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ミラクルストーンⅢ  作者: 北石 計時朗
14/18

総攻撃

13 総攻撃


 時は午前12時丁度、その国道を封鎖する為に築かれたコンクリートのバリケードの上で兵士達はこちらに向かってくるその異様な集団に目を疑う,

 ランドセルをしょった子供達と華麗に着飾った少女達が銃を手にして笑いながら歩いて来るのだ。

 そしてバリケードの前で皆が立ち止まる。

 その中から交渉と書かれた白い旗を掲げた少女が歩み出て来る。

 そして兵士達に告げる。

「私達は誰も殺したいと思わない、誰も争い合う事に意味はないのよ、私達はただ破滅を止めたいと考えているだけ、それを邪魔すると言うのなら私達を撃ち殺しなさい、私達はそれまで手を出さない、まだあなた達を憎む理由はないのだから、でも私達をこのまま通してくれるのならあなたたちの無事は保証される。この交渉に応じるのならゲートを開いて通して下さい、それまでは私達は決して攻撃しません、それはあなた達に人間としての心があると信じているから、だからこの交渉を受理することを希望します!」

 そのよく通る済んだ声で聞かされた意思表明に兵士達は戸惑う、

 ここを超えようとする者を排除するように言い聞かされた命令、だから襲い来る男達には容易に引き金を引けたであろう、しかし交渉を求める少女や子供達に容易に憎しみに引き金を引く事が出来ない、こんな自分達にも守りたい者がいるのだ。そう、この目の前の者達のように弱い存在を、

 そんなためらう兵士達は自分達の隊長を無言で見つめる。

「攻撃しない限り反撃しないと言っているのだ。なら別にこっちから手を出す必要はない…」

 その命令に安堵する兵士達、好んで女や子供達を撃ち殺したい思う者は誰もいない、しかし要求は続く、

「御願いします。どうかゲートを開いて通して下さい、私達の中にはカードを持った者もいます。その人達は無条件でその中に入れるはずです。その人達のためにゲートを開いて下さい」

 その旗を掲げる少女の後ろに数人の少女が歩み出て手にしたカードを振り上げて見せる。

 カードを持つ者は無条件で入れるために設置したバリケード、しかし今そのゲートを開いたら目の前の群衆が雪崩込んで来る。

 しかしそれを阻止するために発砲は出来ない、そうすればこの群衆の反撃が開始されるのだ。

 苦悶する兵士達、少女や子供達は助けてやりたい、たとえカードを持たなくてもそうしてやりたいという気持ちが芽生え始める。

 言い訳は後でなら出来る。そう隊長が決心してその意向を伝えようとしたその時、

 一発の銃声が響き渡り、そして旗を手にした少女が路上に倒れ伏す。

 何が起こったのか理解できない兵士達は黙って発砲した1人の兵士を凝視する。

「ああ…う、撃つつもりはなかったんだ…俺は彼女のファンだからもっとよく彼女を見たいと思っただけなんだ。でも…指が勝手に…」

 その若い兵士は震えながらそう言って、そして手にした狙撃銃を投げ捨てる。

 その男から目を離し、そして兵士達が振り返る先には憎しみに燃える瞳の少女達と子供達が銃を手にして走り出す光景が見える。

 ゲートの門が突然吹き飛ぶ、

 そして戦端が開かれる。

 そのゲートの守備部隊と憎しみを心に燃やす少女と子供達との戦端が開始される。



 あのゲートを念動で破砕させた蒲色の魔女は車椅子を自走させて倒れ伏す少女の許に近づいて行く、そこには既に苦痛の魔女がその傍らに立っている。

「ごめんなさい、あのペンダントに弾が当たったみたいだからまだ生きているみたい」

 そう言って桃色の光に包まれる少女を見下す。

「こいつ本当にあいつらがゲートを開けてくれると期待していたみたいな感じ、だから喜んでその役を買って出たって感じかな?それが通じなかったことに絶望したって感じ、チョーおめでたい馬鹿って感じ、この戦場はステージじゃないって感じ、だから集まっているのはあんたのファンじゃないんだから当然な感じかな、それが悔しいのならここをあんたのステージにしてみなさいって感じかな?」

 その破砕の魔女の言葉にゆっくりと起き上がる少女、そして2人を見つめて微笑みを作ると、

「そうね、わたしの力が足りなかったからゲートを開かせる事が出来なかった。アイドルとしては失格ね、みんなを魅了できてこその真のアイドル、だから私はみんなを魅了する。そして魅了した者を支配する。その代償は高くついたわ、私を魅了した者は私を求てめて最後に殺し合う、この真のアイドルという女神を求めて殺し合う、それは魔女と呼ばれるのにふさわしいでしょ?」

 そう言って自分を睨む魔女の瞳を嘲笑で見つめ返して苦痛の魔女は、

「ごめんなさい、貴女は石の秘密を知っていたのね、たぶん組織に行った事がある。そこでストーンマザーに石を貰った。違う?それともお父さんが組織のメンバーだったのか?なら私が言った事はもう理解できるわね、貴女は私達と同じ化け物の立派な仲間になったのよ、魅了の魔女、立派な二つ名ね、でも今はこのコートを被って顔を隠していて頂戴ね、貴女は死んだ事になっている方が都合いいの、そうでなけでばみんなのやる気がなくなるから」

 無言でコートを受け取る魅了の魔女はそれをはおってフードを下して戦いを見つめる。

 既にバリケードは陥落し、その向こうから銃声と砲撃音が木霊する。

「ごめんなさい、私達の仕事、今はここまで、戦端を開く事がその目的、戦いには大義名分がいるんだって、だから最初に引き金を引くのは向こうでないといけないと群青の悪魔がそう言ったの、あなたはその的になる使命を立派に果たした。だからそのマークを3つも付ける事が出来るのよ、それは誇りに出来る名誉ある行い、そんな貴女に魅了する者は増えるでしょうね」

