 笑いながら人型兵器は変形して形状を車型に変えるとすごい勢いで走り出して見えなくなる。

 どこからか取り出した塩を撒きながら希恵は怒りに震えて悪態を吐き続ける。

 今度はマイケルがなだめる立場になる。

 とにかくマイケルの計画は失敗した。それは事実なのだ。

 そしてあの恐怖の王に匹敵するぐらいの恐ろしい存在がいることを知る代償に左腕を失ったのだ。

 あの怪物同士が本気で戦い始めたらどんな事が起きるのか考えただけでも寒気がする。

 だからマイケルは決心する。

 あいつらが破滅を止めたその後ですぐにこの国から逃げだす事を、

 この組織の拠点は欧州に置くべきだ。

 もう魔女狩りも悪魔払いも行われていないから、だから奇跡の石もきっと西欧にも出現すると、そう信じたいと願うのだ。

 あの希願者達を迫害した宗教はこの騒ぎで力を失うだろう、だからこそ新たな宗教が必要になる。

 力が秩序の新興宗教、それの布教は誰にも邪魔させない、

 この世界の全てを治めなくても王にはなれる。

 たった1人でもそう名乗れば王なのだ。

 戦に負は付き物だ。勝ち続けられるだけでは何も得られない、

 負けたからこそ得られる物はあの自爆した蹂躙の悪魔に教えてもらった。

 そこにこのの執念という力を知った。

 焼けて鉄は赤くなり叩かれてその強さを増す。

 だから叩けばいいのだ奴らは自分を、その奴らに突き刺さる刃を奴らが自身が鍛え上げるのだ。

 難を逃れていた組織の連中が集まり始める。

 そんなまだ鉄にもなっていない鉄鉱石が集まり出す。

 それを焼いて鉄にするのは自分の仕事、しかし叩くのは奴らでいい、

 その集まる鳥合の衆達にマイケルは命令する。

「塔に行くぞ、もう見物するだけでいい、もう僕は主役の座から落ちた。ならいっそ観客になろう、その方が舞台を演じる役者よりも偉いのだ。客のために役者は見せ場を用意しないといけないからね、ショーの始まりを見に行こう、ビックイベントを見逃すわけにはいかない、あの魔神の軍勢も退散してもうすることがないからね、脇役は終わりだ。あとは主役たちの演技を見るだけでいい、それで学べば僕も主役が演じられるだろう、チケットはさっき買った。みんなの分まで買い占めた。それでもまだおつりを貰って当然の代金だ。僕の左腕は高いのさ、それに値しない舞台なら容赦なく石をぶつけよう、それは腐った卵でもいい、それが客の権利だから、大根役者には罵声を浴びせろ、嫌でも舞台を盛り上げさせよう、それが客の務めだから、僕達が観るのは喜劇か悲劇か三文芝居かその内容はわからない、でも観る価値はあると思う、この星の運命が賭かる壮大なシナリオだ。それも脚本家はあのハイストーンだ。きっと凄い演出が用意されているはずだ。それを見逃したら死んでも悔いるぞ、さあ行こうその会場に」

 そう告げてそして歩き出すマイケル、抱えられるように腕を丸くする。

 それに左右から2人の少女が腕を差し込んで一緒に歩き始める。

「歩いて行くのマイケル?」

 その少女の問いに笑顔でマイケルは答える。

「開場まで時間がある。だからゆっくり散歩しながらでも間に合うよ」

 もう1人の少女はそれに不服そうに、

「歩いても早く着きすぎないかな?まだ朝になったばかりなの、お腹もすいたし、どこかで朝ごはんが食べたいな」

 その言葉にも笑顔でマイケルは、

「そうだね、早く着きすぎても退屈するし、どこかのレストランで朝食にしよう、コーヒーでも飲みながらおしゃべりしよう、あの音がやむまですごく時間がかかりそうだからね」

 遠くで聞こえる銃撃や砲撃の音、それはまるで祭り囃子のように聞こえる、

「あのお祭りが終わった後が開演時間さ、それに間に合うように行けばいい」

 もう無人となった議事堂前の広い道路を2人の少女と腕を組んで歩く青年を先頭に、組織のメンバー達は楽しそうに笑いながら歩いて行く、

 1時間前にはそこに群衆が溢れていた道を平然と歩いて行く、

 もう今の祭りに参加する必要はなくなった。

 問題なのはその祭りの最後の公演の後だ。

 マイケルは密かに魔獣に命令する。

 隣県にある国際空港を制圧しろと命じる。

 あとはそこまでの移動手段の確保、やはりあまり退屈している暇はないなと空を見上げる。



 デパートや高級飲食店が軒を連ねる官庁街に隣接する界隈に停車する金色のマシン、そこで帰還者達を出迎える。

 復活した石崎達の軍団は即座に進撃を再開して首都のメインステーションを制圧して、そして河川敷に向い進撃を開始している。

 その河を越えれば魔神の塔はすぐそこにある。

 無言でマシンに乗り込む帰還者達、その使命を果たした充実感はあまりない、

 この自分達がした事が虹に命じられた行為ではないからだ。

 群衆を、人命を少しでも救うため全ては自分達で計画してそれを実行しただけだ。

 そして結果として再び力を散り戻した暗黒の王は殺戮を再開しているのだ。

 その計画を遂行する時に虹の王に同意を求めた。

 返された言葉は一言だけ、

「信じることをすればいい…」

 その言葉だけに勇気づけられた無言で帰還する者達に王は言葉をかける。

「全部俺のせいにしてくれたか?」

 その言葉に無言で頷く帰還者達、

 その返答に希一郎は笑顔になると、

「それはよかった。ならみんなは憎まれない」

 そう告げると傍らの少女を抱いて目を閉じる。

「河川敷まで行こう、そこで待機する。あの恐怖の軍団が塔に辿り着くまでそこで待とう」

 そう告げる咲石に答えるようにマシンが動き出す。

 朝日を浴びて金色に煌くマシンは無人の街を走り抜ける、

 しかしそれは河の対岸に集結する魔神の軍団に挑む為ではない、

 だだ時間をつぶすだけにそこに行くのだ。











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