 その言葉に無言の睦美、しかし自分が得た力に満足する。

 人々を魅了させる事こそがアイドルとしての自分の宿願、この戦場と言う広大なコンサート会場を自分の歌を聴く人々で埋め尽くせるのだ。その魅了させる為の呪文は歌うだけでいい、その歌を聴く者は熱狂して自分を奪う為に最後は殺し合う、その光景は夢で見た光景、うっとりとしてその光景を思い浮かべる。



「守護石を奪った兵士の精神を支配して交渉の使者にした彼女を狙撃させました。それで戦端は開かれました。あの先鋒部隊は果敢に進撃して、そして見事駅を制圧したとの事です。」

 その陣営の最後尾を進む自走砲に立ち腕を組む石崎に群青の悪魔は戦況を報告する。

「開戦から1時間か、思ったより早いな、しかしその駅を拠点にしている暇はあまりないぜ、あの環状線の高架下まで午前3時までに進撃しておく必要がある。朝までには城跡に到達しないといけないからな、しかし御苑に集まる敵兵力を殲滅しないと砲撃にさらされる。あそこの砲撃部隊は自分達が撃つ存在を確認しない、だから女や子供にも容赦はしないぜ、その砲火に晒されれば倒壊するビルに行く手を阻まれる。あのトンネルは閉鎖されているから上を行くしかない、林の奴に砲撃部隊の殲滅を命じろ、メタリックイエローストーンを持たせろ、これは奴らの守護の石でない完成品の石だ。その憎しみに攻撃の力を与える完成品、そして全てを殺し尽せと命令しろ」

「御意」

 群青の悪魔はそう答えてその姿を消す。

「親父の奴、この俺をなめているのか?…」

 あまりにも手ごたえのない反撃に対して石崎は思わずそう呟く、

 まるで自分の進む道がわざと手薄にされている様に感じて何かの罠を考える。

 しかし自分が事前に極秘に侵入して地下や地上を調べてみてもそれは発見できなかった。

 その企みの意図が見えない、

 まるで呼ばれているような気分がする。

 そして待っているのに現れない虹の軍勢、

 放つた斥候によると虹は交差点で動きを停止していると報告を受けている。

 この自分が開いた道を虹は進む気はないようだ。

「いちいちむかつく野郎だぜ…」

 そう呟いて目を光らせる石崎は自走砲に乗る周恩石にこう伝える。

「悪いがちょっと遊んで来るぜ」

 その驚いて止める言葉を耳にすることもなく、

 そして戦車から飛び降りると石崎は御苑に向けて走り始める。

 何人かは殺さないと気が済まないと考えたから、

 その戦闘マシンは誰にも見えない速度で戦場を疾走する。

 戦いを求める心は誰にも止めることはできない、

 全てを殺してその気が済んだらようやく止まる事が出来るだろう。



 御苑に伏せる砲撃部隊は異形な存在が高速で出現するのをその目で見る。

 そのバイクのような銀色の車体に跨る甲冑の騎士、手に長槍が握られる。

 それは朝の時間帯に放送される子供向けの特撮ヒーローを思わせる姿をしている。

 その突然のコスプレマニアの登場に陣地内はざわめき始める。

 停止したバイクに跨りヒーローが悪役達に向いこう告げる。

「俺は正義の王の騎士、ジャステスシルバーだ。貴様らが悪の限りを尽くすなら正義の制裁を受けるがいいあの魔神の手先共、地獄で悪事を後悔しろ!」

 1人の兵士が銃を構えて笑いながら仲間に話す。

「頭がいかれた奴が来たぜ、いるんだよなあんな奴、あんな恰好をして強くなったと錯覚する馬鹿が、ヒーロー気取りで挑んでくる馬鹿、だから目触りだから死んでもらおう」

 その言葉に他の兵士も笑いながら銃を構える。

「改心するなら許してやろうと思ったのに俺に銃を向けるとは、もはや問答無用だ。死ね、悪の軍団よ!」

 それに答えるように銃撃音が響き渡る。

 そして兵士達は愚かなヒーローの最後に笑いを浮かべる。

 しかしヒーローはそこにいる。銃撃を受けても平然とそこにいる。

「!?」

 驚く兵士達その1人がまず血祭りに挙げられる。

 その高速でバイクのようなマシンを自在に操るヒーローは槍を振るって悪役達を次々に血祭りに挙げて行く、

 それから逃れるために走る兵士はそんな正義という信念の使徒に滅ぼされる悪役の気持を感じる。

 冷静な1人の兵士が重砲を旋回させて走りくる敵に照準を合わせて発射する。

 間近で起こる爆発、この重砲の零距離射撃に耐えられる兵器なんか存在しないはず。

 しかし爆煙の中からさっそうと現れるのは銀色のマシン、そして槍を大剣に変えると重砲ごと兵士の体を両断する。

 そして御苑内の兵士達は恐慌に捕らわれる。

 突然出現した正義の味方を名乗る存在はなぜか守護石も及ばぬ力で自分達を蹂躙しているのだ。

 それに抵抗するための銃声が木霊して次第に消えていく、

 その砲撃部隊の指揮を執る司令部は大変な騒ぎになっている。

 なぜか響き渡る銃声の理由を知るために無線機に呼びかける。

 しかし誰も返事は返さない、

 あせる司令官、その様子を見に行くように部下に伝えるため後ろを振り向く、

 しかしそこに部下の姿はない、

 代わりに異形の者が立っている。

 黒い鎧を纏った騎士の姿がそこにある。

「部下達を矢面に立たせてここで高みの見物か?だから状況が理解出来ないんだ馬鹿が、異常事態に対する処置を怠るからこうなる。司令官としては無能すぎる。そんなお前でもあの石は持っているんだろ?見てやるからそれを出せよ」

 剣を突き付けられた司令官は言われたように石を取り出す。

「これが石だ。それがどうかしたか?変な格好をした者よ、しかしこれがある限り私は無敵だ」

 完製品だと言って渡された絶対の守護の石、これがあれば恐れる必要などないのだ。

「なるほど、司令官には少しましな物が支給されているのか、あの白い奴より少し灰色がかっているな、なら守護の石の力は強いんだろ、それを試してやろう」

 剣を自動拳銃に握り変えた暗黒騎士は全ての弾を発射する。

 しかし弾丸は見えない障壁に遮られ全て跳ね返されてはじけ飛ぶ、

「お前が何者かは知らんが見ての通りだ。誰も俺を傷つけられん、そしてお前が死ぬのだ」

 司令官は咄嗟にサブマシンガンを掴み取ると暗黒騎士目がけて発砲する。

 しかしその攻撃は目の前の相手に何のダメージを与えない、

「誰が死ぬって?」

 そう言って佇む相手、それを睨んでそして弾丸が尽きたマシンガンを投げ捨てた司令官は逃げる方法を考える。

 この守護の石がある限り安全は保障される。だが攻撃が及ばないのなら逃走するしか道はない、

 逃げるために走り出そうとする司令官、しかし石を握る左腕に何かひんやりとした物を感じて動けなくなる。

 何かが落ちた音に下を見て、そしてそこには石を握る自分の腕が転がっている。

「なっ!?…ぐぅぅぅ」

 突然自分を襲う苦痛、

「なんだ?大したことないじゃないか、興醒めだぜ、あの基地の司令官はこの剣を防いだんだぜ、お前は根性が足りないな、三下だからしょうがないか…おい林劉石、こいつの引導はお前が渡せ、こんな奴は俺が殺してやるにも値しない屑だ」

「ラジャーキングマスター」

 いつの間にか出現していた銀色の騎士?が命令を実行するため武器を構える。

 構えられたのは1本のフォーク、

 苦痛に顔を歪めた司令官が何の真似だと思う間もなくそれは巨大化して司令官の体を串刺しにする。

 串刺しにした司令官を軽々と持ち上げ、そして横に振ってその体を振り落とすと林劉石は、

「懲悪完了」

 そう告げてフォークを元の大きさに変える。

「しかしお前のその格好…それは何だ?安物の特撮ヒーローみたいだぜ、俺の方が悪役に見えるぜ、それがお前の願望だったのか?」

 その銀色のヒーローを呆れた様子で見つめて石崎はそう尋ねる。

「ラジャー、僕は石の力でヒーローになりました。悪に立ち向かう無敵のヒーローです。マシンを駆って敵を蹴散らす正義のヒーロー、ずっとあこがれていた存在になれました」

 子供の頃からいじめられ続けていた林劉石は自分を救ってくれる存在を妄想の中に求めたのだろう、そして再度の絶望の時に自分がそうなる事を望んだのだろう、

「マシンを改造します。マスターが心配しますから帰還しましょう」

 そのバイク状の乗り物は形を変えてサイドカーになる。

「これに乗れというのか?それじゃまるで俺が正義の味方に掴まった悪役みたい見えるじゃねえか、ちょっと待て」

 石崎は暗黒騎士のいでたちを林劉石と同じような形に変化さる。そしてすこしアレンジして角状の物を多めにつける。

「素晴らしい!それこそ正義の王にふさわしい姿、ジャステスキングブラックと呼ぶにふさわしい、さあこのジャステスシルバーが司令部までお送りします」

 かってにヒーローの名前を付けられた石崎は仕方なさそうにサイドカーの側車に乗る。

 子供の頃はそのヒーローを扮する子供達をやっつけるのが生きがいだった石崎は悪役の中の真の悪役なのだ。

 いきなり正義のヒーローの王だと言われてもなぜかしっくりこないしむずがゆい、

 そして砲撃陣地を壊滅させた正義のヒーローは帰還する。

 しかしその途中で石崎は正義という事を考える。

 悪魔と言う連中は見て知っている。しかも自分の父親はその悪魔達の神だと言ってのける。

 それでは自分は何者だ?

 神でもなく悪魔でもない、

 この馬鹿な少年のような信念というものが何もない、

 何もないのが自分なのだ。

 もし何かがあるとすれば全てを消し去るのが信念なのだ。

 それはもう正義とも悪とも呼べない信念とも呼べないもの、

 最悪を超えた恐怖の信念、

 もし自分が本性を現したらこの正義を信じる少年はどんな顔をするだろうか?

 その自分が信じる正義の力も及ばぬ者が出現したらどんな顔をして絶望するだろう、

 その日が来るのがなぜか楽しみになり石崎は自然と笑みを作る。

 疾走するサイドカーは臨時に拠点とされた駅に到着する。

 そこで待つ群青の悪魔は王のいでたちに驚いて絶句する。

「遊んでみたかったんだ。ガキの頃はいつも悪役だったからな、その英雄とか言う正義の味方の気分を味わってみたかったんだ」

 そう告げていでたちを解く石崎に群青の悪魔は問いかける。

「それでどんな気分でした?」

 その問いに無表情に石崎は答える。

「つまらなかった…」

 そしてサイドカーから降りると金色のびっくりマークを5つも付けた黒いマントを翻して駅の中に入って行く、

 ヒーローから元の少年に戻った林劉石は群青の悪魔に謝罪する。

「すいません、僕が勝手に調子に乗ったみたいで…」

 しかしその謝罪に朴在石は笑いを浮かべると、

「いや、お前はよくやった。王は正義おも否定された。だからそれでいいのだ」

 あの恐怖の王は全ての信念を否定する存在にならなくてはならないのだ。

 どんな信念もその心には必要ないのだ。

 その心には何もないのが1番なのだ。



 中央線の高架下では戦闘が行われている。

 しかしそれは異常な戦闘、同士討ちという戦闘行為が、

「お前はそいつ発砲しろ!」

 その女に指差された兵士は仲間に向い銃を発砲する。

 その銃撃でまた1人男が地面に倒れる。

 誰ももう守護石はもっていない、それはこの女に最初に命令されて捨てさせられたのだ。

 そしてここから逃げることもできない、この女が逃げるなと命令したからだ。

 だからその女に銃を向けると命令されて仲間を殺すことになる。

 その理不尽に頭が狂いそうになる。

 10歳ぐらいの幼女の手を握る優しい顔をした女は笑みを浮かべて男達に命令する。

「もう飽きたわね…お前達はみんな銃を捨てて手榴弾のピンを抜け!」

 そしてその場から歩み去る。

 その背後から多数の爆発音が響き渡る。

「未来ちゃん男達はもういないの?」

 サーモンピンクの魔女は手を握る少女に問いかける。

「向こうのビルからわたしたちにじゅうをむけるおとこがいるの」

 その言葉に世美は拡声器を手にすると、

「私に銃を向ける男はみんなビルから飛び降りなさい!」

 その拡声された命令にビルから飛び降りる影達が見える。

 再びの絶望に未来は予知の能力の強化の代わりに殺意を感じる感覚を得たのだ。

 だからわかる未来はまだ10分先に限定されている。

「この声を聞いた男達はみんな石を捨てなさい!」

 最後に拡声器でそう命令した世美は背後の女達にお願いする。

「これで男達は無力な連中になったわ、だからやっつけて来てくれない?」

 武器をを手にした女達はそれを待っていたかのように高架橋の駅目指して駆け出して行く、

「これでいいのね?ああ疲れた…男達を見ると寒気がするのよ、おぞましい存在だから、見るだけで殺したくなる…だからせいせいしたわ、それでこれからどうするの?」

 世美にそう尋ねられた未来は遠くを見つめるような表情になると、

「おとこたちの部隊がくるからてっしゅうするようにめいれいされるわ、さくせんこうどうがはやいとおうさまにほめられる。だからバスにかえるの」

 そう告げる幼女の頭をなぜて世美は笑いながら、

「ありがとう未来ちゃんは偉いわ、何をしたらいいか教えてくれるし、それに私を殺そうとする男の存在も教えてくれる。後は彼女達に任せておけばいいのね、あの戦場の女王部隊に」

 その言葉に未来はにっこり微笑むと、

「おとこが怖いのはおんなのひと、むかしからもいまからも」

「そうね、ここはそれにふさわしい場所ですもんね、うらめしや~」

 そう話して思わず笑い出す魔女、そして2人は黒いマントを翻して待機場所に向い歩き出す。

 2人のその黒いマントには4つのびっくりマークが並んでいる。

 2人の四天王は本物の親子のように仲良く手をつないで家路を急ぐ。




 午前零時丁度に機械竜は上空に飛翔する。

 そして敵の出現を確認する。

 巨大な飛行戦艦が海中から出現する。

「海中に隠れていたのか…悪魔の業火を受けないために、あの蹂躙の悪魔も考えているね」

 しかし感心している場合ではない、この敵をなるべく沿岸部から引き離す必要があるのだ。

 旋回して海上の沖にコースを取る機械竜、そこに飛行戦艦から発射されたミサイルが襲いかかる。

 その呪いの想念で防御されたミサイルは破壊の魔女でも破壊出来ない。

 命中するミサイルはしかしその爆発を最小に抑えられる。

「奴も考えていたというところだね、でも被害は軽微で済んだ。その爆発力まで無力化出来るとは想定していなかったみたいだね、ではこっちもミサイルで応戦だ」

 機械竜の翼に取り付けられた多数のミサイルが飛行戦艦めがけて放たれる。

 それを迎撃するために放たれた弾幕をかいくぐった数機のミサイルが飛行戦艦のシールドを貫いて爆発する。

「呪いの相殺とエネルギーの無効化は成功だ。しかし…」

 その頑強な船体は何の損傷も受けていない、

「こっちの手の内も読まれているみたいだね、当然か、ならあの作戦を敢行する必要がある」

 あくまでも冷静にマイケルは事態に対処する。

 逃げるように飛翔する機械竜めがけてビーム砲が発射される。

 マーガレットがそのエネルギーを無効化するが掃射は止まらない、

 そして全ての砲塔からビームが発射される。

「必殺必中の飽和攻撃…それが無効化の限界を超えようとしている。読み通りの攻撃だ。マーガレットもういいよ」

 無効化を解いた機械竜はビームに砕かれ空中に飛散する。

 しかしその1つの部品が形を変えながら飛行戦艦めがけて高速で突入して行く

 機械の怪鳥と化したそれは呪いとエネルギーの双方の力によるシールドを貫いて飛行戦艦の強固な装甲に突き刺さる。、

 そして開いた嘴から4人の人物が艦内に侵入する。

「不死鳥作戦はうまくいった。あとは蹂躙の悪魔を倒すだけだ」

 艦内を走りながらマイケルは後に続く3人にそう告げる。



「シールドを貫いた敵の機体が装甲を破り艦内に何者かが侵入しました」

 モニターを見つめる乗務員が岩峰にそう告げる。

「奴め、最初からこれが狙いか…」

 意表を突かれた岩峰はその侵入者を迎え撃つため銃を手に握る。

「最悪を想定して艦を地上に降下させろ、ポイントはAだ」

 そう命令するとブリッジから走り出る。

 闘わなくてはならぬ敵は4人、しかも1人は大悪魔と呼ばれる男、

 それは艦を守る兵士では決して敵わない炎の悪魔、

 艦が地上に接地した衝撃の中で蹂躙の悪魔は宿敵と出会う、

「中を見物させてもらったよ、希恵に命じて構造を記録させてもらったよ、中々大した造りだね、あの科学者は本当に優秀だね、組織から彼が抜けたのは残念だよ、そして君もだよ、でもまだ遅くないよ、君が組織に戻ると誓うなら命の保証はするよ」

 笑いを浮かべる炎の悪魔は銃を向けられても平然とそう告げる。

「ぬかすな小僧、意表を突いたつもりで勝ち誇るな、ここをお前の棺桶にしてやる覚悟しろ」

 そう告げて発砲する岩峰、しかしその銃弾はマイケルに届く前に溶けて蒸発してしまう、

「無駄だよ、君の必殺必中も炎は砕く事は出来ない、観念しないのなら焼き殺す」

 炎の球を創り出すマイケル、それを睨んで見つめて岩峰が別の銃を構える。

 その構えられた銃は何かと接続されている。

 そして発射さえたのは超高圧の水、それは岩をも穿つ超高圧の水流、

 それは炎の障壁を貫いてマイケルの体を穿とうとするが、

 その直前で不自然に直角に曲がり艦体に穴を穿つ、

 マイケルの後ろに立つ少女が、その赤と黒の瞳の少女がぞっとするような笑いを浮かべる。

 蹂躙の悪魔は自分の敗北をさとる。しかしこの執念の呪いがあきらめる事を許さない、

 超高水圧銃を捨てそしてマイケルに向い走り出す。

 そして体中に仕掛けられた爆弾が起爆する。

 その執念の呪いの爆発は破壊の魔女も無効化出来ない、

 獏風に巻き込まれる4人、しかしその中に風を操れる男がいた。

 爆風の中に風が舞いそして爆風を相殺する。

 あの蹂躙の悪魔はその執念と共に消えた。

 しかしその達成感の余韻にひたる暇はない、

 破壊の魔女が艦体の1部を破壊して穴を開ける。

 そこに機械の鳥が嘴を差し込んで開く、

 全員が中に入り機械の鳥が飛び立つ、

 その瞬間に閃光が辺りを照らす。

 そして衝撃波が辺りを襲う、

 機械の怪鳥は炎に包まれその衝撃波の中を飛ぶ、

 フェニックスのように火の粉を撒いて夜空を飛んで駆け上がる。

 総攻撃から1時間で因縁の対決の勝敗は決した。

 しかしその代償が高くついた事にマイケルは気づいてその目を燃やす。

 武装させて待機させていた信者が残るビル群があの爆風に呑み込まれて消滅して行く、

 その万単位の人間達が全て蹂躙の悪魔の生贄になり同じ地獄に落ちて行く、

 その執念の呪いのすさまじさにマイケルの体が震える。

 しかし魔神はその剣を失ったのだ。

 あとは塔に向って進撃するだけ、

 邪魔する者は全て焼き払えばいい、

 組織の部隊と合流するため炎の鳥は地上に舞い降りる。



 魔女が見つめる時計の針が2つに重なった時、静かに死者の軍団は動き出す。

 力の悪魔が破壊した壁の割れ目から、瓦礫となった駅舎の残骸から、

 生者を仲間に加えようと動き始める。

 その集団が集まるタイミングを確認した兵士が仕掛けた爆弾の起爆スイッチを押す。

 しかし何も起こらない、

 焦る兵士は全ての爆弾を起爆させようとするが何も起こらない、

 機械の故障か?

 しかしそんな事をもう考えている暇はない、

 最悪を想定して編成された部隊が死者の軍団を迎え撃つ、

 炎を吐く火炎放射器、銃弾が通用しない相手なら焼き尽くすしかない、

 火炎放射を行いながら後退する部隊、その背後にはタンクローリーが数十台も道を塞いでいる。

 燃料を流して全て焼き尽くしてやる。

 兵士の1人がバルブをひねって燃料を流そうとした時、突然後方で爆発が起きる。

 そして辺りが炎に包まれる。

 その爆発は何度も起きて兵士達は炎に包まれる。

 タンクローリーが誘爆する。

 その炎に中を兵士達は逃げ惑う、守護石の力でかろうじて生存していられるが、その時間は無限ではない、

 石の力が尽きた者は炎に焼かれ炭と化す。

 しかし爆発と火炎は逃げる目前で発生する。

 炎に焼かれながら死者の軍団が進んでくる。

 その灼熱の地獄の中で兵士達は絶望する。

 それを嘲笑うように空の上から笑い声が聞こえてくる。

 身の毛もよだつような怪物が空を飛んで燃え尽きて行く自分達を見つめている。

 その背中には魔女と悪魔、

「おい、まだか?」

 キメラの背に立つ悪魔が連れの魔女にそう尋ねる。

「始まったけどあんたの出番はまだよ」

 黄昏の魔女はそう返事してキメラを目的の場所に向い飛び立たせる。

「そうか、まだなんだな」

 力の悪魔はそう言って手にした酒瓶を口に運ぶ、

 おぞましすぎる巨大な魔獣は目的の場所に向い暗い夜空を飛行する。

 その官庁街にある議事堂の屋上を目指して飛翔する。



 豪華客船に偽装された要塞艦は河を遡って進撃する。

 その上空で空中戦が展開される。

 空母から飛び立つ戦闘機が敵の攻撃ヘリを撃墜する。

 ミサイルが飛び交い砲弾が飛び交う、

 そして閃光と共に消し飛ぶ遊園施設、

 敵の陸上部隊を誘い出した友軍が大量破壊兵器と共に敵を消滅させる。

 その反対方向から上陸する海兵部隊、そして降下する空挺部隊、敵の残存部隊と戦闘を開始する。

 しかし敵は守護の石で防御された存在達、だから思うように進撃出来ない、

 河にかかる橋を破壊しながら進む要塞艦も浅くなった水深にこれ以上進めなくなる。

「あれを目の前にしてここまでか…」

 悪魔の大統領はすぐ近くにそびえ立つ魔神の塔を仰ぎ見る。

「特等席に行くには歩いて行くしかないか…では我が家族達よ、その楽しいショーの始まりを共に見に行くとしようじゃないか」

 悪魔の大統領の背後に立つ10数人の悪魔達がその言葉に返事する。

「イエッサー」

 要塞艦から河岸に階段が降ろされる。

 ステッキを突きながら悠然と葉巻を咥えたジョージストーンは階段を降り始める。

 そうして砲撃と銃撃の音の中を悠然と歩いて降りる。

 あの守護の石を持った者もこの悪魔の軍団には敵わないだろう、

 なぜなら彼らはみんな復讐者なのだから、

 その人間達への報復こそが自分達の存在する理由、

 憎しみ怒りと絶望が彼らをその存在に変えたのだ。

 そして悪魔の大統領はその正体をついに現す。

 悪魔の大頭領と呼ばれる前の自分に変わる。

 その隠された感情からそれだけを引き出す。

 そして誰もが恐れる存在が目を覚ます。

 怒りの悪魔が目を覚ます。

 家族達の心がその怒りに支配される。

 憎むだけでは何も出来ない、怒りがあってこそ復讐は果たされる。

 暗灰の悪魔に支配された兵士達の心が怒りに染められる。

 どす黒い赤い色、その色に心が染められる。

 その怒りが憎しみを楯にする者を打ちのめす。

 地上に降りた怒りの悪魔はゆっくりと歩き出す。

 急がなくともまだ夜は長い、

 特等席へのチケットは今買った。

 あとはショーが始まる会場までゆっくりと歩けばいい、

 その怒りに触れる者を生贄にして進めばいい、

 怒れる悪魔はステッキを突いて戦闘の中を平然と歩いて行く、

 自分達が優勢となった戦場の中にそのステッキを突く音が木霊する。



 遠くから聞こえる銃撃の音、爆発の音、直ぐ近くで起こった大爆発の衝撃波に耐えながらも金色のマシンはまだ動かない、

 そして時刻はもう明日になっている。

 それを6時間も超えている。

 既に各軍の総攻撃は既に開始されている。

 しかし自分達はそれとは何の関係もない、

 戦うために行くのではない、

 殺すのが目的ではない、

 救うのが真の目的なのだ。

 だから静かにその時が来るのを待つ、

 この信じる者が告げる言葉を待つ、

 その信じる者が閉じていた目を開いて静かに告げる。

「行こう…」

 その言葉を待ち望んでいたマシンが轟音を立てて動き出す。

 国道を東に向い疾走する。

 迫りくるコンクリートの障壁をジャンプして飛び越える。

 そして防壁を守る兵士に何が起こったのか確認する間もなく走り去る。

 戦闘は壮絶すぎた。だから急がないと多くの絶望が創り出されるのだ。

 それを止める機会はようやく訪れた。

 だから早く行かなければならないのに…

 目の前に障害が立ち塞がっている。

 官庁街を目前にマシンの前に立塞がるのは奇怪というのを超えた存在、魔獣と呼ぶにはおぞましすぎるそいつが国道を塞ぐ巨体で立塞がる。

 そしてその背中には巨大な斧を担いだ貧弱な男と黄昏の魔女が目を光らす。

「あいつらを何とかしないと先に進めない…」

 そのおぞましい姿に身震いしながら咲石がそう告げる。

「あの魔獣は俺が何とかする。でも力の悪魔に構っている暇はない!」

 そう叫ぶと美沙希は連結を外して人型マシンに変形する。

 ならあの悪魔の相手は俺だとハッチを開けようとする勝則を引き留める者がいる。

「悪いが親父の相手は俺がしないといけない、あいつがああなった責任は俺にある」

 そして開いたハッチから希一郎が外に出て行く、

 その後を追うようにリリーも飛び出す。

「何を馬鹿な…あの化物を相手に1人で挑むだと?」

 慌てて勝則が飛び出そうとするのを李源が止める。

「やめろ!手を出してはならん、けりは付けないとならんのじゃ、あの2人は遺恨を清算するために出向いたのじゃ、奴らの憎しみにけりを着けられるのはあやつらしかおらん、その希望を信じるのなら黙って見ておれ」

 子供とは思えないその迫力ある言葉に棍棒を握りしめた大男は何も言えず黙り込む、

「王の力を信じるのじゃ、王のやる気に水を差すのではない」

「お兄ちゃんはお父さんに負けたりしない、そしてリリーも黄昏の魔女を打ち負かすわ」

 涙を流しながら美希子は車内のみんなを見廻して微笑む、

 みんなは黙ってモニターを見つめる。

 その希望を掴むための最初の戦いが始まるのを。



「やっと出てきたか希一郎、待ちくたびれて死にそうだったぞ、いや、死んでしまってはお前に教えられないからな、本当の憎しみと言う奴を」

そう告げて狂気の目で魔獣から飛び降りる石橋修一郎に希一郎が尋ねる。

「親父はなぜ俺を憎んでいるんだ?」

 その巨大な斧を構える男はそれに笑いながら答える。

「憎んでいる?ははははっ、その逆だ。俺はお前を愛しているのだ。親愛なる我が息子よ、お前なら俺が出来なかった事が出来るからだ。俺が事業に失敗して落ちぶれた理由を知っているか?柄にもなく慈善事業なんかに手を出したからだ。苦しむ者達に手を差し伸べる。その行いにみんなは喜んでくれた。感謝してくれた。それは酒でも女でも得られない快感を俺に与えた。しかしその快感を得るためには多くの金が必要になった。人を救う快感を得るにも金が必要なのだ。その資金を求めて会社は無理な融資を受け続けそして破綻した。そしてそんな俺を社会は誰も助けてくれない、偽善者の報いだと罵られて、挙句の果ては抜け殻に等しい自分がいた。俺がした事は間違っていたのだ。あの病気で苦しむ美希子を見て、そして少しでもそんな思いをする者を助けてやりたいと考えた事は全て自分の自己満足だったのだ。人は誰も助けてはいけない、死んでいく定めの者は身捨てる。苦しむ者は蔑んで見つめる。利用できない者はゴミのように始末する。そうしてやることが真の愛である。王者となるお前にそれを教える事が俺の最後の仕事なのだ。俺が言った事が理解できないなら王者を名乗る資格はお前にない、この自分の父親がなぜホームレスにまで落ちぶれたのか?その理由も尋ねなかったお前には理解出来ないだろうがな…お前の関心は妹の存在だけだったからな、それ以外はなすがままを受け入れるしか出来ない無能で無関心なお前は俺の呑む酒を用意するしか能のない糞ガキだ。それが違うと言いたいのなら俺の愛を受け入れろ、そしてそれを否定して見せろ、自分で愛というものを見つけ出して見せろ」

 そう告げる力の悪魔から強烈な思念が放出される。

 そのへし折られた信念、その歪んだ慈愛の信念、それは愛と憎しみが混ざりあいそして矛盾の思念と化している。

「親父の言っている事は理解できる。苦しむ者、助けを求める者に手を差し伸べたいと思うのは人間なら当然だろう、そしてそれが出来なくなってもその思いを捨てきれず抜け殻になったあんたの気持は理解出来た。あんたは毎日のように言っていたからな、立ち直りたいと、そして今は立ち直って俺の前にいる。そして俺に愛を教えると言う、なら俺は親父に愛を教えてもらう必要はないと告げる。そんな物が本当にあるとまだ信じていないからだ。そんな心がみんなにあるのなら人はどうして諍いあい戦いあうのだ?そんな存在しない物は誰も俺に教えることはできない」

 力の悪魔の目が鋭く光る。そして怒りを込めた口調で、

「愛は存在する。それはまだお前がガキだから理解できないだけだ。だから俺が教えてやると言っている。それが理解できないのならここで死ね希一郎、この父親の愛情を教えてやる!」

 その巨大な斧が希一郎めがけて振り下ろされる。それを虹色の大剣で受け止める希一郎、その驚異的な怪力、しかし今はその力も無効化出来る。

 そして親子の闘いが開始される。



 人型マシンに変形した美沙希は目の前の怪物の驚異的な能力に苦戦する。

 剣で切り裂いても、粒子砲で砕いてもそれはすぐに再生して襲いかかってくる。

 そして無数の触手を伸ばして人型マシンの自由を奪おうとする。

 その触手を剣でなぎ払っても次から次に新しい触手が生えてくる。

 きりがない、そう考えた美沙希はマシンまで後退すると無線で達彦に命令する。

「主砲の1つを切り離せ、そのメガ粒子砲を最大出力であいつにぶつける」

 その命令にマシンの横の主砲が切り離され変形する。

 巨大なグレネードランチャーのような形に変形したそれを人型のマシンが掴む、

 そしてマシンと自分を飲み込むように巨大化したそれに向い光の粒子を解き放つ、

 そして目の前からそのおぞましい姿が消滅する。



 黄昏の魔女は戸惑って見ている。

 怨敵に向い突き出した槍の穂先を、

 その怨敵の腹に突き刺さる槍の穂先を、

 視線を上げて相手の顔を見つめそして尋ねる。

「なぜ戦わない?」

 尋ねられた相手は笑顔で答える。

「憎しみを与えた。あなたにわたしが、ならそれ受け止める、当然、殺すいい、勝ちあなた、考える復讐、ならそれ果たす。それでいい」

 黄昏の魔女の握る槍が震える。

「戦わないで殺せというのか?それで私の気が済むと考えているのか?」

 槍を引き抜き構え直す黄昏の魔女、そしてその瞳を光らせると、

「戦え太陽の娘、そうでないと殺せない、抵抗しない者にこの槍は突き立てられぬ、この戦士の埃は無抵抗が殺せない、早く武器を手にして私に挑め!」

 しかしその言葉に首を振ってリリーは答える。

「太陽は誰も殺さない、慈愛の光、それを振りまくだけ、太陽は誰にでも殺される。それを必要としない者に、沈む夕日はそれを必要としない者が願う者、夜の訪れを願う者が、ならば太陽を嫌う者に権利ある。私殺すを、それには抗えないもう、だから殺すいい、。早くする…」

 その突き出した槍を納めると黄昏の魔女は苦しそうに微笑みながら優しく自分を見つめる娘を見つめ返して、

「私には戦士の埃がある。だから戦いを放棄した相手をもはや敵とは思わない、しかし私の復讐はもう果たされている。お前は死ぬ、この魔女の呪いによって、その毒はお前の体内に入り込んでもうお前を苛んでいるだろう、その愛という力がそれにどこまで抗えるか見てやろう、あの魔神の塔で待っている。それまで命が持つかはお前次第だ…」

 黄昏の魔女はそう告げて、そして創り出した飛竜に乗って白み始めた空に飛び立ちそして見えなくなる。

「愛、それが希望に変わる。そう信じる…」

 そう呟いてそしてリリーは地面に倒れ伏す。

 マシンから降りた大男と李源がそこに向い駆け寄って来る。

「これで完全に停止キーが作られるじゃろ…」

 走りながら李源がそう呟く、

 大男に抱きあげられた少女は気を失いながらもまだ微笑んでいる。

 まるで太陽のような笑顔で微笑んでいる。



 力の悪魔の満身の攻撃を受け止める希一郎、だが受け止めるだけで決して攻撃しない、

「なぜだ希一郎、なぜ攻撃してこない?」

 その巨大な斧を振り回す男は息子に尋ねる。

「俺は憎しみに囚われない、だから誰も殺さない、俺が殺していい存在は1人しかこの世界にいない、しかし親父はそれじゃない」

 そう答える希一郎に斧を振り下ろし避けられて道に巨大な亀裂を作る力の悪魔は、

「お前は俺を殺す価値もないと言うのか!」

 振り返って虹色の大剣を握る息子にそう喚く、

「あんたが信じる愛なら全て受け止めてやる。あんたの息子なんだからな、俺がこの世界に生まれて来たのはその愛の力でだろ?俺はこんな地獄の世界に生まれるのが嫌だった。だから生まれた時に最初にしたのは泣くことだった。その泣き叫ぶ赤子を最初に抱いた男はあんただろ?その温もりはなぜか今でも覚えている。そんな俺を生み出した存在をこの手で殺すことなんかできない、そしてあんたも俺を殺せない、そんな斧では断ち切れない物で繋がれているからな、太くて丈夫すぎる鎖だ。その親子の絆は断ち切った方が呪われる」

 斧を構える男はその言葉に狂気の目をさらに光らせ希一郎に告げる。

「ああそうだ。お前が生まれた時はうれしくて仕事をほうり出してまで病院まで駆けつけた。そして泣き叫ぶお前を抱いて幸せにしてやると誓ったのさ、だからその責任が俺にある。だから全力で教えてやる。心が未熟なお前にどうすれば幸せという感情が抱けるのかを」

 凶暴に斧を振るう力の悪魔、しかしその力が次第に衰えていく、

「最後の時が近い…力が残り少なくなっていく…なら教えてやろう希一郎、これが愛と言う物だ」

 もう巨大な斧を持ち上げられなくなった貧弱な男は包丁を取り出して希一郎にそれを見せる。

「これは俺が希美子、お前の母親に突きつけた包丁だ。別に殺す気なんか最初からなかった。ただ美希子を連れて出て行くと言ったから脅しただけだ。お前は美希子がいないと何もしようとしない、お前と美希子を引き離す事は俺には許せなかった。そんな事をしたら誰ももう幸せになれないと思ったからだ。家族は1つでなくてはならない、たとえどんな不幸が起ころうともみんなでなら乗り切れる。そう信じていた。しかしその家族の絆を最初に断ち切ったのはおまえの母親だ。あいつは自ら死んで呪いとなった。そして俺達はその呪いに翻弄されて今がある。それは皮肉すぎる運命だな…俺はお前を殺したいわけじゃない、ただ愛という物の本質を教えたかっただけだ。誰もが美しいと感じるその言葉には裏がある。お前が誰も憎まないと言うのなら誰も愛せないと言っているのに等しいのだ。表も裏も否定するのなら希望なんて言葉はあさはか過ぎるぞ希一郎、それを唱える資格はお前にはない、もう話す力も尽きかけている。これが石に支払った代償だ。そして多くを殺して破壊した。心で悲鳴を上げながらその想いとは逆の事をした…なら残された力で最後に破壊するのは自分自身とそう決めている…それが全ての罪への償いにはならないが…美希子に謝っておいてくれ…あれがばれるとお前が狂うと思ったからした…おまえだけはあの女の呪いに囚われてはいけないと思ったから…たくましく育て我が息子よ…そして王と呼ばれる事を誇りにしろ…そうなる事が俺の希望…俺が出来なかった…お前なら苦しむ者達を全て救えるだろ…頼んだぞ…」

 石橋修一郎は手にした包丁を残された力の全てを使い喉に突き刺す。

 そして噴き出す血と共に地面に倒れる。

 虹の大剣をナイフに変えて倒れ伏す男に駆け寄る希一郎、そしてその喉に刺さった包丁を引き抜いて投げ捨てる。

 いつしかマシンから降りてきた者達がその光景を無言で見つめている。

「どうして俺は親父の事を考えてやれなかったんだろう?…」

 そのつぶやきに歩み出てくる涙を流す少女が答える。

「お兄ちゃんは自分が愛されていると実感していなかっただけ、その愛という言葉を勝手に自分で解釈してその本質から目を逸らしていた。その言葉に怯えていたから、だから私を愛することで全て自分に向けられる愛を否定し続けた。そして私はお兄ちゃんの愛を拒んだ。誰にも愛されない存在は愛する資格なんてない、きっとお父さんはその事を最後にお兄ちゃんに教えてあげたかったのよ、その狂った心の中でそれだけが捨てきれなかった感情、自分の思いを最後に伝えたいと望む感情、それは親子の絆の中でお父さんが最後まで断ち切れない思い、お父さんは悪人なんかじゃなかった。まして悪魔にも成りきれなかった。人を救う事が快感だと言ったけどそうじゃない、その心は優しさに溢れていた。そんな人の許にあなたは生まれた。そうじゃないと今あなたはここにいなかったでしょうね、お父さんの存在なしでは生きて行く事はできなかったのよ、最後まであなたを愛していたお父さん、そして教えられた事は理解できたでしょう」

 無言で父親の遺体を見下ろす希一郎、その目から涙が滲み出る。

「お父さんが救った者より多くの者をあなたには救える。それもお金なんか必要なしに、今は世界中で苦しんでいる者の全てを救える。だから行かなくてはならない、このお父さんの意思を受け継いだのなら私達と行きましょう」

 涙を流す少女は自分の父親の遺体に手にした花を捧げて祈る。

「親父のやろうとしていた事は理解出来た。もし今でなくもっと前にそれを知ったなら到底理解出来なかっただろうが…でも教えられて気づかされた。その全財産を投げ打ってまで人を救いたいと願った男の息子だったと、それは俺に誇りを与えた。ならそれの意思を継ぐのが俺の使命、俺を守り続けてくれたその意思に答えないわけにはいかない…」

 父の屍から目を背けそしてマシンに向い歩き出す希一郎、その背中は今迄にない強い意思を感じさせる。

 周一郎の亡骸をあさる李源は溜息を洩らす。

「力の石め新たな所有者を求めて消え去ったようじゃ…」

 そう呟いてその場から歩み去る者達の後を追う、

 希一郎がマシンに乗り込んで異変に気づく、

 苦しそうな表情でリリーが微笑んで自分を見つめている。

「どうしたリリー怪我したのか?」

 微笑む少女は愛する者を安心させるために嘘をつく、

「かすり傷なの、だから平気、心配ない、魔女との戦い疲れたそれだけ、着けたけり、もうあの魔女は襲ってこない、心配ない、平気だから…」

 その言葉を無言で聞く修道女、自分の治癒の力も及ばない呪いの力で蝕まれる命を黙って見つめる。

「疲れた。だからキー傍にいてほしい」

 微笑む少女の隣に座る希一郎、その体をリリーが抱きしめ耳元に囁く、

「愛、わかったならうけとめて、希望するの、それだけでいい」

 その抱擁に希一郎は無言で答える。

 少女の頬笑みが太陽のように明るくなり、そして突然意識が途絶える。

 涙を流す少女がその光景を無言で見つめる。

「行こう…」

 全員が車内に乗り込んだのを確認して希一郎はそう告げる。

 その明るくなり始めた空の下を金色のマシンは再び動き出す。

 しかし数100メートルも進まぬ内にその進撃は再び停止させられる。

 官庁街を埋め尽くす人々の壁に阻まれ動けなくなる。

 それは死霊ではない、生きている人間達がバリケードを作り侵入する者を拒んでいるのだ。

 それに攻撃できないマシンは停車するしか出来なくなる。













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